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攻略されていたのは、俺?

【17】※

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「…ねえ…? 何をしていたの?」

「…え、あ…」

 底冷えしそうな深く暗い声に、俺は言葉が出ない。
 それはウーゴも同じく、スカートを捲り上げて尻を晒したまま、俺のちんこを手にしたまま、言葉にならない声を出していた。
 言葉が出るなら、俺はきっと、こう言っていただろう。

 何で?

 と。
 いや、だって本当に『何で?』だ。
 出入口のドアの音も、ベッド周りのカーテンを開く音も、何も聞こえなかった。本当に、いきなりメゴロウがそこに居た。俺とウーゴが居るベッドの横に、冷たく、暗い闇を孕んだ目をして、立って居た。

「…メ、ゴロウ…?」

 唾を喉に送り込んで、どうにか出した声はやけに掠れて聞こえた。
 だって、俺はこんなメゴロウを知らな…いや…夢の中でなら、知っている。が、現実に、こんなメゴロウが居るだなんて知らない。何時だって可愛くて、奥ゆかしくて、照れ臭そうに笑ったり、拗ねてみせたり、美味しいコーヒーを淹れてくれたり、寝る時は何時も、気が付けば俺の寝間着をきゅっと掴んでいて、胸に頭を押し付けていて、俺がおはようって笑えば、サッと顔を俯かせたり、嬉しそうに、俺の手から飯を食べたり、真面目で、健気で、誰も恨んだりなんかしない、流石主人公。それが、俺が知っているメゴロウだ。
 それなのに、今、ここに居るメゴロウは、絶対に主人公がしちゃいけない表情に、声だ。オーラが視えるのなら、きっと、どろどろとした澱んだ物が視えるに違いない。純情ボーイのメゴロウが、女の尻を、濡れそぼる陰毛を見て、冷静で居られる筈が無い。

「…僕の…なのに…」

 俺の声が聞こえているのか、いないのか、ボソリとメゴロウが呟く。

 …僕の…? 何が…って、この女の事か? メゴロウの相手は、やっぱりこいつなのか? こんなのがヒロインなのか? こいつ、俺に跨った時は既に生脚だったぞ? スカートを捲ったら、そこはもう、紫の毛だったぞ? こんな生徒を食い物にするヤリマンが良いのか、お前は? 俺は嫌だぞ? 生徒会長が女のままだったら、俺はそっちを進めるぞ? 仲良くなって来ると、さり気なく眼鏡を外して、キスを催促して来たりするんだぞ? あの、クールな生徒会長が目元を赤くして、けど、口にするのは恥ずかしくてって、精一杯のアピールをして来るんだ。醜悪なお姉さんより、クールで清楚なお姉さんを俺は薦める。だから、考え直せメゴロウ。

「…回こそは…って…あんなに……」

 何を言っているのか、その内容は聞き取れない。ただ、ただ、夢の中のメゴロウと被って、俺の背中を冷たい汗が流れる。

「…メゴロウ? 勘違いするのも解るけれど、いや、どう見ても勘違いするしかない状況だけれど、言い訳をさせて欲しい。私と…」

 余りにもあまりな現場を見て、混乱してるだけ、だよな? こうなった理由を話せば、落ち着いてくれるよな? 

「…っあ、私は、ど、どうしてもって、お金を…」

 おおおおぉいっ!?
 何言ってくれてんだ、この女!?
 金払って、こんな乳首真っ黒くろすけが出て来たら、ドン引くわっ!! ふざけんなっ!!

「…そんなの…もう…いいや…汚い…退いて…」

「っあ、ああ…」

 退いてと言われても、この女が退かないとと、思いながら、肘を付いて上体を起こそうとしたら、俺の上に居た女が消えた。

 ――――――――は…?

「…え…?」

 え? 何で? 何処へ…?

 いきなり軽くなった身体に戸惑いながら、上体を起こしてメゴロウを見れば、彼の暗い…昏い瞳は俺では無く、床の方を見ていた。

 ――――――――床…?

 メゴロウの視線に誘われる様に。
 メゴロウの視線を追う様に。
 吸い込まれる様に、俺は、それを見た。見てしまった。

 床に、目を見開き、口も大きく開いたウーゴが仰向けで倒れて…いや…落ちていた。
 白い床に、紫の髪の毛が広がっている。
 片手は頭の上に、片手は横へ伸ばして。
 スカートは捲られたままで、両脚は軽く広げられていて、下の紫の毛も丸見えだ。

「な…」

 俺が見ている中で、それは変化して行った。
 形が良く、上を向いていた乳房が萎んで垂れて行く。
 肌の張りが無くなり、皺が肌に刻まれて、萎んで行く。
 胸だけでは無い。顔も脚も。
 肌色だったそれは、生きている者が持つ色ではない者へと代わって行った。

「…は…?」

 そこで見るのを止めて置けば良かった。が、視線はそれに囚われたままで動かす事が出来なかった。
 ずるり…と、カラカラの皮が剥けて、中の肉が露わになり、どろりとゆっくりと床へと落ちて行く。

「…っ…!! う…ぐ…ぇっ!!」

 やけに鼻に付く甘い匂いが。
 腐った果実が香る様な、甘いが鼻に付く醜悪な匂いに堪らず吐き気がこみ上げ、俺は胃の中にあった物を吐き出した。
 びちゃびちゃとした音が、静かな部屋に響く。
 饐えた匂いと、甘い匂いが混じり合って、それがまた吐き気を誘う。

「…汚いなあ…」

 そんなのは解っている。けど、どうしようもないだろう、これは。

「…メ、ゴロウ…」

 お前は大丈夫なのか? こんな事が目の前で起こっているのに、何で…?

 もう吐き出す物も無く、胃液も吐き出し、苦しさから流れる涙をそのままに顔を上げてメゴロウを見れば…彼は、薄く…薄く笑っていた。
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