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勇者様教えて・中編
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「あら、まあ、あたしったら嫌だわ。そう、ノボルさんって言うのね」
俺がそう言ったら、母さんは片手を口にあてて、ほほほって笑いながら、手に持っていた籠からとうもろこしを取り出して徐に振り上げた。
「そんなんで親を誤魔化せると思っているの!? 6年振りでも、髪や目の色が違くても、自分の子供ぐらい解るわよ!! こんボケがっ!!」
そして、それで俺の頭をボコボコ殴り出した。
「痛い痛い痛いっ!! 止めて止めて!! とうもろこしが可哀想だからっ! 俺、ノボルだからっ!!」
ボッキン、ボッキン、とうもろこし折れた傍から新しいのを取り出さないでっ!! 笑顔で取り出さないでっ!! もったいないお化けが出るからっ!!
「あんた、生まれたばかりの頃、良く自分の事をノボルって言ってたわよ!?」
マジか!? 乳幼児の俺、何してくれてんのーっ!?
「…ふむ…」
ちょっと離れた処で胡坐を掻いていたオニキスが指をパッチンした。
瞬間、目の端に映る俺の前髪の色が、黒から元の金色へと変化した。
「おい、オニキスッ!!」
俺が何でノボル言ったか、解ってんのか!?
親にキスしそうな処を見られて恥ずかしいんだよっ! 居た堪れないんだよっ! 解れよっ!!
「ほうら見なさい。本当にあんたは素直じゃないんだから!」
「痛い痛い痛い痛い痛いーっ!! ごめんなさい、すみません、もうしませんっ、だから許してーっ!!」
◇
でんって、リビングのテーブルに、ボッキボキに折れたとうもろこしが、何皿にも渡って乗っている。
「はあ~、暑かったわ~」
俺の前に座る母さんが、パタパタと手で扇いで自分に風を送っている。
そりゃ、こんだけの山盛りのとうもろこしを茹でりゃ暑いだろ…誰が食べるんだよ、これぇ…。
「そろそろお昼だから、そしたら父さん帰って来るから。たっっっっっぷりと怒られてちょうだい」
いや、もう、ここに来るまでに皆にもみくちゃにされたから、もう腹いっぱいなんだけど…。
背中やら肩やら、もう、バンバン叩かれたよ…叩かれたとこ、赤くなってたりして…。
…けど、皆嬉しそうな顔してたから…俺も嬉しくなって…うん、まあ、良かった。
「魔王を討伐したら帰って来るかと思ったら帰って来ないし、そうこうしている内に、あんたは何処か遠くへ旅立ったとか、語り部達の話が流れだして…したら今度は…精霊様があんな事を言い出すし…本当に…馬鹿息子なんだから…それで…」
母さんがパタパタ扇いでいる手を止めて、テーブルの上で腕を組んで軽く身を乗り出して、俺の隣で無言でとうもろこしを食べてるオニキスを見る。
「…こちらの美丈夫さんは、あんたの恋人で良いのよね?」
「お、あ、うん…」
…キスしそうな処を見られてるから、誤魔化す事なんか出来ないし、誤魔化すつもりも無いけど…恥ずかしい…っ…!!
レンやマリエルに、オニキスとヤッた後を見られた時より、恥ずかしいっ!!
もう、何なんだよ、これぇ!?
「…ふふ…。ね、紹介してくれないの?」
ギシッて音がしたと思ったら、母さんが立ち上がって身を屈めて俺の頭を撫でて来た。
…あ…懐かしい…。
俺が家出る時、父さんとこうして撫でてくれたっけ…。
「…えっと…こいつはオニキスって言って…」
…あれ…元魔王って言ったら…ヤバい、よな? 流石に…。
「以前は魔王と呼ばれておったが、今は違う。ただのオニキスだ」
うおおおおおおぉおおおおおおおぉおおおおおおおおぉぉぉっぉいいいぃいいいいっ!?
「おま…っ、おま…っ…!!」
んな、んなっ、んなに言ってくれちゃってんのぉっ!?
俺は、再びとうもろこしに口を付けたオニキスを指差しながら、口をパクパクさせる。
「そっか、この子を宜しくね、オニキスさん」
「いでっ!!」
最後と言わんばかりに、母さんが一際強く俺の頭を撫でてから椅子に座った。
反対に、今度は俺が椅子から立ち上がる。
「んな…っ…! 良いのかよ!? 元魔王だぞ!?」
「あら? あんたは良くない人を好きになったの?」
「そんな訳あるかっ!! 元魔王だけど、俺はオニキスだから好きになったんだっ!! って、おわっ!?」
じっと俺を見詰める母さんに反射的に叫んだら、ガタッて音がすぐ傍から聞こえて、俺はオニキスに思い切り抱き締められていた。いや、抱き絞められてた。
「ぐっ、ぐるぢい…ぢぬ…!」
胸筋にぬっ殺されるっ!!
「…言葉にしてくれた事、感謝する…。…私も、そなたを愛しておるよ…」
――――――――…あ…。
「…ぼで…言っで…無がっだ…?」
…オニキスの声が、俺を包む腕が震えてる…。
泣いてんのか? 母さんの前だぞ…? 男は、そう簡単に泣いたら、涙を見せたら駄目なんだぞ? お前、元とは云え、魔王だろ? いいのか、おい? カラヲが居たら殴られるぞ?
てか、本当に窒息死しそうだから離してくれ、頼む。
「ライザーッ…!! ほあああああああああああああっ!?」
バンッて、ドアを開ける音が聞こえたって思ったら、相変わらず元気な父さんの声が聞こえた。
…取り敢えず…叫ぶより、胸筋に殺されそうな俺を助けて…。
俺がそう言ったら、母さんは片手を口にあてて、ほほほって笑いながら、手に持っていた籠からとうもろこしを取り出して徐に振り上げた。
「そんなんで親を誤魔化せると思っているの!? 6年振りでも、髪や目の色が違くても、自分の子供ぐらい解るわよ!! こんボケがっ!!」
そして、それで俺の頭をボコボコ殴り出した。
「痛い痛い痛いっ!! 止めて止めて!! とうもろこしが可哀想だからっ! 俺、ノボルだからっ!!」
ボッキン、ボッキン、とうもろこし折れた傍から新しいのを取り出さないでっ!! 笑顔で取り出さないでっ!! もったいないお化けが出るからっ!!
「あんた、生まれたばかりの頃、良く自分の事をノボルって言ってたわよ!?」
マジか!? 乳幼児の俺、何してくれてんのーっ!?
「…ふむ…」
ちょっと離れた処で胡坐を掻いていたオニキスが指をパッチンした。
瞬間、目の端に映る俺の前髪の色が、黒から元の金色へと変化した。
「おい、オニキスッ!!」
俺が何でノボル言ったか、解ってんのか!?
親にキスしそうな処を見られて恥ずかしいんだよっ! 居た堪れないんだよっ! 解れよっ!!
「ほうら見なさい。本当にあんたは素直じゃないんだから!」
「痛い痛い痛い痛い痛いーっ!! ごめんなさい、すみません、もうしませんっ、だから許してーっ!!」
◇
でんって、リビングのテーブルに、ボッキボキに折れたとうもろこしが、何皿にも渡って乗っている。
「はあ~、暑かったわ~」
俺の前に座る母さんが、パタパタと手で扇いで自分に風を送っている。
そりゃ、こんだけの山盛りのとうもろこしを茹でりゃ暑いだろ…誰が食べるんだよ、これぇ…。
「そろそろお昼だから、そしたら父さん帰って来るから。たっっっっっぷりと怒られてちょうだい」
いや、もう、ここに来るまでに皆にもみくちゃにされたから、もう腹いっぱいなんだけど…。
背中やら肩やら、もう、バンバン叩かれたよ…叩かれたとこ、赤くなってたりして…。
…けど、皆嬉しそうな顔してたから…俺も嬉しくなって…うん、まあ、良かった。
「魔王を討伐したら帰って来るかと思ったら帰って来ないし、そうこうしている内に、あんたは何処か遠くへ旅立ったとか、語り部達の話が流れだして…したら今度は…精霊様があんな事を言い出すし…本当に…馬鹿息子なんだから…それで…」
母さんがパタパタ扇いでいる手を止めて、テーブルの上で腕を組んで軽く身を乗り出して、俺の隣で無言でとうもろこしを食べてるオニキスを見る。
「…こちらの美丈夫さんは、あんたの恋人で良いのよね?」
「お、あ、うん…」
…キスしそうな処を見られてるから、誤魔化す事なんか出来ないし、誤魔化すつもりも無いけど…恥ずかしい…っ…!!
レンやマリエルに、オニキスとヤッた後を見られた時より、恥ずかしいっ!!
もう、何なんだよ、これぇ!?
「…ふふ…。ね、紹介してくれないの?」
ギシッて音がしたと思ったら、母さんが立ち上がって身を屈めて俺の頭を撫でて来た。
…あ…懐かしい…。
俺が家出る時、父さんとこうして撫でてくれたっけ…。
「…えっと…こいつはオニキスって言って…」
…あれ…元魔王って言ったら…ヤバい、よな? 流石に…。
「以前は魔王と呼ばれておったが、今は違う。ただのオニキスだ」
うおおおおおおぉおおおおおおおぉおおおおおおおおぉぉぉっぉいいいぃいいいいっ!?
「おま…っ、おま…っ…!!」
んな、んなっ、んなに言ってくれちゃってんのぉっ!?
俺は、再びとうもろこしに口を付けたオニキスを指差しながら、口をパクパクさせる。
「そっか、この子を宜しくね、オニキスさん」
「いでっ!!」
最後と言わんばかりに、母さんが一際強く俺の頭を撫でてから椅子に座った。
反対に、今度は俺が椅子から立ち上がる。
「んな…っ…! 良いのかよ!? 元魔王だぞ!?」
「あら? あんたは良くない人を好きになったの?」
「そんな訳あるかっ!! 元魔王だけど、俺はオニキスだから好きになったんだっ!! って、おわっ!?」
じっと俺を見詰める母さんに反射的に叫んだら、ガタッて音がすぐ傍から聞こえて、俺はオニキスに思い切り抱き締められていた。いや、抱き絞められてた。
「ぐっ、ぐるぢい…ぢぬ…!」
胸筋にぬっ殺されるっ!!
「…言葉にしてくれた事、感謝する…。…私も、そなたを愛しておるよ…」
――――――――…あ…。
「…ぼで…言っで…無がっだ…?」
…オニキスの声が、俺を包む腕が震えてる…。
泣いてんのか? 母さんの前だぞ…? 男は、そう簡単に泣いたら、涙を見せたら駄目なんだぞ? お前、元とは云え、魔王だろ? いいのか、おい? カラヲが居たら殴られるぞ?
てか、本当に窒息死しそうだから離してくれ、頼む。
「ライザーッ…!! ほあああああああああああああっ!?」
バンッて、ドアを開ける音が聞こえたって思ったら、相変わらず元気な父さんの声が聞こえた。
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