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裏
檻の中の幸福※
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ここは、監獄だ。
この監獄から、彼は飛び立てたのだろうか。風に乗って、遠くへと。
私は本殿から運ばれて来て、目の前に横たえられたそれを見て、ただ、そう思った。
夏も終わり、秋が深まって来たかと云う頃だった。
陽がある内は、気まぐれに温かな風が吹くが、陽が傾いて落ちれば、何処からか冷たい風が吹いて来る。
「…あ"、あ"…」
その風に乗る様に流れて来た仲間の声に、私は一つ頷き、そこにあるモノ…彼を…弔う準備を始める事にした。
…彼が、蛾にならぬ様に…。
それが、嘘か真かは解らない。
我々、蝶が死ねば、蛾として生まれ変わるのだと云う。姿形は変わらねど、その体内に毒を持つ蛾になると。過去に、息絶えた蝶を喰らって、命を落とした蜘蛛が居たらしい。
それからは、蜘蛛には生きた蝶を与え、命を失くした蝶は、蛾にならぬ様にと祈りを込めて丁重に送る様になった…と、言われている。
が、物の様に運ばれて来た灰色の扱いは…丁重と言えるのだろうか…?
私達は"蝶"と呼ばれ、山の奥深くにある大きな屋敷の離れで飼われている。
ここに集められた者達は、皆、見目麗しい姿をしていると思う。自画自賛になるが。男も女も。
だが、この姿は蜘蛛の為。
蜘蛛を呼び寄せる為の者だ。
知らぬ者は、ここに居る者を嘸かし羨ましいと思う事だろう。きつい労働等なく、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせ、空腹等感じる事も無い、この場所を。
…しかし、ここは地獄だ…――――――――。
◇
「…はっ…! ほら、もっと媚びて見せろ…!」
今日のお館様は、何時もより昂ぶっておられる様だ。
「ん"、ん"…っ"…!」
口には猿轡を噛まされ、自由になる手で、私は敷布を掴み、もっと施しをと腰を振る。高く掲げた尻の穴に、お館様の男根を咥えて。
「はっ! 相変わらず、きったねぇ声だなあ?」
…それは、貴方様に喉を潰されたからですよ…。
…汚い…男の声は聞きたくないと…。
とは、死んでも言えない。いや、死ななくても言えないが。
既に一度私の中に出しておられるのに…。
「今頃は…向こうも…っ…!」
「ん"ん"ーっ"!?」
繋がったまま、敷布を掴んでいた両手を取られ後ろに引かれ、身体を起こされた。
それにより、中にあった物の位置が変わり、深く、より深く私の中を抉る。
その刺激に耐えられず、剃り返った男根から濁った白い液体が飛び出して、私の腹を胸を汚して行った。
「どんな声で啼くんだろうなあ? ああ?」
…ああ…今宵からでしたね…。
貴方様の花嫁様を…蜘蛛を…慣らすのは…灰色でしたか…。
視界の隅に映る、自分の髪…一房だけ色の付いた髪色を見て、そう思った。
この真白の髪も、色の付いた髪も、潰された喉も…総て、お館様…ホウ様がなされた事だ。
ホウ様が持つ能力…異能で…。
それは、"蜂"と呼ばれる者が持つ、特別な異能…。
その異能故、誰からも恐れられ、誰からも崇められるホウ様…。
「ん"、ん"…っ"…」
下から突き上げられながら、背を仰け反らせ胸を突き出し、身体を震わせながら、私は思う。
あの黒い髪の青年を。
"お可哀想に"と…。
どれ程昔の事かは解らない。
黒い髪の蜘蛛を巡って、国を滅ぼす程の争いがあったそうだ。
それから、この国でも、周りの国でも、黒は禁忌の色となった。
今は、当時程では無いが、それでも忌避されている。
黒髪だった故に、奴隷市場に現れたと云う彼は売られずに済んだのだとか。
果たしてそれは幸運だったのか、不運だったのか。
言葉が解らず、野垂れ死んだかも知れない未来を思えば、幸運だと言えるのかも知れないが。
だが、それは…。
「っそ…! 出来るなら俺がやりてぇが…我慢出来る気がしねぇ…っ…!!」
…でしょうね…。
湯殿で見た彼の蕾は慎ましく、一度も誰かの為に使った事は無さそうでしたからね…。
そこに、いきなり貴方様のこれは、お辛いでしょうね…。
「ん"っ"、ん"――――――――っ"…」
…それは…――――――――。
…この蜂に捕まり、この檻に閉じ込められた…ただ、それだけの事だ…――――――――。
◇
暮れ行く空に白い白い煙が昇って行く。
灰色は、皆で土を掘り、その下へと埋めた。
役目を無事に果たし、涙を流し震える彼を慰めたのは、何時の事だったか…。
音も無く昇って行く白い煙を、私はただ見上げる。
土の重さに耐え兼ねた魂が、肉体から抜け出し、空へ還るのだと云う。
空へ昇って行くのは。
空へと昇って溶けて逝くのは、焚いた香の煙だけなのか、それとも…――――――――。
この監獄から、彼は飛び立てたのだろうか。風に乗って、遠くへと。
私は本殿から運ばれて来て、目の前に横たえられたそれを見て、ただ、そう思った。
夏も終わり、秋が深まって来たかと云う頃だった。
陽がある内は、気まぐれに温かな風が吹くが、陽が傾いて落ちれば、何処からか冷たい風が吹いて来る。
「…あ"、あ"…」
その風に乗る様に流れて来た仲間の声に、私は一つ頷き、そこにあるモノ…彼を…弔う準備を始める事にした。
…彼が、蛾にならぬ様に…。
それが、嘘か真かは解らない。
我々、蝶が死ねば、蛾として生まれ変わるのだと云う。姿形は変わらねど、その体内に毒を持つ蛾になると。過去に、息絶えた蝶を喰らって、命を落とした蜘蛛が居たらしい。
それからは、蜘蛛には生きた蝶を与え、命を失くした蝶は、蛾にならぬ様にと祈りを込めて丁重に送る様になった…と、言われている。
が、物の様に運ばれて来た灰色の扱いは…丁重と言えるのだろうか…?
私達は"蝶"と呼ばれ、山の奥深くにある大きな屋敷の離れで飼われている。
ここに集められた者達は、皆、見目麗しい姿をしていると思う。自画自賛になるが。男も女も。
だが、この姿は蜘蛛の為。
蜘蛛を呼び寄せる為の者だ。
知らぬ者は、ここに居る者を嘸かし羨ましいと思う事だろう。きつい労働等なく、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせ、空腹等感じる事も無い、この場所を。
…しかし、ここは地獄だ…――――――――。
◇
「…はっ…! ほら、もっと媚びて見せろ…!」
今日のお館様は、何時もより昂ぶっておられる様だ。
「ん"、ん"…っ"…!」
口には猿轡を噛まされ、自由になる手で、私は敷布を掴み、もっと施しをと腰を振る。高く掲げた尻の穴に、お館様の男根を咥えて。
「はっ! 相変わらず、きったねぇ声だなあ?」
…それは、貴方様に喉を潰されたからですよ…。
…汚い…男の声は聞きたくないと…。
とは、死んでも言えない。いや、死ななくても言えないが。
既に一度私の中に出しておられるのに…。
「今頃は…向こうも…っ…!」
「ん"ん"ーっ"!?」
繋がったまま、敷布を掴んでいた両手を取られ後ろに引かれ、身体を起こされた。
それにより、中にあった物の位置が変わり、深く、より深く私の中を抉る。
その刺激に耐えられず、剃り返った男根から濁った白い液体が飛び出して、私の腹を胸を汚して行った。
「どんな声で啼くんだろうなあ? ああ?」
…ああ…今宵からでしたね…。
貴方様の花嫁様を…蜘蛛を…慣らすのは…灰色でしたか…。
視界の隅に映る、自分の髪…一房だけ色の付いた髪色を見て、そう思った。
この真白の髪も、色の付いた髪も、潰された喉も…総て、お館様…ホウ様がなされた事だ。
ホウ様が持つ能力…異能で…。
それは、"蜂"と呼ばれる者が持つ、特別な異能…。
その異能故、誰からも恐れられ、誰からも崇められるホウ様…。
「ん"、ん"…っ"…」
下から突き上げられながら、背を仰け反らせ胸を突き出し、身体を震わせながら、私は思う。
あの黒い髪の青年を。
"お可哀想に"と…。
どれ程昔の事かは解らない。
黒い髪の蜘蛛を巡って、国を滅ぼす程の争いがあったそうだ。
それから、この国でも、周りの国でも、黒は禁忌の色となった。
今は、当時程では無いが、それでも忌避されている。
黒髪だった故に、奴隷市場に現れたと云う彼は売られずに済んだのだとか。
果たしてそれは幸運だったのか、不運だったのか。
言葉が解らず、野垂れ死んだかも知れない未来を思えば、幸運だと言えるのかも知れないが。
だが、それは…。
「っそ…! 出来るなら俺がやりてぇが…我慢出来る気がしねぇ…っ…!!」
…でしょうね…。
湯殿で見た彼の蕾は慎ましく、一度も誰かの為に使った事は無さそうでしたからね…。
そこに、いきなり貴方様のこれは、お辛いでしょうね…。
「ん"っ"、ん"――――――――っ"…」
…それは…――――――――。
…この蜂に捕まり、この檻に閉じ込められた…ただ、それだけの事だ…――――――――。
◇
暮れ行く空に白い白い煙が昇って行く。
灰色は、皆で土を掘り、その下へと埋めた。
役目を無事に果たし、涙を流し震える彼を慰めたのは、何時の事だったか…。
音も無く昇って行く白い煙を、私はただ見上げる。
土の重さに耐え兼ねた魂が、肉体から抜け出し、空へ還るのだと云う。
空へ昇って行くのは。
空へと昇って溶けて逝くのは、焚いた香の煙だけなのか、それとも…――――――――。
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