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三冬月マヨ

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ジウとタク

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 私はそれを手に、とある家の扉を叩いた。

「タク、タク、私だ開けてくれ!」

「…そんなにドンドン叩くなよ、壊れちまうだろ」

 扉を開けて気怠そうに出て来たのは、私の愛する人、タクだ。
 身の丈は私よりも頭一つ大きい。タクの出身地は胴は長く脚は短い人が多いとの事で、タクは私より背が高いのに、脚は私よりもやや短い。四角い顔に、太い眉、やや細く鋭い目、顎から頬に掛けての無精髭。髪色は黒く、くるんくるん巻き毛になっている。それが、また良い。

「嬉しくて仕方がないのだ、許せよ。それよりも、薬が出来たのだ! 子作りをしようではないか!」

 屋内に入りながら、頭に被っていたフードを捲りながらそう言えば、バンッと激しい音を立てて扉が閉められた。

「…は…? あ? あんた、本気だったのか?」

 細い目をこれでもかと見開き、タクは扉を閉めて上半身をこちらに向けたままで固まった。

「私が嘘や冗談を言う人間に見えるのか? 心外だな」

 扉の前で腕を組み、ふんすと鼻息荒く言えば、タクは両手で顔を隠してずるずるとその場に座り込んでしまった。その隙間から見える肌の色は僅かに赤く染まっている様に見えた。
 タクは昔、うちの騎士団に居た男だ。
 俺より十五歳上の、三十九歳。十年前、大量発生した魔物狩りの際に、右脚を負傷して騎士団を辞めた。
 日常生活に支障は無いが、騎士として以前の様に戦う事は出来ないと、引き留められたのだがあっさりと辞めてしまった。現在は冒険者として、薬草採取等の依頼をこなしながら、細々とした暮らしをしている。
 そんな彼と私が恋仲になってから、五年が経つ。
 まあ、そんな事は置いておくとして。

「あの、髪の救世主のラス殿が作った薬だ。成功は約束された物! これを飲んだ私は、間違いなく子を成す事が出来るだろう! 私はお前に似た男前な男児を希望するぞ!」

 床に尻餅を付いたタクの前に立ち、身を屈めながらそう言えば、タクは片手では顔を隠しながら、片手は掌を私に向けて伸ばして来た。

「…いやいや、王子さんよぉ…妊娠・出産を甘くみてねぇか? 女でも大変なんだぞ? それが、そんな細い身体で、しかも男のあんたが…。幾ら跡を継ぎたくないからって…」

 私の身を案じてくれるのは嬉しいが、今は捨て置いてくれ。

「私はタク以外と添い遂げる気は無い! それに、私が子を産めば、同性婚が認められる様になる筈だ!」

「…いやいや、普通に『この痴れ者が』って、廃嫡されて終わりだと思うがねぇ? もちろん、法なんて変わらずに、さ」

 グッと握り拳を作って言えば、タクは頭をガリガリと掻き出した。
 踏ん切りがつかないのか?
 空想だと思っていた、子供が実現するかも知れないと云う事に怖くなったのか?
 私も怖いが、お前とならば…お前が居てくれるのなら、何も怖くはないのに?

「廃嫡は望む処だが、その前に私は必ず法を変えて見せる。とにかく、薬を飲むから、私を抱け。…ああ、そうだ。私の穴は、女の様に濡れる様になるらしいぞ?」

「…は…?」

「興味があるだろう? どの様に濡れるのか、お前が私に教えてくれ」

 薬の瓶を見せつけながら、目を細めて口の端で笑えば、ごくりと、タクの喉が上下に動くのが見えた。

 ◇

「…あ…う、ん…」

 ぬちゅ、ぬちゅとした厭らしい水音が室内に響く。
 タクの家のベッドは、私の寝室にあるベッドと比べたら小さいが、それでも男二人が乗っても、若干の余裕がある。

「…すげぇ…溢れて来る…」

 熱を孕むタクの声に、肚が熱くなる。
 四つん這いになり、尻を上げてタクにそこを暴かれている。ただそれだけで、私の性器の先からはポタリポタリと厭らしい液がシーツに落ちて染みを作って行く。片手で私の尻を広げる様にして、片手では…もう二本…三本の指が私の中に挿入っているのだろうか…それらが自由奔放に蠢いていた。

「…タ、タク…ど…んな感じだ…?」 

「…ああ…すげぇ…見ろよ、こんなに糸引いて…厭らしい王子様だな…」

 額に貼り付く前髪をそのままに後ろを振り返れば、タクが後ろから指を抜いて、それを己の顔の前に翳してニヤリと不敵に笑った。三本の指が動く度に、透明な蜜が伸びて、ぷつりと切れる。ラス殿が蜜と口にした様にそれは本当に甘い蜂蜜の様な匂いがした。

「…あ…」

 その雄らしい欲情を露わにした顔に、肚がキュンキュンしてしまう。後ろも熱が欲しくて勝手に収縮を繰り返している。

「…悪いな。一息に行くぞ」

 グッと私よりも大きく無骨な手が尻を掴み、そこを広げた。

「…ああ、来い…っ…! 私の中に存分に子種を注いでくれ…っ…!!」

 望む物が得られる。その喜びに震えた瞬間、一気にその剛直が私の中に挿入って来た。
 一気に快感が頭から爪先まで駆け抜けた。

「…っ…、な、んだ、これ…っ!? 絡んで…っ!!」

 タクが息を詰まらせながらも、そのまま腰をゆるりと動かし出す。

「あっ、はっ、あ…こ、ん、なっ!?」

 私は私で、挿入された瞬間に直ぐに達してしまった。
 挿入時の苦しさとかは無く、ただ快感だけが広がって行く。
 何だこれは…!?
 ラス殿は何と云う物を作り出したのだ!?
 これが依頼した媚薬に変わったらどうなるのだ!?
 ひたすらにネズミの交尾を見て疲れたと言っていたが…またネズミで実験をして交尾を見るのだろうか?

「…っ、こら、何を考えている?」

「はっ!? あ、ふか…っ…!!」

 意識を他へとやっていたのが解ったのだろう。後ろからタクに身体を起こされて、そのままタクの胸に背中を預ける格好で座らされてしまった。背中にタクの汗と鼓動を感じる。私と同じ様に感じているのかと思うと嬉しくなる。

「…っ、深い処まで行かなけりゃならねぇんだろ? …俺は…お前に似た娘っ子が欲しいな…」

 耳元で囁かれる熱い声にどうしようも無く身体が震える。

「…そ、うだ…っ…! そこに…子を宿す器が…っ…!!」

 薬を飲んでどれ程でそれが用意されるのかは個体差があるし、何よりもネズミと人間では違うから何とも言えないが、蜜が出れば準備は出来て居るのかも? との事だった。
 だが。
 そんなのは今はどうでも良い。今はただ、タクの熱が欲しい。奥に、奥に…早く注いでくれ…――――――――。

 ◇

「おいっ、馬鹿走るなっ!!」

 ラス殿の家が見えて来た処で、思わず走り出しそうになった
 私の腕をタクが掴んで止めた。

「解ってはいるが嬉しくて堪らないのだ! 早くラス殿に報告せねば!!」

 薬を飲んでから約半年が経って居た。
 その間に濡れる媚薬も完成し、私とタクは更に愛を深めた。
 そうして昨日、私の妊娠が発覚したのだ。
 いや、何だか怠くて食欲も今一つ湧かないなと思っていたのだ。
 タクに連れられて潜りの医者の元へと行けば『…信じ難い事だが…』と、妊娠を告げられた。私とタクは互いを抱き締めて喜びに泣いた。
 まずは、ラス殿にこれを報告だ。そして法の…。

『ドオンッ!!』

 そこまで考えた時、直ぐそこに見えたラス殿の作業小屋が、派手な音を立てて吹き飛ぶのが見えた。
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