112 / 125
番外編
いつか、また【九】
しおりを挟む
『妖』だと星は笑いながら言った。
星も、みくも、月兎も『元は妖』だと。
自分達は一体何を聞かされているのだろうと、瑞樹と優士の二人は、高梨に雪緒、杜川、相楽を見る。見られた皆は、申し訳無さそうに肩を竦めたり、苦笑したりした。
そして、また、みくを、星を、月兎を見て天野を見た。
「あ…まのさんも妖だから、腕が生えたって事か!?」
「何故、そうなるっ!!」
いきなり叫んだ瑞樹の頭を、優士が思わず平手で叩いた。
「痛っ!! だっ、だって、腕っ! 腕あるし!! あ、ここに居る天野さんは幽霊!?」
叩かれた頭を両手で押さえ、涙目で天野を見れば、腹を抱えて笑っていた。
「天野」
高梨にじろりと睨まれた天野が、笑いを収めて瑞樹と優士を見た。
「ああ、いや、悪い。あのな、俺は幽霊じゃないし、腕も嚙みちぎられてない。あの棺桶にある腕は、熊の腕なんだ。星坊に熊を狩って貰って、人の腕に見える様に、須藤のおやっさんと津山さんに頼んで、加工して貰ったんだよ。夜だし、上手い具合に雨だったし、解らなかっただろ? あの腕は星坊が自分の懐に隠し持ってて、俺が逃げたら取り出して橘に見せろって頼んでいたんだ」
「ん! 袖はたけるが着ていたのをつけたけどな!」
天野の言葉に星が胸を張り、月兎と杜川がその頭を撫でていた。が、それを見て和んで等居られる筈が無い。
「…く…ま…うで…?」
呆然と呟く瑞樹の脳裏に、何時だったかの光景が蘇った。
(…え? じゃあ…医務室通いが続いていたのって…? そう云えば…須藤さんが『腕』って…)
「…じゃあ…須藤さんも、津山さんも…この件を知って…みくさんや星先輩…月兎君の事も知っていると…?」
顎に指をあてて眉を寄せて問う優士に、天野は大きく頷いた。
「ああ、知って居る。…あのな、これは知って居る者が限られる事なんだが、妖は人になる事が出来る。俺と高梨は、実際に妖が目の前で人になる処を見た。それが、みくちゃんだ。で、妖の寿命は俺達より遥かに永い。俺は人間だが…その俺が歳を取らない…成長が緩やかになったのは、みくちゃんのせいと言ったらアレなんだが…他に原因が考えられないからな…みくちゃんのお蔭だと思う」
「は?」
「どう云う事ですか?」
「…いや…ほら…俺とみくちゃんは夫婦で…その…俺…みくちゃんから…子種…まあ…命を貰っているだろう? 他の奴らとの違いって言ったら、それぐらいしか思い当たる節がないからな…はは」
顔を赤くして後ろ頭を掻く天野の隣では、みくも同じ様に頬を染めて畳に"の"の字を書いていた。
「大男が照れるな。見ているこちらが恥ずかしくなる」
そんな二人に、高梨がうんざりとした様子で言うが、天野とみくは『いや、だって』とか『改めて人様の前で言うと…ねえ?』と、互いにもじもじと身体をくねらせるだけだ。
因みに、そんな高梨の隣に座る雪緒も顔を赤くして俯いていたが、瑞樹と優士は気付かなかった様だ。
「え、と…? それで…何で…死んだなんて嘘を…?」
「あんな大芝居を打って、瑞樹にまた、心の傷を負わせ…」
「すまんっ!!」
「ゴメンよッ!!」
優士の言葉を遮り、天野とみくが勢い良く畳に手を置き頭を下げた。ゴッと云う鈍い音がして、瑞樹も優士も思わず腰を浮かせそうになった。
「それについては謝る。悪かった。他に適任が居なかったんだ。他の奴らじゃあ、俺が食われる芝居してるってばれちまう。だから、まだ経験の浅い橘を利用させて貰った。…直前で、ゆかりんに止められそうになった時は焦ったけどな!」
「…橘を同行させるのに、気が進まなかったからな。だから、取り敢えず天野は待機させて…途中から…相ば…菅原か白樺と行かせようかと思ったんだが…」
「それは駄目だ。瑠璃嬢も亜矢嬢も女の子だ。何時か、生まれて来る子に影響が出るかも知れないだろう」
天野の言葉に、高梨は身体を瑞樹の方へと向けて畳に手をついて頭を下げた。
「幾ら良くなって来たとは云え、お前に、また心の傷を負わせる事になってしまった。すまん」
「あ、や…」
「…詫びとは…この事ですか…」
天野やみくだけでなく、高梨にまで頭を下げられて、瑞樹は胸の前で両手を泳がせる。その隣で優士はただ、静かにそれを呟いた。
「…ああ、また、妖を前に動けなくなったら、それは俺の責任だ。だから、もし、またそうなったら…橘の面倒は俺が見ようかと」
「は?」
「俺とみくちゃんは、ここを…街を出て杜川さんの山へ行く。そこで…」
未だ頭を下げたままの天野に、瑞樹は腰を浮かせて声を上げる。
「ちょ、ちょ、待って下さい! 以前みたくなるかどうかは解らないけど、そうじゃなくても、俺、天野さんが食われてるって思ったら、身体が重くて動けなかったし…!」
そうだ。
幼い日の事を思い出して動けなくなったのだ。
結局、自分はまだあの日の事を、克服出来て等いないのだ。
「あ、それはみずきの上に妖が乗ってたからだぞ! 親父殿に連れて来て貰った!」
と、唇を噛む瑞樹の耳に、能天気な星の声が届いた。
「は?」
「妖が姿を消す事は知ってんだろ? それを出来る奴を、親父殿の里から連れて来て貰ったんだ! あ、ちなみに今、たけるはみくの力で、おいら達以外には見えなくなっているからな!」
星も、みくも、月兎も『元は妖』だと。
自分達は一体何を聞かされているのだろうと、瑞樹と優士の二人は、高梨に雪緒、杜川、相楽を見る。見られた皆は、申し訳無さそうに肩を竦めたり、苦笑したりした。
そして、また、みくを、星を、月兎を見て天野を見た。
「あ…まのさんも妖だから、腕が生えたって事か!?」
「何故、そうなるっ!!」
いきなり叫んだ瑞樹の頭を、優士が思わず平手で叩いた。
「痛っ!! だっ、だって、腕っ! 腕あるし!! あ、ここに居る天野さんは幽霊!?」
叩かれた頭を両手で押さえ、涙目で天野を見れば、腹を抱えて笑っていた。
「天野」
高梨にじろりと睨まれた天野が、笑いを収めて瑞樹と優士を見た。
「ああ、いや、悪い。あのな、俺は幽霊じゃないし、腕も嚙みちぎられてない。あの棺桶にある腕は、熊の腕なんだ。星坊に熊を狩って貰って、人の腕に見える様に、須藤のおやっさんと津山さんに頼んで、加工して貰ったんだよ。夜だし、上手い具合に雨だったし、解らなかっただろ? あの腕は星坊が自分の懐に隠し持ってて、俺が逃げたら取り出して橘に見せろって頼んでいたんだ」
「ん! 袖はたけるが着ていたのをつけたけどな!」
天野の言葉に星が胸を張り、月兎と杜川がその頭を撫でていた。が、それを見て和んで等居られる筈が無い。
「…く…ま…うで…?」
呆然と呟く瑞樹の脳裏に、何時だったかの光景が蘇った。
(…え? じゃあ…医務室通いが続いていたのって…? そう云えば…須藤さんが『腕』って…)
「…じゃあ…須藤さんも、津山さんも…この件を知って…みくさんや星先輩…月兎君の事も知っていると…?」
顎に指をあてて眉を寄せて問う優士に、天野は大きく頷いた。
「ああ、知って居る。…あのな、これは知って居る者が限られる事なんだが、妖は人になる事が出来る。俺と高梨は、実際に妖が目の前で人になる処を見た。それが、みくちゃんだ。で、妖の寿命は俺達より遥かに永い。俺は人間だが…その俺が歳を取らない…成長が緩やかになったのは、みくちゃんのせいと言ったらアレなんだが…他に原因が考えられないからな…みくちゃんのお蔭だと思う」
「は?」
「どう云う事ですか?」
「…いや…ほら…俺とみくちゃんは夫婦で…その…俺…みくちゃんから…子種…まあ…命を貰っているだろう? 他の奴らとの違いって言ったら、それぐらいしか思い当たる節がないからな…はは」
顔を赤くして後ろ頭を掻く天野の隣では、みくも同じ様に頬を染めて畳に"の"の字を書いていた。
「大男が照れるな。見ているこちらが恥ずかしくなる」
そんな二人に、高梨がうんざりとした様子で言うが、天野とみくは『いや、だって』とか『改めて人様の前で言うと…ねえ?』と、互いにもじもじと身体をくねらせるだけだ。
因みに、そんな高梨の隣に座る雪緒も顔を赤くして俯いていたが、瑞樹と優士は気付かなかった様だ。
「え、と…? それで…何で…死んだなんて嘘を…?」
「あんな大芝居を打って、瑞樹にまた、心の傷を負わせ…」
「すまんっ!!」
「ゴメンよッ!!」
優士の言葉を遮り、天野とみくが勢い良く畳に手を置き頭を下げた。ゴッと云う鈍い音がして、瑞樹も優士も思わず腰を浮かせそうになった。
「それについては謝る。悪かった。他に適任が居なかったんだ。他の奴らじゃあ、俺が食われる芝居してるってばれちまう。だから、まだ経験の浅い橘を利用させて貰った。…直前で、ゆかりんに止められそうになった時は焦ったけどな!」
「…橘を同行させるのに、気が進まなかったからな。だから、取り敢えず天野は待機させて…途中から…相ば…菅原か白樺と行かせようかと思ったんだが…」
「それは駄目だ。瑠璃嬢も亜矢嬢も女の子だ。何時か、生まれて来る子に影響が出るかも知れないだろう」
天野の言葉に、高梨は身体を瑞樹の方へと向けて畳に手をついて頭を下げた。
「幾ら良くなって来たとは云え、お前に、また心の傷を負わせる事になってしまった。すまん」
「あ、や…」
「…詫びとは…この事ですか…」
天野やみくだけでなく、高梨にまで頭を下げられて、瑞樹は胸の前で両手を泳がせる。その隣で優士はただ、静かにそれを呟いた。
「…ああ、また、妖を前に動けなくなったら、それは俺の責任だ。だから、もし、またそうなったら…橘の面倒は俺が見ようかと」
「は?」
「俺とみくちゃんは、ここを…街を出て杜川さんの山へ行く。そこで…」
未だ頭を下げたままの天野に、瑞樹は腰を浮かせて声を上げる。
「ちょ、ちょ、待って下さい! 以前みたくなるかどうかは解らないけど、そうじゃなくても、俺、天野さんが食われてるって思ったら、身体が重くて動けなかったし…!」
そうだ。
幼い日の事を思い出して動けなくなったのだ。
結局、自分はまだあの日の事を、克服出来て等いないのだ。
「あ、それはみずきの上に妖が乗ってたからだぞ! 親父殿に連れて来て貰った!」
と、唇を噛む瑞樹の耳に、能天気な星の声が届いた。
「は?」
「妖が姿を消す事は知ってんだろ? それを出来る奴を、親父殿の里から連れて来て貰ったんだ! あ、ちなみに今、たけるはみくの力で、おいら達以外には見えなくなっているからな!」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる