1/65536のフラグ

三冬月マヨ

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おまけ

俺、フラグる

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 また、この部屋に足を踏み入れる事になるなんて、誰が想像出来ただろう?

「ヨーチ様…」

 ふっかふかの、何処かのテレフォンショッピングで、クソ高い声を出して宣伝していてもおかしくない、見た目の割に軽い掛け布団を跳ね除けた下にあるのは、程良い弾力のあるマットレスだ。その上にはピンと張られた、真っ白なシーツがあり、手触りは滑々だ。窓には白いレースのカーテンがあり、そして俺はレースを編むんだとか、頭の中で歌ってみた。
 が。

「…約束ですよ…?」

 そんな俺の歌を掻き消すのは、言わずと知れた大神官様のノアだ。
 さらさらとした金色の髪が、俺の頬を擽る。
 そう、俺は今、例の欲望を相殺する部屋のベッドの上で、ノアに押し倒されていた。
 互いに真っ白なバスローブ姿だ。
 おい、何処のホテルだよ、ここは。
 何でしっかり風呂があるんだよ。
 何でバスローブがしっかりあるんだよ。
 本当に、誰だよ、この部屋を作ったのは。
 前回は気付かなかったよ、畜生。

「お、おう…」

 前回、ここでしっかりと意識のある中で、ノアとおセックスをした俺は部屋に閉じ篭った。
 三日程閉じ篭った翌日、ノアにドアを破壊されて、部屋から引き摺り出された。
 おい、何処の暴力神官だよ。
 そして、皆が心配していると、お説教を喰らった。
 で、部屋のドアの修理が終わるまでは、ノアの部屋に厄介に…なる訳が無い。
 俺はのらりくらりと、徹麻しまくった。寝る時は雀卓に突っ伏した。雀牌が俺の枕だ。痛いけど。
 ノアと二人きりとか、恐ろしくて心臓が持たない。爆発までの天井一直線だ。
 しかし、そんな生活も三日で終わった。
 何だよ。俺は明智光秀かよ。天下は三日で終わりなのかよ、畜生。
 またも説教される俺だけど、目を合わせようとしない俺に、ノアがブチ切れた。

『晴れて恋人同士になったのに、何故、目を合わせてくれないのですか!』

『なってねえよ!! お前、まだ俺に勝つどころか、一度もみんなと麻雀やってねえだろうがッ!!』

『はっ!?』

『何、白々しく驚いているんだお前はッ!! 俺より弱いヤツを恋人とは認めねえッ!!』

 と、お互いに叫んだ場所は麻雀部屋だ。
 麻雀仲間、もとい、他の神官の爺さん達も当然そこに居た。

『では、勝負と行きましょうぞ!!』

『ハンチャン四回でどうですかな!?』

 と、あれよあれよと、麻雀勝負が始まってしまった。二人で麻雀は出来ない。俺はメキメキと腕を上げて来たグラン爺さんと、ロマノフ爺さんを指名した。他の爺さん達は悔しそうにハンカチを咥えて泣いていた。
 ノアは麻雀覚えたてだ。そんな素人に負ける訳には行かない。手抜きだって、当然しない。何時だって真剣勝負だ。
 そう、皆、真剣にジャラジャラと牌を混ぜて山を作り、以下略。

『…出来てます』

『…は…?』

 俺の起家チーチャで始まった、その半荘ハンチャン。俺の対面トイメンに座るノアの第一ツモ。そのノアの第一声がそれだった。

『チ…地和チーホー…だと…?』

 倒された牌を見れば、確かに…ツモっている…嘘だ…確率…1/33万だぞ…それが…。

『ビ、ビギナーズラックだな! すげーな!!』

『あの、ヨーチ様…これ、スーアンコーでは…? それも、タンキ…』

 ピキッと音を立てて、俺の額に青筋が浮かんだ。
 余計な事を言うなよ、グラン爺さんよッ!!
 俺、わざとスルーしたのッ!!

『トリプル役満ですな!』

 ロマノフ爺さんやめてッ!!

『流石はノア様ですな!!』

 いーやーッ!!
 誰だよ、こいつらに麻雀教えたの! 俺だよ、畜生ッ!!
 とんでもない奇跡を目の当たりにした爺さん達は、ノアの応援に回った。
 裏切り者――――――――ッ!!
 と、のっけからマイナススタートで、そのままノア以外全員マイナスで終わった。
 おかしいだろ…次から次へと役満炸裂とか…役満じゃなくて安心したら裏ドラ乗り捲って数え役満とか…。

『これで、今度こそ間違いなく、私達は正真正銘の恋人同士ですね』

 ニコニコと満面の笑顔を浮かべるノアに、何が言えただろう?

『…ア、ハイ…ソウデスネ…』

 誰だよ! こんなに証人が居る前で、以下略。
 そうして俺はノアの部屋に連行されて、寝不足は身体に悪いからと、寝かしつけられたのが昨日。今日の日中も、だらだらと食っちゃ寝をして、夜を迎えて、欲望を相殺する部屋に連れ込まれた。ノア曰く『邪魔が入らないから』だそうだ。いや、あいつら麻雀やってるよ…。邪魔しになんて来ねえよ…。
 そして、俺が先に風呂に入って、その後でノアが入って、出て来た傍から押し倒されている訳だ。
 俺だって男だ。男に二言は無い。無いが。

「…恋人って言うけど…俺…その…まともに告白されてないんだけど…?」

 どうしても、それが引っ掛かって、俺はノアを見上げて睨み付ける様にして言った。

「…はい…?」

 俺を見下ろすノアが首を傾げる。

「…い、愛しいとか、好ましいとか、回りくどいんだよッ! 好きなら、そのまま好きで良いだろッ!! お、俺みたいな、底辺スロッターで、麻雀馬鹿の何処が良いのか知らないけどさッ!! お、俺は何か知らないけど、この間…いや、ナマズ退治の時から、お前がたまに、本ッ当にたまに、ごく稀に、中段チェリー並みに、可愛く見えたりして、それが良いなとか思ったりしてるしッ! そんなお前が良いなとか思ったり、何か、ムズムズ…と、とにかくッ!! お前を好きになるフラグを引いた…ッ…!! ああッ、もう、お前が好きなんだよッ! 畜生ッ!!」

 顔を赤くして一気に捲し立てる俺に、ノアは目を丸くして、瞬きを繰り返して、そして。

「…ヨーチ様…」

 目を細めて、とても嬉しそうに笑った。目が潰れる。盲牌モウパイしか出来なくなるから止めろ。

「…避けていたり…目を合わせてくれなかったのは…意識して…恥ずかしかった…からですか?」

 ノアが身体を倒して、俺に顔を近付けながら聞いて来る。

「…そうだよ…畜生」

 プイッと横を向いて、ぶっきらぼうに言えば、ノアの両手が伸びて来て、頬を挟まれて、正面へと戻されてしまった。
 息が掛かりそうな距離にノアの顔があって、俺の心臓がバクバク言い出す。こんなに心臓バクバクしてたら、指が震えて牌なんて持てないし、ストップボタンも押せない。

「…好きです。好きな事には、一途でがむしゃらな処も、少しお馬鹿な処も…」

「ば、ばかっ…!?」

 馬鹿って何だって抗議しようとした口は、直ぐそこにあったノアの唇に塞がれてしまった。

「…んぅ…」

 軽く触れて、離れたと思ったら再び、唇を重ねられて、ぬるっとした舌も入って来た。
 がっつくなよと、思いながらも、これに何度か助けられて来たんだよな、なんて思ったりもして、そんなこいつが、やっぱり可愛いな、なんて思った。
 俺の腰を跨いでいたノアの身体が下りて来て、その重みが伸し掛か…。

「…おい…何か当たってるんだけど…」

 ノアの重さより、腹に当たるゴリッとした感触に、俺は声を上げた。

「愛しい人と触れ合っているのですから、当然でしょう?」

 と、ノアが身体を起こして、バスローブの紐を解いた。ハラリとはだけたそこには、ご立派な万点棒が天を向いていた。
 パンツ穿いて無いのか、こいつ。
 いや、バスローブは身体を拭く為の物だし、一度脱いだパンツをまた穿くのもな、と、俺も穿いてないけど。
 けど。

「…………………………」

 思わず、言葉を失くしてしまう。
 いや、その万点棒にはお世話になりましたよ? いや、でもな? 万点棒過ぎやしないか? てか、何気にまじまじと見るのは初めてだったな…。
 どうすんだ、それ?
 いや、挿れるんだよな?
 俺の可愛らしい点棒ケースに。
 いや、挿入されてたけどさ。
 何だよ、それと比べたら、俺の点棒は百点棒じゃねえか。

「ヨーチ様?」

「………………あ、悪い。俺、今日、もうハコテンだから帰るわ」

 と、起き上がろうとした俺の肩を、ノアは当然の様に掴む。
 うん、そうだよな。
 天井目の前にして、台を捨てられる訳ないよな。財布の中が空なら、下皿にスマホ置いて、ATMダッシュするよな。

「ヨーチ様?」

 笑っているけど、目の奥は笑っていない。とんでもないツンドラだ。

「…オテヤワラカにオネガイシマス…」

 俺は、頬を引き攣らせながら、そう言うしか無かった。
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