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おまけ
私、攻めます
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コトリ、コトリとした音が瞑想の間にて響いています。
ジャラジャラと何かを掻き混ぜる音も響いて来ています。
『ぽんですじゃ! リーチ!』、『鳴いたらリーチは出来ないの!』、『おーぷんりーちです!』、『って、それ待ち無し!! チョンボだからっ!!』と、楽しそうな、それは本当に楽しそうな声も聴こえて来ています。
「…はあ…」
コツンと扉に額をあてて、その向こうから聴こえて来る声に思わず溜め息を吐いてしまいます。
「…今日も誘われなかった…」
ギリッと扉にあてて居た手に力を入れて、思わず引っ搔いてしまいました。
いけませんね、爪が傷んでしまいます。
ヨーチ様が邪竜を討伐されてから二週間が過ぎました。
あの聖なる神の裁きは、この地に住む誰もが目にしたそうです。
十日程前に神殿を訪れた吟遊詩人が是非とも話が聞きたいと言うので、私は見たままを話しました。
異世界より神に遣わされたヨーチ様が、命の危険を顧みずにその奇跡を起こして下さった事を。
『チー!』、『ろん!』、『ダブルリーチですぞ!』との声が飛び交う中で。
そして、その吟遊詩人は今もこの神殿に居て、まあじゃんをしています。
早く街へ降りてヨーチ様の偉業を広めて欲しい処なのですが…ヨーチ様は『そんなのより、こいつ若いから麻雀教えるの楽そう~!』と、満面の笑みを浮かべて喜んでいました。やはり、爺様達だけでは満足出来なかったのでしょうね。それよりも何故、私にお声が掛からないのでしょうか…。ヨーチ様が望めば、私は何時でもこの身を差し出しますのに。いいえ、それよりも、恋人としての営みをしたいのですが、ヨーチ様は常に爺様達とまあじゃんに耽っていますので、その隙を中々つけません。
「…はあ…」
もう一度溜め息を吐いて、私はそこから離れました。
◇
「ふうむ。暫し待たれよ…っと、ノア様良い処に!」
大聖堂へと行けば、そこにはロマノフ殿と見知らぬ男性が居ました。街の住人でしょう。あの日から邪竜に怯える事が無くなったと、感謝に訪れる方々が途切れる事はありません。そして、ほとんどの方がまあじゃんの虜になってしまうのです。そう云った方々に、ヨーチ様は付きっきりなので、私との時間も当然取れません。
…爺様達の役立たずめ…早く教える立場になれば良い物を…。
「どうしました? 何か困り事ですか?」
と云った気持ちは隠しまして、ロマノフ殿の隣に並びます。
「それがですな…こちらの者、物書きだそうで。此度の邪竜討伐を書き記し、皆に読んで貰いたいとの事なのですじゃ。その為、詳しい話をノア様とヨーチ様からお聞きしたいと…」
私が声を掛ければロマノフ殿は光る頭を撫でながら、そう言いました。
物書き…書物…誰もが好きな時に読める物…。
その時、私に天啓が下りました。
「ええ、私で宜しければ、どの様な事でもお話ししますよ」
ロマノフ殿の頭の光に目を細めて言えば、男性は何故か顔を赤くし、ロマノフ殿は何故か『…笑った…』と、顔を青くしていました。
◇
「…決戦前夜…ヨーチは健気に震える手を…膝裏に…。…開かれ晒されたそこは…既にポタポタと雫を垂ら…奥の秘められた蕾は…熱を待ちわび、寒さに震え…そんなヨーチに…ノアは…く…楔ををををををををををををって、なんっじゃあ、こりゃあああっ!?」
今、私が居るのはヨーチ様の自室です。『二徹して疲れた~』と、ヨーチ様が久しぶりに自室に戻りましたので、私は先日送られて来た書物をベッドで横になるヨーチ様へと渡したのです。
「吟遊詩人はあてに出来ませんので、あの方が来てくれて丁度良かったです」
物書きの男性が訪れてから、早二ヶ月が過ぎました。
男性が書いた、邪竜討伐の物語は飛ぶ様に売れているそうです。
「良かったじゃねえっ! 何時、俺がお前の恋人になったよ!? てか、出る前にヤッてねえだろ!! 捏造すんなっ!!」
紅茶を飲みながら私が言えば、ヨーチ様は読んでいた書物を床へ叩き付けて、私を指差して不本意だとばかりに叫んで来ました。
「私はそのつもりですよ? 私が恋人になりましょうと言った時、ヨーチ様は否定しませんでしたよね?」
不本意なのはこちらです。
そうです。あの日、ヨーチ様は否定しませんでしたし、口付けだって拒んだりはしませんでした。
「あ、あれはだな! 転移した直後でいきなりぶっ倒れたし、寝起きだったし…っ…って、おい!?」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、私がベッドへとその身を乗り上げれば、ヨーチ様は慌てて壁際へと後退ります。
「お疲れですよね? 私がその疲れを癒して差し上げます」
「アホかああああっ!! 余計疲れるわ! 退け、ボケッ!! おいっ、壁ドンすんなっ!! お前神官だろ!? 神官がこんな事して良いのかよっ!?」
ヨーチ様の顔を挟む様にしてそれぞれの手を壁に置けば、ヨーチ様の顔色は赤くなったり、青くなったりを繰り返しています。器用ですね。
「神官の前に一人の男です。愛しい人を前にして、どうしてこの衝動を抑えられましょう?」
「いいいいいいいいいいいとっ、いとおおおおおっ!?」
顔を近付けながらそう囁けば、ヨーチ様は顔色を青から赤くして声をひっくり返してしまいました。
こんな姿を可愛いと思ってしまうだなんて、私も相当ですね。
「…柔らかな癖のある黒髪も、今は濡れている丸みを帯びた黒曜石の様な瞳も、何もかもが好ましいです…」
互いの息遣いが感じられる距離まで近付いて囁けば、ヨーチ様はキョロキョロと泳がせていた目を閉じて、その可愛らしい唇を大きく開きました。
「う、う、うううっ!! 一気通貫――――――――ッ!!」
…ああ、本当に…こんな馬鹿な処が堪らなく可愛らしいのですよ…。
視界が眩い光に染まって行く中、私は静かに微笑んだのでした。
◇
「…あ…え…? な、ん、れ…?」
翌朝、私の腕の中で目覚めたヨーチ様は、ぼんやりとしながらも、私が贈る口付けを素直に受け入れてくれたのでした。
ジャラジャラと何かを掻き混ぜる音も響いて来ています。
『ぽんですじゃ! リーチ!』、『鳴いたらリーチは出来ないの!』、『おーぷんりーちです!』、『って、それ待ち無し!! チョンボだからっ!!』と、楽しそうな、それは本当に楽しそうな声も聴こえて来ています。
「…はあ…」
コツンと扉に額をあてて、その向こうから聴こえて来る声に思わず溜め息を吐いてしまいます。
「…今日も誘われなかった…」
ギリッと扉にあてて居た手に力を入れて、思わず引っ搔いてしまいました。
いけませんね、爪が傷んでしまいます。
ヨーチ様が邪竜を討伐されてから二週間が過ぎました。
あの聖なる神の裁きは、この地に住む誰もが目にしたそうです。
十日程前に神殿を訪れた吟遊詩人が是非とも話が聞きたいと言うので、私は見たままを話しました。
異世界より神に遣わされたヨーチ様が、命の危険を顧みずにその奇跡を起こして下さった事を。
『チー!』、『ろん!』、『ダブルリーチですぞ!』との声が飛び交う中で。
そして、その吟遊詩人は今もこの神殿に居て、まあじゃんをしています。
早く街へ降りてヨーチ様の偉業を広めて欲しい処なのですが…ヨーチ様は『そんなのより、こいつ若いから麻雀教えるの楽そう~!』と、満面の笑みを浮かべて喜んでいました。やはり、爺様達だけでは満足出来なかったのでしょうね。それよりも何故、私にお声が掛からないのでしょうか…。ヨーチ様が望めば、私は何時でもこの身を差し出しますのに。いいえ、それよりも、恋人としての営みをしたいのですが、ヨーチ様は常に爺様達とまあじゃんに耽っていますので、その隙を中々つけません。
「…はあ…」
もう一度溜め息を吐いて、私はそこから離れました。
◇
「ふうむ。暫し待たれよ…っと、ノア様良い処に!」
大聖堂へと行けば、そこにはロマノフ殿と見知らぬ男性が居ました。街の住人でしょう。あの日から邪竜に怯える事が無くなったと、感謝に訪れる方々が途切れる事はありません。そして、ほとんどの方がまあじゃんの虜になってしまうのです。そう云った方々に、ヨーチ様は付きっきりなので、私との時間も当然取れません。
…爺様達の役立たずめ…早く教える立場になれば良い物を…。
「どうしました? 何か困り事ですか?」
と云った気持ちは隠しまして、ロマノフ殿の隣に並びます。
「それがですな…こちらの者、物書きだそうで。此度の邪竜討伐を書き記し、皆に読んで貰いたいとの事なのですじゃ。その為、詳しい話をノア様とヨーチ様からお聞きしたいと…」
私が声を掛ければロマノフ殿は光る頭を撫でながら、そう言いました。
物書き…書物…誰もが好きな時に読める物…。
その時、私に天啓が下りました。
「ええ、私で宜しければ、どの様な事でもお話ししますよ」
ロマノフ殿の頭の光に目を細めて言えば、男性は何故か顔を赤くし、ロマノフ殿は何故か『…笑った…』と、顔を青くしていました。
◇
「…決戦前夜…ヨーチは健気に震える手を…膝裏に…。…開かれ晒されたそこは…既にポタポタと雫を垂ら…奥の秘められた蕾は…熱を待ちわび、寒さに震え…そんなヨーチに…ノアは…く…楔ををををををををををををって、なんっじゃあ、こりゃあああっ!?」
今、私が居るのはヨーチ様の自室です。『二徹して疲れた~』と、ヨーチ様が久しぶりに自室に戻りましたので、私は先日送られて来た書物をベッドで横になるヨーチ様へと渡したのです。
「吟遊詩人はあてに出来ませんので、あの方が来てくれて丁度良かったです」
物書きの男性が訪れてから、早二ヶ月が過ぎました。
男性が書いた、邪竜討伐の物語は飛ぶ様に売れているそうです。
「良かったじゃねえっ! 何時、俺がお前の恋人になったよ!? てか、出る前にヤッてねえだろ!! 捏造すんなっ!!」
紅茶を飲みながら私が言えば、ヨーチ様は読んでいた書物を床へ叩き付けて、私を指差して不本意だとばかりに叫んで来ました。
「私はそのつもりですよ? 私が恋人になりましょうと言った時、ヨーチ様は否定しませんでしたよね?」
不本意なのはこちらです。
そうです。あの日、ヨーチ様は否定しませんでしたし、口付けだって拒んだりはしませんでした。
「あ、あれはだな! 転移した直後でいきなりぶっ倒れたし、寝起きだったし…っ…って、おい!?」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、私がベッドへとその身を乗り上げれば、ヨーチ様は慌てて壁際へと後退ります。
「お疲れですよね? 私がその疲れを癒して差し上げます」
「アホかああああっ!! 余計疲れるわ! 退け、ボケッ!! おいっ、壁ドンすんなっ!! お前神官だろ!? 神官がこんな事して良いのかよっ!?」
ヨーチ様の顔を挟む様にしてそれぞれの手を壁に置けば、ヨーチ様の顔色は赤くなったり、青くなったりを繰り返しています。器用ですね。
「神官の前に一人の男です。愛しい人を前にして、どうしてこの衝動を抑えられましょう?」
「いいいいいいいいいいいとっ、いとおおおおおっ!?」
顔を近付けながらそう囁けば、ヨーチ様は顔色を青から赤くして声をひっくり返してしまいました。
こんな姿を可愛いと思ってしまうだなんて、私も相当ですね。
「…柔らかな癖のある黒髪も、今は濡れている丸みを帯びた黒曜石の様な瞳も、何もかもが好ましいです…」
互いの息遣いが感じられる距離まで近付いて囁けば、ヨーチ様はキョロキョロと泳がせていた目を閉じて、その可愛らしい唇を大きく開きました。
「う、う、うううっ!! 一気通貫――――――――ッ!!」
…ああ、本当に…こんな馬鹿な処が堪らなく可愛らしいのですよ…。
視界が眩い光に染まって行く中、私は静かに微笑んだのでした。
◇
「…あ…え…? な、ん、れ…?」
翌朝、私の腕の中で目覚めたヨーチ様は、ぼんやりとしながらも、私が贈る口付けを素直に受け入れてくれたのでした。
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