フクロムシ~俺がメス化した理由~

三冬月マヨ

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ヒイラギ〜その名前の理由〜

04.解体

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 服が濡れるのを厭わないのだろうか?
 黒いベストに、その下には白いシャツ。かっちりと着込まれているそれは、濡れたらかなり不快だと思うのだが。
 だが、こうして寄り掛からなければ、俺はまた泉の中へと逆戻りだ。
 アグナの能力で温められたとは云え、それは、ただでさえ少ない今の俺の体力を奪って行くのだから。

「んっ!?」

 なんて、そんな考えは、次の瞬間には消し飛んでいた。
 腕を引いた手が腰に回り、もう片方の手が俺の尻を割り開いたからだ。

「ここが一番臭う」

 ぬぷりと指を埋め込みながら、やはりアグナは不機嫌そうに呟く。

「そっ、こは…っ…!!」

 確かに、そこは一番最後に触られたと云うか、先端だけだが、あの神父の聖け…性器が挿入はいった場所だが…っ…!

「ん…っ…!」

 だが、こんな森の中で、昼日中の誰が来るか解らない場所で、尻を開かれるのは嫌だ。
 って、誰が来るか解らない場所…?

「きょ、う、か…っ…!」

 そうだ。
 まだ、日中だ。
 いや、夜だろうと来る者は来るが。

「教会?」

 指を二本に増やして、やわやわと動かしながらアグナが聞き返して来る。
 いや、指を止めろ。
 核を弄るな。

「…ま、だ、ひる…だろ、う? し、んぷ…」

「…ああ、腹が空いているんだったな」

 のろのろと喋る俺に、思い出した様にアグナが言った。

 あんた、食事だと言ったよな!?
 臭いが気に入らないから、洗うって言っただろう!?
 なのに、何だ、その言い草はっ!!

 腹が空いていなければ、そう叫んでいたし、ついでに殴っていただろう。
 
「飲み込め」

「は?」

 しかし、腹が空いていなくとも叫ぶ事は出来なかったと知らされた。
 短い言葉の後に俺の顎に指が添えられ、軽く持ち上げられたと思ったら、アグナの唇が降って来て、俺の口が塞がれてしまったのだから。

「んんっ!?」

 突然の事に、俺は目を白黒させる。

 何だ、これは!?
 いや、キスだ。
 そんなのは、解る。
 解るが、何故、キス!?

 キスなんて、婚約者ともした事が無い。結婚するまではと、互いに真面目過ぎたからだ。
 つまり…これは俺の初めてのキスになる。なるが、何故、今、キス!?

 混乱する俺の事など構わずに、アグナの指が俺の下唇にかけられて、無理矢理に開かされたと思ったら、ぬるっとした厚みのある舌が入って来た。

「んん~っ!?」

 猿轡から解放されたと思ったら、今度は違う物を咬まされている。
 それは熱を持ち、ぬるぬると俺の口の中を蹂躙していく。歯列をなぞられ、上顎をなぞられ、舌を絡め取られたりと、俺の口の中で情報が氾濫していた。
 溺れる。
 溺れてしまう。
 この、訳の解らない波に飲まれてしまう。

「飲み込め」

 ぎゅっと目を閉じた時、アグナの唇が離れた。
 つう…っと、口の端から混ざり合った唾液が伝う。

「な、に…?」

 短く伝えられた言葉に、混乱している俺はただ聞き返す事しか出来ない。

「簡易的なだ。幾らかは楽になる」

「んっ!?」

 そう言いながらアグナは、俺の口端を伝う唾液を指先で掬い、その指を突っ込んで来た。

 飲み込め、とは?
 これをしゃぶれと云う事か?
 指についた唾液を?
 考えていた処で、この指が口の中から出て行く事はないのだろう。

 …まあ…食事だと言うのなら…。

 どうにも釈然としない物を感じながらも、俺は挿し込まれた指に舌を這わせた。
 ぺろりぺろりと細長いアグナの指を舐めながら、これは先刻まで尻の中にあった指なのでは? と思ったが、フクロムシのお蔭で俺の中はとても綺麗なんだそうだから、問題は無い…のか…?
 …無いと云う事にしよう。…甘い匂いがするし…味も…砂糖を煮詰めた様な感じだが…不思議と、くどくはない甘さだ…。
 こくん、と喉を鳴らせば、じわりと滲む様に身体が暖かくなった。その熱の心地良さに目元を緩めたら、口の中からアグナの指が出て行ってしまった。

「…あ…」

 するりと抜けて行くそれを、寂しいと思ってしまった。

 …寂しい…?
 何故、そう思うのだろう…?
 
「話せるな?」

 が、戸惑う俺に、アグナはそれで十分だと云う様に、話をする様に促した。
 確かに、あれ程重かった身体が、口が、僅かではあるが軽くなった気がする。
 訳の解らない感情は脇へ避けて、俺は口を開いた。

「…神父の遺体…放置は拙い。誰が来るか解らない…俺があそこにシスターとして居る事は、大抵の者が知っている」

 誰かが来て、あの部屋まで入って来たら?
 性器を斬られて、息絶えてる神父を見たらどう思う?
 ボロ布になってしまったシスター服を見て、何を思う?
 そのシスターは何処へ? 

 …下手したら俺は…神父に強姦されてカッとなって、神父の性器を斬り落として殺害した猟奇殺人犯にされてしまう。

「…なるほど。解った」

「は?」

 つらつらと話せば、アグナは短い返事をした後に姿を消した。空間移動で、教会へ戻ったのだろう。

「…いや…確かに急を要するが…」

 …俺の…フクロムシの腹も急を要するんだが…。

 パシャリと音を立てて、俺はまた湯の中へと身体を沈める。
 簡易的と言っただけあって、今はもう口が重い。いや、口だけではないが。
 アグナは、どれぐらいで戻って来るのだろう? 神父の遺体を隠しでもして来るのだろうか? だが、結局、神父が行方不明になったら、かなりの騒ぎになると思うが…あんな変態でも、表向きの顔は良かったから。穏やかで、懺悔に来た人達の話を親身に聞いて、諭したり宥めたり…祈りに来た人達にだって…。

 …そんな、神父らしい神父だった彼が、どうして悪魔に憑かれたんだ…?
 あの変態ぶりは悪魔のせいなのか、それとも元からなのか、それは、神父本人にしか解らないが…。

「…悪魔憑き、か…痛っ…」

 のろのろと腕を動かして、額を押さえる。
 こんな痛み、死ぬ事に比べればどうと云う事は無い。
 痛みを感じるのは、生きていると云う事なのだから。
 食事と云い、頭痛と云い、面倒な身体になったと思うが、生きているのだから良いのだろう。
 生きてさえいれば、何かしらは出来るのだから。

「…しかし…」

 もう、限界だ。
 程良い湯加減に、重い瞼が更に重くなって来た。
 が、こんな場所で眠る訳にはいかない…誰か来るかも知れないし…溺れる可能性も…ある…。深さは無いが、寝てしまえば話は別、だ…。

「…駄目だ…せめて…」

 寄りかかれる場所へ…と、泉の縁を目指した処で意識が暗転した。

 ◇

「…んっ…あ…っ!?」

「…起きたか…」

 パチュパチュとした音に意識が浮上し、目を開ければ、そこにあるのは見慣れた白いシーツだった。
 ここは、アグナの家。そこのアグナの寝室だ。
 
「…っ…ア、グナ…ッ…」

 俺は顔と胸をシーツにくっつけていて、腰だけを高く上げた状態だった。
 俺の腰を両手で掴み上げて、激しく性器を出し入れしているのは、言わずと知れたアグナだ。

「あんな場所で眠るな。フクロムシのお陰で溺れずに済んだな」

「んっ、あっ!?」

 フクロムシが何だって?

「目から出て、懸命に君の身体を支えていた」

 それは、どんな光景だ!?
 一本や二本じゃあ足りないだろう? 木の根の様に、幾つもの触手が伸びて絡んでいたって事か? なかなかに凄い様相だな?

「…って…こんな目からではなく…脚とか腕とか…ある、だろう…」

 そうだ。
 俺の脚と腕、なんなら腹肉…。

「ああ。それらは既に君の血肉となっているから、目の様に動いたりはしない」

 ――――――は?

 パチュパチュと突かれながら、思った事を口にしたら、そんな返事が返って来た。

「な、なに…?」

 …俺の…血肉…?
 …擬態…では、ない…?

「完全に君の身体になったと云う事だ。…三年程経つか?」

 聞き返す俺に、アグナの動きが止まる。…硬い性器はそのままだが。動かれるよりは、まだまともに話せるから良い。

「…そんな話は聞いていない…」

 何だ、その新事実は。
 それとも、俺がまともに聞いていなかっただけなのか?

「今話した。と云うか、気が付いていると思っていた。最初の頃は、よく脚や腕が崩れていただろう?」

 今かよっ!?
 聞き流していなかった事に、ほっとしたが、それは重要な事ではないのか!?
 こんな時に話す事か!?

 と、怒鳴った処で、こいつは耳の穴でもほじりながら聞き流すだろうから、素直に頷く事にする。

「…ああ…それもあってシスター服に…夏でも長袖でいて怪しくない…って…それなら…神父の…」

 神父の格好でも良く無いか?
 あれだって、ずるずると長くて体型を誤魔化せると思うのだが。

「目はどう隠す? 眼帯か? そんな神父は見た事が無い。大体、今の君は男物が似合わないし、そんな格好をすれば、あの神父の様な男に襲われる」

「はあっ!?」

 目を剥いて声を荒げる俺とは対照的に、アグナの声は淡々としたものだ。

「女だからと見逃されていると云う事もある。万が一でも子を孕ませでもしたら、楽しめなくなって面倒だからだ。男ならば、その心配はないからな」

「…んな…っ…!」

 思わず絶句してしまうが、そう言えば神父は以前のシスターを受胎させたと言っていたし、確かに、男ならその心配が無いとも言っていた。

「…………いや…え? まさか…教会って…そんな奴等が多い…のか…? …人々には、産めよ増やせよと謳っているのに、自分達は…その範疇に含まれない…と?」

 あの神父は男との経験は無いと言っていたが…。

「教会にも依るだろうが、本部に近ければ近い程、そうだな。異性との交わりは子を成す為だから、愛した者としか許されない。ただの肉欲ならば、同性で済ます」

「…ひぇ…っ…」

 そんな話は聞いた事が無かった。
 いや、本物のシスターや神父ならば、当たり前に知っている事なのだろうか。
 ならば、悪魔の情報を得る為だけに、シスターの姿をしている俺には知る由もない訳だ。

「…って! 神父!! あいつから悪魔の情報を聞き出す事が…っ…!」

 そうだ。
 悪魔本人から話を聞く絶好の機会だった。
 しかし、奴はもう死んでいる。

「あんな下級悪魔が、君が追っている悪魔の情報を持っている筈がない。あれは、これまでにあそこにいたシスター達を孕ませ、その赤子の魂諸共を喰らっていただけの、ただの屑だ」

「…は…」

 な、んだって?
 そう云えば、教会でもそんな事を言っていたな?
 変態だ悪魔だとばかりに気を取られていた…。
 街の人達は、あの穏やかな見た目に騙されていた…。シスターが消えても疑問を持たない程に…。それとも、何かしらの能力を使って、疑問を感じさせない様にしていたのか…?
 そんな神父の本性(?)を知った時、彼等はどんな想いを抱くのだろう?
 信じて来た。救われもして来た。慕っていたであろう神父が…。

「あの教会には地下室があり、喰い散らかされて白骨化した遺体が幾つもあった。取り敢えず魔獣を操って、あの教会を壊して来た。数日もすれば、それらが発見されるだろう。ああ、魔獣を人型にして適当に解体して、君の切り刻まれたシスター服を纏わせておいたから、それは君だと識別される筈だ」

 何とも言い様のない感情が湧いて来たが、続くアグナの言葉に、両手で頭を抱えたくなった。

 …何をして来たんだ、こいつは…。
 神父も神父だが、アグナもアグナだ。
 俺の知らない内に、俺のバラバラ死体が完成しているって酷過ぎやしないか?
 とにかく、俺に疑いが掛かる事は無くなったが、あの街にはもう行けないし、近隣の街にも寄らない方が良いだろう。

「…………まあ…ありがとう…。あと、もう腹が膨れたから抜いてくれ…」

 アグナの動きは止まったが、奴の性器はまだ俺の中にある。
 腹の張り具合とやたら響く音から察するに、かなりの量を出されたらしい。流石のフクロムシも消化が追い付かないのだろう。
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