寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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幼馴染み

【十一】遠征

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 確かに、二人は仲の良い親子に見えた。いや、良過ぎるとは思ったのだ。
 土日は雪緒ゆきおの仕事が休みの為、高梨が出勤の時には何時からか出来立ての弁当を持って、共に食べる事になったとの事だった。
 皆がそれを当然の様に受け止めている為、優士ゆうじ達もそう云う物なのかと思う様になっていた。いや、そう云う物なのだろうと無理矢理に納得した。
 しかし、よくよく考えてみれば、雪緒はとうに成人した立派な大人だ。それが未だに養父にべったりなのは如何な物なのだろうかと云う疑問が湧かない事も無い。幾ら仲が良くとも限度と云う物があるだろう。現に、瑞樹みずき親子だって仲は良いが、高梨親子達程では無いし、そもそも周りに砂を吐かせたりはしない。
 それなのに、それを今の今までそう云う物なのだと受け止めて来たのは、彼らの周りの者達のせいなのだろう。周りが余りにも当たり前に、自然に二人を受け入れているから。二人を包む空気が余りにも穏やかで温かい物だから。それを見る周りの空気も同じ物だったから。二人が二人で居るのが、あまりにも自然だから。どういった経緯で高梨が雪緒を養子に迎えたのか、また、何時から二人がその様な関係になったのか、はたまた最初からそうで、それで養子にしたのか、理由等優士は知らないし、見当もつかない。
 だが。

「…羨ましいな…」

 と、思った。
 あんな風に自然に居られるのが羨ましいと思った。
 布団に横たわり、無機質なコンクリートの天井を見ながら、優士はまた羨ましいと思った。

 ◇

「菅原と白樺は避難場所にて、在住の隊員と共に住民の安全に気を配れ。久川と、袋田もそこに。せいは自由に行動しろ。橘と楠は俺と天野と共に。他の者は状況に合わせて動いてくれ」

 今日はあやかしの行動が活発になる新月の日だ。
 小さな町や村には、数人から多くても十人にも満たない朱雀の者が在住しているが、それでは間に合わない場合がある。その為に、この時ばかりは多くの隊を抱える街から応援が寄越される。
 高梨が隊長を務める第十一番隊も、今日は山間にある小さな村へと応援に来ていた。
 時刻はまだ夕暮れ前だ。昼過ぎに住み慣れた街を出て、朱雀専用車三台を使い、ここへと来た。高梨隊、全十二名の他に、治療を専門とする者が二名だ。その村にある朱雀の詰め所にて、村の地図を広げながら、高梨は隊員達に指示をする。
 高梨の言葉に、皆真剣な表情で頷いている。普段は陽気な皆も、この時ばかりはそんな空気を出したりはしていない。
 ただ、星だけは呑気に頭の後ろで両手を組んでいたが。

「いいか、篝火は絶やさない様に。また、それを過信し過ぎない様に。妖は火を苦手とするが、中にはそれを恐れない個体も居る。それを忘れるな」

 もう、何度となく繰り返し、教えて来た事を高梨は口にする。

「どんな些細な油断であろうと、それは死に直結する。気を引き締めろ」

 高梨の視線は、瑞樹と優士、亜矢に注がれている。特に瑞樹と優士に。三人には今日、刀を持たせてある。一月ひとつき前からの訓練で、刃を潰した鈍らを使用して来たから、ある程度使う事は出来る。だが、果たして三人はそれを実戦で使う事が出来るのか? 妖を前にして冷静に行動する事が出来るのだろうか? 今日の高梨の目的はそこにある。新人達の動きを見て、戦いに向かなければ、治療隊へと回す事も考える。今回の一回で総てが決まる訳では無いが、決断は早い方が良いと高梨は思っている。
 あの七夕の騒動から二十日余り。あの時に星とじゃれ合った高梨の姿は、今はもう、何処にも無かった。

 ◇

 陽が暮れる前に、炊き出しを行い、村の住民を避難場所へと集めた。名簿を用意して貰い、それに印を入れて行く。身体の自由が利かない者は、隊員が抱えて連れて来る事になっている。
 茣蓙ござを敷き、住民達には寛いで貰いながら食事を摂らせる。隊員達は立ったまま、握り飯を頬張っていた。

「…何か…緊張して来た…」

 握り飯を一口食べてから、瑞樹が隣に立つ優士に声を掛ける。

「…ああ…」

 頷く優士も、一口だけ食べて、後はその握り飯を持て余している様だった。
 これまでに、何度も街の巡回はして来た。だが、今回のはそれとは違う。安全な街から離れ、自分達が育った町よりも小さな村に居る。篝火だけが頼りの外灯の無い村だ。
 夏の為、まだ空は明るい。だが、刻一刻とその時は近付いているのだ。薄くではあるが、徐々に赤く色付いて行き、やがてそれは闇に塗り潰されて行く。
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