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攻略されていたのは、俺?

【05】

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 いや、いや?
 肩を抱いた時は、こんなに固まらなかったぞ?
 ちょっと、その指先を温めてやろうとしただけだぞ?
 そんなに力が強かったか?
 指を折られるとでも思ったのか?
 いやいやいや?

「あらぁ~、そんな触り方をしたら駄目よ」

 何?

 からかう様な、嗜める様な、そんな声にメゴロウの横顔を見ていた俺がそちらを見ると、両手に俺達の制服を手にしたウーゴ教諭が、出入り口の処で生暖かい目をして俺達を見ていた。

「ふふ…」

 な、何だその意味深な笑いは。
 怖いだろ。何かあるのなら、言ってくれ。

 そして、謎の笑いを残して救護室から出て行った。
 制服を乾かしに行ってくれたのだと思うが…何だあの笑いは…不気味過ぎる。ゲームやってる時は、口元のホクロが堪らんって思っていたが、今は、怪しさ大爆発の不安材料でしかない。
 俺の何が拙かったのか、教えて欲しい。
 俺は悪役だ。主人公みたいに、何度もトライ出来ないんだ。一つの選択ミスが、即、死に繋がるんだよ。

「…っ、あ、の、ケタロウ様…手を…」

「あ、す、すまなかったね。震えていたから、つい…暖めようかと思ったのだが…驚かせてしまったようだね…」

 ぽそりと呟かれたメゴロウの言葉に、俺は慌てて手を離して、肩の辺りに両手を上げて詫びた。
 うう、頼む。お触り禁止なら、先に言ってくれ。肩を抱いた時、何も言わなかったのは、人目があったからか? 今なら人目は無いし、さあ、遠慮なくドンと言ってくれ。

「あっ…驚きました…けど…あの…僕なんかに…そんな気安く触られては…ケタロウ様への皆からの心象が…」

 何だそりゃ。

 モゴモゴと俯いて話すメゴロウの言葉に、俺は軽く眉を寄せて首を傾げた。

「君は?」

 他の奴等なんか、どうだって良い。

「え?」

「君は、私に触られるのは嫌なのかい?」

 そう、問題はお前だ。
 お前に嫌われたら、俺に未来は無いんだ。

「そんな事はありません! 嬉しいで…っ、あ、す、すみません!」

 バッと顔を上げて、俺を見て来るメゴロウの言葉に、思わず頬が緩んだ。が。彼は目を泳がせた後に、顔を俯かせてしまった。
 待て、何だ、その反応は。
 …俺の笑顔は、そんなに凶悪か?
 …凶悪なのか?

「…いや、ありがとう。それなら良かった」

 お触り禁止じゃないのなら、良かったが…笑顔が凶悪問題が浮上したぞ…。どうしてくれようか…。

「ああ、そうだ。君は昨日、入寮したと聞いている。荷物の整理は済んでいるかい? 私で良ければ手伝わせて貰えないかな?」

 うん、とにかくメゴロウとの距離を縮めよう。
 まあ、荷物と言っても大した物は無かった筈だ。数少ない着替えと、勉強道具ぐらいだった筈だ。もしかしたら、断られるかも知れない。
 だが、ノーとは言えない日本人ならぬ、松竹梅。上の人間から言われたら、基本、断れないよな。メゴロウは、俺の言葉におずおずと頷いた。
 
 ◇

 何だ、ここは?
 俺は目の前に広がる光景に目を見開くしか無かった。
 手伝いを申し出た俺だったが、ただ、愕然としていた。
 転校前日に入寮を果たした主人公は、荷物の片付けが済んでおらず、それを知ったヒロインが手伝いをと、名乗りを上げるのだが、寮は男子寮と女子寮と分かれていて、どちらも異性の立ち入りは禁止されていると、ゲームで俺に注意を受けるのだ。で、代わりに俺が手伝いをする。虐め込みで。酷い。

 って、まあ、そのヒロインとの出逢いはまだなんだけどな。
 五人も居るのに、まだ顔を見ていない。
 俺が機会を奪ったせいなのかは解らないが。
 まあ…出て来るよな、その内に。きっと。多分。

「あ…ケタロウ様にこのような部屋を見せるのは…不敬…でいいのかな…? そうなりますよね…すみません、僕、配慮が足りなくて…」

 愕然としつつ、部屋の入口で佇んだまま動かない俺に、メゴロウが申し訳無さそうに頭を下げて来たから、そんな考えは彼方へと放り投げた。

「ああ、いや、そこではない。君が気にする必要は微塵も無い。誰が、君をこの部屋に案内したんだい?」

 じめじめとカビ臭く、明り取りぐらいの小さな窓しか無い、陽当りも悪いここは、どう考えても物置き部屋だ。日本で云うなら、畳三枚程の小さな部屋に、ベッドと勉強机のみがみっちりと隙間無く置かれている。

 こんな部屋で昨夜は寝たのか? ありえないだろ?
 前世の俺の部屋の方がよっぽど小綺麗だ。

「え、あ、の…」

「解った。部屋の割り当ては寮監に一任されている筈だ。行くよ」

 口籠るメゴロウに、俺は短く息を吐いた。
 こんな扱いを受けて、不当だと思う筈なのに、何故、それを口にしないのか。どうしても他人の事を悪く言いたくはないんだろうな。流石は主人公だ。
 まあ、良い。
 お前が怒らないなら、代わりに俺が怒ってやる。成長盛りの若者に何て事をしてくれるんだ。メゴロウは、将来国を救うんだぞ? その救世主に…って、それを知るのは極一部だったか…。俺が知ってるのは、前世でこのゲームをプレイしたからだ。
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