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番外編

告白【8】

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「君は気配を消すのが下手だ。仮にも王族ならば命を狙われる事もあるだろう。手練を紹介するから鍛錬した方が良い」

 …手練れって、やっぱり元生徒会役員ですか?
 もしかして、今も本当に何処かに潜んでいるんですか?
 てか、それって結構な無茶振りじゃないですか?
 なんて怖くて聞けない。

「何度も言っているけど、ウチは平和でーす。俺は予備の予備だし、既に一番上が皇太子としているし、その息子も居るから何の問題もありませーん」

 …本当に、俺達は何の話を聞かされているんだろう…。
 
 俺は隣に座るメゴロウにクリームソーダを飲ませながら、遠い目をしていた。

 植え込みから出て来たゴンベ王子は笑いながら俺達のテーブルに来て、そのまま空いていた椅子に腰を下ろして、慌ててやって来た店員に注文をした。ついでに俺も、メゴロウにお代わりのクリームソーダを注文した。

「まあ、でもこれで鬱陶しい顔を見なくて済むかな。きっぱりバッサリ容赦なく見込みなんて欠片も無い程に未練が残らない様に振ってくれてありがとう、ケタロウ君」

 お前も息継ぎしろ。
 先輩の言う手練達に、息継ぎの仕方を教えて貰ってくれ、頼む。
 てか、ゴンベ王子が潜んでいるのを知っていて、俺に告白したのか。俺に振られると解っていて告白したのか。それをゴンベ王子は知っていた。いや、先輩の口振りから仕掛けたのはゴンベ王子で、棚ボタは無いって…え? それって…。

「ゴンベ先輩は、トイセ先輩が好きなんですか?」

 チュポッとメゴロウがストローから口を離して、ゴンベ王子に訊いた。
 ド直球だな!?

「そうだね。さっさとケタロウ君に告白して、気持ち良く振られて来いって言った時に、俺の気持ちは伝えたけど、振られたよ。あわよくば俺に慰めてくれないかなって思ったんだけど、必要無いみたいだね」

 ニコニコ笑顔で、何か凄い事を言っている様な気がするが、気のせいだろうか。

「別に俺は君に慰めて欲しくて告白した訳ではないからな。燻っている想いを昇華させるのに、それも有用だと思ったまでだ」

 ゴンベ王子とは真逆に、先輩は塩としか言い様がない!
 好きだと言った相手に容赦ないな!?
 眼鏡の奥の目が底冷えしてませんか!?

「それにしても、メゴロウ君の身体能力は凄いね?」

 しかし、ゴンべ王子は全然めげていない。
 笑顔のままで、ピンッとテーブルに刺さったフォークの柄を指で弾く。

「ケタロウ君が泣き出して、ハンカチに手を伸ばしたと思ったら、もう、ここに来てフォークを刺しているんだから。あそこの、窓際の席の一個向こうに座っていたよね?」

 あ、やべ。
 そうだ。
 ゴンベ王子は、先輩の後ろの植え込みに隠れていたんだ。その場所からなら、店内の様子も見えていた筈だ。

「…見たんですか? ゴンべ先輩もケタロウ様の涙を? 忘れて下さい」

 内心で汗をだらだら流す俺とは対照的に、メゴロウはとても冷ややかな声でそう言った。ちょっと目のハイライトが消えかかっている。
 お前、どんだけ俺の涙に拘るんだ!?
 ああ、もう、穴掘って埋まりたい気分だ。

「おっと怖い怖い。メゴロウ君は可愛い顔しているのに、中身は可愛くないよね。野性の手負いの獣みたいだ」

 バンッて、乾いた音が辺りに響いた。

「…失礼」

 それは、俺がテーブルを掌で叩いたからだ。
 
「…ケタロウ様…?」

 隣に座るメゴロウが目を丸くして俺を見て来る。
 驚かせてゴメンな。
 けど、メゴロウの事を知りもしないくせに、そんな事を言うゴンべ王子に腹が立った。
 ムカ着火ファイヤーだ。
 たった半年、それもサークル活動の時でしか知らないのに、そんな事を言わないでくれ。

「メゴロウは私の大切な恋人です。幾ら尊い身分の貴方でも、言って良い事と悪い事がある」

 いや、そうであるからこそ、言葉には気を付けるべきだろう。幾ら本人が予備だなんだの言った処で、その身体に流れる血があるのだから。王族と云う血が。彼等が白と言えば、どんな色だろうと白になる。そんな存在なんだぞ。解っているのか?
 メゴロウが手負いの獣?
 何で、お前にそれが解るんだ。
 利いた風な口をきくな。
 
「…ケタロウ様…」

 メゴロウの手が伸びて来て、テーブルの上に置いたままの俺の手の甲を包んだ。

「ゴンべ。覗き見だけならまだ看過出来るが、今のは戴けないな」

 眼鏡のフレームを人差し指で上げながら、先輩がゴンべ王子を冷ややかな声で窘めた。
 いや、覗き見も咎めろよ。

「え? あれ? 俺、悪い人になってる?」

 俺と先輩を交互に見て、ゴンベ王子は首を傾げた。

「…殿下も、トイセ先輩もご存じない事と思いますが…メゴロウには…深い傷があるんです…。…本当に手負いの獣の様な…それを軽々しく、冗談の様に言わないで下さい。メゴロウは、可愛い私の恋人です。その恋人を傷付ける事は許さない。万人が可愛いと思わなくても結構です。私だけはメゴロウが可愛い事を知っていれば。私が、そう思っている事をメゴロウが知っていれば。私の為に、毎朝、いえ、食後にコーヒーを淹れてくれる、その甲斐甲斐しさ、毎夜私の腕に包まれて眠り、朝はふわりと柔らかい笑顔をくれて、私の手からパンを食べ、サラダを食べ、カップやグラスを傾ければこくこくと喉を上下させながら一生懸命に」

「…ケ、ケタロウ様…は、恥ずかしい、です…」

 俺の手に置かれたメゴロウの手が熱い。顔を見れば、耳や首まで赤くなっていた。

「うん? 本当の事だよ? 良い機会だから、私の可愛い君の自慢をさせて? ね?」

 メゴロウの目を真っ直ぐと見詰めて、空いている手の指を使い、顎をクイッと上げる。

「あ、あう…」

 メゴロウは右に左にと忙しなく視線を泳がせるが、俺から逃げるなんて許さないとばかりに後を追えば、観念したのか、キュッと目を閉じた。
 うん、可愛い。

「…では、続きを…」

 と、顔を先輩とゴンベ王子へと向ければ、二人は無言で俺を、いや、その背後を指差していた。
 後ろ? と、背後を振り返れば、窓ガラスには、店内にいたと思われる人々が鈴なりにへばりついていた。
 何で?
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