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第23話 エリナ
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雨鳥エリナは、物心つく頃から沢山の物を与えられてきた。雨鳥家の広大な屋敷は、エリナを中心に回っていた。エリナは、見目がよく、成績も優秀だった。地元では、チョウ食品会社は有名な優秀企業の一つで、周囲の大人達から褒められる事が多かった。
母は、エリナの事をとても可愛がってくれた。母とよく似た黒髪で、大きな瞳のエリナの為に、母は沢山の玩具や衣装を用意してくれた。
だけど、7歳になる頃エリナの生活は一変した。
母が、入院した。
母のお腹の中に赤ちゃんいるらしい。体調を崩した母は何日も、何週間も、何カ月も帰って来なかった。
エリナはもう小学生だから、お姉さんだから、いい子だからと、なんでも自分でするように父に言われた。
母が入院してからも、父は仕事で忙しく家にいない。家事やエリナの世話の為に雇われた家政婦の中年女が家に来るようになった。
母が入院して数日後、母がいなくなりイライラしていたエリナは、家政婦へ怒鳴り、本を投げつけてしまった。
本は、家政婦の中年女の顔に当たり出血した。床にポタリと落ちた血を見て、エリナは謝ろうとした。
「ご、ご、ご」
エリナは悪くない。この人がエリナの言う事を聞かないから、お母さんじゃないから、優しく無いから。
だからエリナは悪くない。
だから、
どうしても上手く謝れない。
エリナは顔を上げて家政婦を見た。
家政婦の中年女は、顔の傷を片手で押さえながら、忌々しそうにエリナを見下ろしてきていた。
その日から、家政婦はエリナを無視するようになり、話しかけても睨みつけてくるだけで返事すらしなくなってしまった。
食事は用意されている。家の中は毎日清潔に掃除され、埃一つ落ちていない。エリナが寝る直前に帰ってくる父はいつも疲れた表情をしている。
エリナは父に言えなかった。
お母さんを返して欲しい。
寂しい。
お母さんに逢いたい。
赤ちゃんがお母さんをエリナから奪った。
赤ちゃんなんていなくなればいいのに。
エリナは疲れきったお父さんに伝える事が出来なかった。
母は、妹のリアナを産み退院した。
エリナは、とても喜んだ。
母が帰ってきた事を。
だけど、どうしても赤ちゃんの事を可愛いと思えなかった。
皺だらけの皮膚に、甲高い不快な鳴き声。
やっと帰ってきた母は、妹の世話ばかりしている。
エリナはもう小学生だ。
お姉ちゃんだから、大きいから、貴方はいい子だからと、母はエリナに何度も言ってくる。
時々エリナは思う。
妹なんていなければいいのにと。
年が離れた妹はすくすく大きくなった。
そして、エリナの物が妹の物になった。
エリナは、学習机やベッドが置かれている子供部屋と、沢山の衣装や遊び道具を置かれている部屋の2部屋を使っていた。
エリナの衣装と玩具を置いていた部屋は妹の部屋になり、エリナはもう使わないだろうからと母が買ってくれたお気に入りの服や玩具を奪われた。
本当は嫌だった。
妹に渡したくなかった。
エリナの物なのに。
母も、服も、玩具も、父も、なにもかもエリナだけの物だったのに。
エリナは、母が入院した時の家政婦にされたように、リアナを無視するようになった。
辿々しく歩き出したリアナが、エリナに近づいてくる事が何度もあった。意味不明な言葉で話しかけてくる事もあった。
エリナは、あの家政婦のようにリアナを無視し続け、できるだけ視界に入らないように避けた。
父は仕事で忙しい。母は何度かエリナの妹への態度を咎める事があったが、成績も優秀で、学校や親戚から評判のいいエリナに強く注意する事はなかった。
いつしか、母は、優秀で美しいエリナが、リアナに冷たい態度を取るのは、リアナにも問題があると言うようになった事に気が付いた。リアナは、母より父に似ていた。地味で冴えない顔立ちのリアナは、母からも親戚からも姉に似ていない地味で暗い子だと言われるようになっていた。
(そうよ。リアナは、私から沢山の物を奪って行く。意地汚い妹。地味で暗い‥‥‥)
幼い頃は、優秀で、神童と持て囃されていたエリナだが、高校に入ると急に成績が下がってきた。
女友達と一緒に、カラオケやショッピングに費やす時間が増え、初めは平均点を超えていた成績もドンドン悪くなってきた。
彼氏もできた。エリナは自分の外見が美しい事に気がついていた。告白する男達の真剣な顔が面白くて、何人とも付き合った。
大学に入学してからも、エリナの派手な男関係は相変わらずだった。
エリナが20歳の時、付き合っている彼達が鉢合わせした。男達で殴り合いが始まり、警察が呼ばれる程の大騒ぎになってしまった。
母は泣いていた。
「エリナ。どうしてこんな事を?」
知らせを受け、仕事を切り上げて帰ってきた父は眉間に皺を寄せて難しい表情をしている。
「私は悪くないわ。告白されたから付き合っていたの。今日だって勝手に殴り合い出したのよ。私は何もしていないのに」
「エリナ!何もしていない事なんて無いだろう。彼らは、君と付き合っていると主張している。かなりの金額を貢いだとも。君は、あまりにも自分勝手だ。」
「そんな事ないわ。皆が勝手にした事よ。私は悪く無い」
「エリナ。どうしてわからないの。どうして?」
母は涙を流していた。後悔するように。
(どうしてお母さんが泣いているの?私は何も悪い事をしていないのに)
その日、両親は遅くまで話し合っていた。
エリナは婚約させられる事になった。卒業と共に結婚して、早く身を固めるように父に言われた。
婚約相手は、木龍ジョージだった。
木龍家には、前妻の子のジョージと後妻の子供達がいる。後妻はジョージを早く木龍家から追い出したいらしい。
優秀な前妻の子ジョージが、木龍家の跡取りに選ばれる可能性を潰したくて、婿養子先を探し、雨鳥家のエリナが選ばれた。
厄介払いの為の結婚だった。エリナは薄々気がついていた。父はエリナのした事を許していない。結婚後は、大人しくするように言われた。
ジョージは冷めた人物だった。婚約が決まり、初めて会った日にエリナはジョージに何度も話しかけた。表情を変えず返答をするジョージは、明らかにエリナに興味が無いように見える。
「ねえ、ジョージ。婚約するなら、仲良くしましょう」
エリナは、ジョージに近づき触れようとした。
ジョージは、そんなエリナの手を払いのけて、見下して言った。
「触るな。僕が君と婚約するのは煩わしい事から逃れる為だ。仲良くするつもりはない」
「確かに家同士の婚約だわ。でも、どうせ結婚をするならお互いに楽しめた方がいいでしょう。」
「僕は義母が大嫌いでね。あの女が木龍家に来てから何度も嫌がらせを受けてきた。君の奇妙に甲高い声は義母にそっくりだよ。父を誘惑して母を死に追いやったあの自分勝手で忌々しい女に」
エリナはゆっくり手を引き戻した。
ジョージがエリナを忌々しそうに見る目は、あの家政婦の目を思い出させた。
(この男はダメだわ。使えない。だけどお父さんからジョージは、かなりの資産を引き継ぐ予定だって聞いたわ。見た目もいいし、結婚するだけなら)
「そう。残念だわ。だけど、人目がある所ではそれなりの態度をとってね。両親は絶対、私達を結婚させたいみたいだし、不仲だと噂が立つのはお互い避けたいでしょう。私は、触れ合いが無くても別に構わないわ」
(男ならいくらでもいるもの)
両親の思惑通り、エリナはジョージと婚約した。
ジョージとは、大学を卒業すると同時に結婚する事になっている。
ジョージは、エリナと初めて会った時に交わした会話を守ろうと努力しているみたいだった。
頻回に雨鳥家を尋ねてきて、プレゼントを渡してくる。
彫刻の様な無表情で数分話すと、すぐに帰るジョージが、何処となく気味悪く感じていたが、エリナは現状に満足していた。
両親にはバレないように、エリナは異性との付き合いを続けていた。
特に、最近出会った不動産会社勤務の林原ガウンとエリナは気が合った。ガウンはエリナの事を熱心に口説いてくる。容姿だけでなく、些細な仕草や声、なんでも褒めてくる。
ガウンは、筋肉質で頼り甲斐のある男性だった。身体の相性も凄くいい。
(これって恋なのかしら。ガウンとずっと過ごせたら幸せかもしれない。あんな不気味な男と結婚させられるより)
そんなある日、エリナは衝撃的な光景を目にした。
ガウンとの密会を楽しみ、予定より遅く家に帰ると木龍ジョージが訪ねてきていると知らされた。
応接室でエリナの事を待っているらしい。
また、あの鉄仮面の相手をしなければいけないのかと少し面倒に思いながらエリナは応接室へ近づいた。
「ありがとうございます。お義兄さん。」
応接室から女の声が聞こえてきた。
エリナは驚きながら、そぉっとドアの隙間から覗き込んだ。
部屋の中には、ジョージとリアナがいた。
ジョージから貰ったのか、リアナは淡いグリーンの包装紙とピンクのリボンに包まれた箱を丁寧に開けようとしている。
ジョージは、そんなリアナを見つめて愛おしそうに微笑んでいた。
この世で最も尊い女を見ているように。
エリナは、すぐに悟った。
ジョージが微笑むなんて信じられない。
彼は恋をしている。あろう事が妹のリアナに。
リアナに奪われた。
リアナは何もかも奪っていく。
私の婚約者まで。
エリナは、呆然と後退り、自室へ向かった。
20畳程あるエリナの部屋には、毛足が長い絨毯が敷き詰められ、大理石で作られたテーブルと椅子。ヨーロッパ製のベットが置かれている。ウォークインクローゼットには、ブランド品のバックやドレス、宝飾品が沢山置かれている。
エリナは、さっきの光景を頭に思い浮かべ、隣室の妹の部屋へ入っていった。
妹の部屋は、エリナの半分程の広さしかない。
幼い頃は、ここもエリナの部屋だった。奥へ進み、クローゼットを両手で開いた。
中には、沢山のプレゼントが置かれていた。
青く輝くサファイアがつけられたペンダント。
高級皮で作られたブランド品のバック。
外国製の万年筆。
どれも見た事がある。ジョージからのプレゼントだ。ジョージはエリナにはイミテーションの宝石やレプリカのブランド品を渡してきた。愛のない政略結婚だからと我慢してきたが、ここにあるのは全て本物だ。
妹のリアナはまだ中学生だ。
分別のつかない子供に、こんな高級品を渡すなんて信じられない。
しかも、婚約者であるエリナを差し置いて。
「お姉さん?」
考え込んでいると、いつの間にかリアナが部屋へ戻ってきていたらしい。
リアナは、長い黒髪を背中で三つ編みにして、俯いている。
こんなに冴えない女に、あのジョージが心奪われるなんて事があるのだろうか?
勘違いかもしれない。
エリナは、リアナに向かって歩き、すれ違い様にぶつかり、リアナを転ばせた。
「キャ。」
僅かに涙目になったリアナを冷たく見下ろして、エリナは無言で部屋を出て行った。
(確かめないと!)
ジョージはまだ応接室にいた。
エリナは、応接室へ入りジョージに話しかけた。
「随分高価な物を妹に渡しているのね。意味が分からないわ。あの根暗で冴えない妹に、どうして?」
いつもは表情が変わらないジョージが、エリナを忌々しそうに睨みつけてきた。
「はっ。リアナは美しいよ。」
「貴方どうかしてしまったの?あの子が美しいだなんて信じられないわ。約束したじゃない。お互いそれなりの態度を・・・・・・」
「それを君が言うのか?僕が何も知らないとでも?かなり派手に遊んでいるようだね。特に林山って言ったかな?彼は君と将来を誓い合ったとまで周囲に言い回っているらしいよ」
「それは・・・・・・」
「僕は君とは結婚しないつもりだ。でも婚約は暫く続けてもいい。彼女はまだ若いから、結婚できるようになるまで」
「リアナなの?あの子のせいで!どうしてあんな子が!本当に忌々しい!」
ジョージはエリナを睨みながら言った。
「本当に醜いクズ女だな」
「私は美しいわ。貴方って本当に最低ね!」
エリナは、ジョージを残し応接室から出て行った。
もうあんな男なんていらない。
いくら裕福でハンサムでも、変態はゴメンだ。
エリナの事を醜いクズ女と言うなんて、どうしても許す事ができない。
エリナは両親の寝室へ行った。
母は最近体調を崩し寝込む事が増えた。
薄暗い両親の寝室で、母は横たわっていた。
「お母さん。もう我慢できないわ。私は家を出るから」
ベットからなんとか起き上がった母は、エリナへ言った。
「何を言っているの?エリナ。出ていくだなんて」
「お母さんが悪いのよ。全部お母さんのせいよ。だからこれは貰っていくわ」
エリナは、衣装棚の二番目の引き出しに入っている鍵を取り出し、奥の金庫へ向かった。
金庫を開けると、金のインゴットが3本置かれていた。
持ってきた黒のバックへインゴットを入れ、母を振り返った。
母は震えていた。
「私のせい?私の」
「さようなら。もう帰ってこないわ。私は幸せになる。ねえ、応援してくれるでしょ?」
母は、ゆっくり頷いた。
(これは、盗難じゃないわ。だってお母さんの了承があるもの)
エリナは、父に置き手紙を書き、林原ガウンの元へ向かった。
ガウンとの暮らしは楽しかった。二人で海外へ行き、遊びまわった。
だけど、夢は長く続かない。
金のインゴットを換金して出来た金はすぐに目減りした。
誤算だったのは、ガウンが会社から解雇通知を受けた事だ。
申請した休暇日を超えても出勤しなかった為らしい。
少し遊びすぎたかもしれない。
エリナは実家の父へ連絡した。
父は激怒していた。エリナが海外へ行っている間に母が亡くなった。金の無心はハッキリと断られ絶縁を言い渡された。
エリナは、盗んでいないと主張したが、父には通じなかった。母さえ生きていたら、エリナの事を庇ってくれたはずなのに。
仕方がない。
残っていたお金を頭金にして、ガウンと共に中規模のマンションを買った。解雇通知は受けたが、まだ会社に籍があり、急いで集めた書類で不動産ローンを組む事ができた。
オーナーのために作られた最上階の広い部屋でのガウンとの暮らしは楽しかった。
友人達を招きパーティをする。
エリナはいつしか、死んだ母の事、気持ち悪い元婚約者の事、忌々しい妹の事を忘れていった。
欠陥が見つかったのは、家を出てから8年後だった。
マンションの外壁が急に崩れ落ち、下敷きになった住人の一人が怪我をした。
詳しく調べると、施工時の欠陥が見つかった。施工会社に問い合わせようとしたが、マンションを施工した会社は2年前に倒産していた。
金がない。
外壁を修理する金も、損害賠償を請求する相手もいない。
実家から持ち出した金は底をつき、マンションの家賃収入で暮らしていたが、マンションの住人達は次々に退去していき、新たな入居者の申し込みも途絶えてしまった。
「なあ、これ妹じゃないか?」
そんなある日、ガウンが経済新聞の片隅にチョウ食品会社の記事を見つけてきた。来週チョウ食品会社社長令嬢雨鳥リアナの婚約が決まったと書かれていた。相手はチョウ食品会社に勤める男性らしい。将来の社長夫妻の事を褒める内容に記事に、エリナは憤りを感じた。
「会社には金があるよな」
「ええ、祖父の代から続いているもの。現金だけじゃなくて、かなりの土地や設備があるはずだわ」
「継ぐのは、妹じゃなくてもいいのでは」
「そうよ。本当は私が引き継ぐはずだった。妹が奪ったのよ。あの愚図で根暗な忌々しい女が!」
「妹がいなくなればどうなる?」
エリナは、ガウンと顔を見合わせてニヤリと笑い合った。
「いなくなれば、後継者は私だけよね」
「ああ、社長になるのも悪くない。うまく行かなければ売り払えばいい」
「ああ、ガウン。嬉しいわ」
エリナは、ガウンに抱き着いた。
エリナとガウンは、下見の為チョウ食品会社に来ていた。会社の裏路地には、鍵がかかっていない窓がある。建て替えされないままの古い建物は、エリナの記憶と変わらなかった。
窓からエリナとガウンは侵入した。
社長室には、会社の金をいれた金庫がある。借金の支払期限が差し迫り、早急に金が必要だった。
薄暗い社長室へ入り、ガウンが見張りをしている間に、エリナは父の机の引き出しを開けた。引き出しの底は2重底になっている。角を押すと底が外れ、鍵が現れた。母は、寂しがり屋のエリナをよく連れて会社に来ていた。エリナは覚えていた。父がどこに鍵を隠しているのか。金庫の暗証番号だって。
奥の金庫へ進み、鍵を刺した状態で暗証番号を回す。4桁の暗証番号はエリナの誕生日に設定されているはずだった。ゆっくりと間違えないようにダイヤルを回す。
ガチャガチャガチャ。
暗証番号は合っているはずなのに、金庫が開かない。
(まさかね)
エリナは、妹の誕生日に合わせてダイヤルを回した。
ガチャリ!
金庫は開いた。中には現金も金塊も置かれていなかった。数十枚の書類が入れられている。
一見しただけだと分からないが、金になる書類かもしれない。エリナは力任せに金庫の中の書類をバックへ詰め込んだ。
(本当に忌々しい。こんなところまでリアナが!リアナ!リアナ)
「エリナ。誰か来た。どうする」
廊下の電気がつき、足音が近づいてきた。
「見られるのは不味いわ。なんとかして」
ガウンは、ドアの隣に立ちタイミングをうかがっている。
ガチャ、ギーーーーー。
ドアから入って来たのは、若い女だった。
黒髪の小柄な女は、黒のスーツを着こなし胸を張って電気をつけようと壁へむかった。
(雰囲気が違うけど、リアナだわ)
バチバチバチ
リアナの後ろに回ったガウンが、スタンガンをリアナの首元に当てた。リアナは、その場に崩れ落ちた。
「金庫に金は無かったわ。でも、その子がリアナよ。ふふふ。明日婚約式らしいけど、いなくなったらどうなるかしら?」
「会社の為の婚約なんだろ。婚約は必要だけど、姉妹どちらでもいいのでは?。妹がいない時にエリナが現れたら社長も助かるだろうな」
「ええ、そうよね。きっと父は私を受け入れるはずだわ。ねえガウン。その子は頼んだわね。風子崖がいいかもしれないわね。あそこから落ちたら死体も上がってこないそうよ。」
「ああ、任せてくれ」
「私は、実家に帰るわね。久しぶりだわ。愛している。ガウン」
「俺もだよ。エリナ」
リアナを担いだガウンと、エリナは熱いキスを交わし裏口から出て別れた。
それが、ガウンとの最後の別れになるなんて、エリナは想像もしていなかった。
母は、エリナの事をとても可愛がってくれた。母とよく似た黒髪で、大きな瞳のエリナの為に、母は沢山の玩具や衣装を用意してくれた。
だけど、7歳になる頃エリナの生活は一変した。
母が、入院した。
母のお腹の中に赤ちゃんいるらしい。体調を崩した母は何日も、何週間も、何カ月も帰って来なかった。
エリナはもう小学生だから、お姉さんだから、いい子だからと、なんでも自分でするように父に言われた。
母が入院してからも、父は仕事で忙しく家にいない。家事やエリナの世話の為に雇われた家政婦の中年女が家に来るようになった。
母が入院して数日後、母がいなくなりイライラしていたエリナは、家政婦へ怒鳴り、本を投げつけてしまった。
本は、家政婦の中年女の顔に当たり出血した。床にポタリと落ちた血を見て、エリナは謝ろうとした。
「ご、ご、ご」
エリナは悪くない。この人がエリナの言う事を聞かないから、お母さんじゃないから、優しく無いから。
だからエリナは悪くない。
だから、
どうしても上手く謝れない。
エリナは顔を上げて家政婦を見た。
家政婦の中年女は、顔の傷を片手で押さえながら、忌々しそうにエリナを見下ろしてきていた。
その日から、家政婦はエリナを無視するようになり、話しかけても睨みつけてくるだけで返事すらしなくなってしまった。
食事は用意されている。家の中は毎日清潔に掃除され、埃一つ落ちていない。エリナが寝る直前に帰ってくる父はいつも疲れた表情をしている。
エリナは父に言えなかった。
お母さんを返して欲しい。
寂しい。
お母さんに逢いたい。
赤ちゃんがお母さんをエリナから奪った。
赤ちゃんなんていなくなればいいのに。
エリナは疲れきったお父さんに伝える事が出来なかった。
母は、妹のリアナを産み退院した。
エリナは、とても喜んだ。
母が帰ってきた事を。
だけど、どうしても赤ちゃんの事を可愛いと思えなかった。
皺だらけの皮膚に、甲高い不快な鳴き声。
やっと帰ってきた母は、妹の世話ばかりしている。
エリナはもう小学生だ。
お姉ちゃんだから、大きいから、貴方はいい子だからと、母はエリナに何度も言ってくる。
時々エリナは思う。
妹なんていなければいいのにと。
年が離れた妹はすくすく大きくなった。
そして、エリナの物が妹の物になった。
エリナは、学習机やベッドが置かれている子供部屋と、沢山の衣装や遊び道具を置かれている部屋の2部屋を使っていた。
エリナの衣装と玩具を置いていた部屋は妹の部屋になり、エリナはもう使わないだろうからと母が買ってくれたお気に入りの服や玩具を奪われた。
本当は嫌だった。
妹に渡したくなかった。
エリナの物なのに。
母も、服も、玩具も、父も、なにもかもエリナだけの物だったのに。
エリナは、母が入院した時の家政婦にされたように、リアナを無視するようになった。
辿々しく歩き出したリアナが、エリナに近づいてくる事が何度もあった。意味不明な言葉で話しかけてくる事もあった。
エリナは、あの家政婦のようにリアナを無視し続け、できるだけ視界に入らないように避けた。
父は仕事で忙しい。母は何度かエリナの妹への態度を咎める事があったが、成績も優秀で、学校や親戚から評判のいいエリナに強く注意する事はなかった。
いつしか、母は、優秀で美しいエリナが、リアナに冷たい態度を取るのは、リアナにも問題があると言うようになった事に気が付いた。リアナは、母より父に似ていた。地味で冴えない顔立ちのリアナは、母からも親戚からも姉に似ていない地味で暗い子だと言われるようになっていた。
(そうよ。リアナは、私から沢山の物を奪って行く。意地汚い妹。地味で暗い‥‥‥)
幼い頃は、優秀で、神童と持て囃されていたエリナだが、高校に入ると急に成績が下がってきた。
女友達と一緒に、カラオケやショッピングに費やす時間が増え、初めは平均点を超えていた成績もドンドン悪くなってきた。
彼氏もできた。エリナは自分の外見が美しい事に気がついていた。告白する男達の真剣な顔が面白くて、何人とも付き合った。
大学に入学してからも、エリナの派手な男関係は相変わらずだった。
エリナが20歳の時、付き合っている彼達が鉢合わせした。男達で殴り合いが始まり、警察が呼ばれる程の大騒ぎになってしまった。
母は泣いていた。
「エリナ。どうしてこんな事を?」
知らせを受け、仕事を切り上げて帰ってきた父は眉間に皺を寄せて難しい表情をしている。
「私は悪くないわ。告白されたから付き合っていたの。今日だって勝手に殴り合い出したのよ。私は何もしていないのに」
「エリナ!何もしていない事なんて無いだろう。彼らは、君と付き合っていると主張している。かなりの金額を貢いだとも。君は、あまりにも自分勝手だ。」
「そんな事ないわ。皆が勝手にした事よ。私は悪く無い」
「エリナ。どうしてわからないの。どうして?」
母は涙を流していた。後悔するように。
(どうしてお母さんが泣いているの?私は何も悪い事をしていないのに)
その日、両親は遅くまで話し合っていた。
エリナは婚約させられる事になった。卒業と共に結婚して、早く身を固めるように父に言われた。
婚約相手は、木龍ジョージだった。
木龍家には、前妻の子のジョージと後妻の子供達がいる。後妻はジョージを早く木龍家から追い出したいらしい。
優秀な前妻の子ジョージが、木龍家の跡取りに選ばれる可能性を潰したくて、婿養子先を探し、雨鳥家のエリナが選ばれた。
厄介払いの為の結婚だった。エリナは薄々気がついていた。父はエリナのした事を許していない。結婚後は、大人しくするように言われた。
ジョージは冷めた人物だった。婚約が決まり、初めて会った日にエリナはジョージに何度も話しかけた。表情を変えず返答をするジョージは、明らかにエリナに興味が無いように見える。
「ねえ、ジョージ。婚約するなら、仲良くしましょう」
エリナは、ジョージに近づき触れようとした。
ジョージは、そんなエリナの手を払いのけて、見下して言った。
「触るな。僕が君と婚約するのは煩わしい事から逃れる為だ。仲良くするつもりはない」
「確かに家同士の婚約だわ。でも、どうせ結婚をするならお互いに楽しめた方がいいでしょう。」
「僕は義母が大嫌いでね。あの女が木龍家に来てから何度も嫌がらせを受けてきた。君の奇妙に甲高い声は義母にそっくりだよ。父を誘惑して母を死に追いやったあの自分勝手で忌々しい女に」
エリナはゆっくり手を引き戻した。
ジョージがエリナを忌々しそうに見る目は、あの家政婦の目を思い出させた。
(この男はダメだわ。使えない。だけどお父さんからジョージは、かなりの資産を引き継ぐ予定だって聞いたわ。見た目もいいし、結婚するだけなら)
「そう。残念だわ。だけど、人目がある所ではそれなりの態度をとってね。両親は絶対、私達を結婚させたいみたいだし、不仲だと噂が立つのはお互い避けたいでしょう。私は、触れ合いが無くても別に構わないわ」
(男ならいくらでもいるもの)
両親の思惑通り、エリナはジョージと婚約した。
ジョージとは、大学を卒業すると同時に結婚する事になっている。
ジョージは、エリナと初めて会った時に交わした会話を守ろうと努力しているみたいだった。
頻回に雨鳥家を尋ねてきて、プレゼントを渡してくる。
彫刻の様な無表情で数分話すと、すぐに帰るジョージが、何処となく気味悪く感じていたが、エリナは現状に満足していた。
両親にはバレないように、エリナは異性との付き合いを続けていた。
特に、最近出会った不動産会社勤務の林原ガウンとエリナは気が合った。ガウンはエリナの事を熱心に口説いてくる。容姿だけでなく、些細な仕草や声、なんでも褒めてくる。
ガウンは、筋肉質で頼り甲斐のある男性だった。身体の相性も凄くいい。
(これって恋なのかしら。ガウンとずっと過ごせたら幸せかもしれない。あんな不気味な男と結婚させられるより)
そんなある日、エリナは衝撃的な光景を目にした。
ガウンとの密会を楽しみ、予定より遅く家に帰ると木龍ジョージが訪ねてきていると知らされた。
応接室でエリナの事を待っているらしい。
また、あの鉄仮面の相手をしなければいけないのかと少し面倒に思いながらエリナは応接室へ近づいた。
「ありがとうございます。お義兄さん。」
応接室から女の声が聞こえてきた。
エリナは驚きながら、そぉっとドアの隙間から覗き込んだ。
部屋の中には、ジョージとリアナがいた。
ジョージから貰ったのか、リアナは淡いグリーンの包装紙とピンクのリボンに包まれた箱を丁寧に開けようとしている。
ジョージは、そんなリアナを見つめて愛おしそうに微笑んでいた。
この世で最も尊い女を見ているように。
エリナは、すぐに悟った。
ジョージが微笑むなんて信じられない。
彼は恋をしている。あろう事が妹のリアナに。
リアナに奪われた。
リアナは何もかも奪っていく。
私の婚約者まで。
エリナは、呆然と後退り、自室へ向かった。
20畳程あるエリナの部屋には、毛足が長い絨毯が敷き詰められ、大理石で作られたテーブルと椅子。ヨーロッパ製のベットが置かれている。ウォークインクローゼットには、ブランド品のバックやドレス、宝飾品が沢山置かれている。
エリナは、さっきの光景を頭に思い浮かべ、隣室の妹の部屋へ入っていった。
妹の部屋は、エリナの半分程の広さしかない。
幼い頃は、ここもエリナの部屋だった。奥へ進み、クローゼットを両手で開いた。
中には、沢山のプレゼントが置かれていた。
青く輝くサファイアがつけられたペンダント。
高級皮で作られたブランド品のバック。
外国製の万年筆。
どれも見た事がある。ジョージからのプレゼントだ。ジョージはエリナにはイミテーションの宝石やレプリカのブランド品を渡してきた。愛のない政略結婚だからと我慢してきたが、ここにあるのは全て本物だ。
妹のリアナはまだ中学生だ。
分別のつかない子供に、こんな高級品を渡すなんて信じられない。
しかも、婚約者であるエリナを差し置いて。
「お姉さん?」
考え込んでいると、いつの間にかリアナが部屋へ戻ってきていたらしい。
リアナは、長い黒髪を背中で三つ編みにして、俯いている。
こんなに冴えない女に、あのジョージが心奪われるなんて事があるのだろうか?
勘違いかもしれない。
エリナは、リアナに向かって歩き、すれ違い様にぶつかり、リアナを転ばせた。
「キャ。」
僅かに涙目になったリアナを冷たく見下ろして、エリナは無言で部屋を出て行った。
(確かめないと!)
ジョージはまだ応接室にいた。
エリナは、応接室へ入りジョージに話しかけた。
「随分高価な物を妹に渡しているのね。意味が分からないわ。あの根暗で冴えない妹に、どうして?」
いつもは表情が変わらないジョージが、エリナを忌々しそうに睨みつけてきた。
「はっ。リアナは美しいよ。」
「貴方どうかしてしまったの?あの子が美しいだなんて信じられないわ。約束したじゃない。お互いそれなりの態度を・・・・・・」
「それを君が言うのか?僕が何も知らないとでも?かなり派手に遊んでいるようだね。特に林山って言ったかな?彼は君と将来を誓い合ったとまで周囲に言い回っているらしいよ」
「それは・・・・・・」
「僕は君とは結婚しないつもりだ。でも婚約は暫く続けてもいい。彼女はまだ若いから、結婚できるようになるまで」
「リアナなの?あの子のせいで!どうしてあんな子が!本当に忌々しい!」
ジョージはエリナを睨みながら言った。
「本当に醜いクズ女だな」
「私は美しいわ。貴方って本当に最低ね!」
エリナは、ジョージを残し応接室から出て行った。
もうあんな男なんていらない。
いくら裕福でハンサムでも、変態はゴメンだ。
エリナの事を醜いクズ女と言うなんて、どうしても許す事ができない。
エリナは両親の寝室へ行った。
母は最近体調を崩し寝込む事が増えた。
薄暗い両親の寝室で、母は横たわっていた。
「お母さん。もう我慢できないわ。私は家を出るから」
ベットからなんとか起き上がった母は、エリナへ言った。
「何を言っているの?エリナ。出ていくだなんて」
「お母さんが悪いのよ。全部お母さんのせいよ。だからこれは貰っていくわ」
エリナは、衣装棚の二番目の引き出しに入っている鍵を取り出し、奥の金庫へ向かった。
金庫を開けると、金のインゴットが3本置かれていた。
持ってきた黒のバックへインゴットを入れ、母を振り返った。
母は震えていた。
「私のせい?私の」
「さようなら。もう帰ってこないわ。私は幸せになる。ねえ、応援してくれるでしょ?」
母は、ゆっくり頷いた。
(これは、盗難じゃないわ。だってお母さんの了承があるもの)
エリナは、父に置き手紙を書き、林原ガウンの元へ向かった。
ガウンとの暮らしは楽しかった。二人で海外へ行き、遊びまわった。
だけど、夢は長く続かない。
金のインゴットを換金して出来た金はすぐに目減りした。
誤算だったのは、ガウンが会社から解雇通知を受けた事だ。
申請した休暇日を超えても出勤しなかった為らしい。
少し遊びすぎたかもしれない。
エリナは実家の父へ連絡した。
父は激怒していた。エリナが海外へ行っている間に母が亡くなった。金の無心はハッキリと断られ絶縁を言い渡された。
エリナは、盗んでいないと主張したが、父には通じなかった。母さえ生きていたら、エリナの事を庇ってくれたはずなのに。
仕方がない。
残っていたお金を頭金にして、ガウンと共に中規模のマンションを買った。解雇通知は受けたが、まだ会社に籍があり、急いで集めた書類で不動産ローンを組む事ができた。
オーナーのために作られた最上階の広い部屋でのガウンとの暮らしは楽しかった。
友人達を招きパーティをする。
エリナはいつしか、死んだ母の事、気持ち悪い元婚約者の事、忌々しい妹の事を忘れていった。
欠陥が見つかったのは、家を出てから8年後だった。
マンションの外壁が急に崩れ落ち、下敷きになった住人の一人が怪我をした。
詳しく調べると、施工時の欠陥が見つかった。施工会社に問い合わせようとしたが、マンションを施工した会社は2年前に倒産していた。
金がない。
外壁を修理する金も、損害賠償を請求する相手もいない。
実家から持ち出した金は底をつき、マンションの家賃収入で暮らしていたが、マンションの住人達は次々に退去していき、新たな入居者の申し込みも途絶えてしまった。
「なあ、これ妹じゃないか?」
そんなある日、ガウンが経済新聞の片隅にチョウ食品会社の記事を見つけてきた。来週チョウ食品会社社長令嬢雨鳥リアナの婚約が決まったと書かれていた。相手はチョウ食品会社に勤める男性らしい。将来の社長夫妻の事を褒める内容に記事に、エリナは憤りを感じた。
「会社には金があるよな」
「ええ、祖父の代から続いているもの。現金だけじゃなくて、かなりの土地や設備があるはずだわ」
「継ぐのは、妹じゃなくてもいいのでは」
「そうよ。本当は私が引き継ぐはずだった。妹が奪ったのよ。あの愚図で根暗な忌々しい女が!」
「妹がいなくなればどうなる?」
エリナは、ガウンと顔を見合わせてニヤリと笑い合った。
「いなくなれば、後継者は私だけよね」
「ああ、社長になるのも悪くない。うまく行かなければ売り払えばいい」
「ああ、ガウン。嬉しいわ」
エリナは、ガウンに抱き着いた。
エリナとガウンは、下見の為チョウ食品会社に来ていた。会社の裏路地には、鍵がかかっていない窓がある。建て替えされないままの古い建物は、エリナの記憶と変わらなかった。
窓からエリナとガウンは侵入した。
社長室には、会社の金をいれた金庫がある。借金の支払期限が差し迫り、早急に金が必要だった。
薄暗い社長室へ入り、ガウンが見張りをしている間に、エリナは父の机の引き出しを開けた。引き出しの底は2重底になっている。角を押すと底が外れ、鍵が現れた。母は、寂しがり屋のエリナをよく連れて会社に来ていた。エリナは覚えていた。父がどこに鍵を隠しているのか。金庫の暗証番号だって。
奥の金庫へ進み、鍵を刺した状態で暗証番号を回す。4桁の暗証番号はエリナの誕生日に設定されているはずだった。ゆっくりと間違えないようにダイヤルを回す。
ガチャガチャガチャ。
暗証番号は合っているはずなのに、金庫が開かない。
(まさかね)
エリナは、妹の誕生日に合わせてダイヤルを回した。
ガチャリ!
金庫は開いた。中には現金も金塊も置かれていなかった。数十枚の書類が入れられている。
一見しただけだと分からないが、金になる書類かもしれない。エリナは力任せに金庫の中の書類をバックへ詰め込んだ。
(本当に忌々しい。こんなところまでリアナが!リアナ!リアナ)
「エリナ。誰か来た。どうする」
廊下の電気がつき、足音が近づいてきた。
「見られるのは不味いわ。なんとかして」
ガウンは、ドアの隣に立ちタイミングをうかがっている。
ガチャ、ギーーーーー。
ドアから入って来たのは、若い女だった。
黒髪の小柄な女は、黒のスーツを着こなし胸を張って電気をつけようと壁へむかった。
(雰囲気が違うけど、リアナだわ)
バチバチバチ
リアナの後ろに回ったガウンが、スタンガンをリアナの首元に当てた。リアナは、その場に崩れ落ちた。
「金庫に金は無かったわ。でも、その子がリアナよ。ふふふ。明日婚約式らしいけど、いなくなったらどうなるかしら?」
「会社の為の婚約なんだろ。婚約は必要だけど、姉妹どちらでもいいのでは?。妹がいない時にエリナが現れたら社長も助かるだろうな」
「ええ、そうよね。きっと父は私を受け入れるはずだわ。ねえガウン。その子は頼んだわね。風子崖がいいかもしれないわね。あそこから落ちたら死体も上がってこないそうよ。」
「ああ、任せてくれ」
「私は、実家に帰るわね。久しぶりだわ。愛している。ガウン」
「俺もだよ。エリナ」
リアナを担いだガウンと、エリナは熱いキスを交わし裏口から出て別れた。
それが、ガウンとの最後の別れになるなんて、エリナは想像もしていなかった。
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