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神様には頼らない・前編
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パチュンパチュン、スプラッタ再び。
血飛沫の舞う、爽やかな青空の下からこんにちは、ライザーです。
実況は不詳ながら、この元勇者ライザーがお送り…。
「ちょっと、ライザー君! 遠い目してないで、アレ、何とかしてよおっ!!」
血飛沫を浴びながら、マリエルが高い澄んだ声で歌っています。
「そうだぞ! 何で13日の〇曜日やら、エ〇ム街の悪夢やらを実体験しなきゃならないんだよ!? いや、バイオでハザードか!? とにかく! アレをどうにか出来るのは、お前だけだろ!?」
同じく内臓を浴びながら、低い声でレンが歌っています。
「ハ、ハ、ハ! ドウニカデキルナラ、トックニヤッテマスゼ、ダンナガタ!」
「何のドラマよ、それ!?」
「現実逃避するなーっ!!」
いやー…したくなるよな…?
なんで、こうなったんだろな?
俺は鼻歌でも歌ってそうな、現実逃避の原因を作っている"アレ"こと、オニキスを見た。
オニキスが指を鳴らす度に、魔物がパチュンパチュン弾けて行く。
その度に俺達…俺とレンとマリエルが、びちゃんびちゃん景気良く血と内臓塗れになる。
最初は何とか避けようと頑張ったさ。
だけどな?
避ける方、避ける方に、狙ったかの様にスプラッタされた物が飛んで来るんだよ。
人間、諦めって肝心だよなー…と、俺は二人より先にギブアップした。
諦め切れない二人は、今もギャーキャー騒いでいる。
俺より年上なのに、元気だよなー…。
取り敢えずは頭に乗った内臓とか、顔に付いた血を拭いながら、俺はオニキスの後に続いて行く。
俺達が今居るのは、かの魔王城がある広大な森の中だ。
目的地は、魔王城。
その中にある、闇の精霊の住む場所へと移動出来ると云う、ど〇でもドア、もとい、門だ。
そんな物があるなんて知らなかったな。
初めてここへ来た時は、とにかくオニキスを…魔王を倒す事しか、頭に無かったからな…。
それが、今ではその魔王が仲間と云うか…その…まあ…何と云うか…アレなんだよな…。
その…アレだよ、うん。
アレと云ったら、アレなんだよ、そう、アレだ。
まあ、良いか。
とにかく、何故、今俺達がそんな場所に居るのかと云うと、闇の精霊に殴り込みを掛けに行く為だ。
事の発端は、オニキスのアレ発言の日に遡る。
アレ発言にパニクった俺が、オニキスの腹に飛び膝蹴りかまして逃げたあの日。
◆
「何故、逃げるのだ? 恥ずかしがる事は無いと云うのに」
逃げるわ、ボケェッ!!
勝手にプロポーズされた気になって、勝手に夫婦とか言ってんじゃねえっ!!
俺は知らないし、認めてないしっ!!
セッ…セセセセセセ…クロスだって、魔剣の支払いだしっ!!
夫婦の営みって訳じゃないしっ!!
それに、突っ込まれる方が嫁なら、俺、嫁なのか!?
俺が、嫁!?
アホかーっ!!
ったく、どの顔がそんな事を言ってんだよ!?
と、俺の後を付いて走って来るオニキスを振り返ると。
…何か…顔青いな…てか、そんな青い顔して笑うなよ。
ついでに言うなら、口の端から血ぃ垂らしてんなよ。
怖すぎるだろ。
俺、ホラー嫌いだって言ったろ?
てか、何で血ぃ出してんだ?
よくよく顔を見たら、玉の様な汗が浮かんで…って、脂汗かっ!?
そう思った途端、走っていたオニキスがパタリと前のめりに倒れた。
何の予兆も無く倒れるとか、お前はウサギかっ!!
「…っ…! オニキス…ッ…!!」
俺は慌てて、倒れたオニキスに走り寄って、俯せに倒れた身体を仰向けにさせる。
まさか、あの蹴りで内臓でもやられたとか!?
まさか、骨折れて、内臓に刺さったとか!?
アホか!! 回復魔法使えるんだろ!!
「おいっ! この馬鹿が!! 早く回復しろっ!!」
「…そなたからの…痛みは…至福故…自然治癒に…」
「アホかあああああああああっ!!」
こんの変態があああああああああっ!!
息も絶え絶えに何を抜かしてんだっ!!
って、どうする!?
俺、回復魔法使えないし、回復薬持ってないしっ!!
どうする、どうする!?
薬草、そこらに生えて…。
薬草を探そうと、腰を浮かし掛けた時。
「私に任せて、ライザー君!!」
その声と同時に、オニキスの身体が淡い緑の光に包まれた。
聖女が使う癒しの光だ。
それは俺が知っている物よりも、各段に威力が上がっている様に思えた。
「聖女マリエル!?」
「俺も居るからな!!」
その声と同時に、辺りの草が薙ぎ払われて…いや、これ要るか?
オニキスが草に埋もれたんだけど?
ねえ、息出来てる? これ?
「剣士レン!?」
オニキスのピンチに現れたのは、山小屋の外でのびていた筈の二人だった。
…二人とも、復帰力ぱないな。
聖女は、まだ髪はチリチリで服も黒焦げだけど…。
剣士は、何故か唇がタラコになっているけど…。
「…助かった、礼を言う」
俺は立ち上がって二人に礼を述べた。
「お礼なんて要らないわよ。困っているライザー君を放って置けないもの」
優しく、ふんわりと微笑む聖女の言葉に、俺は頭を掻く。
やっぱ、優しいよなあ…。
って、何か喋り方が変わってないか?
「そうだぜ! 仲間だろ、俺達!」
いや、何、胸を張ってるんだ。
お前は何もしていないだろ。
てか、オニキスを窒息死させようとしただろ。
けど、仲間か…。
道を違えた今でも、そう言ってくれるのか…。
ちょっと…いや…かなり嬉しい…。
涙が出そうになるのを、俺は堪える。
俺は男だからな。
男は人前では泣かないんだ。
何て思っていたら、むくりと草の山が動いた。
「…余計な事を…」
口の端に付いた草を取りながら、オニキスが言う。
「貴様、助けて貰ってそれは何だ?」
オニキスの顔色が元に戻っている。
流石、聖女の癒しの魔法だ。
「そなたに介抱して貰う機会を潰されたのだ。何故、礼を述べる必要がある?」
うお…。
流石ストーカー、身体張ってまで何してんだ。
「私は、私に出来る事をしただけよ。あなたに聞きたい事があるの。その前に死なれたら、追って来た意味が無いわ」
…追う…?
え?
聖女は魔王のストーカーだったの?
「ああ。何で俺達を殺さなかった?」
あ。
それは俺も気になった処だ。
だが、オニキスは『大切な仲間』だと『良い仲間に恵まれたな』としか、言わなかった。
けど…こいつら、角も無いし、髪だって短くなったオニキスを魔王だと確信…もするか…。
あの時、何時からかは知らないけど、意識はあったって言って…。…それ…聖女も…?
俺の変な声、聖女にも聞かれていた?
いや、まあ、昨日ばっちりと見られたし…今更と云えば今更だけどさ…。
ぶわわと顔に熱が集まって来る。
いや、落ち着け、俺。
「…下らぬ」
二人を一瞥して放ったオニキスの冷たい声に、顔の熱が引いて行く。
「行くぞ」
「あ、おい…っ…」
オニキスは俺の肩に手を置いて歩き出そうとする。
「…ライザー君の仲間だから? 本当に、それだけなの?」
「ただ、それだけで殺さなかった? お前が? 魔王のお前が?」
…ああ、聞いていたんだな…。
縋りつく様な二人の声に、オニキスが足を止めて小さく舌打ちをした。
ん?
こいつでも舌打ちするのか。
…それは…その言葉の他に、何かあるって事か?
…それほど、聞かれたくない事なのか?
「…下らぬ。二度も言わせるな」
しかし、それでもオニキスはそれ以上の事は言わなかった。
今度こそ、二人に背を向けて歩き出そうとした時、俺達の目の前の地面が弾けた。
…は…?
パラパラとハラハラと、抉られて舞い上がった土が、空から降り注いで来る。
「…何の真似だ…?」
俺は身体ごと二人に向き合った。
聖女が、世界樹の木の枝で作られたロッドを俺達へと向けていた。
ロッドの頭に埋め込まれているのは、魔力増強の魔石か? え? そんなの、何時、手に入れたの? 決戦の時は無かったよな?
何時も穏やかに微笑んでいる筈の顔は、今は冷たく、底冷えしそうな程の冷たい目で俺を、いや、オニキスを睨んでいる。
…ちょ…。
怖いんだけど…。
何なら、小刻みに足が震えてるんだけど…。
聖女の隣に立つ剣士も、手にした剣の切っ先をオニキスへと向けてるし…。
めっちゃ、ガン飛ばしてる…。
「…話したくないなら、それはそれで良いわ。けどね、許せないのよ」
「ああ、許せねえな」
ロッドを、剣先をオニキスに向けたままで、その瞳に闘志の炎を宿して、二人は言った。
「…こいつが生きている事が、か? あの時の会話を聞いていたのなら、解るだろう? こいつを殺した処で…」
意味は無いと、許さなくて良いから見逃してくれ、と言おうとしたのだが。
「嫌がるライザー君の処女を奪った事よっ!!」
「その上、昨日もだっ!!」
ちょっと待ってえっ!?
そっち!?
そっちなの!?
「レイプは犯罪よっ! 身体を堕として、快楽漬けにしてライザー君を手に入れたつもり!?」
聖女様がそんな言葉使っちゃ駄目ーっ!!
てか、俺、漬かってないからっ!!
「そんなのが許せるか!? 俺のライザーを、よくも…っ…!!」
お前のじゃないし!
俺は俺のだし!!
「…それがどうした? 俺は、こいつを見張っているだけだ。魔剣の礼もあるし。それに、あの時はそうかも知れないが、それ以降は合意だ」
口ぃいいいいいいいっ!
要らん事をベラベラ言わないでぇっ!!
「なっ!?」
「そ、んな…!?」
二人が大きく瞳を見開いて、地面に力なく座り込んだ。
「…ラ…ライザー君が…何かのお礼に身体を使うだなんて…そんな…ビッチな…」
聖女がビッチ言うな!
てか、オニキスだけだぞ!?
いや、ビッチって全世界共通の言葉だったの!?
「…もう…俺達の知るライザーは…居ないのか…あの、手淫すら知ら無さそうな純真無垢な…」
いやいやいやいや?
俺、ちゃんと、自分でちんこ弄ってたからね?
純真無垢じゃないからね?
そんなの、唯の不能だからね?
「…行くぞ」
「…お前達とまた会えて嬉しかったよ…じゃあな…」
そう言って歩き出す俺達の後ろからは、嗚咽が聞こえていた。
…悪いな…。
勇者じゃなくなった俺を、仲間だって言ってくれた事、嬉しかったよ…。
何て、ちょっぴし感傷に浸りながら、街に着いて飯食べて宿を取ってさ。
風呂入って、さあ、寝るかってなったらさ。
「…っ、ま、待て…っ…! 貴様、怪我は!?」
何で、俺、押し倒されてんの?
「見事に完治した。刺さってた骨も元通りだ」
あ、良かったね?
でもね?
昨日もしたよね?
何で、そんなに元気なの?
ねえ?
俺、布団被ってたよね?
察して?
俺、ちょっとナイーブなの。
放っておいて欲しいの。
何で、風呂から出て来て、さも当然の様に布団剥いで、俺の上にのし掛かって来るの?
何の剥ぎ取りチャンスなの?
オニキスは既に剥ぎ取られているけどね?
「また、折られたく無かったら、今日は大人しくしていろ」
おお、お口さん素直。
「明日は相手してやる」
おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
何で、そうなるの!?
どうして、続きがあるの!?
「…断る。あの男に触らせたまま等と我慢ならぬ」
ほ?
「唇と、男根」
ほおおおおおおおおおおっ!?
すっかりと忘れていたよっ!!
その後のこいつの発言が、余りにもあんまりだったから、記憶からデリートされていたよっ!!
せっかく忘れていたのに、思い出させるなよっ!!
「それだけでか? 醜い独占欲だな」
おいいいいいっ!!
煽るな、口ぃっ!!
大人しくして、良い子だから!!
「醜くて良い。そなたは、私のものだ。私以外に触れさせる事は許さぬ」
そう言いながらオニキスは俺の唇を親指の腹でなぞり、膝頭を俺の股間へと押し付けて来た。
その金色の瞳に宿るのは、嫉妬の炎なのだろうか?
…嫉妬…やきもち…か…。
俺、誰かや何かにそんな気持ち持った事あったかな?
誰かを好きになると、そんな気持ちを持つのかな?
聖女とのムニャムニャだって、勇者は聖女とって云う暗黙の了解みたいなのがあったから…。
だから…俺…。
…ああ…駄目だな…。
…そんなの、ただ流されてるだけ…。
…ただ…ヤりたかっただけ…。
…そんなの…良くないよな…。
…何だかんだで…聖女の誘いを断った口は紳士だったって事なのかな…。
…何だよ、それ…。
…何で、今になってそんなのに気付かされるんだよ…。
「…なら…教えてくれよ…。…何で…二人を…殺さなかった…?」
何だか泣きそうになって、左腕で顔を隠して俺はそう言った。
何か、口素直だな…。
「…一度しか言わぬ…」
オニキスはそう言って俺の身体を抱き起こす。
「…少々気恥ずかしいのでな…」
恥ずかしい?
こいつでも、そう思う事があるのか。
何て思っていたら、身体の向きを変えられて、胡坐を掻いたオニキスの上へと座らされた。
…いや…ケツにちんこが当たってるんですが…。
…顔見られたくないなら、俺に背中向ければいいのに。
何で、こうやって抱き締めるんだよ。
まるで俺を慰めるみたいにさ。
後ろから腕を回されて、その手で腹を撫でられる。
ゆっくりと。
その手付きが余りにも優しくて。
俺はそっと背中を、その胸に預けた。
「…あの二人は…そなたを好いておる…。私は…あの日に、そなたに殺されるつもりだったのだ」
そのせいかどうかは知らない。
先刻までの冷たい声は消えて、優しい声に変わっていた。
その独白に、ただ耳を傾ける。
口を挟んだら駄目な気がした。
「…私が死んだ後は、二人の内のどちらかと結ばれれば良いと思った。…ただ…まあ…やはり、未練が勝ってな…そなたに無体を強いた。許せとは言わぬ。ただ、その身体が欲しかったのだ。気持ちは…心は貰えなくとも、せめて…その温もりをと…。その熱を持って…逝きたくなったのだ…」
…何だ、それ…。
随分と勝手な言い草だな…。
「…ずっと、そなたを見ておったよ…。そなたが、今のそなたになる前から…」
…ん?
今の俺?
「…過去世から…」
過去…?
え?
前世って事か!?
前世から、こいつストーカーだった!?
どんだけだよっ!?
「…隠れて泣くそなたの涙を、幾度拭いたいと思った事か…。…震えるその小さな身体を、幾度抱き締めたいと思った事か…」
お…おおお…。
な、何か、また逃げたくなって来た…。
いや、逃げちゃ駄目だ。
話を聞かないと。
ポンと頭に手を置かれて、撫でられた。
…何故…?
「…良くぞ…あの生の中で頑張ってくれたな…」
…あれ…?
…何か…あれ…?
この感じ…?
静かで優しくて…慈しむ様な…この声…。
顔は見えないけど…多分、きっと…表情も同じ筈…。
…何時だったか…何処かで…?
…何処で…?
…いや…?
デカくてゴツゴツした手…こんな手…今世の母さんの手とも父さんの手とも違う…。
まあ、前世では撫でられた事なんか無いけどさ…。痛みしか貰ってないし…。
こんな手は…前世でも…今世でも…知らない、よな?
なのに…何か…懐かしいなんて…何だ、これ?
…ストーカーパワーか?
「…また…そなた達は…倒れておる魔物にも、魔族にも手は出さなかったからな…」
ん?
話が飛んだ…いや、戻ったのか…?
「…これまでの勇者とも、その仲間とも、そなた達は違った。…それが…嬉しかったのもあるな…」
いや…?
だって、そんな死人に…死体に鞭打つ事なんて、普通しないよな?
そんな、死者への冒涜なんて。
「…戦いの場に、動けぬ者は不要。斃れて動かぬ仲間を踏み付ける勇者も居ったよ。魔物や魔族の死体等、さもあらん。そなた達は、何もかもが…これまでの勇者達とは違ったのだよ」
…それなら…お前だって…。
お前は…聞いて来た魔王の話と違うじゃないか…。
…冷酷無比で…倒した勇者や仲間の遺体をわざわざ人間の街や城へ送り返して、絶望を振り撒いて来たって、聞いたぞ…。
魔物だって…魔王が生み出して、人や街を襲わせてるって…。
俺は…俺達は…人間は…皆、そう言い聞かされて来たんだ…。
…なのに、お前は俺も、剣士も聖女も殺さないで…いや…俺のケツは死んだけど…それどころか首を差し出して来た。
何だよ?
何なんだよ、お前は?
本当に、訳が解らねーよ。
まあ、ストーカーの考えてる事なんて解る訳ないよな…。
「…疲れて居った…終わりの見えない、繰り返される戦いに…。待って居った…そなたが成長して私に会いに来る日を…そなたが、私を殺してくれる日を…それを待つ日々は…楽しくもあった…。…ああ…甘美でもあった…」
な、何だよ…何か…そんな夢見る様な声で言うなよ…。
「…まさか…こうして、殺されずに生きながらえるとは思いもよらなかったが…」
…いや…言ったよな?
お前を殺しても、消えた生命は戻らないって…。
だから…これ以上の犠牲を出さない為に、残った魔物を倒して…。
「って、おい…」
何でシャツの中に手を入れて来るんだ?
今、そんな話をしていたか?
「…共に在る事を望まれた…。…そうなれば、欲も出る。欲は尽きない、飽くる事なく湧き続ける」
「…っ…同感だな…っ…!」
本当に、何処からこんな性欲が湧いて来るんですかね!?
ピチピチ現役二十歳の俺より、何で、推定500超えのオニキスの方がこんなに元気なの!?
え? 何処からそんな歳が出て来たって?
今の魔王になって500年経ったて、鼻水垂らしたガキでも知ってる話だからだよ!
それでね?
ケツに当たってるちんこ、硬くなって来てるからね!?
今の話の流れの何処に勃起する要素があったんですかね!?
教えてくれても良いんじゃないですかね、神様!?
背中側のシャツも捲られて、そこにぬめった何かを押し付けられた。
「…っ、おい…っ…! 誰が良いと言った!?」
俺の背中を軽く舐めてから、オニキスが口を開く。
「寂しがるそなたを慰めるのは、伴侶の努めであろう?」
ごふっ!!
ナイーブになってたの気付いてたのかよっ!!
で、何でこれが慰めになるんだよっ!!
「…まあ…仕置きも含まれるがな」
「…っ…!!」
仕置きっ!!
剣士とのアレか!?
ったって、軽く触れられただけだぞ!
それも一瞬!
聖女が飛んで来たからな!
ちんこだって、ズボンの上からだったし!
今、お前がしてるみたいに、ズボンの中に手を入れて直に触られていないからなっ!!
って、待てよ…?
「…仕置きって…っ…! け、んしの唇が腫れてたのは…っ…!」
こいつ、嫉妬だって言ってた。
聖女も、仕置きだとか言って、ボロボロになってた!
「そなたを追う都合故、炙る程度になってしまったがな」
怖えぇよっ!!
ガッツリやられてたら、どうなってたんだよ!?
「…また…現状、そなたを泣かせる方法は、これしかないのでな?」
「ほぁっ!?」
泣かせるって…っ…!
何か、何処か楽しそうな声で言ってない!?
てか、泣くって…泣くって…っ…!
啼かされてるの間違いだろ!?
「…いつか…私の胸で泣く日を楽しみにしておるよ…。その時は、その涙を拭わせておくれ…」
「…言ってろ…! だがな…っ…! 貴様が喜ぶ事を言ってやる…! 俺を…啼かせて良いのは…っ…! 俺が…こうしたいと思うのは…貴様だけだと云う事だ…っ…!!」
あっはは~んっ!!
今夜は眠れなーいっ!!
お口さんの馬鹿ああああああっ!!
血飛沫の舞う、爽やかな青空の下からこんにちは、ライザーです。
実況は不詳ながら、この元勇者ライザーがお送り…。
「ちょっと、ライザー君! 遠い目してないで、アレ、何とかしてよおっ!!」
血飛沫を浴びながら、マリエルが高い澄んだ声で歌っています。
「そうだぞ! 何で13日の〇曜日やら、エ〇ム街の悪夢やらを実体験しなきゃならないんだよ!? いや、バイオでハザードか!? とにかく! アレをどうにか出来るのは、お前だけだろ!?」
同じく内臓を浴びながら、低い声でレンが歌っています。
「ハ、ハ、ハ! ドウニカデキルナラ、トックニヤッテマスゼ、ダンナガタ!」
「何のドラマよ、それ!?」
「現実逃避するなーっ!!」
いやー…したくなるよな…?
なんで、こうなったんだろな?
俺は鼻歌でも歌ってそうな、現実逃避の原因を作っている"アレ"こと、オニキスを見た。
オニキスが指を鳴らす度に、魔物がパチュンパチュン弾けて行く。
その度に俺達…俺とレンとマリエルが、びちゃんびちゃん景気良く血と内臓塗れになる。
最初は何とか避けようと頑張ったさ。
だけどな?
避ける方、避ける方に、狙ったかの様にスプラッタされた物が飛んで来るんだよ。
人間、諦めって肝心だよなー…と、俺は二人より先にギブアップした。
諦め切れない二人は、今もギャーキャー騒いでいる。
俺より年上なのに、元気だよなー…。
取り敢えずは頭に乗った内臓とか、顔に付いた血を拭いながら、俺はオニキスの後に続いて行く。
俺達が今居るのは、かの魔王城がある広大な森の中だ。
目的地は、魔王城。
その中にある、闇の精霊の住む場所へと移動出来ると云う、ど〇でもドア、もとい、門だ。
そんな物があるなんて知らなかったな。
初めてここへ来た時は、とにかくオニキスを…魔王を倒す事しか、頭に無かったからな…。
それが、今ではその魔王が仲間と云うか…その…まあ…何と云うか…アレなんだよな…。
その…アレだよ、うん。
アレと云ったら、アレなんだよ、そう、アレだ。
まあ、良いか。
とにかく、何故、今俺達がそんな場所に居るのかと云うと、闇の精霊に殴り込みを掛けに行く為だ。
事の発端は、オニキスのアレ発言の日に遡る。
アレ発言にパニクった俺が、オニキスの腹に飛び膝蹴りかまして逃げたあの日。
◆
「何故、逃げるのだ? 恥ずかしがる事は無いと云うのに」
逃げるわ、ボケェッ!!
勝手にプロポーズされた気になって、勝手に夫婦とか言ってんじゃねえっ!!
俺は知らないし、認めてないしっ!!
セッ…セセセセセセ…クロスだって、魔剣の支払いだしっ!!
夫婦の営みって訳じゃないしっ!!
それに、突っ込まれる方が嫁なら、俺、嫁なのか!?
俺が、嫁!?
アホかーっ!!
ったく、どの顔がそんな事を言ってんだよ!?
と、俺の後を付いて走って来るオニキスを振り返ると。
…何か…顔青いな…てか、そんな青い顔して笑うなよ。
ついでに言うなら、口の端から血ぃ垂らしてんなよ。
怖すぎるだろ。
俺、ホラー嫌いだって言ったろ?
てか、何で血ぃ出してんだ?
よくよく顔を見たら、玉の様な汗が浮かんで…って、脂汗かっ!?
そう思った途端、走っていたオニキスがパタリと前のめりに倒れた。
何の予兆も無く倒れるとか、お前はウサギかっ!!
「…っ…! オニキス…ッ…!!」
俺は慌てて、倒れたオニキスに走り寄って、俯せに倒れた身体を仰向けにさせる。
まさか、あの蹴りで内臓でもやられたとか!?
まさか、骨折れて、内臓に刺さったとか!?
アホか!! 回復魔法使えるんだろ!!
「おいっ! この馬鹿が!! 早く回復しろっ!!」
「…そなたからの…痛みは…至福故…自然治癒に…」
「アホかあああああああああっ!!」
こんの変態があああああああああっ!!
息も絶え絶えに何を抜かしてんだっ!!
って、どうする!?
俺、回復魔法使えないし、回復薬持ってないしっ!!
どうする、どうする!?
薬草、そこらに生えて…。
薬草を探そうと、腰を浮かし掛けた時。
「私に任せて、ライザー君!!」
その声と同時に、オニキスの身体が淡い緑の光に包まれた。
聖女が使う癒しの光だ。
それは俺が知っている物よりも、各段に威力が上がっている様に思えた。
「聖女マリエル!?」
「俺も居るからな!!」
その声と同時に、辺りの草が薙ぎ払われて…いや、これ要るか?
オニキスが草に埋もれたんだけど?
ねえ、息出来てる? これ?
「剣士レン!?」
オニキスのピンチに現れたのは、山小屋の外でのびていた筈の二人だった。
…二人とも、復帰力ぱないな。
聖女は、まだ髪はチリチリで服も黒焦げだけど…。
剣士は、何故か唇がタラコになっているけど…。
「…助かった、礼を言う」
俺は立ち上がって二人に礼を述べた。
「お礼なんて要らないわよ。困っているライザー君を放って置けないもの」
優しく、ふんわりと微笑む聖女の言葉に、俺は頭を掻く。
やっぱ、優しいよなあ…。
って、何か喋り方が変わってないか?
「そうだぜ! 仲間だろ、俺達!」
いや、何、胸を張ってるんだ。
お前は何もしていないだろ。
てか、オニキスを窒息死させようとしただろ。
けど、仲間か…。
道を違えた今でも、そう言ってくれるのか…。
ちょっと…いや…かなり嬉しい…。
涙が出そうになるのを、俺は堪える。
俺は男だからな。
男は人前では泣かないんだ。
何て思っていたら、むくりと草の山が動いた。
「…余計な事を…」
口の端に付いた草を取りながら、オニキスが言う。
「貴様、助けて貰ってそれは何だ?」
オニキスの顔色が元に戻っている。
流石、聖女の癒しの魔法だ。
「そなたに介抱して貰う機会を潰されたのだ。何故、礼を述べる必要がある?」
うお…。
流石ストーカー、身体張ってまで何してんだ。
「私は、私に出来る事をしただけよ。あなたに聞きたい事があるの。その前に死なれたら、追って来た意味が無いわ」
…追う…?
え?
聖女は魔王のストーカーだったの?
「ああ。何で俺達を殺さなかった?」
あ。
それは俺も気になった処だ。
だが、オニキスは『大切な仲間』だと『良い仲間に恵まれたな』としか、言わなかった。
けど…こいつら、角も無いし、髪だって短くなったオニキスを魔王だと確信…もするか…。
あの時、何時からかは知らないけど、意識はあったって言って…。…それ…聖女も…?
俺の変な声、聖女にも聞かれていた?
いや、まあ、昨日ばっちりと見られたし…今更と云えば今更だけどさ…。
ぶわわと顔に熱が集まって来る。
いや、落ち着け、俺。
「…下らぬ」
二人を一瞥して放ったオニキスの冷たい声に、顔の熱が引いて行く。
「行くぞ」
「あ、おい…っ…」
オニキスは俺の肩に手を置いて歩き出そうとする。
「…ライザー君の仲間だから? 本当に、それだけなの?」
「ただ、それだけで殺さなかった? お前が? 魔王のお前が?」
…ああ、聞いていたんだな…。
縋りつく様な二人の声に、オニキスが足を止めて小さく舌打ちをした。
ん?
こいつでも舌打ちするのか。
…それは…その言葉の他に、何かあるって事か?
…それほど、聞かれたくない事なのか?
「…下らぬ。二度も言わせるな」
しかし、それでもオニキスはそれ以上の事は言わなかった。
今度こそ、二人に背を向けて歩き出そうとした時、俺達の目の前の地面が弾けた。
…は…?
パラパラとハラハラと、抉られて舞い上がった土が、空から降り注いで来る。
「…何の真似だ…?」
俺は身体ごと二人に向き合った。
聖女が、世界樹の木の枝で作られたロッドを俺達へと向けていた。
ロッドの頭に埋め込まれているのは、魔力増強の魔石か? え? そんなの、何時、手に入れたの? 決戦の時は無かったよな?
何時も穏やかに微笑んでいる筈の顔は、今は冷たく、底冷えしそうな程の冷たい目で俺を、いや、オニキスを睨んでいる。
…ちょ…。
怖いんだけど…。
何なら、小刻みに足が震えてるんだけど…。
聖女の隣に立つ剣士も、手にした剣の切っ先をオニキスへと向けてるし…。
めっちゃ、ガン飛ばしてる…。
「…話したくないなら、それはそれで良いわ。けどね、許せないのよ」
「ああ、許せねえな」
ロッドを、剣先をオニキスに向けたままで、その瞳に闘志の炎を宿して、二人は言った。
「…こいつが生きている事が、か? あの時の会話を聞いていたのなら、解るだろう? こいつを殺した処で…」
意味は無いと、許さなくて良いから見逃してくれ、と言おうとしたのだが。
「嫌がるライザー君の処女を奪った事よっ!!」
「その上、昨日もだっ!!」
ちょっと待ってえっ!?
そっち!?
そっちなの!?
「レイプは犯罪よっ! 身体を堕として、快楽漬けにしてライザー君を手に入れたつもり!?」
聖女様がそんな言葉使っちゃ駄目ーっ!!
てか、俺、漬かってないからっ!!
「そんなのが許せるか!? 俺のライザーを、よくも…っ…!!」
お前のじゃないし!
俺は俺のだし!!
「…それがどうした? 俺は、こいつを見張っているだけだ。魔剣の礼もあるし。それに、あの時はそうかも知れないが、それ以降は合意だ」
口ぃいいいいいいいっ!
要らん事をベラベラ言わないでぇっ!!
「なっ!?」
「そ、んな…!?」
二人が大きく瞳を見開いて、地面に力なく座り込んだ。
「…ラ…ライザー君が…何かのお礼に身体を使うだなんて…そんな…ビッチな…」
聖女がビッチ言うな!
てか、オニキスだけだぞ!?
いや、ビッチって全世界共通の言葉だったの!?
「…もう…俺達の知るライザーは…居ないのか…あの、手淫すら知ら無さそうな純真無垢な…」
いやいやいやいや?
俺、ちゃんと、自分でちんこ弄ってたからね?
純真無垢じゃないからね?
そんなの、唯の不能だからね?
「…行くぞ」
「…お前達とまた会えて嬉しかったよ…じゃあな…」
そう言って歩き出す俺達の後ろからは、嗚咽が聞こえていた。
…悪いな…。
勇者じゃなくなった俺を、仲間だって言ってくれた事、嬉しかったよ…。
何て、ちょっぴし感傷に浸りながら、街に着いて飯食べて宿を取ってさ。
風呂入って、さあ、寝るかってなったらさ。
「…っ、ま、待て…っ…! 貴様、怪我は!?」
何で、俺、押し倒されてんの?
「見事に完治した。刺さってた骨も元通りだ」
あ、良かったね?
でもね?
昨日もしたよね?
何で、そんなに元気なの?
ねえ?
俺、布団被ってたよね?
察して?
俺、ちょっとナイーブなの。
放っておいて欲しいの。
何で、風呂から出て来て、さも当然の様に布団剥いで、俺の上にのし掛かって来るの?
何の剥ぎ取りチャンスなの?
オニキスは既に剥ぎ取られているけどね?
「また、折られたく無かったら、今日は大人しくしていろ」
おお、お口さん素直。
「明日は相手してやる」
おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
何で、そうなるの!?
どうして、続きがあるの!?
「…断る。あの男に触らせたまま等と我慢ならぬ」
ほ?
「唇と、男根」
ほおおおおおおおおおおっ!?
すっかりと忘れていたよっ!!
その後のこいつの発言が、余りにもあんまりだったから、記憶からデリートされていたよっ!!
せっかく忘れていたのに、思い出させるなよっ!!
「それだけでか? 醜い独占欲だな」
おいいいいいっ!!
煽るな、口ぃっ!!
大人しくして、良い子だから!!
「醜くて良い。そなたは、私のものだ。私以外に触れさせる事は許さぬ」
そう言いながらオニキスは俺の唇を親指の腹でなぞり、膝頭を俺の股間へと押し付けて来た。
その金色の瞳に宿るのは、嫉妬の炎なのだろうか?
…嫉妬…やきもち…か…。
俺、誰かや何かにそんな気持ち持った事あったかな?
誰かを好きになると、そんな気持ちを持つのかな?
聖女とのムニャムニャだって、勇者は聖女とって云う暗黙の了解みたいなのがあったから…。
だから…俺…。
…ああ…駄目だな…。
…そんなの、ただ流されてるだけ…。
…ただ…ヤりたかっただけ…。
…そんなの…良くないよな…。
…何だかんだで…聖女の誘いを断った口は紳士だったって事なのかな…。
…何だよ、それ…。
…何で、今になってそんなのに気付かされるんだよ…。
「…なら…教えてくれよ…。…何で…二人を…殺さなかった…?」
何だか泣きそうになって、左腕で顔を隠して俺はそう言った。
何か、口素直だな…。
「…一度しか言わぬ…」
オニキスはそう言って俺の身体を抱き起こす。
「…少々気恥ずかしいのでな…」
恥ずかしい?
こいつでも、そう思う事があるのか。
何て思っていたら、身体の向きを変えられて、胡坐を掻いたオニキスの上へと座らされた。
…いや…ケツにちんこが当たってるんですが…。
…顔見られたくないなら、俺に背中向ければいいのに。
何で、こうやって抱き締めるんだよ。
まるで俺を慰めるみたいにさ。
後ろから腕を回されて、その手で腹を撫でられる。
ゆっくりと。
その手付きが余りにも優しくて。
俺はそっと背中を、その胸に預けた。
「…あの二人は…そなたを好いておる…。私は…あの日に、そなたに殺されるつもりだったのだ」
そのせいかどうかは知らない。
先刻までの冷たい声は消えて、優しい声に変わっていた。
その独白に、ただ耳を傾ける。
口を挟んだら駄目な気がした。
「…私が死んだ後は、二人の内のどちらかと結ばれれば良いと思った。…ただ…まあ…やはり、未練が勝ってな…そなたに無体を強いた。許せとは言わぬ。ただ、その身体が欲しかったのだ。気持ちは…心は貰えなくとも、せめて…その温もりをと…。その熱を持って…逝きたくなったのだ…」
…何だ、それ…。
随分と勝手な言い草だな…。
「…ずっと、そなたを見ておったよ…。そなたが、今のそなたになる前から…」
…ん?
今の俺?
「…過去世から…」
過去…?
え?
前世って事か!?
前世から、こいつストーカーだった!?
どんだけだよっ!?
「…隠れて泣くそなたの涙を、幾度拭いたいと思った事か…。…震えるその小さな身体を、幾度抱き締めたいと思った事か…」
お…おおお…。
な、何か、また逃げたくなって来た…。
いや、逃げちゃ駄目だ。
話を聞かないと。
ポンと頭に手を置かれて、撫でられた。
…何故…?
「…良くぞ…あの生の中で頑張ってくれたな…」
…あれ…?
…何か…あれ…?
この感じ…?
静かで優しくて…慈しむ様な…この声…。
顔は見えないけど…多分、きっと…表情も同じ筈…。
…何時だったか…何処かで…?
…何処で…?
…いや…?
デカくてゴツゴツした手…こんな手…今世の母さんの手とも父さんの手とも違う…。
まあ、前世では撫でられた事なんか無いけどさ…。痛みしか貰ってないし…。
こんな手は…前世でも…今世でも…知らない、よな?
なのに…何か…懐かしいなんて…何だ、これ?
…ストーカーパワーか?
「…また…そなた達は…倒れておる魔物にも、魔族にも手は出さなかったからな…」
ん?
話が飛んだ…いや、戻ったのか…?
「…これまでの勇者とも、その仲間とも、そなた達は違った。…それが…嬉しかったのもあるな…」
いや…?
だって、そんな死人に…死体に鞭打つ事なんて、普通しないよな?
そんな、死者への冒涜なんて。
「…戦いの場に、動けぬ者は不要。斃れて動かぬ仲間を踏み付ける勇者も居ったよ。魔物や魔族の死体等、さもあらん。そなた達は、何もかもが…これまでの勇者達とは違ったのだよ」
…それなら…お前だって…。
お前は…聞いて来た魔王の話と違うじゃないか…。
…冷酷無比で…倒した勇者や仲間の遺体をわざわざ人間の街や城へ送り返して、絶望を振り撒いて来たって、聞いたぞ…。
魔物だって…魔王が生み出して、人や街を襲わせてるって…。
俺は…俺達は…人間は…皆、そう言い聞かされて来たんだ…。
…なのに、お前は俺も、剣士も聖女も殺さないで…いや…俺のケツは死んだけど…それどころか首を差し出して来た。
何だよ?
何なんだよ、お前は?
本当に、訳が解らねーよ。
まあ、ストーカーの考えてる事なんて解る訳ないよな…。
「…疲れて居った…終わりの見えない、繰り返される戦いに…。待って居った…そなたが成長して私に会いに来る日を…そなたが、私を殺してくれる日を…それを待つ日々は…楽しくもあった…。…ああ…甘美でもあった…」
な、何だよ…何か…そんな夢見る様な声で言うなよ…。
「…まさか…こうして、殺されずに生きながらえるとは思いもよらなかったが…」
…いや…言ったよな?
お前を殺しても、消えた生命は戻らないって…。
だから…これ以上の犠牲を出さない為に、残った魔物を倒して…。
「って、おい…」
何でシャツの中に手を入れて来るんだ?
今、そんな話をしていたか?
「…共に在る事を望まれた…。…そうなれば、欲も出る。欲は尽きない、飽くる事なく湧き続ける」
「…っ…同感だな…っ…!」
本当に、何処からこんな性欲が湧いて来るんですかね!?
ピチピチ現役二十歳の俺より、何で、推定500超えのオニキスの方がこんなに元気なの!?
え? 何処からそんな歳が出て来たって?
今の魔王になって500年経ったて、鼻水垂らしたガキでも知ってる話だからだよ!
それでね?
ケツに当たってるちんこ、硬くなって来てるからね!?
今の話の流れの何処に勃起する要素があったんですかね!?
教えてくれても良いんじゃないですかね、神様!?
背中側のシャツも捲られて、そこにぬめった何かを押し付けられた。
「…っ、おい…っ…! 誰が良いと言った!?」
俺の背中を軽く舐めてから、オニキスが口を開く。
「寂しがるそなたを慰めるのは、伴侶の努めであろう?」
ごふっ!!
ナイーブになってたの気付いてたのかよっ!!
で、何でこれが慰めになるんだよっ!!
「…まあ…仕置きも含まれるがな」
「…っ…!!」
仕置きっ!!
剣士とのアレか!?
ったって、軽く触れられただけだぞ!
それも一瞬!
聖女が飛んで来たからな!
ちんこだって、ズボンの上からだったし!
今、お前がしてるみたいに、ズボンの中に手を入れて直に触られていないからなっ!!
って、待てよ…?
「…仕置きって…っ…! け、んしの唇が腫れてたのは…っ…!」
こいつ、嫉妬だって言ってた。
聖女も、仕置きだとか言って、ボロボロになってた!
「そなたを追う都合故、炙る程度になってしまったがな」
怖えぇよっ!!
ガッツリやられてたら、どうなってたんだよ!?
「…また…現状、そなたを泣かせる方法は、これしかないのでな?」
「ほぁっ!?」
泣かせるって…っ…!
何か、何処か楽しそうな声で言ってない!?
てか、泣くって…泣くって…っ…!
啼かされてるの間違いだろ!?
「…いつか…私の胸で泣く日を楽しみにしておるよ…。その時は、その涙を拭わせておくれ…」
「…言ってろ…! だがな…っ…! 貴様が喜ぶ事を言ってやる…! 俺を…啼かせて良いのは…っ…! 俺が…こうしたいと思うのは…貴様だけだと云う事だ…っ…!!」
あっはは~んっ!!
今夜は眠れなーいっ!!
お口さんの馬鹿ああああああっ!!
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