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魔王様助けて・中編
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「はよっス! まずは甘酒で身体を温めて下せえ!」
外へと出て庭へと回り込んだら、ハムヲが七輪の上に置かれた鍋から、甘酒を湯呑に掬って寄越して来た。
そのハムヲを筆頭に、庭には鍋の乗った七輪が幾つかあり、その周りではこの地に住む魔族がわらわらと談笑して居た。
あっちに居るのは、秋の稲刈りを手伝った奴らだな。
あっちのは、川で一緒に釣りをした奴らだな。
あっちのは…。
つか、これだけ七輪があるのなら、ファイヤードラム缶要らなくない?
「…なあんか、変な感じよね~…」
なんて思っていたら、マリエルがしみじみと呟いた。
「…ああ…。何で俺ら、戦っていたんだろうな…」
ずずず、と甘酒を啜りながらレンが頷く。
「仕方無ぇっすよ。それが、世の理って奴なんで」
世の理、か。
それで片付けてしまって良いのかと思うけど…。
けど、そうとでも思わなければ遣り切れない事もある訳で…。
オニキスのせいかは解らないけど、ここの奴らは皆、俺達に好意的だ。
そう、あの、情けなく憎き魔王のせいで。
「…ん…?」
あれ?
俺、今、何考えた?
「ライザー様~、最初の一振りはオニキス様と共にお願いしますー!」
首を捻る俺の耳に、カラヲの陽気な声が届いた。
「あら。今年初の夫婦の共同作業かしら?」
きょ、きょうどう…?
「ケーキ入刀みたいに言うなよ」
け、けえき…?
な、何か、結婚式みた…。
「あ、でも、既に共同作業はやってるかあ」
おい、マリエル!
「この性女が!」
全くだ!
今のは間違いなく性って聞こえたぞ!
「痛いっ!」
「何故、俺がそいつとそんな事をしなければならない?」
マリエルの頭に、レンが拳を落とした処で、俺は口を開いた。
…あ、れ…?
俺、何言ってんの?
周りが一気に静かになった。
「あ、あれぇ? ライザー君、ごめん。お姉さん、からかい過ぎた?」
「悪い、ライザー、こいつに悪気は無いんだ」
レンに首根っこを捕まれて、顔の前で両手を合わせるマリエルに、俺は鷹揚に頷く。
いや、待ってぇ!?
誰、この俺様!?
「そんなのは、解っている。何故、この俺が。そんな光に堕ちた魔王なぞと、そんな事をしなければならない? 角を失ったくせに、おめおめと生き恥を晒している奴と」
おっ、おっ、おっ、おおっ!?
ちょ、どうしたの!?
どうしちゃったの、お口さんっ!?
餅つき!
餅つきだよ!?
ぺったんぺったんどっせいやっちまったなの餅つきだよ!?
「えええ!? ライザー君、どうしちゃったの!?」
本当になっ!!
「らしくないぞ!?」
いいぞ、もっと言えっ!!
「ラララララララララッ!?」
歌うな、カラヲ!
「オオオオオニキス様!? ライザー様はどうしちゃったにゃん!?」
もっと突っ込んでくれ!!
「…ふむ…。闇の気配がする」
冷静だな、オニキス!!
がくがくとニャンタに揺さぶられながら、オニキスが顎に手をあてて、じっと俺を見て来た。
それより、闇?
闇って、何!?
「クククククク…その者は、我が闇に飲まれたのだ! 闇に堕ちた勇者は勇者に非ず!」
何!?
「は!?」
「へ!?」
何処からともなく沸いて出て来た闇の精霊に、マリエルやレンを始め、皆が…いや、オニキスは特に驚いた様子も無く俺を見ているが…オニキス以外は皆、驚いていた。
「フフフフフフフ…光のよ! オニキスよ! どうだ! 貴様等の愛し子が闇に、魔王になった様を見るのは!? 我が憎かろう!? 我を恐れよ! 我を崇めよ!! 我を称えよ!! クククククク……フフフ…ハーッハッハッハッハッハーッハッハッ…ッホッぶぅえほッんぶッ。うむ、むせた」
だから、むせるなよ!!
てか、魔王!?
俺、そんなのになった覚えは無いぞ!?
てか、魔族の王だから魔王なんじゃないの!?
違うの!?
「そうだ。俺は魔王になった。その証に見ろ!!」
何を!?
俺は片手を頭に耳の上辺りへと置いた。
そこはドクドクと熱く脈を打っている。
そこから何かが生えて来る感覚がする。
するじゃなくて、実際に、そこを突き破って何かが出て来ている。
「ライザー君!?」
「おま…っ…!?」
指の合間を縫って、ニョキニョキと生えて来た、何だか堅い物。
それは。
「角っ!? ライザー君、それ…っ…!?」
マリエルが、両手で口を隠して叫んだ。
「な、何だよ…どうなってんだ!?」
レンも、片手で鼻を押さえて叫んだ。
そして。
「いぃやああああああーっ!! 牡鹿のような角が、ぷるぷる震えていて可愛いーっ!! くっ、殺せ! くっ、殺せっ!!」
「おま…っ…! 反則だろ、それは…っ…!!」
「ライザー様! 後ろ姿を見せて下さい!」
「ライザー様! 尻尾はあるにゃん!?」
「ライザーの兄貴ィ! 角に、その角にハムを群がらせても宜しいッすかっ!?」
マリエルが身体を捩りながら叫び、レンが何故か鼻血を垂らしながら悶え、カラヲが両手を振って喚き、ニャンタが今にも俺に飛び掛かりそうな勢いでバンザイをし、ハムヲが懐からハムスターを取り出したりしている中で、庭に居た魔族達がパタパタと倒れて行っている。
…いや…これ、どんな状況なの? ねえ?
俺、角が生えたの?
牡鹿の角?
震えてる角?
何それ、怖いんだけど!?
「…ふむ…。確かに、魔王となるには十分な力を感じる…」
オニキスが肩に杵を担いだまま、空いていた手で顎を触りながら、落ち着いた様子で頷いてみせた。
「余裕だな? 旧魔王のオニキスよ。これからは、この俺がここを支配させて貰う。その為には、貴様の存在が邪魔なのだ。そうだろう? 闇の精霊よ」
ほげっ!?
「ふぁっ!? いや、お主、何を!? 我は、その様なつもりは無くて! お主が闇に染ま…っ…!!」
俺だけでなく、闇の精霊も身体を纏っている闇をポロポロと零しながら、慌てている。
…ん?
何か…これ…覚えがある様な…?
「いい、解っている。この生き恥を晒している旧魔王を倒し、俺が新たな魔王として君臨する。そうだろう?」
ほおおおおうっ!?
「ちが、ちが、違うのだ! 我は」
「良い。オニキスから見れば、断りも無く、俺を魔王にした貴様は裏切り者」
いや、話を聞けよ、俺っ!!
「ふぁああああああああああっ!?」
お前も慌てふためいて居ないで、何か言えよっ!!
「だが、安心しろ。オニキスを斃し、その憂い、この俺が見事に晴らしてやろう」
ひぎゃああああああああっ!?
いぃいやあああああああああっ!!
誰か…オニキス!
俺を助けろ! 助けて! 助けて下さいっ!!
お前なら解るよな!?
今の俺が普通じゃないってっ!!
「…ふむ…」
いや!?
何でそこで顎に指をあてて、難しい顔して考えてるの!?
ねえ!?
助けて!?
周りの奴らも、固まってたり、倒れたりしてないで何か言って?
ねえ、マリエル? 身を捩ってないで何か言って?
ねえ、レン? 鼻血出してないで何か言って?
ねえ、カラヲにニャンタにハムヲ? ノートやスケブを取り出して、何を書いているの? ねえ?
「おや~? おやおや~? 何だか面白そうな事になっているね?」
そう、何処かのどかな声を上げながらやって来たのは、光の精霊だった。
「うわあああああん~!! 光のおおおおおお~!! 助けてたもぉ~っ!!」
うおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいっ!!
お前が泣きつくのかよおおおおおおおおっ!?
泣きつきたいのは、俺だからね!?
「うん、うん。良い具合に光と闇が融合しているね? その闇を取り除くのは僕には無理だよ?」
抱き着いて来た闇の精霊の頭(の部分)を撫でながら、光の精霊が底抜けに明るい声で言った。
「ふえ?」
光の精霊や、闇の精霊には顔は無い。無いが、俺には、光の精霊が途轍もなく、爽やかな笑顔を浮かべている様に見えた。
そして、闇の精霊は情けなさ大爆発で、号泣している様に見える。
いや…精霊達ェ…。
…てか…融合って何…?
何…俺、ずっとこのままなの?
「…光の精霊よ…それは真か?」
お? おお?
オニキス、何か考え付いたのか?
流石は、極悪非道な…って、だから、何を考えてんの、俺ぇっ!?
嫌だぞ、俺、こんなのはっ!!
こんなんなら、まだ勇者の方がマシだっ!!
「それが真として、何の不都合がある? ほら、掛かって来いよ。それとも、角が無いから戦えない等と情けない事を口にするつもりか?」
いぃいいいいいいやぁあああああああああっ!!
何、目を細めて口の端上げて、右手を前に出して人差し指くいくいカモンしてるの、俺ぇっ!?
「あわ、あわ、あわ…」
「んー。取り敢えず、一つになろうか? そうすれば、君が何を考えてこうしたのか解るし、ね?」
「え。あ、う、あ、あわ、あわ!! 嫌じゃあ~っ!!」
そこぉっ!!
何、暢気に合体してんだよおおおおおおおっ!?
光の精霊は、この場を鎮めに出て来たんじゃないのかよおおおおおおおっ!?
何しに出て来たんだよ、お前ええええええぇっ!?
もう、うえぇいってなっちまうぞ、俺ぇっ!!
そんな事を思ったせいか、俺のお馬鹿なお口さんはとんでもない事を口にしてくれた。
「ふ…。俺一人では満足出来ないと? 良いだろう。来い、レン、マリエル」
「え?」
「へ?」
俺の呼び掛けに、二人が目を丸くした。
「あの日の再現だ。いや、あの時以上にお前達は力を付けている。そうだろう? だから…」
そこで俺は一度言葉を区切り、二人の顔をそれぞれ見て、口を開いた。
「来い、レン、マリエル」
◆
「ひきゃあああああ――――――――………」
「うわああああああ――――――――………」
そして、速攻で二人は空の彼方へと飛んで行った。
退場早過ぎぃいいいいいいっ!!
「…貴様…」
「…ふむ…。私は、そなた一人相手が不服だと口にした覚えはないのだが。勝手に話を進めてくれるな」
二人を見送った後、杵で二人を空の彼方へとぶっ飛ばしたオニキスを俺は睨んだ。
あのぉ…お友達…だよね?
何の躊躇いもなく、この人、二人に向かって行ったよ? 秒で。
しかも、不敵な笑みを浮かべたままで。
杵で二人をぱっかーんと、すっ飛ばしたよ、この人…。
「…そうだな…。二人には悪いが…ここは、礎となっ」
「暫し待たれよ」
しかし、続く言葉は掌をこちらに向けて制したオニキスに遮られた。
「カラヲ、ニャンタ、ハムヲ、マリエル、レン。これよりのライザーの一言一句、一挙手一投足、いずれも何一つ欠ける事無く、記録せよ」
「お任せを!」
「任せるにゃん!」
「腕がなるぜぃ!」
「私に任せて!」
「おうよ!!」
ちょっと待ってぇ!?
後半の二人、何時、お空から戻って来たのおおおおおお!?
何しれっと、そっちに付いてんのおっ!?
しかも、めちゃくちゃ良い笑顔でサムズアップしてぇっ!!
無傷でぇっ!!
いや、もしかしたら打撲とかは…いや、マリエルが回復した!?
ねえ!? もしかして、変な方向で強くなってたの!?
今更だけどっ!
俺、こいつらと友達で良いの!?
≪えっとな、えっとな、最近と云うか、あのぷるぷるが来てからな…≫
≪うん、うん。そうだね。だって、僕嫉妬して欲しかったんだもん。だから、良いんだよ?≫
≪ほえ?≫
≪君にはもっと闇に染まって欲しかったし? そうしたら僕はもっと輝けるし?≫
おい、そんな脇で何か重要な会話してないか?
そこのゼブランな球体さん…。
てか、ぷるぷるって、何? ねえ?
まさか、俺とか言わないよな?
違うよな?
違うよね?
違うと言って?
「…ふ…。俺は…何時でも、どのような存在でも、独り…孤独なのだな…」
おぉう。
何、前髪掻き上げて言ってんの、俺ぇ。
何、流し目決めてくれてんの、俺ぇ。
「…前世で孤独だったのは、貴様のせいだと聞いた。貴様は、そんな俺をずっと嘲笑って居たのだろう? そんな俺が、貴様に堕ちて行くのを、貴様はどんな気持ちで見ていたんだ?」
は?
へ?
な、何言ってんの!?
光の精霊のせいだって!
オニキスは手が出せなくて、見て居るしか出来なくて…っ…!
「…ふむ…。そうだな…私は見て居た。そうと知りながら、何もしなかった。そして、それをそなたに話す事もしなかった」
おい!?
何を言ってんだ、お前!?
何で、何で、何で!?
「否定はしないんだな? それがお前の答えなんだな?」
何、もしかして、オニキスは…光の精霊を…止める事が出来た…とか…そう云うのか…?
手は出せない…って…嘘だったのか…?
いや、違うっ!!
そんな筈は無い…っ…!!
「否定も何も。それは、事実」
止めろっ!!
「ならば、消えろ!」
外へと出て庭へと回り込んだら、ハムヲが七輪の上に置かれた鍋から、甘酒を湯呑に掬って寄越して来た。
そのハムヲを筆頭に、庭には鍋の乗った七輪が幾つかあり、その周りではこの地に住む魔族がわらわらと談笑して居た。
あっちに居るのは、秋の稲刈りを手伝った奴らだな。
あっちのは、川で一緒に釣りをした奴らだな。
あっちのは…。
つか、これだけ七輪があるのなら、ファイヤードラム缶要らなくない?
「…なあんか、変な感じよね~…」
なんて思っていたら、マリエルがしみじみと呟いた。
「…ああ…。何で俺ら、戦っていたんだろうな…」
ずずず、と甘酒を啜りながらレンが頷く。
「仕方無ぇっすよ。それが、世の理って奴なんで」
世の理、か。
それで片付けてしまって良いのかと思うけど…。
けど、そうとでも思わなければ遣り切れない事もある訳で…。
オニキスのせいかは解らないけど、ここの奴らは皆、俺達に好意的だ。
そう、あの、情けなく憎き魔王のせいで。
「…ん…?」
あれ?
俺、今、何考えた?
「ライザー様~、最初の一振りはオニキス様と共にお願いしますー!」
首を捻る俺の耳に、カラヲの陽気な声が届いた。
「あら。今年初の夫婦の共同作業かしら?」
きょ、きょうどう…?
「ケーキ入刀みたいに言うなよ」
け、けえき…?
な、何か、結婚式みた…。
「あ、でも、既に共同作業はやってるかあ」
おい、マリエル!
「この性女が!」
全くだ!
今のは間違いなく性って聞こえたぞ!
「痛いっ!」
「何故、俺がそいつとそんな事をしなければならない?」
マリエルの頭に、レンが拳を落とした処で、俺は口を開いた。
…あ、れ…?
俺、何言ってんの?
周りが一気に静かになった。
「あ、あれぇ? ライザー君、ごめん。お姉さん、からかい過ぎた?」
「悪い、ライザー、こいつに悪気は無いんだ」
レンに首根っこを捕まれて、顔の前で両手を合わせるマリエルに、俺は鷹揚に頷く。
いや、待ってぇ!?
誰、この俺様!?
「そんなのは、解っている。何故、この俺が。そんな光に堕ちた魔王なぞと、そんな事をしなければならない? 角を失ったくせに、おめおめと生き恥を晒している奴と」
おっ、おっ、おっ、おおっ!?
ちょ、どうしたの!?
どうしちゃったの、お口さんっ!?
餅つき!
餅つきだよ!?
ぺったんぺったんどっせいやっちまったなの餅つきだよ!?
「えええ!? ライザー君、どうしちゃったの!?」
本当になっ!!
「らしくないぞ!?」
いいぞ、もっと言えっ!!
「ラララララララララッ!?」
歌うな、カラヲ!
「オオオオオニキス様!? ライザー様はどうしちゃったにゃん!?」
もっと突っ込んでくれ!!
「…ふむ…。闇の気配がする」
冷静だな、オニキス!!
がくがくとニャンタに揺さぶられながら、オニキスが顎に手をあてて、じっと俺を見て来た。
それより、闇?
闇って、何!?
「クククククク…その者は、我が闇に飲まれたのだ! 闇に堕ちた勇者は勇者に非ず!」
何!?
「は!?」
「へ!?」
何処からともなく沸いて出て来た闇の精霊に、マリエルやレンを始め、皆が…いや、オニキスは特に驚いた様子も無く俺を見ているが…オニキス以外は皆、驚いていた。
「フフフフフフフ…光のよ! オニキスよ! どうだ! 貴様等の愛し子が闇に、魔王になった様を見るのは!? 我が憎かろう!? 我を恐れよ! 我を崇めよ!! 我を称えよ!! クククククク……フフフ…ハーッハッハッハッハッハーッハッハッ…ッホッぶぅえほッんぶッ。うむ、むせた」
だから、むせるなよ!!
てか、魔王!?
俺、そんなのになった覚えは無いぞ!?
てか、魔族の王だから魔王なんじゃないの!?
違うの!?
「そうだ。俺は魔王になった。その証に見ろ!!」
何を!?
俺は片手を頭に耳の上辺りへと置いた。
そこはドクドクと熱く脈を打っている。
そこから何かが生えて来る感覚がする。
するじゃなくて、実際に、そこを突き破って何かが出て来ている。
「ライザー君!?」
「おま…っ…!?」
指の合間を縫って、ニョキニョキと生えて来た、何だか堅い物。
それは。
「角っ!? ライザー君、それ…っ…!?」
マリエルが、両手で口を隠して叫んだ。
「な、何だよ…どうなってんだ!?」
レンも、片手で鼻を押さえて叫んだ。
そして。
「いぃやああああああーっ!! 牡鹿のような角が、ぷるぷる震えていて可愛いーっ!! くっ、殺せ! くっ、殺せっ!!」
「おま…っ…! 反則だろ、それは…っ…!!」
「ライザー様! 後ろ姿を見せて下さい!」
「ライザー様! 尻尾はあるにゃん!?」
「ライザーの兄貴ィ! 角に、その角にハムを群がらせても宜しいッすかっ!?」
マリエルが身体を捩りながら叫び、レンが何故か鼻血を垂らしながら悶え、カラヲが両手を振って喚き、ニャンタが今にも俺に飛び掛かりそうな勢いでバンザイをし、ハムヲが懐からハムスターを取り出したりしている中で、庭に居た魔族達がパタパタと倒れて行っている。
…いや…これ、どんな状況なの? ねえ?
俺、角が生えたの?
牡鹿の角?
震えてる角?
何それ、怖いんだけど!?
「…ふむ…。確かに、魔王となるには十分な力を感じる…」
オニキスが肩に杵を担いだまま、空いていた手で顎を触りながら、落ち着いた様子で頷いてみせた。
「余裕だな? 旧魔王のオニキスよ。これからは、この俺がここを支配させて貰う。その為には、貴様の存在が邪魔なのだ。そうだろう? 闇の精霊よ」
ほげっ!?
「ふぁっ!? いや、お主、何を!? 我は、その様なつもりは無くて! お主が闇に染ま…っ…!!」
俺だけでなく、闇の精霊も身体を纏っている闇をポロポロと零しながら、慌てている。
…ん?
何か…これ…覚えがある様な…?
「いい、解っている。この生き恥を晒している旧魔王を倒し、俺が新たな魔王として君臨する。そうだろう?」
ほおおおおうっ!?
「ちが、ちが、違うのだ! 我は」
「良い。オニキスから見れば、断りも無く、俺を魔王にした貴様は裏切り者」
いや、話を聞けよ、俺っ!!
「ふぁああああああああああっ!?」
お前も慌てふためいて居ないで、何か言えよっ!!
「だが、安心しろ。オニキスを斃し、その憂い、この俺が見事に晴らしてやろう」
ひぎゃああああああああっ!?
いぃいやあああああああああっ!!
誰か…オニキス!
俺を助けろ! 助けて! 助けて下さいっ!!
お前なら解るよな!?
今の俺が普通じゃないってっ!!
「…ふむ…」
いや!?
何でそこで顎に指をあてて、難しい顔して考えてるの!?
ねえ!?
助けて!?
周りの奴らも、固まってたり、倒れたりしてないで何か言って?
ねえ、マリエル? 身を捩ってないで何か言って?
ねえ、レン? 鼻血出してないで何か言って?
ねえ、カラヲにニャンタにハムヲ? ノートやスケブを取り出して、何を書いているの? ねえ?
「おや~? おやおや~? 何だか面白そうな事になっているね?」
そう、何処かのどかな声を上げながらやって来たのは、光の精霊だった。
「うわあああああん~!! 光のおおおおおお~!! 助けてたもぉ~っ!!」
うおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいっ!!
お前が泣きつくのかよおおおおおおおおっ!?
泣きつきたいのは、俺だからね!?
「うん、うん。良い具合に光と闇が融合しているね? その闇を取り除くのは僕には無理だよ?」
抱き着いて来た闇の精霊の頭(の部分)を撫でながら、光の精霊が底抜けに明るい声で言った。
「ふえ?」
光の精霊や、闇の精霊には顔は無い。無いが、俺には、光の精霊が途轍もなく、爽やかな笑顔を浮かべている様に見えた。
そして、闇の精霊は情けなさ大爆発で、号泣している様に見える。
いや…精霊達ェ…。
…てか…融合って何…?
何…俺、ずっとこのままなの?
「…光の精霊よ…それは真か?」
お? おお?
オニキス、何か考え付いたのか?
流石は、極悪非道な…って、だから、何を考えてんの、俺ぇっ!?
嫌だぞ、俺、こんなのはっ!!
こんなんなら、まだ勇者の方がマシだっ!!
「それが真として、何の不都合がある? ほら、掛かって来いよ。それとも、角が無いから戦えない等と情けない事を口にするつもりか?」
いぃいいいいいいやぁあああああああああっ!!
何、目を細めて口の端上げて、右手を前に出して人差し指くいくいカモンしてるの、俺ぇっ!?
「あわ、あわ、あわ…」
「んー。取り敢えず、一つになろうか? そうすれば、君が何を考えてこうしたのか解るし、ね?」
「え。あ、う、あ、あわ、あわ!! 嫌じゃあ~っ!!」
そこぉっ!!
何、暢気に合体してんだよおおおおおおおっ!?
光の精霊は、この場を鎮めに出て来たんじゃないのかよおおおおおおおっ!?
何しに出て来たんだよ、お前ええええええぇっ!?
もう、うえぇいってなっちまうぞ、俺ぇっ!!
そんな事を思ったせいか、俺のお馬鹿なお口さんはとんでもない事を口にしてくれた。
「ふ…。俺一人では満足出来ないと? 良いだろう。来い、レン、マリエル」
「え?」
「へ?」
俺の呼び掛けに、二人が目を丸くした。
「あの日の再現だ。いや、あの時以上にお前達は力を付けている。そうだろう? だから…」
そこで俺は一度言葉を区切り、二人の顔をそれぞれ見て、口を開いた。
「来い、レン、マリエル」
◆
「ひきゃあああああ――――――――………」
「うわああああああ――――――――………」
そして、速攻で二人は空の彼方へと飛んで行った。
退場早過ぎぃいいいいいいっ!!
「…貴様…」
「…ふむ…。私は、そなた一人相手が不服だと口にした覚えはないのだが。勝手に話を進めてくれるな」
二人を見送った後、杵で二人を空の彼方へとぶっ飛ばしたオニキスを俺は睨んだ。
あのぉ…お友達…だよね?
何の躊躇いもなく、この人、二人に向かって行ったよ? 秒で。
しかも、不敵な笑みを浮かべたままで。
杵で二人をぱっかーんと、すっ飛ばしたよ、この人…。
「…そうだな…。二人には悪いが…ここは、礎となっ」
「暫し待たれよ」
しかし、続く言葉は掌をこちらに向けて制したオニキスに遮られた。
「カラヲ、ニャンタ、ハムヲ、マリエル、レン。これよりのライザーの一言一句、一挙手一投足、いずれも何一つ欠ける事無く、記録せよ」
「お任せを!」
「任せるにゃん!」
「腕がなるぜぃ!」
「私に任せて!」
「おうよ!!」
ちょっと待ってぇ!?
後半の二人、何時、お空から戻って来たのおおおおおお!?
何しれっと、そっちに付いてんのおっ!?
しかも、めちゃくちゃ良い笑顔でサムズアップしてぇっ!!
無傷でぇっ!!
いや、もしかしたら打撲とかは…いや、マリエルが回復した!?
ねえ!? もしかして、変な方向で強くなってたの!?
今更だけどっ!
俺、こいつらと友達で良いの!?
≪えっとな、えっとな、最近と云うか、あのぷるぷるが来てからな…≫
≪うん、うん。そうだね。だって、僕嫉妬して欲しかったんだもん。だから、良いんだよ?≫
≪ほえ?≫
≪君にはもっと闇に染まって欲しかったし? そうしたら僕はもっと輝けるし?≫
おい、そんな脇で何か重要な会話してないか?
そこのゼブランな球体さん…。
てか、ぷるぷるって、何? ねえ?
まさか、俺とか言わないよな?
違うよな?
違うよね?
違うと言って?
「…ふ…。俺は…何時でも、どのような存在でも、独り…孤独なのだな…」
おぉう。
何、前髪掻き上げて言ってんの、俺ぇ。
何、流し目決めてくれてんの、俺ぇ。
「…前世で孤独だったのは、貴様のせいだと聞いた。貴様は、そんな俺をずっと嘲笑って居たのだろう? そんな俺が、貴様に堕ちて行くのを、貴様はどんな気持ちで見ていたんだ?」
は?
へ?
な、何言ってんの!?
光の精霊のせいだって!
オニキスは手が出せなくて、見て居るしか出来なくて…っ…!
「…ふむ…。そうだな…私は見て居た。そうと知りながら、何もしなかった。そして、それをそなたに話す事もしなかった」
おい!?
何を言ってんだ、お前!?
何で、何で、何で!?
「否定はしないんだな? それがお前の答えなんだな?」
何、もしかして、オニキスは…光の精霊を…止める事が出来た…とか…そう云うのか…?
手は出せない…って…嘘だったのか…?
いや、違うっ!!
そんな筈は無い…っ…!!
「否定も何も。それは、事実」
止めろっ!!
「ならば、消えろ!」
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しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
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【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
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*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
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初恋はおしまい
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高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
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