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「ああ、若い子の肌は綺麗だね…。おじさんのは、こうなってしまったから…君の…貰おうかな?」

 そう言いながらおっさんは、両手で俺の頬に触って来る。

「熱っ!?」

 顔だけじゃなくて、その両手も焼け爛れていて、ずるりと皮が剥けて下の肉が露わになっていた。しかも、何かその手はやたらと熱くて、火傷するかと思った。
 咄嗟に飛び退いて距離を取るが、おっさんはゆっくりと、にたりと笑いながら俺に近付いて来る。焼けてぶっくりと膨れ上がった唇の間から白い歯が見えて、やけに赤い舌も見えた。

 何だこいつ!?
 一体、何なんだっ!?

「止まって健太郎っ!!」

 じりじりと後退る俺に、染五郎そめごろうの必死な叫び声が聞こえた。
 止まれって言われても、この不気味なおっさんが…。

「止まらないともう二度とスケベな事出来ないよっ!?」

「それは嫌だっ!!」

『ブァーン!!』

 そう叫んで、その場に留まった瞬間、真後ろでもの凄い風が吹いて、次に低く重いクラクションの音が聞こえた。

「…え…?」

 じんわりと浮かんでいた汗が額から流れ落ちて、嫌な汗が背中を流れる。
 恐る恐る顔を動かして後ろを見れば、直ぐそこは国道だった。あと一歩下がっていたら、今、通り過ぎたダンプに轢かれていたかも知れない。

 何時の間にっ!?

「…ああ、残念だなあ…」

 残念って、何がっ!?

「健太郎どうしたの!? 何か居るの!?」

 にたりと笑うおっさんの声に、染五郎の声が被る。
 って、車のドアを開けて何してんだ?

「え…?」

 てか、染五郎には見えていない!?
 じゃ、じゃあ、このおっさん…幽霊!?

「…おじさんと一緒に…いいとこに行こうよ…君みたいな綺麗な子と一緒なら…楽しいんだろうなあ…」

 また、おっさんの両手が俺に向かって伸びて来たが、俺は何とか踏み止まった。
 だらだらと汗を流して、身体はぶるぶると震えて、歯もカチカチと鳴っているけどなっ!!
 カッコ悪いし、みっともないが、ここで死んだら、もう二度と染五郎とセックス出来ないっ!!
 そんなのは嫌だっ!!

「…だっ、誰がおっさんなんかとっ!! 俺は染五郎としか、いいとこに行きたくないわ、ボケェッ!!」

 そう叫んだ瞬間、おっさんの目が、いや、目玉がずるりと眼窩から出て来て地面へと落ちた。顔の肉と言う肉もずるりと落ちて、骨が剥き出しになって行く。

「…つれないねえ…おじさん、寂しいんだよ…借金で妻にも子にも捨てられて…」

 かろうじて肉の付いた指先で、おっさんが俺の頬を撫でる。

「ひいいいいいいいいっ!!」

 俺はドバっと涙と鼻水を垂らして叫んだ。
 逃げたい。
 逃げたい。
 が、すぐ後ろは大型車が走る国道で。
 飛び出したら、ジ・エンドだ。
 それに、俺、今、ノーパンだし!?
 検分? 検体? とかの時、どうなるよ!?

「健太郎!!」

「ぶっ!?」

「ぎゃあっ!?」

 なんて思った時、染五郎の叫び声が聞こえて、俺の顔に何かがあたった。
 小さな粒?
 
「ぎゃあはああっ!!」

 バシバシとそれは俺の顔にあたり、ついでにおっさんにもあたっている。

「何が居るのかは知らないけどっ! 俺の健太郎から離れてっ!!」

 染五郎が車の中から取り出したのは、袋? 透明な袋で中身が見える。白い…塩か!? 口に入って来た白い粒に、俺はちょっと口を窄めた。
 が、塩は容赦なく俺に向かって飛んで来る。
 染五郎には、このおっさんが見えないみたいだから、俺の傍に居ると思われるそいつへと投げてるみたいだが。

「あうあう!!」
 
「やめっぎぃやああああはあああっ!!」

 パシパシあたるそれは、強烈な痛みじゃないけど、気にはなる痛みで。
 …まあ…おっさんにはかなり効いているみたいで、おっさんは段々と俺から距離を取り、そして、ドライブインの方へと走って行った。

「…は、へ、ふぅ~」

 おっさんの姿が見えなくなって、俺はその場にへろへろと座り込んだ。

「た、すかった…?」

 ホラー映画とかで良くあるよな…恐怖の建物から出て安心と思ったら、実は外で待ってました、ってパターン。今のが、正にそれだ。

「健太郎、大丈夫!?」

 そんな俺の処に、染五郎が走って来る。
 …塩を投げながら。

「わぷっ! もう、逃げたから、塩を投げるなっ!!」
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