フクロムシ~俺がメス化した理由~

三冬月マヨ

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ヒイラギ〜その名前の理由〜

完.ペテン師

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「何故? 俺はまだ足りないが?」

「は? ぅわっ!?」

 寝言が聞こえたと思ったら、両腕を引かれて上体を起こされた。
 アグナを銜えたまま、背を仰け反らせ、胸を晒す格好になる。

「っ、んぅ…っ…!」

 身体を起こされた事により、自重でより深くアグナを飲み込む。

「ア、グナッ!!」

 ゴリッと竿で核を擦られ、そこを過ぎた亀頭が更に奥を抉る。
 駄目だ、それより先は駄目だ。
 アグナ曰く、結腸と呼ばれるそこに入り込まれるのは、嫌だ。
 そこに入られると、頭が真っ白になって、本当に訳が解らなくなる。
 これは食事なのだと、フクロムシが感じている快楽なのだと誤魔化せなくなる。

「あれは大分楽しんだ様だからな…」

「…つっ…!」

 背後からアグナの手が回り、俺の乳首を摘み、親指で押し込む。

「ここもかなり弄られていたな?」

「んっ、や、め…っ、ひっ!」

 ギュウッと引っ張られて痛みに眉を寄せれば、下からズンッと突き上げられて、上擦った声が出てしまった。

「俺より先に触らせるな」

「はあっ!?」

 何だ、それは!?
 どういう意味だ!?

「君は、俺の物だと云う事を自覚しろ」

「んなっ!?」

「君は俺の貴重な実験体だ。俺には君を最後まで見届ける義務がある」

「ん…っ…!!」

 ああ、そうだ。
 教会でも言われたな。
 
『俺の物』、『義務』

 そうだ。
 俺はアグナの実験体で、こいつは、その実行者だ。そして、経過を見る必要があると言っていた。
 実験は失敗…受胎は出来なかったが、だからと言って、このまま放置する訳には行かないと口にしていた。
 だから、俺は…俺達は付かず離れずで居る事になった。かと言って、常に二人で行動している訳じゃあ、ない。基本的にアグナが現れるのは、俺が腹を空かした時だけだ。それ以外は、研究に没頭している。俺の状態から、フクロムシの改良すべき点を探っているとか言っていた。

「向きを変える」

「は…んあっ!?」

 その言葉と同時に、両手で腰を捕まれ、身体を持ち上げられた。
 ずろろっと、一気に性器が抜かれ、その刺激に身体が震える。
 
「…っは…っ…! あ、ああ…っ…!?」 

 孔からアグナの出した物が零れ、どろりとした感触が内腿を伝うのに眉を顰めたのも束の間で、くるりと身体の向きを変えられたと思ったら、また、腰を落とされ、一気にアグナの怒張した性器を埋められてしまった。

「…っ…や…めっ…!」

 もう、腹一杯だ。
 これ以上は、ただの性行為だ。
 快楽を貪る為の物だ。
 …嫌だ。
 これは、食事なのだろう?
 他の誰でもない、あんたが言ったんだろうがっ!!

「俺以外の匂いをつけるな」

「んあっ!?」

 乳首に歯を立てられて、俺は白い喉を晒した。

 何を勝手な事を言っている!?
 手を出されたくなければ、常に傍に居れば良いだろう!?
 毎度毎度、どうにもならなくなってから来るあんたが悪いんだろうが!!

 そう叫びたいが、噛まれた乳首はズキズキと痛いし、下は下でグチュグチュと掻き回されて、口から出るのは言葉にならない声だけだ。

「…っあ、あ、あ…っ…!!」

 意識が持っていかれる。
 快楽に流される。
 ズッ、ズッ、と肚の中を行き来する熱に、頭も身体も灼かれてしまう。
 奥の奥まで灼かれて爛れて、溶け出して、どちらの熱か解らなくなる。混ざり合う。境界が無くなる。
 流されてしまえと、楽になりたいだろうと、声が聞こえる。
 嫌だと叫びたい。
 これが快楽等と、気持ちが良い事等と知りたくない。
 こいつだけに囚われたくない。
 こいつだけを焼き付けたくはない。
 
「…あっ、あぅ…っ…!」

 それなのに。

「…ラギ」

 こいつは名前を呼ぶ。
 こんな時ばかりに、名前を呼ぶ。
 今は、こいつしか呼ばない俺の名前を。
 魔を、邪を祓うと云う意味が篭められた名を。

「ヒイラギ」

「あ…っ…!? あ、あぁっ!!」

 ズンッと腰を上げ、一際奥を突かれた俺は、ただ、それだけを叫んだ。
 頭が真っ白になり、目の奥でチカチカと眩い光が明滅している。
 はっはっと、荒い呼吸を繰り返し、息を整えようとしても、アグナはそれを赦さない。
 
「…久し振りに、体外に出した気分はどうだ?」

「あ…っ…あ…や、めろ…っ…!」

 追い討ちを掛ける様に、俺を見上げながら、アグナは腰を動かす。
 俺の性器は壊れた様に、白濁としたものを吐き出していた。
 射精をしたのに、腹が空かない。
 ただ、ただ、どうしようもない快感が胎内に渦巻いている。

 どれだけ食わせたんだ、こいつは…っ…!

「…な、んで…っ…痛っ!」

 涙が滲む目でアグナを睨めば、また乳首に歯を立てられた。
 痛いだけならば、まだ良い。いや、良くはないが。

「あ、あ…」

 噛まれた刺激で、俺はまた精を吐き出す。

「君をこうして良いのは、俺だけだ。覚えておけ」

 何を勝手な事を!

 叫んで殴って蹴り上げる事が出来るのならば、どれだけ楽な事だろう。
 だが、身体は与えられた快楽に溺れてまともに動かせない。
 何故だ。
 これは食事だと、そう教えたくせに。
 これは、食事の範疇を超えている。

「俺の食事だ。貪り食わせろ」

 …ああ…本当に勝手過ぎる…。
 勝手過ぎて目眩がする。
 ぽんと宙に投げ出された様に、頭がクラクラとフラフラとする。

「ラギ」

 目を閉じれば名前を呼ばれる。

「ラギ、俺を見ろ」

 …見たくはない。
 記憶に焼き付けたくは、ない。

「ラギ」

 だが、こいつはそれを赦さないとでも言う様に、強く名前を呼ぶ。
 俺は、お前を見たくはない。
 ただ、ぼんやりと視界に映す程度で良いのに。

「ラギ」

 抗いきれずに、のろのろと目を開ければ、そこに在るのは俺を見据える、青みがかった二つのみどりの瞳。
 目より軽く下まである、艶のある黒髪は、宵闇に舞う鴉の様に。
 鎖骨に掛かる長さの髪だが、後ろへ向かう程に短くなっている。

「ラギ」

 もう一度名前を呼ばれ、腰を掴む手に力が入り、背中にあった手が、後頭部に回され、長い指が髪に挿し込まれた。それは、そんなに強い力では無かった。軽く、クンッと押された。そんな程度の力だったと思う。
 だが俺は、引かれる様に。
 …惹かれる様に、顔を近付けて行った。
 熱い息が唇に触れたと思ったら、そのまま柔らかな熱が重なる。軽く触れて離れて『は…』と息を吐けば、するりと厚い舌が入って来た。
 強く深く、正しく喰らう様に、舌を絡め取られた。
 
 …俺が…フクロムシがアグナの精液を喰らう様に、アグナも俺を…俺の生を喰らっているのだろうか…。

 絡み合う舌が出す、ぴちゃぴちゃとした音に脳を焼かれながら、俺はぼんやりと思った。

 …それなら…良い…。
 
 食事ならば良い。
 愛情等無くて良い。
 そんな感情が伴わない物なら、良い。
 俺とアグナは、実験体とその研究者。
 それで、良い。
 それだけで、良いんだ。

「ん…っ…!」

 軽く俺の舌先を噛んでから、アグナの唇が離れて行った。

「んあ…っ…! あ、あ…っ…!!」

 口の中にあった熱が無くなるのが寂しいと、そんな名残りを惜しむ間もなく、下から激しく突き上げられる。
 グチュグチュとした水音と共に、胎内を撹拌させられて、俺の身体はガクガクと震え出す。
 目の前も、頭の中も真っ白になる。
 何も考えられない。
 何も考える事が出来なくなる。
 考える事等、赦さないとばかりに激しく揺さぶられる。
 
「いけ、ラギ」

 その言葉と同時に、俺の腰を引きながらアグナは腰を上げるから、堪ったものではない。

「んぁっ!! あっぁっ、あぁーっ!!」

 ドチュンッと奥を貫かれた俺は、情けない声をあげながら、サラサラとした精液を吐き出した。
 ドクドクと脈打つ鼓動と、中に広がるアグナの熱に、もう本当に腹がいっぱいだとボヤいて、俺は完全に意識を手放した。

 ◇

「……………喉が痛い…」

 いや、喉だけじゃあ、ない。
 腰も重いわ痛いわ、全身が筋肉痛の様になっていた。

 何故だ。
 いつもは、多少気怠いぐらいで、こんな事にはなっていないのに。
 おかげで、チュンチュンやらチチチ…だかの鳥の声を聴きながら、俺はベッドの住人と化していた。

「起きたか」

 窓から入り込む陽の光に目を細めた時、ノックも無しにドアが開いて、何かを乗せたトレイを持って入って来たのは、言わずと知れたアグナだ。
 
「…目が覚めているだけだ…」

 起き上がれない俺は、目だけでアグナを見る。

「かなり啼いたからな。喉が渇いているだろう?」

 だ、れ、の、せいだ!

 そう叫びたいが、カラカラに渇いた状態で大口を開けば、喉がさっくりと切れそうだから、俺はただ、唇を曲げた。

「ほら」
 
 ベッド脇にあるチェストにトレイを置いて、乗せてあった水差しからグラスへと注ぎ、それをアグナが差し出して来る。スーッと鼻を抜けて行く匂いがするそれは、ハーブか何かが入っているのだろう。
 しかし、グラスを受け取ろうにも、とにかく全身が重い。腕を動かそうとして眉間に皺を寄せれば、アグナが身を屈めて、俺の背中に腕を通して上半身を起こしてくれた。礼はしない。俺をこうしたのはアグナだから、当然だ。

「…ああ…」

 返事をして、今度こそグラスを受け取ろうとするが、ぴくりと指先が動いただけで止まってしまった。
 情けなく、不甲斐ないと思うが、こんな事は初めてなのだから仕方が無い。本当にどれだけ食事をさせられたんだか。

「…この、悪魔が」

 舌打ちをしてアグナを睨めば、碧い瞳が細められ、薄い唇が緩く弧を描いた。

「今更」

 短く呟いた後、アグナはグラスの水をグッと呷った。

「俺のみ…っ…!?」

 それは、俺が飲む物だろうと憤りを爆発させる前に、背中にあった手が後頭部に回された。一足飛びに近付いて来たアグナが、俺の唇を塞ぐ。と同時に冷たい物が口の中に流れ込んで来た。
 
 …確かに、今の俺はグラスを持てないが。
 が、だからと言って、口移しはないだろう!
 グラスを口元に持って来て傾けるだけで良いだろうがっ!!
 
 だが、カラカラに渇いた大地の様だった俺の喉は、その潤いに歓喜して、流れ込んで来た水を胃へと送り込んだ。

「…は…」

 唇が離れて安堵の息を吐いたのも束の間で、アグナはまたグラスの水を口に含み、俺へと移して来る。それは、グラスの中身が空になるまで続けられた。

「食べ過ぎは良くない」

 口元を拭い、柔らかな枕に俺の頭を沈めた後に、アグナが放った一言がそれだ。
 
 だ、れ、が、食べさせたんだっ!! それも、無理矢理にっ!!

 こめかみをピクピクと動かしながら睨んでも、アグナはただ笑うだけだ。

「ゆっくり休め。その間に、新しい服を用意しておく」

 俺の前髪にさらりと指を挿し込み、額を軽く撫でてから、アグナは部屋から出て行った。
 
「…は…っ…」

 呆れなのか、諦めなのか解らない息を吐きながら、俺は目を閉じる。
 確かにこの状態では、眠るしかない。
 服もないから、外へ等出られない。
 
「…何が…魔を…邪を…祓う名だ…」

 思い切り、引き付けているだろうが。
 この名を授けた奴は、間違い無くペテン師だ。だから、封じる事しか出来なかったのだろう。
 かと言って、継ぐ前の名は捨てた。
 俺は、村の唯一の生き残り、村長だ。
 村が在った証として、俺はこの名前で生き続けてやる。
 あの悪魔に一矢報いるまで。
 だから、今はただ眠ろう。
 何も考えずに。
 ただ、微睡んで居れば良い。
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