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離れてみたら
【十三】すれ違わない
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「そう云う訳だから、俺が猫でも塩でもない事の証明に接吻をしたい」
との優士の言葉に、瑞樹は頭を豆腐の角にぶつけたくなった。
いや、だから。
そうなる為の流れ、雰囲気と云う物があるだろうと、瑞樹は濡れた口周りを着物の袖で拭いながら、心の中で突っ込みを入れる。
優士には是非に情緒と云う物を学んで欲しいと、瑞樹は切に願った。
しかし、ここで拒絶すれば、また、ひょっとこにされるのは目に見えているので、瑞樹は無言で立ち上がり洗面所へと向かう。
「瑞樹?」
「…口…洗って来る…麦茶噴いたから…」
背中に掛かる声に振り返らずに、熱くなる頬を押さえて、ボソボソと瑞樹が言う言葉に、優士はそっと息を吐いた。それは安堵の息だったのだが、瑞樹に伝わっただろうか?
接吻自体を嫌がられている訳では無い。
それが解って、優士は知らず強張っていた身体から力を抜いた。
そして、口を洗うと云う言葉に、自分もそうした方が良いだろうか? と、台所へと向かった。天麩羅を食べたせいで、唇が油でテカテカしている筈だ。
「…練習か…」
手拭いで洗った口を拭きながら、瑞樹はぽそりと呟く。
優士が思った様に、瑞樹とて接吻が嫌だと云う訳では無い。ただ、どうしても雰囲気と云う物に拘ってしまうだけで。接吻の先の行為をと優士の口から聞いた時だって、驚きはしたが、嫌だとは思わなかった。ただ、何をするのかはいまいち理解して居なかったが。
先程、性器と優士は口にした。
そして、それは図らずも瑞樹が月兎の真似をして言った言葉でもある。
つまりは、それを優士なり瑞樹なりが触る。接吻の先とは、そう云う事なのだ。胸を擽りながら言われたから、胸も含まれるのだろう。
「…でも…」
練習だなんて嫌だな、と思う。
そんなのは寂しい。
そんなのは辛い。
そんなのは哀しい。
そんな瑞樹の脳裏に浮かぶのは、あの津山の姿だ。
高梨は、恋だとか愛だとか、そんな感情は無いと口にしていたが、津山は違うと思った。
津山は恐らく、高梨を想っていた。
そして、それを伝えられずに居たのではないか?
だから、あんな表情をしたのでは?
ずっとずっと、そんな想いを抱えているなんて、自分には出来ない。無理だ。
だから、瑞樹はそれを口にする。
「俺は優士が好きだから、練習の接吻なんてしたくない」
真面目な顔で洗面所から出て来た瑞樹が言った言葉に、几帳面に正座をして待っていた優士が軽く目を瞬かせた後、額を畳にゴスッと打ち付けた。
「優士!?」
バッと手にしていた手拭いを投げ出し優士の元へ駆け寄り、瑞樹はその正面に両膝をつく。
「…不意打ち、だ…。…可愛過ぎる…だろ…」
両手を畳に置いて上半身を起こしながら言う優士の言葉はくぐもっていて、瑞樹には良く解らなかった。
「えっと、だから、その…本気の…こ、恋人同士の接吻がし、たい…。…津山さんみたいな想いはしたくないし…優士にだってさせたくない…」
「…何…?」
それはどう云う事だと視線で促せば、瑞樹は今日見て思った事を優士に語った。
「…すまない…ムキになっていた様だ…」
それを聞いた優士は素直に頭を下げた。
危うく瑞樹にそんな想いを抱えさせる処だったのかと、唇を噛んだ。
瑞樹には、もう辛い思いをして欲しくないと誓ったばかりなのに、繰り返す処だった。
「…や…。俺が猫の方がマシだなんて言ったから…ごめ…」
謝ろうとする瑞樹の唇を優士は自分の人差し指で押さえた。
「…お互い様だ…。…だから…ごめんの接吻を贈りたいが…良いか…?」
「…ん…」
コクリと頷く瑞樹に、優士は押さえていた指を頬に添えて、ゆっくりと顔を近付けて行く。
恥ずかしそうに徐々に伏せられて行く瑞樹の瞼に軽く唇をあてれば、それはぴくりと震えた後に、きつく閉じられた。
それにつられる様に、きつく結ばれた唇にも、そっと己の唇を重ねれば、ふわりと胸の奥に微かな熱が灯った気がする。重ねたそこからは、僅かに歯磨き粉の薄荷の匂いと味がした。
「ひゃうっ!?」
思わず、その唇を舐めれば瑞樹の両肩が跳ねて、変な声が耳に飛び込んで来た。
「んにゃ、にゃめ、にゃめたっ!?」
顔を離せば、真っ赤な顔に真っ赤な目をした瑞樹が両手で口を隠す。
「何だ、これぐらい。猫には何度も舐めさせているんだろ?」
少しだけ意地が悪そうに笑う優士に、こいつ、何処まで根に持つ気だ。と、瑞樹は口を押さえながら、涙の滲む目で優士を睨むのだった。
との優士の言葉に、瑞樹は頭を豆腐の角にぶつけたくなった。
いや、だから。
そうなる為の流れ、雰囲気と云う物があるだろうと、瑞樹は濡れた口周りを着物の袖で拭いながら、心の中で突っ込みを入れる。
優士には是非に情緒と云う物を学んで欲しいと、瑞樹は切に願った。
しかし、ここで拒絶すれば、また、ひょっとこにされるのは目に見えているので、瑞樹は無言で立ち上がり洗面所へと向かう。
「瑞樹?」
「…口…洗って来る…麦茶噴いたから…」
背中に掛かる声に振り返らずに、熱くなる頬を押さえて、ボソボソと瑞樹が言う言葉に、優士はそっと息を吐いた。それは安堵の息だったのだが、瑞樹に伝わっただろうか?
接吻自体を嫌がられている訳では無い。
それが解って、優士は知らず強張っていた身体から力を抜いた。
そして、口を洗うと云う言葉に、自分もそうした方が良いだろうか? と、台所へと向かった。天麩羅を食べたせいで、唇が油でテカテカしている筈だ。
「…練習か…」
手拭いで洗った口を拭きながら、瑞樹はぽそりと呟く。
優士が思った様に、瑞樹とて接吻が嫌だと云う訳では無い。ただ、どうしても雰囲気と云う物に拘ってしまうだけで。接吻の先の行為をと優士の口から聞いた時だって、驚きはしたが、嫌だとは思わなかった。ただ、何をするのかはいまいち理解して居なかったが。
先程、性器と優士は口にした。
そして、それは図らずも瑞樹が月兎の真似をして言った言葉でもある。
つまりは、それを優士なり瑞樹なりが触る。接吻の先とは、そう云う事なのだ。胸を擽りながら言われたから、胸も含まれるのだろう。
「…でも…」
練習だなんて嫌だな、と思う。
そんなのは寂しい。
そんなのは辛い。
そんなのは哀しい。
そんな瑞樹の脳裏に浮かぶのは、あの津山の姿だ。
高梨は、恋だとか愛だとか、そんな感情は無いと口にしていたが、津山は違うと思った。
津山は恐らく、高梨を想っていた。
そして、それを伝えられずに居たのではないか?
だから、あんな表情をしたのでは?
ずっとずっと、そんな想いを抱えているなんて、自分には出来ない。無理だ。
だから、瑞樹はそれを口にする。
「俺は優士が好きだから、練習の接吻なんてしたくない」
真面目な顔で洗面所から出て来た瑞樹が言った言葉に、几帳面に正座をして待っていた優士が軽く目を瞬かせた後、額を畳にゴスッと打ち付けた。
「優士!?」
バッと手にしていた手拭いを投げ出し優士の元へ駆け寄り、瑞樹はその正面に両膝をつく。
「…不意打ち、だ…。…可愛過ぎる…だろ…」
両手を畳に置いて上半身を起こしながら言う優士の言葉はくぐもっていて、瑞樹には良く解らなかった。
「えっと、だから、その…本気の…こ、恋人同士の接吻がし、たい…。…津山さんみたいな想いはしたくないし…優士にだってさせたくない…」
「…何…?」
それはどう云う事だと視線で促せば、瑞樹は今日見て思った事を優士に語った。
「…すまない…ムキになっていた様だ…」
それを聞いた優士は素直に頭を下げた。
危うく瑞樹にそんな想いを抱えさせる処だったのかと、唇を噛んだ。
瑞樹には、もう辛い思いをして欲しくないと誓ったばかりなのに、繰り返す処だった。
「…や…。俺が猫の方がマシだなんて言ったから…ごめ…」
謝ろうとする瑞樹の唇を優士は自分の人差し指で押さえた。
「…お互い様だ…。…だから…ごめんの接吻を贈りたいが…良いか…?」
「…ん…」
コクリと頷く瑞樹に、優士は押さえていた指を頬に添えて、ゆっくりと顔を近付けて行く。
恥ずかしそうに徐々に伏せられて行く瑞樹の瞼に軽く唇をあてれば、それはぴくりと震えた後に、きつく閉じられた。
それにつられる様に、きつく結ばれた唇にも、そっと己の唇を重ねれば、ふわりと胸の奥に微かな熱が灯った気がする。重ねたそこからは、僅かに歯磨き粉の薄荷の匂いと味がした。
「ひゃうっ!?」
思わず、その唇を舐めれば瑞樹の両肩が跳ねて、変な声が耳に飛び込んで来た。
「んにゃ、にゃめ、にゃめたっ!?」
顔を離せば、真っ赤な顔に真っ赤な目をした瑞樹が両手で口を隠す。
「何だ、これぐらい。猫には何度も舐めさせているんだろ?」
少しだけ意地が悪そうに笑う優士に、こいつ、何処まで根に持つ気だ。と、瑞樹は口を押さえながら、涙の滲む目で優士を睨むのだった。
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