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攻略していたのは、僕

【22】

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 ぽたりぽたりと、ケタロウ様の額に貼り付いた前髪から、雫が落ちていた。それが、僕の顔に落ちて来る。濡れた長い睫毛が光って見える。青い瞳も輝きを増して見えて、とても綺麗。
 濡れた白いシャツが肌に貼り付いて、薄っすらと見えるその色はピンク色に見える。水を吸ったネクタイが重さで垂れ下がり、その透けた肌を微妙に隠しているのも良い。
 青い空の下で見る、そんなケタロウ様は本当に綺麗だった。

 …ドキドキする。
 ピンコさんと落ちても、何も思わなかったのに。
 ケタロウ様の腕が僕を囲って、ケタロウ様の脚が、僕の脚を跨いでいる。
 これだけで、僕の僕が元気になっちゃう。

「…ケタロウ様!?」

 ずっと見ていたいけど、噴水の周りに何時の間にか人だかりが出来ていた。その中の誰かが声をあげたから、僕は慌てて言い訳をした。
 ケタロウ様が貧血を起こして倒れそうになったから、支えようとしたけど駄目だったって。…嘘だけど。僕が時間を止めて、噴水の中に引き摺り込んだんだけど。

「…ああ、それはすまなかったね。怪我はないかい? このままでは風邪を引いてしまうね。救護室へ行ってタオルを借りよう。…っと、申し訳ないが、これでは午後の授業には出られない。この事を教師に話しておいてくれないかい?」

 でも、ケタロウ様はそんな嘘を信じた。…信じてくれた。
 濡れた前髪を掻き上げなら話すそんな姿が、とても綺麗でカッコ良くて、ほうっと溜め息が零れそうになったけど。

「っくちょんっ!!」

 実際に、僕の口から零れたのは、何とも言えない間抜けなくしゃみだった。

「ああ、これを着ると良い」

 情けなくて恥ずかしくて口を押さえた僕に、ケタロウ様がブレザーを脱いで渡して来たから、周りは騒然となった。
 だって、ブレザーを脱いだら、それまではちょっとしか見えていなかった、濡れて素肌に貼り付いたシャツが丸見えになる訳で。ケタロウ様はシャツの下に何も着ていないから、そのぺったり貼り付いて空けて見える胸にある、綺麗なピンク色の乳首もばっちりと見えている訳で。

「いっ、いけません、ケタロウ様っ!!」

 それなのに、ぶんぶんと両手を振る僕に、ケタロウ様は不思議そうに首を傾げるだけ。

 ケタロウ様は自分がどんなに綺麗なのか解っていないの!?
 あそこの女子は膝をもじもじさせてるし、先刻走って行った男子は前屈みだったよ!?
 ケタロウ様って、こんなに無防備だった!?

「急ごう。顔が赤い。熱が出ているのかも知れないね」

 更には、僕の肩に手を回して来るものだから、もう中庭は凄い事になった。
 思わず叫んで走りたくなったけど、我慢した。
 こんなに大勢の前で叫んで逃げたりしたら、きっとケタロウ様の迷惑になるし、そんな僕の態度がケタロウ様を追い詰める事になるかも知れない。そうしたら、ケタロウ様は、また死んじゃう。それは、駄目だ。今度こそ、ケタロウ様と生きるんだ。保健室じゃなくて、救護室なんて行きたくないけど、世界の危機なんかより、ケタロウ様の方が大事。今は、ケタロウ様の乳首を守るんだ。

 ◇

 救護室へ行けば、あの紫が気持ち悪い声で、ずぶ濡れの僕達を…ケタロウ様を迎え入れた。真っ赤な唇を上げて、舐める様にケタロウ様を…ケタロウ様の胸…乳首を見ている。

 …気持ち悪い…。
 そんな汚い目でケタロウ様を見ないで。

 服を乾かしてくれるって言って、ケタロウ様と二人でベッドの周りのカーテンを閉めて、制服を脱いでいる間も、カーテン越しだけど、舐める様な視線はずっと感じていた。
 それなのに、ケタロウ様は全然気にしていない様で、さっさと制服を脱いで、下着も気持ち悪いでしょうって言われて、真っ白なブリーフも脱いでしまって。僕が居るのに、全然隠そうともしないから、ぽろりと、可愛くて綺麗なおチンチンを出して、僕の僕が爆発するかと思った。
 腰にバスタオルを巻いて、毛布に包まってカーテンを開ければ、紫が温かい紅茶を淹れて出して来た。お礼を言って受け取ったけど、大丈夫? 毒とか入っていない? そんな心配をする僕の隣で、ケタロウ様は冷えた身体を温めようとしてるのか、何の警戒も見せないで紅茶を啜ってる。
 …まあ、確かに濡れて冷えたし、温かい飲み物は嬉しいけどね…。
 …何か…濡れたせいなのかな…?
 ケタロウ様の…やっぱり、石鹸の匂いなのかな? 甘い香りが漂って来ていて…何か…僕の僕が…ちょっと…元気になって来てるんだけど…。
 落ち着いて。
 落ち着くんだ、僕。
 …もう、本当に今回は…今日は…何て日なんだろう?
 ケタロウ様の生きてるおチンチンに、水に濡れて輝くケタロウ様に、透けて見える乳首とか、僕、本当に死んで夢を見ているのかも知れない。

 …夢?

 何時かは醒める夢。
 そう思ったら、身体がぶるりと震えた。
 嫌だな…これが夢だなんて…。
 今のケタロウ様が夢だなんて…。

「…寒いのかい? 私の為にすまなかったね」

 そんな事を思いながら、両手でカップを持って、ちびちびと紅茶を舐める様に飲んでいたら、ケタロウ様の手がカップを持つ僕の手に伸びて来て、今度こそ僕は固まってしまった。
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