1/65536のフラグ

三冬月マヨ

文字の大きさ
上 下
9 / 13
おまけ

俺、年越しする・中編

しおりを挟む
 ノアに姫抱っこされて、神殿の中に戻れば、爺様達にえらい心配された。
 ギックリだの、牌より重い物を持つからだの、足の骨を折ったのだの…うん、ちょっと俺を何だと思っているのか問い質したい。いや、やっぱ問い質したくない。爺様達じゃ雪掻きは辛いだろうと、仏心を出したのが間違いだった。
 けど、ノアが風邪を引いて発熱したと話せば、爺様達の手により、俺の部屋は直ぐ様に暖められ、俺はぬっくぬっくのベッドへと突っ込まれた。

 …まあ、心配してくれてるのは嬉しい。

「あー、おひさまのにほいがする」

 って、風邪なんて引いてないし、熱も出ていないんだが。
 まあ、疲れたし、一休みするかな。

「早く良くなって下され。まあじゃんをしながら、新しい年を迎えるのが、儂らの楽しみなのですじゃ」

 あったかい胃に優しいスープを手に、ロマノフ爺さんがやって来れば、ベッドの脇に椅子を持って来て座ってたノアのこめかみがピクリと動いた。
 …やっぱ、麻雀嫌いなんだ。
 俺が麻雀好きだから、同じく好きになりたいって言ってたしな。
 俺の好きな物に興味を持ってくれるのは嬉しいし、更にそれを好きになってくれたら、もっと嬉しい。
 けど、嫌々とそれに付き合って貰っても嬉しくない。
 …だからの、狙い撃ちなのか?

「まあじゃんは毎日毎日飽きもせずにやっているでしょう? 新しい年を迎える日ぐらい、粛々と過ごしても罰はあたりませんよ」

 ロマノフ爺さんから、スープの入った皿が乗ったトレイを受け取りながら、ノアが淡々とツンドラな息を吐く。

「ほっ…、そ、そうですな…邪竜の脅威から解放されて、初めての年明けですからの…ふむ…」

 顎に手をあてて真面目な事を呟きながら、ロマノフ爺さんは部屋を出て行った。
 いや、ツンドラな空気な中、ノアと二人きりにするなよ。爺さんのくせに、逃げ足が早い。いや、爺さんだからか? 麻雀だって、逃げるとなったら、きっちりと逃げ切るからな。何度、追っ掛けリーチして逃げられた事か。

「はい、どうぞ」

「んあ?」

 そんな事を考えていたら、何時の間にか目の前に木製の匙があった。

「口を開けて下さい」

 こ、これは…っ…!?
 バカップル定番の『あ~ん』ではっ!?

「やめろ! 似合わない事をするな!」

 まさかの『あ~ん』に、俺は慌てて起き上がった。
 ツンドラのくせに、何を考えているんだ。
 こんな、確定演出は要らない。
 てか、真顔で『あ~ん』なんてするなよ、怖いだろうが。

「…身体を動かすのが辛いかと思ったのですが…」

 だから!
 そこでしょぼくれるなよ!

「別に風邪なんて引いていないし、熱もないし、身体が辛くなるのは、筋肉痛になる明日だ!」

 悲しいけど、これ現実。
 学生の頃は、その日の内に筋肉痛になったけど、今は翌日へ持ち越しだ。持ち越すのは、天井ゲーム数だけで良い。

「そうなのですか? あんなに険しい表情をされていたので、てっきり…そうですか…何ともないのですか…」

 いや、そんなガッツリ肩を落とすなよ。

「…寝込んで下されば、このまま新年を二人で迎えて、新しい朝陽に照らされながら新たな愛の誓いを」

「おおおいいぃいぁあぃっ!?」

 何か、さらりとこいつとんでもない事を言わなかったか!?
 このまま閉じ籠もって、姫始めを…って、俺には聞こえたんですけどっ!?

「あ、あのな!? 俺の世界には大晦日…その年の終わりの日に、鐘を突くイベントがあるんだよっ!!」

 冗談じゃない!
 俺の尻が壊れる!
 壊れるのは、特化ゾーンだけで良いんだよ!
 
「オオミソカ? 鐘…チャペルですか?」

 どんな変換してくれてらっしゃるんですかね!?
 それは、結婚式だろがっ!!

「…除夜の鐘って言ってな、ゴォン、ゴォンって、五臓六腑に響く音だ。………それを108回鳴らすと、悪い気が飛んで行くんだよ」

 本当は、煩悩だけど。
 俺から、煩悩を取ったら何が残る?
 スロも麻雀も、俺の趣味で生き甲斐なんだ。

「ヨーチ樣の世界にも、その様な神聖な儀式があるのですね…。私達は、この一年を無事に過ごせた事への感謝と、また新たな一年を無事に過ごせる様にと神へ祈りを捧げながら、その年を終え、新たな一年を迎えます」

 待て。
『も』って、何だ。
『も』って。
 俺の世界を…俺を何だと思っているんだ。
 俺だって、年がら年中スロや麻雀やってた訳じゃないぞ。たまには仕事もしてたぞ。金がなきゃスロも麻雀も出来ないからな。
 てか、ムカつく。
 こいつ、俺の事が好きなんだよな?
 いや、俺もこいつの事を好きになってしまったけど。これが、好きな奴に対する物言いか?

「そうです。では、チャペルを鳴らしながら、新たな年の幕開けを祝いましょう」

 いや?
 待て?
 何で俺の両手を取る?
 そして、何故に指を絡める?
 激熱って文字が浮かんでいそうな、保留玉の様な目で俺を見るな。
 何の演出だよ、これ?
 チャペルに拘るなよ。
 絡めた指をにぎにぎするな。
 やめろ。
 大晦日を新婚初夜にする気か?
 いや、それ以前に、今、まさに俺を押し倒そうとしているな? スープ皿はどうした? あ、何時の間にかベッド脇のチェストに移動させてやがる。
 今、お前の頭の中では、チャペルが鳴り響いているのか? 俺の頭の中では『ドアが開いています』の警告音が鳴り響いているけどな!
 身体が辛いだろうって、口にしたのは誰だよ?
 お前だろうが!
 明日、筋肉痛になるって、俺言ったよな? それに上乗せするな!
 この、生臭エロ神官がっ!!

「じょっ、除夜の鐘を鳴らそう!!」

 こいつの煩悩を取っ払ってやるっ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...