攻略されていたのは、俺

攻略されていたのは、俺

【07】

　メゴロウもそうだが、何で生徒会長もこんな反応をするのだろうか？　性に纏わる事を話したらいけないとか、そんな決まりは無いよな？　ある訳ないよな？　ここはエロゲの世界だぞ？　エロエロオッケー、ばちこいな世界だぞ？　
　暫く動きそうにない生徒会長を眺めていても仕方が無いと、俺はミネストローネが入ったカップを手に取った。メゴロウに、朝ご飯食べろって言われたからな。だから、渋々生徒会長を誘いに行ったんだし。

「…君は…本当に…」

　ん？

　温くなったミネストローネをスプーンで口に運んでいたら、天を仰いでいた生徒会長が再起動した。コトリと外した眼鏡をローテーブルに置いて、俺をじっと見詰めて来る。

「…っ…！」

　敢えて言おう。
　生徒会長の瞳は、俺より細く、鋭い。そんな生徒会長が、眼鏡と云うオブラートを外して、じっと俺を見て居る。
　怖い。
　はっきり言って怖い。
　恐怖以外の何物でも無い。
　朝から何て目で俺を見て来るんだ。
　俺の事を化け物呼ばわりしておいて、お前の方が余程化け物だろうが。

　ごきゅっと、音を立ててスープを飲み込んだタイミングで、生徒会長が再び口を開く。

「…眠れないのは、今、彼が周りに目を向けて、君から離れているからだと思うが…その、勃起しないと云うのは、どう云う事だ？　それは何時から？」

　お？　真面目に聞いてくれるのか？　流石、生徒会長。困っている生徒を放って置けないって事か？

「どうもこうも、言葉の通りです。どれだけ刺激を与えても、応えてくれないのです。何時からかは解りません。昨夜、久しぶりにマスターベーションをしようとして、気が付きましたので…」

　うん、本当に久しぶりに抜こうとして気付いたんだ。
　って、何時ぶりだっけ？　前世の俺より、今の俺はそれほど性欲は強くないからなあ…若者らしくないと云うか…うーん…？　少なくても、メゴロウが来てからは抜いてないよなあ？　…え？　って事は、約二ヶ月…？　え？　マジ？　俺が学生の頃は、週に一、二回は抜いていたよな？　え？

「どうした？」

　顎に指をあてて考え込んだせいか、生徒会長が心配そうな声を出して来た。

「…いえ…。…参考までにお聞きしたいのですが…トイセ会長のマスターベーションの頻ど」

「ゴホゴホゴホッ！！」

　何、人の言葉を遮って咽ているんだ。俺にとっては重要な問題だろう。今の俺がおかしいのか、それとも、この世界の人間の性欲が元から薄いのか、確認させろ。

「き、君は本当に、あの、ウ・ケタロウなのか！？　今の君には自覚が無さ過ぎる！」

　おう？
　何か知らんが怒らせた？
　そんな顔を真っ赤にして怒鳴るなよ。
　クールな生徒会長様はどうした？
　朝から血管ブチ切れるぞ。
　玉ねぎ食べて血液サラサラにしとけ？　な？　いや？　サラサラは納豆だったか？

「"あの"が何を意味するのかは解りませんが、私は間違いなくウ・ケタロウです」

　うん。
　ちょっと、それに前世の記憶がプラスされているけどな。
　自覚って何だ？　昨日も言われた気がするが。
　俺の言葉に、生徒会長は重く長い息を吐いた。
　何だよ？

「…今の君を野放しには出来ない」

　何で？
　俺、危険人物認定された？
　
「…全く、彼も良くこんな君を一人に出来るものだ…」

　いや、何ブツブツ言っているんだ？
　何、腕を組んで、うんうん頷いているんだよ？
　一人で納得するなよ。
　って、一人じゃないし。今、目の前に生徒会長お前が居るだろうが。

「俺の頻度はともかく、一般的な物については養護教諭に訊けば解るだろう」

　あ、逃げた。

　そう思うと同時に、カップを持つ俺の手がピクリと動いた。

　…何だ…？　何だ、この感じは？　胸の奥がざわつく…？　何で…？

「君が勃起しない原因も…」

「いいえ、それには及びません。現状、勃起しないからと言って問題がある訳でもありませんし。詮無きことを言いました。忘れて下さい」

　咄嗟に俺はカップをトレイの上に戻して、そう言っていた。

「…今は学生だから良いとしても、将来的には不都合が生じるだろう？　君はウ家の長男だ。家を継いで子を成す義務がある。そうだろう？」

　しかし、生徒会長は退かない。
　生徒会長が言う事は正論だ。
　長男の俺が、それを放棄して逃げるなんて出来ない。
　そう、だから私・はあ・の・時・…――――――――。

「大丈夫か？　顔色が悪い。体調を崩した処で睡眠不足だ。今日は休んだ方が良いかも知れない」

　生徒会長が立ち上がって、俺の肩に手を置いて来たから、慌てて頭を振る。

「あ、いえ、大丈夫です。問題ありません」

　…何だ…？　今、俺は何を思った？

「しかし…」

「問題ありません」

　俺が行かなかったら、メゴロウが心配するだろうが。
　あいつに心配は掛けたくない。
　ただの寝不足で休むとか、人生ナメてるのか？　って言われるぞ。自己管理がなってないとか、絶対に言われる。これ以上、情けない奴だなんて思われたくない。

「…解った。俺も一緒に行こう」

　…何で？