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甘い毒

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『…あ…あ、あぁ…っ…!』

 ビクビクと、彼の身体が私の腕の中で震える。
 私の胸に後頭部を押し付け、彼は宙をぼんやりと見ていた。
 熱い吐息を溢しながら、肩を揺らし呼吸を落ち着けようとする彼の柔らかな黒い髪に、私は軽く唇を落とした。
 左手は彼の男根に伸び、右手は更にその奥の蕾の中だ。
 やや彼の息が落ち着いて来た処で、中にある指を再び動かし始めた。

『あぁ…っ…!? や、ま…っ…!?』

 まだ、身体はさざなみの様に震えていたから、得た快感が引かないのは、解っていた。解っていたが、それでも、私は彼を追い詰めて行く。

『…はあっ…!?』

 一度指を抜いて、用意していた香油を纏い、一息に貫けば、開かれたままの彼の両足が跳ねた。
 そろりと、再び首を擡げて来た男根に指を這わせれば、ぬめりのある汁がとろとろと溢れて来ている。
 ゆっくりと指を抜いて、彼から身体を離し、そっとその背中を布団へと横たわらせる。
 これで終わりなのかと、濡れた瞳で問い掛ける彼に、私は軽く唇を笑みの形にした。
 これで終わりにする筈が無い。
 再び溜まって来た熱を開放して差し上げねば。

『あ、嘘…っ…!?』

 私は立ち上がり、彼の脚の間へと移動をし、身を屈め、彼の男根を口に含み、右手の指はまた、彼の蕾の中へと忍ばせた。
 彼の男根を手で慰めた事はあったが、口に含むのは初めてだ。お館様の物とは違い、とても慎ましい物ではあるが、これを誰かに使った事があるのは、見て解った。だが、これが誰かの中に挿入はいる事は、もう二度と無いだろう。もう、このお方はお館様の…ホウ様のモノなのだから…。

『…あ、あ、も、嫌だ…っ…』

 私の口の中で震え、涙を流すそれを舌を使い、慰める。
 蕾の中に忍ばせた指も、三本。それをバラバラに動かして、熱を昂ぶらせて行く。
 だが、それは私も同じ事…。
 
 …身体が熱い…。
 …もう…限界だ…。
 …この…杭を彼の中に沈める事が出来たら、どれだけ楽になれる事だろうか?
 だが、それは許されない事。
 ただの餌に過ぎない私には、烏滸がましい事。
 仲間に頼んで、戒めて貰った私の男根が開放を今か今かと待ち望み、震えて苦しい。しかし、戒めを解く訳には行かない。
 …蜘蛛とは、恐ろしい物だ。
 気が付けば、その無数に張り巡らされた細いが強い糸に絡め取られてしまっている。
 私達、蝶とは違い、彼は特に容姿に秀でた特徴がある訳では無かった。
 その髪が黒いと云う意外は、特に記憶に留まる程の容姿では、無い。
 だが、彼は蜘蛛だ。
 お館様の心を動かした。
 お館様の言霊に逆らう事が出来ない彼は、正しく蜘蛛なのだ。
 蜂であるお館様が、種を、卵を、植え付ける事が出来る、唯一の存在。
 それが、我々蝶を喰らう、蜘蛛だ。
 蜘蛛は白く光る糸を張り巡らせ、その紋様に魅入られた蝶を捕まえ、喰らう。
 我々は、蜘蛛の為に集められた贄なのだから…――――――――。

『…あっ、…あ、あ…で、出る…また…あ…』

 こちらで快楽を悦楽を得る事を覚えさせる様にと、この行為に慣れさせろとの言葉を貰い、こうしてこのお方に触れている。
 戸惑い、逃げようとしていたのが夢だったかの様に、今の彼は、快楽を得る事に必死だ。
 もっと奥まで満たせてやりたいが、それは禁じられている。張形を使えば、もっと拡げる事が出来るのに。本来であれば、この私の指が挿入される事すら業腹であろう。しかし、お館様がこの様なまどろっこしい作業を延々と続けられる筈が無い。お館様の熱を下げる事に呼ばれる事がある我々は、何時も自分で事前に準備をしているのだから。
 日毎、夜毎に姿を変えて行く彼を目の当たりにして、お館様が冷静で居られる物か。その鋭い針で殺してしまうやも知れぬ。お館様も、それが解っているから、こうして命じられたのだろうが…。

 空が白んじて来た頃、眠りに落ちた彼の、涙で濡れる頬を拭い、浴衣を纏わせて、私は離れにある自室へと向かった。
 そこへ戻る途中で、厠から戻って来たのであろう、紫の色を持つ蝶と擦れ違おうとした処、腕を掴まれ、彼の部屋へと引き摺り込まれた。

「あ"…」

 顔を指差され、心配そうに覗き込んで来る紫に、私は苦笑する。
 …ああ、私はそれ程に酷い顔色をしているのかと。

「…あ"う"…」

 私は腰の帯を解き、着物を開けて見せる。
 を、そこを見た紫の目は驚きに見開かれ、直ぐに部屋の隅へと走り、そこに置いてある道具箱の中から鋏を取り出して来た。
 
『あ"あ"っ"!!』

 紫が怒りを露わにしながら、私の前に膝を付き、そこに鋏をあてる。
 私は、今日…いや、もう昨夜か…の務めの前に自身の男根を紐で縛っていたのだ。簡単に解けない様に、解く事の無い様にと、きつく、固く、結んだのだ。褌の上から。間違って、彼を穢してしまわぬ様に、と。
 紐も褌までも鋏で切られ、開放されたそこは、見るに耐えない色をしていた。だが、これで良いのだ。贄の分際で、彼に…蜘蛛に惹かれてしまった私の罪なのだから。
 紫が痛ましそうに眉を、目を、口元を歪めて私を見上げて来るが、私はただ静かに首を振った。
 そんな私に、紫は一つ息を吐くと、私の男根に唇を寄せ、舌を這わせた。

「あ"…っ"!?」

 慰めようと云うのか、こんな私を。
 だが、それは要らない。
 そんな物よりも。

 私は紫の頭を両手で掴んで、引き剥がすと私も畳の上に膝をついて、そして、紫の腰の帯を解き、着物を開けさせ、右手をその中へと忍び込ませた。

「あ"あ"…」

 それよりも、こちらが欲しいと、男根を掴む指を動かしながら、紫の目を見詰める。
 どうか、罰を。
 私を裁いておくれと。
 この杭で私を貫いてと。
 かの方への務めがある私は、お館様に呼ばれる事は無い。だから、ここ暫く、後ろの穴は弄ってはいない。さぞ、固くきつくなっている事だろう。紫にも辛い思いをさせる事になるが。
 それでも。
 それでも、どうか。
 私に、裁きを。
 ほろほろと、はらはらと目から雫が溢れ零れて行く。その雫は、紫の舌に絡め取られ、飲み込まれて行った。

「あ"、う"、あ"…っ"…!」

 熱い息を吐きながら、腹の中を抉られながら、私は思う。
 やがて、彼は卵を植え付けられ、孕む事になるだろう。そうなれば、子の為に彼は栄養を滋養を求める事になる。
 その時に、真っ先に贄に選ばれるのは、私の筈だ。お館様様より、先に、指だけとは云え、彼の中に入った私を許す筈も無い。それを指示したのはお館様だが、彼はそう云うお方なのだ。
 蜘蛛は獲物を喰らう時に、催淫効果のある毒を獲物に流すと云う。
 …それは、きっと甘く…とても甘美な物なのだろう…――――――。
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