旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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熊とオレ

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「は? ゆずっぺにバレた? は? 雪坊に男だって話した? は? 俺達が出逢った時の事を話した? は? 何でまた?」

 布団の上で胡座を掻いて、風呂上がりの濡れた髪をタオルで乱暴に拭いながら、ウチの人が言った。

雪緒ゆきお君に教えてって、頼まれたからさ。雪緒君もせいも泣き出して大変だったよ。もうさ、雪緒君のダンナに、こってりしぼられたよ」

 アタイは、その傍に仰向けに寝っ転がっていて、髪の毛をガシガシと拭いている様を見上げる。
 風呂上りだからか、浴衣の上は開けられていて、その逞しい胸が、腕を動かす度にピクピク動いているのが良く見える。

「はあ…。まあ、けど、ゆずっぺも雪坊も何も変わらないだろ?」

 ウチの人が、頭を拭いていたタオルを肩に掛けて、不器用に片目を瞑って笑う。

「まあね。長年の付き合いってヤツなのかね?」

 雪緒君が『相手に不自由は無いってどう云う意味ですか』って泣きながらダンナに訊いていたのは、ちょっと可笑しかったねえ。あの雪緒君でも、嫉妬をするんだねえ。まあ、その意味を理解しているかは謎だけどね。

「かもな」

 そう頷いて、目を細めてから、ウチの人が右手でアタイの前髪を掻き分けて、左手は布団の上に置いて身体を倒して来て、額に軽く唇を押し付けて来た。

「ま、ごくろーさん。…それでも、話すの怖かっただろ?」

 そう言って、アタイの目を見詰めながら、小さく笑う。

 …駄目だ、それは。
 "ミク"には、見せたら駄目。

「…うん…。…したい…良い、か?」

 …それは、オレだけの顔。

「…俺、明日も仕事…明日の夜まで、待てない…?」

 オレが甘える様に言えば、タケルは一気に顔を赤くして、目を泳がせて声を潜めてそう言った。
 もう、何度もしてるのに、何時もこんな反応をする。
 でも、それが良い。そこが、良い。
 オレしか知らないタケルの顔だ。

「…無理。甘えたい。甘えさせて」

 タケルの目を見ながら両手を伸ばして、首に巻き付かせれば、タケルはそのまま、オレに引き寄せられて来る。
 オレを潰さない様に、両手をオレの顔の脇に置いて、タケルは言う。

「…お手柔らかにな、あーちゃん…」

「任せろ。二回で我慢する。続きは明日する」

 頭の後ろに回した手で髪を梳きながら、オレが口の端だけで笑えば、タケルは軽く肩を竦めた。

「お、おお…。…俺の夫は元気だな…」

「タケルだからだ…」

 そう言って笑えば、タケルは照れながら小さく笑って、顔を近付けて来た。

 タケルを好きなのはオレだから。
 この時ばかりは、オレはアーチャンになる。
 "ミク"の事は好きだけど、"ミク"にタケルはあげない。
 タケルはオレだけのもの。
 オレも、タケルだけのもの。
 まだ、"ミク"の姿になっていないオレを気に掛けてくれた。
 ユキオの男の動きを止めようとしてくれた。
 愛してる。
 この熱は、オレだけのもの。
 "ミク"には悪いけど、でも駄目だ。
 だけど、"ミク"なら、きっと呆れた様に笑って言うだろう。

『そんな熊の何処が良いのさ?』

 って。
 この熊の良さは、オレだけが知っていれば良い。
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