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攻略していたのは、僕

【15】※※※

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 ――――――…どうして…こんな処に居るんだろう…?

 絞首台に上げられ、ロープを首に掛けられたケタロウ様を見ていた。ずっと、ケタロウ様は叫び続けていた。死にたくないって。ケタロウ様は、あんな風に命乞いなんて、しない。そんなの考えれば解る筈なのに。皆、誰もがそんなケタロウ様を冷ややかに見ていた。
 その間、ずっと、ずっと、思った。
 戻って、って。
 こんな事になる前に戻って、って。
 でも、戻らなかった。
 絞首台の床が開いて、踏み台が落ちて…ケタロウ様は…動かなくなった…制服のズボンの裾から落ちる糞尿に、皆、嫌悪感を露わにして…それだけ…誰も、おかしいとか思わずに、それを受け入れていた…ケタロウ様の死を…。
 どうして? と泣く僕をトイセさんが宥め、キヤクさんが僕とトイセさんを車に乗せて王宮へと連れて来た。何かを言われた気がするけど、そんなの全部右から左へと流れて行った。
 車に乗せられる時に、ケタロウ様の身体を何かの袋に入れているのが見えて、そこへ行こうとしたけど、無理矢理に車の中に押し込まれた。

 …どうして…?

「…泣かないでくれ…」

 連れて来られた広い部屋に居るのは、僕とトイセさんだけ。何だか甘い匂いがする部屋のベッドに僕は座っていた。そんな僕の脚元に、トイセさんが座り、僕を見上げている。

「…私は…嬉しいんだ。君の役に立つ事が出来て…」

 …それは、何の役…?

「…陛下から聞いた…その…情を…」

 …情…?
 …情なんて…そんな物…。

「…だから…」

 …情が…欲しくて…ケタロウ様を殺した、の…?

「…情を交わせば…交わす程に、君の力は強く…」

 …ああ…そっか…。
 そんな事…言ってた気が…する…。

「…そっか…」

 …足りなかったんだ…。
 …僕に…力が…足りなかったから…ケタロウ様は…死んだんだ…そっか…。
 …力が…情が…足りないなら…貰えば…良いんだ…。

「…メゴロウ君…?」

 ぽつりと呟いた僕を見上げて来る彼女に、手の甲で涙を拭ってそっと笑う。

「…僕に…情をくれる…?」

 そんなに欲しいのなら、まずは、あなたから僕に与えてよ。

「あ、ああ…!」

 …何て…気持ちの悪い、醜い顔で笑うんだろう…。
 …どうして…僕は…こんな人に…ケタロウ様を重ねてしまったんだろう…。
 …どうして…こんなのが生きているんだろう…。
 …ケタロウ様は死んでしまったのに…。
 …どうして…?

「…っ、あっ…い…っ…!」

 …気持ち悪い…声…柔らかい肌も…鼻に付く血の匂いも…何もかも…気持ち悪い…。
 …どうして…こんな気持ちの悪い…醜く汚いが生きていて…綺麗な…ケタロウ様が死ぬんだろう…? 

「…嘘つき…」

 …ガディシス様の嘘つき…。

 のろのろと両手を動かして、見下ろす先にある細い首を掴む。

「…ぐっ…!?」

「…嘘つき…嘘つき…っ…!!」

「…メ、ゴ…っ…!!」

 細い首を両手で絞めあげる。汚い手が僕の手首を掴んで離そうとするけど、誰が離すと思うの?
 僕が、待ってって、止めてって言っても、止めてくれなかったくせに。それなのに。どうして僕が止めるって思うの? ねえ? おかしいよね?

「…ふふ…あははははは…!」

 そう、おかしいんだ。こんなのは間違っている。

「…死ねば…良かったんだ…ケタロウ様じゃなくて…」

 …死ぬのは…ケタロウ様を追い詰めた…コレ…。

「…ぐっ、あ…!!」

 更に手に力を入れれば、汚い口から溢れた液体が泡を作る。こんな汚いモノ、消えてしまえば良い。…☓☓☓みたいに…カタチも無く…。

『いけませんっ!!』

 凛とした声が、僕の頭に響いた。同時に離したくも無いのに、僕の手が首から離れて行く。

「…どうして…邪魔をするの…」

 汚いモノの上から身体を離してベッドから下りて、傍に立つ白い光に包まれたガディシス様を見る。

「…どうして…コレは助けるのに…彼は…ケタロウ様は助けてくれなかったの…」

 ベッドの上で力無く横たわる汚いモノを見れば、白く柔らかい光がそれを覆っていた。

「…戻ってって…助けてって、ずっと思っていたのに! 時間は戻らなかった!! ねえ、どうして!?」

「…それが…彼の運命だから…です」

 白い光に包まれたガディシス様が、眉間に皺を寄せて長い睫毛を伏せた。

「…は…?」

 …なに…それ…?

「…あの子の…彼の死は…必要な物…なのです…」

 胸に手をあてて、苦しそうに話すガディシス様の言葉の意味が理解出来ない。理解したくない。

「…な…にを…言っているの…?」

 …必要…って…何…? 必要な死って…あるの…?

「……一度だけ…私が時を戻します…。…私が使えるのは…一度きり…」

 …戻っても…ケタロウ様は…また…死ぬ、の…?

「…ケタロウ様が…生きる未来は…ないの…?」

 つう…って、乾いたと思っていた涙が流れて来た。

「…いいえ…時が来たら…その時が…来るまでは…あの子は…だから…どうか…この国を…世界を…」

 ガディシス様の声が遠く遠くなっていく。
 国? 世界?
 …そんなの…知らない…。
 ケタロウ様が居ない…要らない世界なら…滅びてしまえば良い…――――――――。
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