矢は的を射る

三冬月マヨ

文字の大きさ
上 下
49 / 57
番外編

オセロじゃない・1(※リバ)

しおりを挟む
 やっぱ、もったいねーよな。

 そう、思ったのが切っ掛けだった。
 ろーたと完全無欠の恋人同士になってから、半年が過ぎた。
 完全な休息も必要だなと思った俺は、土日にはバイトのシフトを入れない事にした。
 めちゃくちゃ忙しい時は仕方がねーけど。
 週末には、ろーたの部屋で過ごすのがすっかり定番になった。
 今も、風呂上がりにベッドの上で、二人まったりと座ってる。
 ベッドヘッドに背中を預けるろーたに、俺が寄り掛かる感じ…まあ、後ろ抱っこだな。
 ろーたは後ろ抱っこが好きみたいだし、後ろから腹に回された手に、俺も安心する。
 …安心するんだけど。

「…ん…、ろ、た…ちょ、待って…」

 ベッドで眠らずに座っていると云う事は、そう云う事だ。
 ろーたの右手が、パジャマのズボンの中、パンツの中まで入って来て、俺のチンコをやわやわと撫でている。ちゅっちゅって、俺の項にキスも仕掛けて来る。
 最初が最初だったせいか、歳上だからか、経験値の違いか、何時も仕掛けて来るのは、ろーたからだ。

「嫌だなんて言わせない」

 うお。

 耳元でろーたのイケボ(フダンシ用語も、幾つか覚えた)が炸裂する。
 これだけで腰が砕けそうになるから、普段は止めてくれってお願いしてる。
 電話? 電話はスピーカーにしてるから、大丈夫、問題無い。

「先に、一回イこうな?」

 ちゅこちゅこって亀の子や竿を弄られて、早くも直立不動で爆発寸前だ。

「待って、って! き、今日は…っ…! ろーたの番!」

 けど、今日は違う。
 俺はろーたのフラチな右手首を掴んで、茹だった顔で叫んだ。

「ん?」

 軽く首を傾げたと思う。
 そんなろーたに、俺は更に顔を赤くして叫ぶ。

「ろーたが! れんだよ! 俺の、中に! 俺はっ! ケ、ケツで抱くっての!? そっち!!」

 こないだ読んだ小説で、そんな描写があった。
 あ、何だかんだで、少しずつBLを読む様になった。ろーたがお勧めしてくれたヤツ限定だけど。
 ケツで抱くってのは、良い男の証らしい。
 だから、それを真似てみた。
 ろーたのお勧めって事は、そう云う事だろ?
 俺は、可愛いより、良い男になりたい!
 まあ、ろーた限定なら、可愛くても良いけど。

「…………………………………………は…?」

 たっぷりの間を持って、何だか呆けた声が聞こえて来た。
 うわ、滑った!?
 恥ずかしい!
 恥ずかしいけど、後に引けるかってんだ!
 男に二言はあるかも知んねーけど、今は、ないっ!!

「リ、リバってんだろ!? 今日は、それっ!!」

 リバなんて、オセロのリバーシの事かと思ってた。
 フダンシ用語、奥が深いのな。

「…っ…!!」

 息を飲む音が聞こえたと思ったら、ビシッとろーたが固まった。
 冗談じゃなくて、実際に俺の亀の子や竿をいじってたろーたの手が止まってる。手首掴んでも、指先でちょいちょい弄ってたのに。

「…ろーた…?」

 力が抜けて、すっかりずり下がった頭をろーたの胸にあてて上を見れば、ろーたの顎しか見えない。あ、髭の剃り残し発見。後で剃ってやろ。

「…リバ…それは禁断の響き…ある者によっては、歓喜。ある者によっては、地雷でもある…。…しかし、すみの時代にBLは少なく、どんな物であろうと食い付いた…そんな澄に、地雷は無い。すなわち、俺にも地雷らしい地雷は無い…」

 片手で顔を覆って、天井を見上げながら、ろーたが何かを言ってる。ポツポツと残った、髭の剃り残しがピクピク動いて面白い。

「…嫌なのか?」

 けど、ちょっと不安になって聞けば、ろーたは上げていた顔を戻して緩く首を横に振った。

「嫌と言う訳じゃないが…その…俺は歳だし…」

 むっ。また言った。
 気にし過ぎだっての。

「歳だとか無しだっつったろ」

 唇をむうっと尖らせて言えば、ろーたは顔を隠してた手を動かして、口を覆った。

「…穂希ほまれが…も、もしも…抱かれる方が良いってなったら…その…」

「ん?」

 もごもごと目をキョロキョロさせるろーたの胸に、俺は後頭部で頭突きをして先を促した。

「俺が不能になった時に、振られないか!?」

「はあっ!?」

 したら、顔を赤くしたろーたが変な事を言うから、俺は裏返った声を出してしまった。

「穂希が望む時に勃たなかったら…っ…!!」

 本当に、はあっ!? だ!!

「何の心配してんだよっ!?」

 俺まで、顔が赤くなっただろ!

「あ、バイアグラがあるか!?」

 ばっ、ばいあぐらあっ!?

「薬で無理矢理とか、嬉しかねーよっ! てか、そんな身体目当てとか思ってんのかっ!?」

 セックスしたいから、ろーたを好きになったんじゃない!
 ろーただから、好きになったんだろ!

「思っていない!」

「なら、何でそんな事を言うんだよ!?」

 先にセックス言い出したのは、ろーただろ!
 いや、羽間はざま松重まつしげ先生だった。

「い、いや、しかし、実際問題…って、穂希こそ…いきなり抱かれたいだなんて…」

 あ。
 そっか。
 そうなるのか。

「…いきなりじゃねーし…だって、もったいねーじゃん」

 口にした事は無かったもんな。
 俺を見下ろすろーたと目を合わせて、俺はもごもごと口を動かした。
 改めて口にするのは、何か恥ずかしい。

「…何が?」

 けど、優しく促されて、俺は続ける。

「ろーたの…立派なチンコなのに、この先もずっと使わないの、もったいねーじゃん…。…もしかしたら、使う機会があったかもしんねーのに…俺のせいで使えねーでいるの…もったいねーじゃん…」

 何を言ってんだって思うかな?
 けど、男なら、やっぱ挿れたいと思うんだよな。
 使えない訳じゃないんだし。
 使えるなら使ってしまえ、ホトトギスって、昔の偉い人が言ってたし。
 俺も、そう思うし。

「…穂希…」

 溜め息と一緒に出されたろーたの声は、何か重く感じた。
 けど、俺は続ける。
 きっと、俺達の歳の差が無ければ、ろーたはこんなに気にする事は無かったんだと思う。
 俺は、やっぱり、まだまだガキだし、大人にはなりきれねーけど。
 先がどうなるかなんて、知らねーし。

「…だからって、どっかの店とかで、ろーたが他の誰かとなんて、ぜってぇ嫌だし。…そ、れに…い、一回ぐらいは…ろーたの立場になってみてーし…そしたら…もっと上手く出来る様になるかもしんねーし…」

 ろーたは、そこは気にしねーみてーだけど。
 いつも、俺ばかり気持ち良くなってる気がするから。
 本当は、ろーたはどっちが良いのか、確認するのもアリだと思うんだ。

「…ああ…馬鹿だな、俺…」

 こつって、身体を曲げたろーたの額が、俺の額に当たる。
 身体、柔らけーのな。腰にキたりしねーのか?

「俺ばかり不安がって、穂希の不安を考えてなかったな…心配かけて、すまん」

「…謝んなよ。…ろーたは、してーの? したくねーの? …本当に…嫌なら…無理にとは言わねーし…。…ろーたは…その…女の人と経験…あんだろ…だから…」

 抱かれるのは出来ても…男を抱くのは出来ねーんじゃねーの?

「…穂希」

 そう言おうとした口は、ろーたの唇で塞がれた。
 顎を持ち上げられて、首がちょっと痛い。

「…嫌ではないさ…穂希こそ、嫌だと…無理だと思ったら言ってくれ」

 って、事はオッケーて事だよな?

「ん…」

 へにょりと眉を下げて静かに笑うろーたに、安心して笑ったら、また唇を塞がれた。今度は、ぬるりとした舌も付いて来た。
 うん、でも首痛ぇし。
 キスに集中出来なくて、ろーたの腕をぺちぺち指先で叩いた。
 そしたら、ろーたは苦笑してから、俺の身体を抱き起こして向きを変えさせた。
 膝と膝を突き合わせて、唇を重ねる。
 けど、この距離がもどかしくて、ろーたの脚を跨いでケツを乗せて、首に腕を回して深いキスを強請った。
 ろーたはちょっと驚いたみたいだけど、直ぐに腰と後頭部に手が回された。
 グイッて引き寄せられて、合わせた唇の隙間から舌を捩じ込まれて、夢中でそれを追い掛ける。歯とか、舌の裏とか、上顎とか舐められると、本当にぞくぞくする。俺、虫歯無くて良かった。虫歯持ってたら、伝染うつるのかな?
 とぽとぽと唾液が湧いて来て、俺はそれを飲み込む。気持ち良くて、気が付けば腰を振って、パジャマの上から、ろーたの腹にチンコを擦り付けてた。
 そんな風に腰を振ってたら、ろーたの手がパジャマのズボンに掛かった。

「…ちょっ、待って…」

 ろーたの胸に手をあてて、唇を離して俺は言った。
 ヤバいヤバい。
 このまま、べろんってチンコ出されたら、俺の恥ずかしい汁で、ろーたのパジャマがベタベタになっちまう。
 
「んしょ」

 と、身体をずらしてベッドヘッドに手を伸ばして、そこの小物置き場にあるゴムを俺は掴んだ。
 これがあれば、問題無い。なんて万能なアイテムなんだ。
 
「…穂希は駄目だ」

 と、思ったら、ヒョイッてろーたの手が伸びて来て、ゴムを取られてしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

縁の繋がった先

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

【BL】キス魔の先輩に困ってます

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:36

Take On Me 2

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:28

【完結】サクラ・エンゲージ

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:23

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

BL / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:2,421

ひとつのひ

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:25

あたたかな鳥籠を君に、優しい口づけをあなたに

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:346

冴えない絵師の恋

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:78

小指の先に恋願う

BL / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:211

処理中です...