31 / 57
それが、幸せ
02.再会
しおりを挟む
「な、んでいんだよっ!?」
早足で校門まで行けば、門の柱に背中を預けて煙草を吸ってた羽間の目が据わった。
「ああ? ここは俺の職場だ。居るのは当たり前だろうが」
そうだけど、そうじゃねーよっ!!
何で、帰らないで居るんだ!!
生徒だけじゃなくて、先生達も今日は帰りが早い筈だろ!
「ぶはっ! 煙草吸わないヤツに煙吹き掛けるなよっ!」
羽間の目の前に立てば、ぷっは~と煙を吐かれた。
俺、結構背が伸びたのに、まだこいつの方が背ぇ高いのかよっ! ムカつく!
煙で涙が滲む目で睨めば、羽間は肩を揺らして笑った。
「ガタイは良くなったが、中身は変わらねぇみてぇだな? って、何だこの頭ぁ? いがぐりか? なら、緑か茶色に染めろ」
羽間の手が、俺の頭に伸びて来たから、俺は慌てて払った。俺がどんな髪型しようか自由だろ。仕事柄、髪を短くしてんだよ。
「触んなよ! 触って良いのは先生だけだ! って、何でわざわざこんなトコで煙草吸ってんだよっ!!」
クッソー!
やっぱ、こいつを連絡役になんかするんじゃ無かった。
卒業してからは、先生と直に遣り取りはしていない。先生断ちするって決めたから。けど。
『気が向いたら、たまにゃ様子を知らせてやる。おら、スマホ出せ』
って、卒業の時に羽間にスマホ奪われて、あれよあれよと、羽間とメッセージアプリでやり取りする事になっちゃったけどな!
まあ、おかげで約束のすっぽかしとかしないで済んだし、今日、俺がここに来るって事も、羽間を通して先生に伝えられたけど。
「んあ~? そりゃ、三年寝太郎がやっと起きて来たんだ。その寝ぼけヅラを見る為に決まってるだろうが」
「…三年寝太郎て…」
だから、煙草の煙をこっちに向けんじゃねーよ。
「ほら、律儀に待っていやがあ"っ"!?」
「…は…?」
「てっ、め、この…っ…!」
いきなり身体を跳ねさせた羽間を見て、俺の口から間抜けな声が出た。
…何かデジャヴだな…。
「もう。久し振りに会えて嬉しいからって、はしゃぎすぎでしょう?」
そうしたら、いつかみたいに、また羽間の後ろに笑顔の松重先生が居て、羽間の胸やら腹やらを撫でていた。
うん、デジャヴだな。
「ま、つしげ先生…あの…」
…どっから湧いて出たんだ…。
いや、きっと門の陰にでも隠れていたんだろうけど。けど…怖ぇよっ!!
「こんなイケない大人は俺に任せて。的場先生が待っていますよ。場所は言わなくても解りますよね?」
「あ、は、い。あ、ありがとう!」
ニッコリと笑う松重先生の笑顔が怖くて、頭を下げて礼を言った後、俺は一目散に走り出した。
後ろから『てめ、この!』とか『まあまあ』とか聞こえたけど、聞こえないフリをした。
これは、大人の処世術だからな!
◇
初めてここに来た時の俺は、ちょっとやさぐれていた。
親から解放されて、それは、ほっとしたり、嬉しかったりしたけど、でも、心の何処かでは寂しかったりもした。
…厄介払いされたんだろって…。
心機一転、新しい土地で…とかって思っても、何か怠くてやる気出なくて。部屋の荷物の片付けを途中でぶん投げて、学校に…ここに来たんだ。
いきなり、とんでもないもんを見たけど…。
でも。
「…先生…」
「久し振り」
ここで、先生に会ったんだ。
校舎と校舎の間にある中庭。
幾つか置いてあるベンチ。
その中の一つ。
ちょうど日避けになる様に植えてある、木の下のベンチ。
あの頃、毎日の様に座っていたベンチ。
そこに、先生は座っていた。膝の上には、俺が来るまでに読んでいたんだろう本がある。
卒業式だったからか、深い紺色のスーツに、淡いクリーム色のネクタイを締めた先生だけど、あの頃の様に眉と目尻を下げて優しく笑った。
初めて見た時は、よれよれのスーツに便所サンダルだったのに、な。ピシッとしたスーツに磨かれた革靴に変わっても。それでも、その笑顔は変わらない。真っ直ぐと、俺を見て笑ってくれる。
「せ、んせ…あ、の…」
やべー。
嬉しいのと懐かしいのとで泣きそうだ。喉が痛くて声が出ねー。
何度も何度も練習したのに、頭の中から言いたい事消えてしまった。
「ほら、座れ。空いているぞ」
目の前で立ち尽くす俺に、先生はあの時の様に、ポンポンとベンチを叩いた。
「…うん…」
頷いて、あの頃と同じ様に先生の隣に座った。
久し振りのベンチは、何かちょっと小さくなった気がした。
もぞりと動くと、先生が俺を見て眩しそうに目を細めた。
「背、伸びたな。顔つきも男らしくなって見違えたぞ」
変わらない笑顔と声に、俺の声が跳ねる。
「あ、そ、そうなんだ! 卒業してから、俺、じゅっ、十センチ伸びた!」
本当は七センチだけど、誤差だろ。
見栄? 何それ美味しいの?
「そうか。良かったな」
ポンッて、刈り上げた頭に手を置かれて、目の前が滲んだ。
やべーって。
そんな躊躇いもなく頭に手を置くなよ。
俺が、今日、ここに来た理由知ってんだろ?
良いのかよ?
期待しても?
本当に、あの時に言った様に、俺が望む返事をくれんのかよ?
上げて落とすのは止めてくれよな?
そしたら、あの夕陽より早く沈む自信があるからな?
早足で校門まで行けば、門の柱に背中を預けて煙草を吸ってた羽間の目が据わった。
「ああ? ここは俺の職場だ。居るのは当たり前だろうが」
そうだけど、そうじゃねーよっ!!
何で、帰らないで居るんだ!!
生徒だけじゃなくて、先生達も今日は帰りが早い筈だろ!
「ぶはっ! 煙草吸わないヤツに煙吹き掛けるなよっ!」
羽間の目の前に立てば、ぷっは~と煙を吐かれた。
俺、結構背が伸びたのに、まだこいつの方が背ぇ高いのかよっ! ムカつく!
煙で涙が滲む目で睨めば、羽間は肩を揺らして笑った。
「ガタイは良くなったが、中身は変わらねぇみてぇだな? って、何だこの頭ぁ? いがぐりか? なら、緑か茶色に染めろ」
羽間の手が、俺の頭に伸びて来たから、俺は慌てて払った。俺がどんな髪型しようか自由だろ。仕事柄、髪を短くしてんだよ。
「触んなよ! 触って良いのは先生だけだ! って、何でわざわざこんなトコで煙草吸ってんだよっ!!」
クッソー!
やっぱ、こいつを連絡役になんかするんじゃ無かった。
卒業してからは、先生と直に遣り取りはしていない。先生断ちするって決めたから。けど。
『気が向いたら、たまにゃ様子を知らせてやる。おら、スマホ出せ』
って、卒業の時に羽間にスマホ奪われて、あれよあれよと、羽間とメッセージアプリでやり取りする事になっちゃったけどな!
まあ、おかげで約束のすっぽかしとかしないで済んだし、今日、俺がここに来るって事も、羽間を通して先生に伝えられたけど。
「んあ~? そりゃ、三年寝太郎がやっと起きて来たんだ。その寝ぼけヅラを見る為に決まってるだろうが」
「…三年寝太郎て…」
だから、煙草の煙をこっちに向けんじゃねーよ。
「ほら、律儀に待っていやがあ"っ"!?」
「…は…?」
「てっ、め、この…っ…!」
いきなり身体を跳ねさせた羽間を見て、俺の口から間抜けな声が出た。
…何かデジャヴだな…。
「もう。久し振りに会えて嬉しいからって、はしゃぎすぎでしょう?」
そうしたら、いつかみたいに、また羽間の後ろに笑顔の松重先生が居て、羽間の胸やら腹やらを撫でていた。
うん、デジャヴだな。
「ま、つしげ先生…あの…」
…どっから湧いて出たんだ…。
いや、きっと門の陰にでも隠れていたんだろうけど。けど…怖ぇよっ!!
「こんなイケない大人は俺に任せて。的場先生が待っていますよ。場所は言わなくても解りますよね?」
「あ、は、い。あ、ありがとう!」
ニッコリと笑う松重先生の笑顔が怖くて、頭を下げて礼を言った後、俺は一目散に走り出した。
後ろから『てめ、この!』とか『まあまあ』とか聞こえたけど、聞こえないフリをした。
これは、大人の処世術だからな!
◇
初めてここに来た時の俺は、ちょっとやさぐれていた。
親から解放されて、それは、ほっとしたり、嬉しかったりしたけど、でも、心の何処かでは寂しかったりもした。
…厄介払いされたんだろって…。
心機一転、新しい土地で…とかって思っても、何か怠くてやる気出なくて。部屋の荷物の片付けを途中でぶん投げて、学校に…ここに来たんだ。
いきなり、とんでもないもんを見たけど…。
でも。
「…先生…」
「久し振り」
ここで、先生に会ったんだ。
校舎と校舎の間にある中庭。
幾つか置いてあるベンチ。
その中の一つ。
ちょうど日避けになる様に植えてある、木の下のベンチ。
あの頃、毎日の様に座っていたベンチ。
そこに、先生は座っていた。膝の上には、俺が来るまでに読んでいたんだろう本がある。
卒業式だったからか、深い紺色のスーツに、淡いクリーム色のネクタイを締めた先生だけど、あの頃の様に眉と目尻を下げて優しく笑った。
初めて見た時は、よれよれのスーツに便所サンダルだったのに、な。ピシッとしたスーツに磨かれた革靴に変わっても。それでも、その笑顔は変わらない。真っ直ぐと、俺を見て笑ってくれる。
「せ、んせ…あ、の…」
やべー。
嬉しいのと懐かしいのとで泣きそうだ。喉が痛くて声が出ねー。
何度も何度も練習したのに、頭の中から言いたい事消えてしまった。
「ほら、座れ。空いているぞ」
目の前で立ち尽くす俺に、先生はあの時の様に、ポンポンとベンチを叩いた。
「…うん…」
頷いて、あの頃と同じ様に先生の隣に座った。
久し振りのベンチは、何かちょっと小さくなった気がした。
もぞりと動くと、先生が俺を見て眩しそうに目を細めた。
「背、伸びたな。顔つきも男らしくなって見違えたぞ」
変わらない笑顔と声に、俺の声が跳ねる。
「あ、そ、そうなんだ! 卒業してから、俺、じゅっ、十センチ伸びた!」
本当は七センチだけど、誤差だろ。
見栄? 何それ美味しいの?
「そうか。良かったな」
ポンッて、刈り上げた頭に手を置かれて、目の前が滲んだ。
やべーって。
そんな躊躇いもなく頭に手を置くなよ。
俺が、今日、ここに来た理由知ってんだろ?
良いのかよ?
期待しても?
本当に、あの時に言った様に、俺が望む返事をくれんのかよ?
上げて落とすのは止めてくれよな?
そしたら、あの夕陽より早く沈む自信があるからな?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる