フクロムシ~俺がメス化した理由~

三冬月マヨ

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ヒイラギ〜その名前の理由〜

01.現実逃避

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『お前も、もう十五になる。…ヒイラギ。いずれ、お前が継ぐ名だ。その意味を知っておいた方が良い』

 俺が十五になった時、前村長の爺様がそう言った。
 現村長は、俺の親父だ。
 爺様が言った様に、村長となる者はその名を継ぐ。ヒイラギと云う名を。
 俺達の村は、山の中にある小さな村落だ。
 その山の中は祠がある。
 大昔の災い…悪魔を封じ込めているのだとか。
 俺は、その祠を見た事は無い。
 代々の村長だけが、そこへ足を運び、災いを抑える祝詞のりとをあげるとか何とか。
 詳しい事は、名を継ぐ時…村長になる時に話されるそうな。
 何分、大昔の話だから、それが嘘か本当かは知らない。が、その災いのせいで、俺達の村には女は生まれないし、他の町や国では、子が産まれにくくなっているらしい。
 俺達は、十八になったら、村を出て嫁を探しに行く。
 その歳になったら『嫁が見付かるまで帰って来るな』と、村から追い出される。酷い話だ。
 俺も、そうするだろうと思っていた。
 いたが、俺には既に相手が居る。
 …口減らしで、この山に捨てられた娘が。
 まだ、十の内に捨てられていた…それが、俺の婚約者だ。
 豊かな街や村があれば、その逆もある。
 俺達の村は裕福では無いが、決して貧しくもない。
 俺より二つ上と云う事で、彼女は俺の婚約者になった。
 いわゆる"隠れ里"と呼ばれるのが、俺の住む村だ。
 村人に発見された彼女は、大層驚いたそうだ。
 それならば、村人も同じだろうと思うだろうが、悲しいかな、捨てられた者は彼女だけでは、ない。他にも捨てられた者や、行く当てがなく自死しようとした者達も、この村には居る。それ程に、俺達の村があるこの国は餓えていたのだ。それは、過去の災いのせいかも知れないし、そうではないのかも知れない。
 村は、行く当てのない彼等を追い出す様な事はしない。
 住みたければ、住めば良い。
 行く当てが出来るまで、暮らせば良い。
 出て行くのを引き留めたりも、しない。
 ただ、村の事は他言無用。
 災いの祠の事は、特にだ。

 ああ、その祠に関しては『豊穣の神を祀っている』と、通している。下手に隠すよりは、この方が良いらしい。

 大昔の御先祖様がした事だが、その責は、今もなお続く。
 何かのきっかけに、村が焼き討ちに遭うかも知れない。その可能性は、どれだけの時を経ても消しきれないと、爺様は語った。俺達の御先祖様がした事の罪を、村の皆に負わせる訳には行かない。罪を受けるのは、自分達で十分だと。
 冗談じゃない。
 俺は、そう思った。
 そんなのは、とばっちりも良い処じゃないか。
 そんな大昔の事に囚われて、この村から出て行く事も出来ないなんて。
 爺様達は、まだ良い。
 が、俺はまだ若かった。
 嫁探しに村の外へ出るのを、実は楽しみにしていた。
 しょっぱい大きな水溜りと云うのを見てみたかった。
 が。
 降って湧いた婚約者で、そんな楽しみも消えてしまった。
 八つ当たりした俺に、彼女は『ごめんなさい』と、寂しそうに笑いながら謝った。
 爺様や親父、母親、果ては村の皆に怒られたのは、今となっては懐かしい思い出だ。

 ヒイラギ。
 それには、魔を、邪を、祓う意味があると言う。
 大昔、災いを…悪魔を封じ込めた者が、その名を名乗る様に言ったのだとか何だとか。
 悪魔の力がどれ程の物かは知らない。
 知らないが、そいつは封じる事しか出来なかったのだろうかと思う。
 倒す事は出来なかったのかと。
 爺様は、それを戒めだと言ったが。
 ご先祖様の仕出かした事を忘れない為に、わざとそうしたのだろうと。
 人は、愚かな生き物だから。
 人は、それを繰り返すものだから。
 だから、常にその存在を忘れない様に…と。

 ◇

 と、まあ、つらつらと何を昔話を語っているのかと言うと…。

「…ああ…巡礼のせいなのでしょうか…? 脚が硬いのは…綺麗な脚なのに…いいえ…ですから余計に綺麗なのですね…はあ…」

 この、変態のせいだ。
 この変態は、首元までを隠す裾の長い黒い衣服を纏い、首には銀で作られた十字架をぶら下げている。
 年の頃は、五十前半の中肉中背。
 短く刈り上げられた毛に白い物が混じっているが、それは老いを感じさせる物ではなく、むしろアクセントとなっている。
 穏やかに笑う男だった。
 垂れ目がちな目で、眉を下げて微笑まれれば、誰もが笑みを返す。そんな男だった。
 そんな男だった筈なのに。
 
 …どうして、こうなった。

「んん…っ…!!」

 俺の声がくぐもっているのは、猿轡を噛まされているからだ。
 外せば良いだろうって?
 出来るのならば、とっくにやってる。
 出来ないのは、万歳の体勢でベッドヘッドに腕を縛り付けられているからだ。
 そう、俺が今居るのは、薄暗い部屋にある柔らかなベッドの上。

「ああ、暴れないで下さい…この美しい脚を傷付けたくはありません…」

 で、俺の立てた膝の間に居て、そのふくらはぎに頬を擦り付けているのは、変態、もとい、この教会の神父だ。
 そう、今、俺が居るのは神聖で静謐な場所である教会の筈だ。
 間違っても、連れ込み宿では、無い。
 無い筈だと思いたい。

「んん~~~~~~~~~っ!!」

 はっきり言わなくても気持ち悪い。
 こいつが脚に頬を擦り付ける度に、更には唇を這わせ、ねっとりと舌で舐められる度に、ぞわぞわと肌が泡立つ。
 蹴り飛ばせって?
 それも出来るなら、とっくにやってる。
 出来ないのは、こうして拘束されてる事から察して貰えるとありがたいが、薬を盛られたからだ。
 神父一人しか居ない、この教会の世話になって一週間。
 特に悪魔に関する情報も資料も見付からず、次へ行くかと、その挨拶をしていた。
 良い勉強になったと適当な事を言いながら、朝食後に差し出されたお茶を飲んでいた。この一週間、食後には必ず良い香りのハーブティーが出されていた。だから、今回も『戴きます』と、何の警戒もせずに飲んでいた。
 いた筈だった。
 が、気が付いたらこれだ。
 高熱に魘された時の震え…そんな感じにしか、身体を動かせなくなっていた。
 神父のくせに、何を考えているのだろう。
 触手フクロムシを使えって?
 残念だが命に危険が無いからか、奴は大人しいままだ。
 使えない奴めっ!!
 奴がやる気になるのは、魔獣が現れた時との時ぐらいだ。

「ああ…やっと…この美しい脚が私の物に……」

 そんな訳で、恍惚とした表情で脚をすりすりされたり、舐められたりしたら、現実逃避したくなると思う。何か、この行為とは違う事を考えたくなるだろうと思う。
 剃り残しの髭が痛いやら擽ったいやらで、本当に、今直ぐここから逃げ出したい…っ…!!

「んんんんんんん~~~~~~~~~~~~っ!?」

 このクソ神父、上着を脱ぎ出した上に、股間の布を寛げましたと思ったら中身を取り出しましたですよ!?
 って、何でもう、勃起していらっしゃるんですか!?
 俺の脚で感じて勃起されたんですか!?
 トロトロと溢れているのは先走りですか!?

 言葉が乱れに乱れているが、仕方が無い。
 とにかく、この状況が嫌過ぎる。

「んんっ!?」

 ぴとりと、神父の性器が俺のふくらはぎにくっつけられた。

「…はあ…」

 おい…待て…何、熱い息を吐いているんだ…先走りで、濡れに濡れた性器を押し付けて何をする気だ。

「…いきますよ…」

 いかなくて良い!!
 何で、両手で性器と一緒に俺のふくらはぎも握り込む!?

「んんんんんんんん~~~~~~~~っ!!」

 猿轡が無ければ。
 身体が自由に動けば。
 俺は、みっともなく『ぎゃああああっ!!』と叫び、脚を振り回していただろう。
 この変態神父、握り込んだと思ったら、それはもう元気に、勢い良く…良過ぎるぐらいに、腰を振り始めやがった。

「はっ…はっ! …ああ…この弾力…素晴らしい…はっ…!!」

 人の脚を使って、自慰をするなっ!!

 と、声にならない声で叫んだ処で変態神父に届く筈も無く。

「あっ…あ…っ…ああ…っ…く…っ…!!」

 虚無顔って、きっと今の俺の顔の事を言うのだと思う。
 変態神父の腰の動きが止まったと思ったら、握り込んでいた手が離れて、俺の脚にそれが吐き出された。べっとりとしたそれは、脚だけでは無く、一張羅のシスター服にも被弾した。
 どうするんだ、これ?
 いや、アグナに頼めば、シスター服の一着や二着ぐらい用意してくれるし、これもアグナが用意してくれた物だが。
 …だが…その理由がこれって、最悪過ぎるんだが?
 俺はただ、スンッと感情の消えた目で、荒い息を吐く変態神父を見上げる事しか出来なかった。

「…はあ…はあ…どうですか…私の聖水のお味は…?」

「んんーっ!!」

 うっとりとした声で問い掛けられて、俺の虚無顔は彼方へと飛んで行った。
 聖水じゃなく、精水…精液だろうがっ!!

「…ああ…脚では不満でしたか? 安心して下さい…中にもたっぷりと差し上げますから…ね…?」

 俺の腹を撫でながら、変態神父がとんでもない事を口にした。

「んっ!?」

 神父が中出し宣言するんじゃないっ!!
 っと、違う、そうじゃない。
 これはチャンスだ。
 中出しすると言う事は、俺の性器を見ると云う事。
 俺の事を女だと思っているこいつは、間違いなく、俺が男だと知れば萎えるだろうし、神父と云う職業柄、同性との性交には嫌悪感を示す筈だ。だって、教会は『産めよ増やせよ』と謳っているのだから。
 幸いにも人間が相手だから、触手が腹を空かせて暴れる事も無い。
 …暴れるとは、俺の尻が濡れる事だ。
 トロトロとした、甘い匂いを放つ蜜には男を発情…欲情させる効果がある。
 腹さえ空いてなければ、俺だって男とやりたいだなんて思わない。
 生きる為に、仕方がなくしている事だ。
 生きる為の、食事なのだから。

「…おや…」

 それなのに。
 聖水じゃなく、俺の脚についた精液をぬるぬると伸ばしながら、太腿をまさぐり、ゆっくりとスカートを捲り上げて、下着を身に着けていないそこを見た変態神父の第一声は、それだった。

「…男性だったのですね…」

 落胆や怒りの響き等、微塵もない声音だ。何なら、舌なめずりもしてやがって…はっきり言おう。とてつもなく嬉しそうな声だと。

 なんでだ!?

 神父達は、誰も同性との性交を良しとしていない筈では!?
 同性とする暇があるなら、異性として子作りに励めと、そう云う考えの筈だよな!? 一般的にはそうだと、アグナから教えて貰ったぞ!? それなのに、何で、ここで、もれなく例外が出て来る!? 俺、何か悪い事をしたか!? したのはご先祖様だろう!?

「…それなら、どれだけ注ごうと問題無いですね…」

「んんっ!?」

「以前のシスターの様に…楽しみ尽くす間も無く…受胎されでもしたら困りますから…ね…」

「んっ!?」
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