フクロムシ~俺がメス化した理由~

三冬月マヨ

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ヒイラギ〜その名前の理由〜

02.正しいハサミの使い方

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 何!?
 俺がここに来た時、シスターは一人居たが、愛を誓った男と出て行ったとか言ってなかったか!? この街の奴らも、そう言って…この神父から聞かされたって…。

「貴方の様に、綺麗な脚の持ち主でした…毎晩可愛がっていたのですけど…」

 …いや…待て…待ってくれ…。
 …毎晩…可愛がって…いた…?
 …こいつ…薬を盛った時…何時もと同じ…穏やかな笑顔を浮かべていた…な…?
 それは…手慣れていると云う事で…。

 頭の奥で、話を聞いてはいけないと、ガンガンと警鐘が鳴っている。
 黙れ。
 聞きたくない。
 出来るなら、耳を塞いでしまいたい。

 だが、聞きたくない事程、耳に飛び込んで来る物だ。

「ですが、ある日…身籠ったから、もう聖水は受け取れない…責任を取れと言われましてね…ですから…非常に残念ですが…神の元へと行って貰いました」

 ヒュッと、喉が鳴った気がした。
 何の悪びれもなく。
 本当に残念だと、寂しそうに、こいつは笑った。

「…男性ならば、身籠る事はありませんからね…経験はありませんが…知識はありますので安心して下さい」

 安心出来るか!!
 経験と知識とでは、雲泥の差があるだろうっ!!

「…ああ…脚だけではなく、その身体も綺麗なのでしょうね…中も…」

 そう言いながら、何処か恍惚とした表情を浮かべたと思ったら、神父はベッドから下りた。

 …何だ…?

 そう思った処で、変態のやる事なんか想像が付く筈もないが。
 猿轡の下で、俺はそっと息を吐く。
 このまま、ここであの神父に犯されるのだろうか?
 亡き婚約者の様に…。
 俺の相手は人間だが…いや、こいつは…人の皮を被った悪魔だ…。
 神父のくせに、人を何だと思って…いや…神父だからこそ、なのか?
 人々の懺悔を聞き続けて来た神父だから…人に絶望していてもおかしくは、ない…?

「まだ、不自由を強いると思いますからね…少しは楽な格好にしてあげますね」

 そんな事を考えていたせいか、神父がベッドの上に戻って来た事に気付くのが遅れた。
 そして『ジャギッ』と云う音の意味にも。

「んっ!?」

 俺の脚の間を再び陣取った、神父の右手には鈍く光るハサミがあった。

 何とかに刃物って言葉があったな!?

「…ああ…何て綺麗なんだ…」

「んんっ!! んっ!!」

 ふざけるなっ!!
 何をハサミで切ってくれている!?
 先にも言ったが、一張羅だぞ!?

 だが、そんな俺の声が届く筈も無く。
 俺の一張羅は、スカートをから縦にハサミを入れられ、ジャキジャキと切られて行く。
 首元まで切られたと思えば、そこから袖口までシャキンッとハサミが滑る。右が終われば、次は左だ。
 
 …俺、泣いて良いか?
 
 無惨に切り刻まれたシスター服を肌に纏わり付かせる俺は、清楚なんて言葉からは、遠く掛け離れた存在へとなってしまった。
 幸いと云うか何と云うか…顔を隠す為のヴェールは、薬を盛られ、意識を飛ばしている間に取られてしまったのか、ハサミの餌食にはなっていない。…多分…。何処かに無事で落ちている事を願う。

 「…ああ…なんて美しい…」

 …いや、あんた目が腐ってるだろう。医者に見て貰え。
 
 さらりさらりと、身体に乗っているだけとなった、シスター服の残骸を神父が剥がし、ベッドの下…床へと落として行く。

 …さようなら、俺の一張羅…。
 
「…本当に綺麗だ…」

「んんっ!?」

 そんな言葉と共に、神父が俺の性器に頬擦りをするもんだから、俺は変な声を上げてしまった。いや、猿轡噛まされてるから、解らないか。

「見てごらん…こんなに…私の物とは色が違う…」

 身を屈めていた神父が、身体を起こして、赤黒い性器を見せ付けて来るから、俺は思わず顔を逸らす。
 
 こいつ、いつの間にズボンを脱いだ!?
 ハサミか!?
 ハサミを取るついでに脱いだのか!?
 先刻、出したばかりなのに、何でもうそんなに元気に反り返っている!? アグナもびっくりだな!!

「肌も白くて綺麗だ…ここも、綺麗なピンク色だね? 誰も触った事がないのかな…」

「んんっ!!」

 さわさわと腹を撫でながら、神父が身を屈めて来て、俺の乳首をぺろりと舐めたもんだから、ビクンッと背中が跳ねた。

 …気持ち悪い…っ…!!

「…良い反応をしてくれます…ああ…これから楽しみだ…」

 俺は、ちっとも楽しくないが!?

「んんっ!! んっ!!」

 止めろ、ボケッ!!と、叫んだ処で言葉にならず。
 腕を動かせば、縄で拘束された両手首が擦れ、余計に締め付けられて痛くなるばかりだ。
 盛られた薬のせいで大して動けないから、大きな傷にならないのが幸いなのかも知れないが。
 さわさわと乳輪をなぞられ、乳首を摘まれ、果ては舐められたりして、とにかく気持ちが悪い。
 腹に何も入っていないから良いが、満腹だったら吐いていただろう。…いや、吐けないか。
 ふくらはぎから膝裏を撫でていた手が、太腿をやわやわと弄りながら、徐々に付け根へと登って来るのにも、悪寒しか感じない。

「…ふふ…怖いのですか? 安心して下さい。直ぐに善くなりますから…」

 熱い息を俺の耳に吹き掛けながら、神父がやわやわと、縮こまった俺の睾丸を揉む。

「んんっ!!」

 その自信は何処から来るのか問いたい。
 男は初めてだと、口にしていただろうが。

「ああ…なんて可憐で綺麗な聖杯なのでしょう…」

「んん~っ!?」

 聖水の次は聖杯か!! 本当に変態だな!?
 とのツッコミは当然言葉にならず、神父に片手で腰を上げられ、その下に丸めた布団を置かれ、ぐっと脚を開かされた。
 俺の尻に顔を寄せる神父の顔に、思い切り屁をかましてやりたい。…出ないが…。
 俺は、この身体になってから、一切の排泄をしていない。
 俺が口にした物…いや、体内に取り込んだ物は、全てフクロムシの養分になっている。
 我ながら、化け物じみていると思う。

「んっ!?」

 なんて思っていたら、ぺろりと蕾を舐められて、身体がビクンッと跳ねた。

 あ…拙い…。

「…………甘い…?」

 …薬で、どれだけの時間意識を失っていたのかは、知らないが、軽く朝食を採った後にお茶を飲んでいた。先に自覚した様に、俺の腹の中は空っぽだ。
 自覚するんじゃなかった。自覚すれば、それに意識が向いてしまう。
 今は、昼過ぎか?
 厚みのあるカーテンのせいで、陽がどれぐらいの位置にあるのか解らないが、一日三食きっちり摂る様にしていたツケが回って来た感じだ、これは。

 …フクロムシが…腹を空かせている…。

「…これは…?」

「んっ!!」

 神父が両手でぐっと尻を割り開く。
 空気に晒されたそこがヒクヒクと動くのが解る。
 ヒクヒクと動きながら、トロトロとした蜜を…甘く薫り、雄を…男を誘う蜜を零しているのだろう。

「んぅっ!!」

 神父なら、こんな身体の俺を怪しく思っても良いと思うが、こいつはつぷりと指を中に挿し込んで来た。

 ああ…そうだよな…この蜜のせいで思考なんて麻痺しているよな…。

 これに惑わされないのは、アグナぐらいなものだろう。

「…素晴らしい…」

 グチュグチュと音を鳴らし、指の本数を増やしながら、神父が呟く。

「ん…っ…! んん…っ…!!」

 中を広げる様に神父の指が動く度に、俺の身体がビクビクと震える。

「ん~~~~~~~~~っ!!」

 何の遠慮も配慮も無い指が、そこを掠めた時、俺は激しく身体を震わせてしまった。

「…ああ…ここが善いんですね…?」

 違う!
 そこは…っ…!!

「んんっ!!」

 違うと首を振るが、神父は舌舐めずりをしながら、執拗にそこを指で責めて来た。
 
「ん~っ!! んんっ!!」

 そこは。
 アグナ曰く前立腺と云う物で、男にしかない物だ。そして、性感帯でもあるらしい。
 …らしいが…今、俺のそこには、フクロムシの核がある。
 アグナ曰く『…強い快楽を覚えれば覚える程、受胎しやすいとの話がある。だから、そこに根付く様にした』との事だ。勿論、その話を聞かされた時も、俺はアグナの横っ面を殴った。しかし、奴は鼻血を流しながら笑って言ったのだ。

『食事は楽しみながら摂るものだ』

 と。
 勿論、また殴った。
 この神父も変態だが、アグナも相当な物だと思う。…今更か。
 核に何かがあれば、当然フクロムシも俺も死ぬ。が、どれだけ執拗に責めても、この核が壊れる事はない。…アグナで実証済みだ。

「んん~~~~~~~~~っ…!!」

 そこが善いのはフクロムシで、俺は善くない。
 快楽を得て喜んでいるのは、フクロムシだ。
 俺は、そのフクロムシが得た快楽に引き摺られているだけだ。
 そりゃあ、もそもそと食べる飯は美味くない。
 美味くないが、こんな気が狂いそうな程の歓びなんて必要無い。

「…達したのですか…? 聖水は出ていませんが…」

 ぐったりとした俺を見て、神父が首を傾げた。

 …何処まで聖水を引っ張るんだ。
 …精液なんか、俺が吐き出す前に全部フクロムシ行きだ。こいつは、少しの養分も逃さない、貪欲な奴なのだ。
 なら、自給自足出来るのでは? と、俺も思った。
 が。

『元々が受胎を目的としたものだ。外部からの因子でなければならない。己の精子で受胎出来るか?』

 と、一蹴された。
 雌雄同体の蝸牛とか居るだろうと言えば、奴は耳をほじくり出したから、取り敢えず、また殴った。
 とにかく。
 このフクロムシのせいで、俺は体外に何かを出す事は出来なくなった。汗やら涙を流しはするが、それだって、乾き切る前に肌から吸収されて行く。そして。核を刺激されて作られた精子は、射出される瞬間にゴソッとフクロムシに持っていかれる。絶頂の気分は味わえる…が…。
 本来なら、体外へと放出される物だ。
 それが出来ずに絶頂を迎えるのは、なかなかに苦しい。長く続く快感の余韻が、とにかく苦しい。

「~っ! んん…っ…!」
 
 激しく身体を痙攣させる俺の姿に、神父が首を傾げる。
 猿轡が苦しい。
 新鮮な空気が欲しい。
 
「………は…っ…!」

 涙の浮かぶ目で神父を見上げれば、そっと猿轡が外されたから、俺は荒い呼吸を繰り返しながら、新鮮な空気を肺へと取り入れた。

「…シスター、リズ? あなたは何者なのです?」

 リズとは、俺の偽名だ。
 ラギだと男性名らし過ぎるからと、アグナが付けた名前だ。
 まあ、こうして男だと知られた今、それは偽名だと神父は気付いただろうが、他に呼びようもないからリズと呼んだのだろう。
 だが。
 その問い掛けに、俺は応える事は出来ない。
 ごっそりと養分を持っていかれた俺は、今、瀕死寸前だからだ。自給自足出来ないのは、このせいでもある。
 …養分を補給しなければ。
 外部から、種を貰わなければ…。
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