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三冬月マヨ

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ラスとハナと謎の部屋

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 僕とハナと、ついでに用心棒さんがリディルに空に飛ばされてから半年が過ぎた。

 え? 何で飛ばされたのかって? そんなの僕が知りたいよ。
 媚薬をあげたら、何だか知らないけどリディルが怒ったんだ。
 で、ちょうど拉致られたハナが帰って来て、一緒に空を飛んだ。

 用心棒さんは、ハナの憧れの冒険者だったらしい。
 用心棒さんの諸々な話をハナがしていたんだけど、リディルは途中から物凄く機嫌が悪くなって、椅子の上で胡座を掻いていた。行儀悪いなあ、なんて思ったけど、怖いから言わないで置いた。
 で、ハナとリディルと用心棒さんの三人で毛生え薬に必要な素材を取りに行って貰った。
 早かった。ハナが集めて来るよりも、もの凄く早かった。ハナはがくりと肩を落としていて、ちょっと可愛そうだったけどね。
 でも、そんなハナが好きだから落ち込まないでね。って、言ったら『ちくしょうっ!!』って、泣きながら家を飛び出して行った。あらら。
 でも、ちょうど良いから、僕は毛生え薬を作る事にした。
 爆発したら、ハナを驚かせてしまうものね。
 リディルと、用心棒さんなら、別にどうでも良いし。
 そんな事を思いながら、仕上げの魔力を注いでいたら、爆発しなかった。う~ん、残念…じゃないか。完成した薬をあげたら、リディルはとても喜んでくれた。お金は要らないって言ったんだけど、立派な対価だ受け取れって、ずしりと重い袋を押し付けられた。多すぎって叫んだ時には、リディルも用心棒さんも、姿が見えなくなっていた。うん、早い。
 それから少しして目を真っ赤にしたハナが帰って来て、二人でハナが作った夕飯を食べた。
 用心棒さんが作ってくれたのも美味しかったけど、やっぱりハナが作ってくれる物の方が美味しいや。
 そう言ったら、ハナが眉と目を下げてありがとうって笑った。うん、ハナのちょっと情けない笑顔好きだな。

 そして、また僕とハナで何時も通りの、ゆったりとした日常を過ごしてた。
 ハナは、依頼がてらに素材を収集して。
 僕は、髪色を染める薬を作ったりして。
 で、今日は街の道具屋から媚薬が切れそうだからって言われてたから、作業小屋でそれを作ってたんだ。

「チュー」

「チューチュー」

「うん、待っててね」

 実験で使うネズミ達が早くしろって言ってる。

「チュー?」

「チューチュー?」

「もう少しだから我慢して」

 焦らせないで? 集中が乱れちゃうよ。魔力注入は繊細なんだからね。

「ラス。昼出来たぞ」

 あと少しって処で、ハナが小屋の扉を開けて入って来た。

「あ」

『ドオンッ!!』

 それに意識を取られた瞬間、魔力を注いでいた薬が爆発した。
 ああ~…またハナに素材を取りに行って貰わなきゃ~…。

 ◇

 ん~…何か、ふわふわする…。
 すっごい柔らかい物の上に居るみたい…ベッドかな…ハナが運んでくれたのかな?

「…ス…、ラス…」

 ハナに心配そうに名前を呼ばれて、そっと、肩を揺すられてる…。

「チュー」

「チューチュー」

「チュー?」

「チューチュー?」

 うぅ~ん…身体の上でネズミがもぞもぞと動いてる…。

「ん~…くすぐったい…」

「ラス!」

 目を開けたら、やっぱり心配そうなラスの顔が飛び込んで来た。…んだけど…。

「…ここ…何処…?」

 身体を起こして胸の上のネズミを落としながら、傍らに座るラスに聞いてみる。
 僕はやっぱり、ベッドで寝ていたんだけど。
 なあに、ここ?
 ベッドは僕達が使ってる物よりも大きくて。
 部屋は何だか真っ白で。
 窓も扉も見当たらない。
 ううん? 

「気が付いたら、二人でここに居たんだ」

 ハナが項垂れながら答えてくれた。
 うん、そうだと思ったから気にしなくて良いからね?
 こんなこと初めてだけど…。

「…考えられるのは、魔力注入の失敗…まあ、魔力の暴走だよねぇ…」

「チュー」

「チューチュー」

「チュー?」

「チューチュー?」

 さて、どうしようかなあ~なんて思っていたら、ネズミ達が白い壁を登って遊び始めた。もう、暢気だよねえ…あれ…?

「ねえ、壁に何か貼ってあるよ?」

「あ、本当だ」

 僕がそこを指差せば、ハナがベッドから下りて壁の貼り紙へと近付いて行く。

「えっと? "この部屋から出たければ、セックスをする事" ふうん…ふぉっ!? せせせえせせせえせえせせえせせせえせせせっ!?」

 ハナってば自分で読んだくせに、一気に真っ赤になっちゃった。もう、可愛いよね。

「へえ~。どう云う原理かは知らないけど、それをすればここから出られるんだぁ~。簡単だね」

「ラララララララララララララ…ッ…!?」

 僕もベッドから下りて、ハナの隣に並んでその貼り紙を見て言えば、ハナは歌を歌い出した。

「チュー」

「チューチュー」

「チュー?」

「チューチュー?」

 そんなハナの周りをネズミ達がグルグルと走り回っている。

「おいで」

 僕がしゃがみ込んで掌を向けてネズミ達を呼べば、鳴きながら僕の身体をよじ登って来る。
 それを胸に抱えて、僕はベッドまで運んだ。

「交尾をすれば良いんでしょ? この子達にして貰おうよ」

「え"」

 ◇

「チュー」

「チュー、チュー」

「チュ、チュ!」

「チュッ!」

「チュー」

「チュー、チュー」

「チュ、チュ!」

「チュッ!」

「チュー」

「チュー、チュー」

「チュ、チュ!」

「チュッ!」

「何だ、このネズミの群れは!?」

「おお、ラス殿! 無事か!?」

 ネズミ達に交尾をさせて、ネズミ算式にネズミの数が増えて行って、三百まで数えてもう数えるの面倒って思った処で、僕達はあの部屋から解放された。
 って云うか、気が付いたら壊れた小屋に埋もれていた。

「…あれぇ~? ジウさん…?」

 もがもがと瓦礫の中で藻掻いていたら、だんだん瓦礫が軽くなって来て、誰かが助けてくれてるのかな? って思ってたら、目の前がいきなり開けて、瓦礫を手にしたジウさんと目が合った。

「タク!」

「ああ、こっちにも兄ちゃんが居たぞ」

 知らない男の人の声が聞こえた。すっごい低い声だ。ハナも歳を取ったらこんな声になるのかなあ?

「ああ~、ありがとうございます。ところで、どうしたんですか?」

 ジウさんの手を借りて僕は立ちあがって、それを聞く。
 まさか、もう媚薬が切れたのかな?
 この間来た時に、街の道具屋に卸すのと同じ数を渡したのに?
 って、思って街の方を見たら、ネズミ達がそっちへ走って行くのが見えた。
 ん~? ちょっと騒ぎになるかも? 街の人達大変だろうなあ~。

「おお、そうだ! 紹介しよう! タク!」

 ジウさんが物凄くキラキラした笑顔で、少し離れた処にいるハナの傍に立つ人の名前を呼ぶ。
 ハナよりも頭二つ分ぐらい大きいかな? 身体付きも凄いがっちりしてる。

「ああ。話はジウから良く聞いている。初めましてだな、ラス」

 パンパンとハナの身体に付いている木屑を払いながら、名前を呼ばれたタクさんが顎髭の生えた口を開いて笑った。

「はい、初めまして。ハナを助けてくれてありがとうございます」

 僕も笑顔を浮かべてタクさんに挨拶をする。
 ん~? タクさんを紹介したかったのかなあ~?

「近い内に父親になる、私の最愛だ!」

 首を傾げていたら、ジウさんがタクさんの隣に立って、そっと腹を撫でながら笑顔で言った。

「え」

「え!?」

 僕の隣に来たハナが目を丸くしてる。そんな顔も可愛いんだよね、ハナは。

「今、二ヶ月目だ。安定期に入ったら、法の改正に動くぞ。今日はその報告に来た」

「わあ~。おめでとうございます。元気なお子さんを産んで下さいね」

「ああ、これもラス殿とラス殿を支えてくれるハナ殿のおかげだ」

「…殿下…」

 あ、ハナ、涙声だ。肩を震わせて感激しちゃってる。こんなハナも良いんだよねえ。

「本当に感謝する。元気な子を産んだらまた挨拶に来る。では、な!」

 キラッキラした笑顔を浮かべたまま、ジウさんはタクさんに肩を抱かれて去って行った。
 凄い幸せそうだなあ~。
 そっかあ、無事に妊娠出来たんだあ~。

「ラ、ラス…その…」

 僕より高い背を縮めて、赤い目と赤い顔でハナが僕を覗き込んで来た。

「…うん。もう少しだね。ご褒美楽しみにしてるからね?」

 僕が笑顔でそう言えば、ハナは膝から地面に崩れ落ちてさめざめと泣き出した。
 うぅ~ん? どうしたんだろう~?
 泣くのもいいけど、小屋を直してからにして欲しいなあ。
 それにしても。
 結構な時間あの部屋に居たと思うんだけどなあ?
 崩れた小屋は、今、崩れたばかりみたいだ。
 不思議だなあ~。時間の流れが違うのかなあ~。
 まあ、いいかあ。

「ほら、ハナ立って。昼作ったんだよね? 食べよう?」

「…うん…」

 べそべそと泣くハナの手を取って立たせて、僕達は家の中へと入った。
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