神様には頼らない

三冬月マヨ

文字の大きさ
上 下
12 / 29

魔王様助けて・前編

しおりを挟む
「来い、レン、マリエル」

 俺の呼び掛けに、目を丸くしている二人が、戸惑いを見せている。

「…マリエル様…貴女の力が必要なのです。どうか、愚かな私に力」

 少し目を伏せて、寂しげに微笑んで見せる俺。

「私に任せて!」

 ちょろいな、マリエル!

「おい! マリエル!!」

 颯爽と俺の隣に並んだマリエルに、レンが舌打ちをするが。

「…なあ、レン? お前にその気があるなら、俺は何時でも受け入れてやるぞ? いい加減、そこの男に飽き飽きして」

 前髪を軽く掻き上げて、気持ち顎を上げて、着物の合わせ目に手を入れて見せる俺ぇ。

「お前がそう言うなら、仕方が無いな!!」

 おい! レンじぃっ!!

 これまた颯爽と俺の隣に並んだレンに、今度は俺が内心舌打ちをした。

「…ふ…。これで、3体1だな? 旧魔王のオニキスよ。永の因果、この俺が断ち切ってやる! この、光に愛され、その光により深淵を味合わされ、闇に救われた、真・勇魔王ライザー・N・ノイエが!」

 右手を高く掲げたら、何処からともなく、オニキスにパチュンされた聖剣が沸いて出て来た。

 ぁぐっ、ぉぐっ、吐くっ!
 真って何!?
 勇魔王って何!?
 何で聖剣出て来たの!?
 ってか、どっからN出て来たの!?
 のぼるのNなの!?

「…ふむ。良かろう。掛かって来るが良い」

 オニキスが不敵な笑みを浮かべて、俺達を見て来た。

 何で、やる気満々なの!?
 ねえ!?
 どうして、こうなったの!?

 何て、俺の心の叫びが届く筈も無く。
 餅つき大会の会場となっている、オニキス屋敷の庭は戦場となった。

≪あーわー、どうしょ…≫

≪うん、うん、いい感じだね~≫

 そんな暢気な元凶達の声が、冬の寒々とした青空に響き渡った。

 ◆

「ちぃっと魔王やってみない?」

「…いや…。いきなり、人の夢の中出て来て何言ってるの…」

 初夢の見なおし!
 と、布団に倒れ込んで良い具合にレム睡眠に落ちた処で、それがやって来た。
 めちゃくちゃ軽いノリで。

「お主、良い魔王になると思うぞ? ん?」

 夢の中、何だかふわふわした草原に座っている俺の前で、人の形をした闇の精霊が黒い輪郭をゆらゆらと揺らめかせている。
 良い魔王って何だよ?

「いや、興味無いから。大体、俺勇者だし。うん、お腹いっぱい」

 頭の後ろに手を回して、柔らかな草の上に寝転がって目を閉じる。
 うん、寝よう。
 これも悪夢で良いや。
 頼むから良い夢を見せてくれよ~。

「…ククク…。その油断が命取りよ…」

 …羊が一匹…、二匹…。

「…良い事を教えてやろう…」

 …なな…はち…。

「…お主が、過去世で孤独だったのは、光の精霊のせい…」

 …11…12…。
 んあ…? 別に、もうどうでも良いけど…今は皆が居るし…。
 …オニキスが居るし…。

「…そして、それを知りながらも傍観していた、我が愛し子のせい…」

 …オニキスが一匹…いや、一人…二人…。

「…お主がオニキスと呼ぶ、ンゴレヲメピョンゴのせい…」

 …11…12…んご…?

「待って!? 何、その名前!? それ、人名なの!?」

 思わず俺は飛び起きて、闇の精霊をガン見した。

「…うぬ…喰いつくのはそこか…。まあ、良い。そう、ンゴレヲメピョンゴ。それが、我の愛し子の失われた名よ」

「ンゴリャ…」

「ンゴレヲメピョンゴだ」

 俺は思わず額を押さえた。
 名前を付けた時のオニキスの喜んだ顔が浮かぶ。

 …いや…そりゃ…オニキス…喜ぶ筈だよ…。
 オニオンでも喜んだよ、きっと…。
 ンから始まる名前って何だよ…しりとり出来ないだろ…。
 いや、んで終わったら駄目だから、出来るのか?

「愛し子が生まれた時に、あやつの両親から頼まれたのだ。名を付けて欲しいと」

「お前が付けたの!?」

「うむ。泣いて喜んでおったわ」

 …泣いて嫌がったの間違いじゃ…?
 てか、ニャンタやハムヲと云い、こいつらのネーミングセンスって、どうなってんの?

「うぬ。まあ、それは置いておくとして。憎かろう? 光のが。そして、ンゴレヲメピョンゴが」

「憎い? 何で?」

 俺は思い切り首を傾げた。

「む。話を聞いておらんかったか? お主が、孤独だったのは光のがそうなる様に仕向けたからで、そして、それを知りながら、ンゴレヲメピョンゴは放置しておったのだ」

「うん。それは聞いた。けどさ? ンゴレンメビンゴ、止めない? オニキスって名前があるんだから」

「ンゴレヲメピョンゴだ。これだから人の子は」

「オ・ニ・キ・ス!! 俺が、あいつに付けたの! それがあいつの名前なの! それ以外の名前は要らない!」

 あいつに名前をやった時、喜んだんだ。
 二度目にあげた時だって、めちゃくちゃ喜んでくれて、俺をめちゃくちゃにしてくれやがったんだ!
 そんなンゴなんたらなんて名前は必要無い!

「ん、む…駄々っ子か…」

 何とでも言え。

「ともかく。過去世のお主が孤独だったのは、仕組まれた物。光のが関わらなければ、お主は豊かな人生を送る事が出来たのだ。或いは、オニキスが傍か…」

「いや、だから。もう、終わった事だし。オニキスが傍観ったって、手を出す事は出来なかったんだろ?」

 …何か、パチュンしてたけど…アレはオニキスも予期してなかったみたいだし、光の精霊、直ぐに復活してたし。

「…んぬぬぬ…。何故、憎まぬ!? 何故、恨まぬ!? 何故、妬まぬ!?」

 ゆらゆらと、闇の精霊が身体を震わせて叫ぶ。
 その度に、その輪郭をかたどった闇がぽろぽろと零れて行く。

「いや、憎むって何を? 恨むって何を? 妬むって何を? そうして何かが変わるのか? 変わったとして、ろくなもんじゃないだろ?」

 うん。
 そんな物要らない。必要無い。
 そんな事をして何が楽しいって云うんだ?
 誰が喜ぶって云うんだ?
 余計に嫌われるだけだろ?
 ただでさえ、嫌われていたんだ。
 なら、それ以上嫌われない様にするだけだろ?
 誰かが嫌な思いをしない様に。
 誰かに嫌な思いをさせない様に。
 そう気を付けるだけだ。
 ギスギスしてたら、余計に周りもギスギスするだろ?

「…いや…。…お主は本当に…。ああ、いやいや! いやさ! 我が絆されてどうする! 我は怒っておるのだ! 愛し子だけでなく、光のまで骨抜きにしおって!!」

「精霊って骨あるの? 俺、骨抜いた覚えないけど?」

「うぬ、うぬ、うぬっ!! その頭割って中を覗きたいわっ!!」

「純粋な疑問だろ!?」

「うんぬぅっ!! ともかく、お主は闇に堕ちるのだっ!! 我がそう決めたのだ! お主から光が消えれば、光のはまた我を見るし、愛し子も、我を見る様になるのだ!!」

「んん? それ、承認欲求って奴? いいねとかいっぱい貰いたい人?」

「黙れ黙れ黙れっ!! 堕ちるが良いっ!!」

 闇の精霊がそう叫ぶのと同時に、人の形を保っていた闇が崩れて、俺の方へと伸びて来た。

「え? へ? うわ!? あ~れ~っ!?」

 その闇に飲まれながら、俺はただ叫んだ。

「深淵の闇に飲まれるが良い! 闇に堕ちたお主等、誰も見向きもせぬわ! ククク…フフフ…ハーッハッハッハッハッハーッハッハッ…ッホッゴホッ。うむ、むせた」

 むせるのかよ!
 呼吸器官あるのかよ!
 てか、『あ~れ~!』って、言ってしまったよ、トホホ…と思いながら、夢の中での俺の意識は途絶えた。

 ◆

「…んあ…?」

 目を開けたら、すっかり見慣れた木目の天井が見えた。
 朝の光が障子越しに部屋を照らしている。
 何か、変な夢を見た気がする…。
 どんな夢かは思い出せないけど。

「んー…?」

 もぞもぞと、布団の中の手を動かす。
 が、手に触れる温もりは何も無かった。
 …何だよ、居ないのかよ。

「布団、あいつが掛けてくれたのか…」

 目を擦りながら身体を起こして部屋の中を見る。
 着ていた筈のドテラは布団の上に置かれていた。
 食べたまま放置してた筈のお膳は綺麗に片付けられていた。
 部屋に幾つかある火鉢の上には、水の入った鍋が置かれている。
 一つを覗くと並々と入っているから、鍋を置いてそれ程時間は経っていないのか?
 そっと指を入れてみれば、微妙に温い。
 訂正。それなりに時間は経っている様だ。

「…おお、さぶい」

 ドテラを羽織って部屋から出れば、そこは雪の積もった銀世界が広がっていた。
 朝日に照らされた白い雪が眩しい。
 裸足で廊下を歩いて行く。
 目指すは、レンやマリエル達が居る囲炉裏のある居間だ。
 除夜の鐘(?)の時に見たのが最後で、昨日は丸一日部屋に籠ってしまっていたからな。
 友を放置してしまった事を謝らないと。
 いや、そうなった原因はマリエルだった。
 ぱっくんちょとか言い出したマリエルが悪い。
 全く、なんて聖女様なんだ。
 たまに『性女』と、レンが口にしている様な気がするが、気のせいでは無いのかも知れない。

「あー、ライザー君おはよー」

 マリエルが、囲炉裏で焼いた団子を手に挨拶をしてきた。

「お前も食べるか?」

 レンが、囲炉裏の中の灰を掻き分けて焼き芋を取り出した。

「ああ、おはよう。昨日は悪かったな…お前らだけか?」

 居間には、マリエルとレンの姿しか無かった。
 オニキスやあばば組はどうしたんだろ?

「んーんー。昨日は私もレンも二日酔いで潰れてたから、気にしないで。お団子食べる?」

「オニキス達なら、餅つきやるって言って、その準備をしてるぞ。ほれ」

 マリエルが笑いながら、囲炉裏に刺していた団子を俺に差し出し、レンが手にした焼き芋を二つに割って、その片方を俺に差し出して来た。

「餅つき?」

 焼き芋と団子を手に、腰を下ろして首を傾げた。

「うん。カラヲ君が新年と言ったら餅つき! って騒ぎだしてね~」

「それにニャンタも同調して、で、オニキスが解った解ったって二人を宥めて」

 ガキかよ、あいつら。
 …オニキスって、嫁じゃなく、お父さんだった?

「ふうん…しかし、日本に居る感覚になるな…」

 串に刺さった団子を頬張りながら呟けば。

「ああ、カラヲ君も前世は日本人だったって言ってたわよ」

「ニャンタはアメリカだったって」

 それぞれが団子や芋を食べながら返事をしてくれた。

 おお。
 前世率高いな…。
 それとも類友効果なのか?
 いや、それってどうよ?
 俺は普通、俺は普通。
 あいつらみたいに真っ裸で走り回らないし。

「ぅ兄貴ぃ~、これ何処に置きやす~?」

 ん?
 この野太い声はハムヲ?

「お汁粉は作って良いのー?」

「とん汁はー?」

「大根餅作るー?」

 障子の向こうが何やら騒がしくなって来た。

「準備出来たにゃ! 餅つきやるにゃ!」

 と、思ったら、勢い良く障子が開けられて、冷気が室内に入り込んで来た。

「さっさささっさっささむっ!!」

「うおー、一段と冷えるなっ!!」

 マリエルとレンが、大げさに自分の身体を抱き締めて騒ぎ出す。
 お前ら、どれだけぬくぬくと過ごしてたんだ…。

「焚き火も用意してあるにゃ! 甘酒もあるにゃ!」

 冷気と共に部屋に入り込んで来たニャンタが、両手を広げて庭を振り返る。

 そう言われて外を見れば、ドラム缶が火を噴いていた。
 その周りにあったと思われる雪は溶けて蒸発した様だ。

 …それ、焚き火って言うか?
 焼き芋なんか即消し炭になる勢いだぞ?

 その焚き火から離れた場所には、ゴザが敷かれていて、その上には臼が置かれている。
 脇には多分、水の入った桶と、杵を担いだオニキスが立っていた。
 たすきで着物の袖を捲っている。
 その立ち姿に、ちょっとイラッとした。

 …ん? 何で?

 そんな疑問は、愉快そうにあげられた声に掻き消された。

「あらあら。色男はどんな格好も似あうわねえ~」

 ドテラを着たマリエルが、そう言いながら土間へと向かう。

「餅つきなんて、前世振りだな~」

 と、レンもドテラを羽織りながら土間へと向かった。

 当然、俺は前世でも餅つきの経験は無い。
 わくわくしながら、マリエルとレンの後へ続いて玄関である土間へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役にもハッピーエンドを

三冬月マヨ
BL
ゲーム世界のシナリオを書き換えていたら、原作者に捕まりました。

神様お願い

三冬月マヨ
BL
俺はクリスマスの夜に事故で死んだ。 誰も彼もから、嫌われ捲った人生からおさらばしたんだ。 来世では、俺の言葉を聞いてくれる人に出会いたいな、なんて思いながら。 そうしたら、転生した俺は勇者をしていた。 誰も彼もが、俺に話し掛けてくれて笑顔を向けてくれる。 ありがとう、神様。 俺、魔王討伐頑張るからな! からの、逆に魔王に討伐されちゃった俺ぇ…な話。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

ほだされ兄貴とわんこ舎弟。

有村千代
BL
<あらすじ> コワモテだけど、不破龍之介はごく普通の男子高校生…だったはずなのに。 新入生の犬塚拓哉との出会いから一変? 犬塚は不良に絡まれていたところを助けてくれた恩義に、不破の舎弟になりたいと申し出たのだった! まるで子犬のように慕ってくる犬塚。「シモの世話でもしてもらうか」と意地悪に言ったって受け入れる始末で――って! なにドキドキしてんだ、俺!? 受けへの溺愛が止まらない☆とびきりキュートな甘々ラブ!! 【ほだされコワモテ男×健気なラブリーわんこ(高校生/先輩×後輩)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※ストーリーを味わうというより、萌え・癒しを感じたい人向けです(ひたすらピュアで甘々) ※全30回程度(本編5話+番外編1話)、毎日更新予定 ※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】

ペイン・リリーフ

こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。 優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。 記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。 ★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*) ★素敵な表紙は らテて様✧︎*。 ☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

処理中です...