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おまけ
俺、年越しする・前編
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懐かしい夢を見た。
夢の中で、俺は36時間耐久の動画配信を観ていた。
何の?
パチスロに決まっている。常識だろうが。
俺が居た地域ではやっていないが、とある県では大晦日は何処のホールもオールナイトだ。真面目な参拝者の為に、トイレや暖を開放するついでに、店もちゃっかり営業している。
「…まだ、自粛とかしてんのかな~…」
何だかんだで早い物で、俺がこの世界に来て、初めての年越しだ。
そのせいで、そんな夢を見てしまったんだと思う。
まさかの、ホームシック? いやいや、ないない。たまたまだ、たまたま。
だってさ、ほら。毎年、大晦日にはコタツでみかんを食べたりしながら、ノートパソコンで耐久配信観てたんだよ。恒例行事なんだよ。身に沁みついているんだよ。
で、年末年始なんてベタピンなんだから、行くもんじゃないって毎年決めてるのに、毎年泣いて帰って来るんだよな。
「不思議だな~」
「何が不思議なんですか?」
「うおっ!?」
思わず口に出た呟きを拾う奴がいた。
誰って、こんなに冬が似合う奴はいないだろう? の、ノア大神官様だ。
「雪掻きをしないのでしたら、中に入って下さい」
ほら、このツンドラ。
真冬なのに、温度の無い冷たい声に冷たい目よ。
このクソ寒い中、スコップ片手にえっちらおっちらやってんのに、他に言う事はないのかよ? まあ、ちょっと汗掻いて、今は暑いけど。
じとっとツンドラな目を見たら、その目がふらふらと泳ぎ出した。
「…汗が引いたら、風邪を引いてしまいます…」
いや、そこでしゅんと項垂れるなよ。
何なんだよ、お前のそれはよ。そうされると弱いんだよ。真っ白なツンドラ狼がいきなり、真っ白なふわふわポメラニアンになるなよ。
「…はいはい。心配どーも。お前も雪掻きしないんなら、中に入れば? 医者の不養生ならぬ神官の不養生も良くないだろ」
ペシペシとズボンの裾についた雪を払いながら言えば、ノアはツンドラな中に春の木漏れ日を浮かべて笑った。
うっ、眩しい。
いや、眩しいのは雪だ。落ち着け。
昨日までの大雪が嘘の様に、今日は真っ青な空が広がっている。何日かぶりのおひさまが眩し過ぎて、雪に反射しているだけだ。ほら、あれと同じ感覚だよ。ホールのスロの島は照明が絞られているだろ? そこから、パチの島に移動したら、やたら明るくて目が眩むだろ? それだよ、それ。
「あ~…一仕事したし、麻雀やるか!」
「…また、まあじゃんですか…」
スコップについた雪をげしげしと爪先で落として言えば、目の前から冷気が飛んで来た。
おい。先刻のひだまりはどうした?
何だよ、この温度差は。
…まあ、こいつ何時も無表情で麻雀打ってるし、好きじゃあないんだろうけど。
いいじゃんかよ、麻雀。
スロがないなら、麻雀打つしかねえだろ、常識だろうが。
「あと少しで新しい年が始まるんですよ…恋人になって、初めての年越しなんです…二人で…」
「へ…」
俺より背が高いくせに、ちょっと俯いてからの上目遣いはやめろ。
てか、この世界にも年越しって概念あるのか。いや、俺に解りやすい様に翻訳されてるのか? 異世界転移言語チート便利だな。
「…って…」
俺と二人で、年越しをしたい?
それって、つまり、所謂、クリスマスには全国各地のファッションホテルが揺れるって言う奴の年越しバージョン…………あ。
「クリスマスやってねーじゃんっ!!」
「くりすます?」
あ。流石にクリスマスは無いのか。
まあ、クリスマスと言っても、一人淋しくホールに居たけどな。勝ったら白い髭のおじさんの店でチキンとか買って、負けたらスーパーの値引きのから揚げ弁当だったけど。
「俺の世界の話。まあ、お祭りみたいなものだよ。ほら、風邪引かせたくないんだろ? 中に入ろうぜ」
「…もっと」
「あ?」
「もっと、聞かせて下さい。ヨーチ樣の世界の話を」
おうっ!!
何、目元を赤らめて言ってるんだ、このツンドラッ!!
「お…お…」
まだ、慣れない。
なんだかんだで告白してされて、正真正銘の恋人同士になったし、ノアの万点棒の出し入れにも、まあ、慣れ…うん、まあ、怖じ気づくけど、それなりに慣れたが、恋人同士の甘いムードとやらには、まだ慣れない。こんな不意打ちされると、特に。
彼女が居た事もあったけど、こんなムードになった事は無かったし。
なんかもー、胸がムズムズして、暴れて叫んで走りたくなる。
甘くなるのは、麻雀打ってる時だけで良い。
てか、そうしてくれ。
だって、こいつ本当に目茶苦茶なんだ。気が付けば、いつも負けてる。どんなクソ配牌でも、気が付けば最低でも跳満になるって、おかしいだろ? しかも、本人は無表情で淡々と打つから、たちが悪い。いや、三味線じゃないから、良いっちゃあ良いんだけど。役満和了った時ぐらいはガッツポーズをしてくれ。けどなー、役満和了る時って俺からってのが多い。気のせいかも知れないけど、狙い撃ちされてる気がする。
真剣勝負なんだから、八百長するなって?
東一局、一巡目で何度も飛ばされてみろ。
八百長だろうが何だろうが、プライドかなぐり捨てて、そうお願いしたくなるってもんだ。
…こいつ、本っ当に俺の事を好きなんだよな?
ただ、ヤりたいだけじゃあないよな?
「ヨーチ樣っ!」
「おあっ!?」
じっとりと、ハイエナの如く粘っこい視線でノアを見てたら、いきなりお姫様抱っこされた。
いや、だからっ!
何処の世界に姫抱っこする神官が居るよ!?
いや、今、まさにここに居るけどさっ!
「その様な険しいお表情をされて! 風邪を引かれて発熱をしたに違いありません!」
なんで、そーなるっ!?
夢の中で、俺は36時間耐久の動画配信を観ていた。
何の?
パチスロに決まっている。常識だろうが。
俺が居た地域ではやっていないが、とある県では大晦日は何処のホールもオールナイトだ。真面目な参拝者の為に、トイレや暖を開放するついでに、店もちゃっかり営業している。
「…まだ、自粛とかしてんのかな~…」
何だかんだで早い物で、俺がこの世界に来て、初めての年越しだ。
そのせいで、そんな夢を見てしまったんだと思う。
まさかの、ホームシック? いやいや、ないない。たまたまだ、たまたま。
だってさ、ほら。毎年、大晦日にはコタツでみかんを食べたりしながら、ノートパソコンで耐久配信観てたんだよ。恒例行事なんだよ。身に沁みついているんだよ。
で、年末年始なんてベタピンなんだから、行くもんじゃないって毎年決めてるのに、毎年泣いて帰って来るんだよな。
「不思議だな~」
「何が不思議なんですか?」
「うおっ!?」
思わず口に出た呟きを拾う奴がいた。
誰って、こんなに冬が似合う奴はいないだろう? の、ノア大神官様だ。
「雪掻きをしないのでしたら、中に入って下さい」
ほら、このツンドラ。
真冬なのに、温度の無い冷たい声に冷たい目よ。
このクソ寒い中、スコップ片手にえっちらおっちらやってんのに、他に言う事はないのかよ? まあ、ちょっと汗掻いて、今は暑いけど。
じとっとツンドラな目を見たら、その目がふらふらと泳ぎ出した。
「…汗が引いたら、風邪を引いてしまいます…」
いや、そこでしゅんと項垂れるなよ。
何なんだよ、お前のそれはよ。そうされると弱いんだよ。真っ白なツンドラ狼がいきなり、真っ白なふわふわポメラニアンになるなよ。
「…はいはい。心配どーも。お前も雪掻きしないんなら、中に入れば? 医者の不養生ならぬ神官の不養生も良くないだろ」
ペシペシとズボンの裾についた雪を払いながら言えば、ノアはツンドラな中に春の木漏れ日を浮かべて笑った。
うっ、眩しい。
いや、眩しいのは雪だ。落ち着け。
昨日までの大雪が嘘の様に、今日は真っ青な空が広がっている。何日かぶりのおひさまが眩し過ぎて、雪に反射しているだけだ。ほら、あれと同じ感覚だよ。ホールのスロの島は照明が絞られているだろ? そこから、パチの島に移動したら、やたら明るくて目が眩むだろ? それだよ、それ。
「あ~…一仕事したし、麻雀やるか!」
「…また、まあじゃんですか…」
スコップについた雪をげしげしと爪先で落として言えば、目の前から冷気が飛んで来た。
おい。先刻のひだまりはどうした?
何だよ、この温度差は。
…まあ、こいつ何時も無表情で麻雀打ってるし、好きじゃあないんだろうけど。
いいじゃんかよ、麻雀。
スロがないなら、麻雀打つしかねえだろ、常識だろうが。
「あと少しで新しい年が始まるんですよ…恋人になって、初めての年越しなんです…二人で…」
「へ…」
俺より背が高いくせに、ちょっと俯いてからの上目遣いはやめろ。
てか、この世界にも年越しって概念あるのか。いや、俺に解りやすい様に翻訳されてるのか? 異世界転移言語チート便利だな。
「…って…」
俺と二人で、年越しをしたい?
それって、つまり、所謂、クリスマスには全国各地のファッションホテルが揺れるって言う奴の年越しバージョン…………あ。
「クリスマスやってねーじゃんっ!!」
「くりすます?」
あ。流石にクリスマスは無いのか。
まあ、クリスマスと言っても、一人淋しくホールに居たけどな。勝ったら白い髭のおじさんの店でチキンとか買って、負けたらスーパーの値引きのから揚げ弁当だったけど。
「俺の世界の話。まあ、お祭りみたいなものだよ。ほら、風邪引かせたくないんだろ? 中に入ろうぜ」
「…もっと」
「あ?」
「もっと、聞かせて下さい。ヨーチ樣の世界の話を」
おうっ!!
何、目元を赤らめて言ってるんだ、このツンドラッ!!
「お…お…」
まだ、慣れない。
なんだかんだで告白してされて、正真正銘の恋人同士になったし、ノアの万点棒の出し入れにも、まあ、慣れ…うん、まあ、怖じ気づくけど、それなりに慣れたが、恋人同士の甘いムードとやらには、まだ慣れない。こんな不意打ちされると、特に。
彼女が居た事もあったけど、こんなムードになった事は無かったし。
なんかもー、胸がムズムズして、暴れて叫んで走りたくなる。
甘くなるのは、麻雀打ってる時だけで良い。
てか、そうしてくれ。
だって、こいつ本当に目茶苦茶なんだ。気が付けば、いつも負けてる。どんなクソ配牌でも、気が付けば最低でも跳満になるって、おかしいだろ? しかも、本人は無表情で淡々と打つから、たちが悪い。いや、三味線じゃないから、良いっちゃあ良いんだけど。役満和了った時ぐらいはガッツポーズをしてくれ。けどなー、役満和了る時って俺からってのが多い。気のせいかも知れないけど、狙い撃ちされてる気がする。
真剣勝負なんだから、八百長するなって?
東一局、一巡目で何度も飛ばされてみろ。
八百長だろうが何だろうが、プライドかなぐり捨てて、そうお願いしたくなるってもんだ。
…こいつ、本っ当に俺の事を好きなんだよな?
ただ、ヤりたいだけじゃあないよな?
「ヨーチ樣っ!」
「おあっ!?」
じっとりと、ハイエナの如く粘っこい視線でノアを見てたら、いきなりお姫様抱っこされた。
いや、だからっ!
何処の世界に姫抱っこする神官が居るよ!?
いや、今、まさにここに居るけどさっ!
「その様な険しいお表情をされて! 風邪を引かれて発熱をしたに違いありません!」
なんで、そーなるっ!?
応援ありがとうございます!
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