上 下
9 / 38

檻の中の幸福※

しおりを挟む
 ここは、監獄だ。
 この監獄から、彼は飛び立てたのだろうか。風に乗って、遠くへと。
 私は本殿から運ばれて来て、目の前に横たえられたそれを見て、ただ、そう思った。
 夏も終わり、秋が深まって来たかと云う頃だった。
 陽がある内は、気まぐれに温かな風が吹くが、陽が傾いて落ちれば、何処からか冷たい風が吹いて来る。

「…あ"、あ"…」

 その風に乗る様に流れて来た仲間の声に、私は一つ頷き、そこにあるモノ…彼を…弔う準備を始める事にした。

 …彼が、蛾にならぬ様に…。

 それが、嘘か真かは解らない。
 我々、蝶が死ねば、蛾として生まれ変わるのだと云う。姿形は変わらねど、その体内に毒を持つ蛾になると。過去に、息絶えた蝶を喰らって、命を落とした蜘蛛が居たらしい。
 それからは、蜘蛛には生きた蝶を与え、命を失くした蝶は、蛾にならぬ様にと祈りを込めて丁重に送る様になった…と、言われている。
 が、物の様に運ばれて来た灰色の扱いは…丁重と言えるのだろうか…?

 私達は"蝶"と呼ばれ、山の奥深くにある大きな屋敷の離れで
 ここに集められた者達は、皆、見目麗しい姿をしていると思う。自画自賛になるが。男も女も。
 だが、この姿は蜘蛛の為。
 蜘蛛を呼び寄せる為の者だ。
 知らぬ者は、ここに居る者をさぞかし羨ましいと思う事だろう。きつい労働等なく、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせ、空腹等感じる事も無い、この場所を。
 …しかし、ここは地獄だ…――――――――。

 ◇

「…はっ…! ほら、もっと媚びて見せろ…!」

 今日のお館様は、何時もより昂ぶっておられる様だ。

「ん"、ん"…っ"…!」

 口には猿轡を噛まされ、自由になる手で、私は敷布を掴み、もっと施しをと腰を振る。高く掲げた尻の穴に、お館様の男根を咥えて。

「はっ! 相変わらず、きったねぇ声だなあ?」

 …それは、貴方様に喉を潰されたからですよ…。
 …汚い…男の声は聞きたくないと…。

 とは、死んでも言えない。いや、死ななくても言えないが。
 既に一度私の中に出しておられるのに…。
 
「今頃は…向こうも…っ…!」

「ん"ん"ーっ"!?」

 繋がったまま、敷布を掴んでいた両手を取られ後ろに引かれ、身体を起こされた。
 それにより、中にあった物の位置が変わり、深く、より深く私の中を抉る。
 その刺激に耐えられず、剃り返った男根から濁った白い液体が飛び出して、私の腹を胸を汚して行った。

「どんな声で啼くんだろうなあ? ああ?」

 …ああ…今宵からでしたね…。
 貴方様の花嫁様を…蜘蛛を…慣らすのは…灰色でしたか…。

 視界の隅に映る、自分の髪…一房だけ色の付いた髪色を見て、そう思った。
 この真白ましろの髪も、色の付いた髪も、潰された喉も…総て、お館様…ホウ様がなされた事だ。
 ホウ様が持つ能力ちから…異能で…。
 それは、"蜂"と呼ばれる者が持つ、特別な異能ちから…。
 その異能故、誰からも恐れられ、誰からも崇められるホウ様…。

「ん"、ん"…っ"…」

 下から突き上げられながら、背を仰け反らせ胸を突き出し、身体を震わせながら、私は思う。
 あの黒い髪の青年を。

 "お可哀想に"と…。

 どれ程昔の事かは解らない。
 黒い髪の蜘蛛を巡って、国を滅ぼす程の争いがあったそうだ。
 それから、この国でも、周りの国でも、黒は禁忌の色となった。
 今は、当時程では無いが、それでも忌避されている。
 黒髪だった故に、奴隷市場に現れたと云う彼は売られずに済んだのだとか。
 果たしてそれは幸運だったのか、不運だったのか。
 言葉が解らず、野垂れ死んだかも知れない未来さきを思えば、幸運だと言えるのかも知れないが。
 だが、それは…。

「っそ…! 出来るなら俺がやりてぇが…我慢出来る気がしねぇ…っ…!!」

 …でしょうね…。
 湯殿で見た彼の蕾は慎ましく、一度も誰かの為に使った事は無さそうでしたからね…。
 そこに、いきなり貴方様のは、お辛いでしょうね…。

「ん"っ"、ん"――――――――っ"…」

 …それは…――――――――。
 …この蜂に捕まり、この檻に閉じ込められた…ただ、それだけの事だ…――――――――。

 ◇

 暮れ行く空に白い白い煙が昇って行く。
 灰色は、皆で土を掘り、その下へと埋めた。
 役目を無事に果たし、涙を流し震える彼を慰めたのは、何時の事だったか…。
 音も無く昇って行く白い煙を、私はただ見上げる。
 土の重さに耐え兼ねた魂が、肉体から抜け出し、空へ還るのだと云う。
 空へ昇って行くのは。
 空へと昇って溶けて逝くのは、焚いた香の煙だけなのか、それとも…――――――――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

溺愛

papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。 ※やってないです。 ※オメガバースではないです。 【リクエストがあれば執筆します。】

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

潔癖症な村人A

べす
BL
昔々、自他共に認める潔癖性の青年が居ました。 その青年はその事が原因で自分が人間で無い事を知り、寿命や時間の流れの感じ方から他の人間との別れを恐れて交流を絶ってしまいます。 そんな時、魔導師の少年と出会い、寂しさを埋めていきますが…

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

処理中です...