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悪役に乾杯・6

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「うっ…うっ…」

 泣いた。
 原作と同じだし、作画は神だし、エンディングにオープニング曲持ってくるの狡い。

「ンニャ~…」

 ざりざりべろべろ、メガネコが俺の頬を舐める。痛いんだか、擽ったいんだか、訳が解らない。
 俺はソファーに座って、その斜め前にメガネコが座って、玉ねぎサーモンのカルパッチョを食べながら、パトワイザーを呑みながら、銀ポメを観ていたが、気が付いたら、俺はソファーから下りていて、ソファーのへり(?)に背中を預けてスコ座りするメガネコに、後ろ抱っこされながら銀ポメを齧り付くようにして観ていた。

「うっ、うっ、しかも、二期制作決定って何だよ~! 原作者、新作書いているのか!? 今、書いているのか!? 未来過ぎて更に解らないっ!!」

 そう。
 いわゆる、特殊エンディングの後に、ポメ化したステイを抱っこしたメルと、謎のポメが出て来て『来春、また会おうね!』って、笑顔で手を振って来たんだ。
 
「ああああああ~! 気になるっ!! 観なきゃ良かったあああっ!!」

 これが本当に現実にあるなら嬉しいが、この世界だけとか、そんなオチがあるのかも知れない。それは嫌だ。認めたくない。こんなご馳走魅せられて、残念無しよ、テヘペロは立ち直れる気がしない。

「ううっ、現実でも、銀ポメ頼むっ!!」

 メガネコにざりざりベロベロ舐められながら、俺は叫んだ。

「うっ、うっ…お前が、これを出さなきゃ…この鬼…って、何時まで舐めてんだ」

 グッと両手で、顔の横にあったメガネコの顔を押す。

「ニャ…」

 メガネコは一声鳴いて、ベロンと俺の頬を…そこを流れる涙を舐めてから離れた。そして、ぽすんと俺の頭に顎を乗せた。二本の前足は、俺の肩から胸にかけてだらんとしている。

「涙なんか、美味くないだろ。サーモン食べろ。まだ残ってるぞ」

「ニャニャ」

 ポスポスと、胸に掛かるだらんと伸びた前足を叩いて言えば、メガネコはイヤイヤをする様に、俺の頭の上で顎をグリグリ動かした。

「おご…」

 何か、歯の噛み合わせがおかしくなりそうだ。

「…お前、俺と銀ポメ観たかったのか?」

「ニャン!」

「…後ろ抱っこしながら…?」

「ニャ!」

「ふ…ふ~ん…」

 眼鏡が素直過ぎて不気味だ。
 後ろ抱っこでアニメ鑑賞とか…何か…なんか…アレ…だよな…? その、アレだ、アレ! こ、恋人デートみたいなアレだ!

「べ、別に観たいなら…何時でも、声を掛けりゃ良かったのに…俺は、お前と違って鬼じゃねーし…好きな作品…語りたいし…」

 もごもごと言えば、メガネコの前足が俺の胸をてしてしと叩く。

「ンニャニャ!」

 うん、解らん。
 
「何言ってんのか、解んねー…なあ、まだ戻らないのか? まだ、何かして欲しい事があるのか?」

 人間に戻れば、何を言っているのか解る…いや、日本語を話していても、通じない事があったな…。

「…いや…」

 それでも、同じ言語を扱っているんだから、理解しようと思えば出来る筈だ。

「…なあ…」

 ぐんと顎を上げれば、メガネコは俺の頭から顎を離した。

「…早く人間に戻れよ…」

 緑色の目を見上げながら、俺は呟く様に言う。

「…猫のお前は、可愛くて素直でヤンチャで良いけどさ…」

 これはこれで、普段の眼鏡からは、想像もつかない楽しさがあるけどさ。

「そのままじゃ、会話出来ねーし…その…お前…話が…小説が書けないだろ…」

 うん。
 銀ポメの作者は、続編を…新作を書いているらしい。多分、きっと、恐らく。
 が、今のこいつは何も書いていない。いや、書けない。
 小説馬鹿のくせに、書けなくてどうするよ? 
 書くの好きなんだろ? 
 書くのが、楽しいんだろ?
 書いて、俺に読ませてくれよ。

「…って、だから、何でまた両目ウィンクしてるんだ。猫は片目ウィンク出来ないのか?」

 俺がそう聞く間も、メガネコはゆっくりとした瞬きを繰り返す。俺を見下ろしながら。

「普通、猫って目を合わせたら怒るんじゃねーの? そんなゆっくり瞬きしてたら、逃げられなくてやられちゃうだろ」

 それでも、メガネコは瞬きをゆっくりと繰り返す。その仕草は、何だか優しく見えた。

「…まあ…実際…優しいんだよな…お前…」

 拉致られたが、俺的には結果オーライだったし、やるやる詐欺にしてもそうだ。
 …俺に、その気が無いから、やらない…そう云う事なんだろ?
 尻は弄られたが…まあ、売り言葉に買い言葉…な結果だし…。
 エンリの時は…まあ、うん、あれ、俺じゃないし…。

「…猫は…もういいよ…。…お前の、あの低いイケボでのガミガミがないと…何か張り合いが…眼鏡光らせながら、カタカタキーボード叩けよ…なあ…」

 もみもみとデカい肉球を揉みながら、メガネコの目を見て言うが、奴はまだゆっくりな瞬きを繰り返していた。
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