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第21話 姉妹
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黒塗りの車は、雨鳥家へ向かった。
リアナの手首は、爪痕が残り赤い斑点が出来ていた。
リアナは、手首を擦りながら、車の運転手へ話しかけた。
「運転手さん。おろしていただけないですか?私カオリさんに無理やり乗せられただけなんです」
壮年の男性は、チラリとリアナを横目で見て言った。
「申し訳ありませんが、私も仕事ですので。カオリ様からは雨鳥家へ向かうように言われました。カオリ様の命に逆らうと解雇されるかもしれません。」
「そうですか」
姉に会いたいとは思うが、あまりにも急だし強引だった。車の後部座席から龍祈川が見える。月上がりに照らされながらゆらゆら揺れる水面は美しく穏やかだ。
流されるまま進むのも悪くない。きっとなんとかなるはずだ。今までそうだったように。
リアナは、川の流れを眺め続けた。
雨鳥家の門を車が潜り抜けて、正面玄関前まで進み止まった。
正面玄関前には、姉の雨鳥エリナが佇んでいた。
長い黒髪を結い上げ、パープルのワンピースを着て、黒のカーディガンを着ている。
電灯の陰になって、姉の表情が良く見えない。
リアナは、運転手が開けたドアから外へ出た。
「おかえり。リアナ。話したいことがあるの。」
姉は、単調な声色でリアナへ話しかけてきた。
「ごめんなさい。姉さん。逃げるつもりなんてなかったの」
リアナは、姉に謝まった。
「とりあえず、家へ入りましょう」
「ええ」
リアナは、姉の後について生家へ入って行った。
雨鳥家は、郊外な敷地に建てられた鉄骨製の洋館になる。
定期的にリホームをしているが、祖父が生きている時に建てられた建物は、豪華だが年季が入っている。
家の中は、寒かった。
使用人の気配がなく、照明を控えているのか薄暗い。
姉は、一言もしゃべらない。リアナは姉に聞きたいことが沢山あった。
8年前に婚約を破棄して実家を出てから何をしていたのか。どうして実家に急に帰って来たのか。リアナが婚約するはずだったソウマと結婚する事が決まったのはどうしてなのか。
そして、なによりジョージの事を姉はどう思っているのか。
姉から話をしたいと言われた。
リアナが捕まらないように、古い写真を手配書に使ったのは何か理由があるはずだ。
だから、この後なにもかも分かるはず。
きっと。
姉について行って通されたのは、父の書斎だった。
父の書斎には、壁一面に天井までの高さがある本棚が設置されている。
会社の書類や、株式関係書類、権利関係の書類全てがこの場所に置かれている。
父が生きていた時は、2重に鍵を掛けられていた。その鍵を姉が持っている。
父はやはり帰って来た優秀な姉を跡継ぎに選んだらしい。その証拠を改めて見せつけられているようで胸が痛かった。
ガチャリ
暗く静まり返った雨鳥家で、鍵を開ける音がやけに大きく響き渡った気がした。
書斎に入ると、姉は電気をつけて中央のソファへ座った。
リアナは、姉の対面のソファに腰かける。
姉は、眉間に皺を寄せて、リアナを憎悪するように睨みつけてきていた。
リアナは、驚き思わず立ち上がりそうになる。さっきまでは暗く姉の表情をよく見えていなかった。
「姉さん?」
「話は、お父さんの遺言書の事よ。どこにあるか教えなさい。」
「待って?何の事。私は知らないわ」
姉は、リアナに向かって怒鳴った。
「とぼけないで!遺言書よ。それが必要なの。貯金も、資産もなにもかも引き出せなくなっているわ。雨鳥家の遺産は全て私の物になるはずなのに。なにも引き出す事ができない。お金がないのよ。使用人も解雇したわ。父さんが言っていたわ。リアナに全てを相続させるように遺言書を作ったって。困るのよ。遺留分だけだと足りないの。私が全て引き継ぐはずだったのに、可笑しいでしょ。
全てお前のせいだ!」
リアナは、豹変した姉の言葉に衝撃を受けた。
父が死んだ日、裏門でリアナを切りつけようとしてきた人物を思い出す。あの時の黒ずくめの人物と同じ口調で同じ言葉を姉が口にした。
「姉さん?もしかしてあの時の」
「ええ、そうよ。リアナは死んでいるはずだと思っていたわ。父さんは生きていると信じているようだったけどね。リアナが生きていたら困るの。あの大雨の日に死んでいればよかったのに。どうして生きているのよ」
「あの大雨の日‥‥‥」
リアナの脳裏に、連れ去られ事故に合った日の光景が思い出された。
あの時、車を運転している男性は、誰かと電話をしていた。
リアナの死を願う誰かと。
「彼とは連絡が未だに取れないわ。だからリアナと一緒に死んだと思ったの。あの大雨で、山間部で土砂崩れが複数発生したし、遺体は見つからなかったけど、車の残骸が見つかったわ。だから、帰ってきたのよ。私が得る筈だった全てを引き継ぐために」
リアナは、いつのまにか震えていた。
大雨の音が聞こえてくる気がする。
今は雨が降っていないはずなのに。
「父さんは、リアナに全てを譲る遺言書を書いたって言っていたけど、以前は私を後継者に指名していたはずよ。不出来なリアナが選ばれるなんて可笑しいでしょ。新しい遺言書さえ見つかれば、少し修正されすればなんとかなるはずよ。私が全て得る事ができるはずだわ。昔この家を出る時に、持って出たお金はもうないのよ。だから早く遺言書を出して!」
「まさか父さんも、姉さんが殺したの?」
「違うわ。遺言書の事を聞いてから、私はずっと父さんを説得していたのよ。父さんったら酷いのよ。リアナが見つからなければ、財産は寄付するなんて言うの。私が帰って来てあげたのに。本当に忌々しい子ね。私が、知らない間に男を誘惑するドブネズミ。他人の物を盗るのは相変わらずね」
「私が何をしたって言うの?姉さんの物なんて盗った事はないわ。8年前、家から失踪したのは姉さんじゃない。全て自分勝手な姉さんの行動が招いた事でしょ」
「ふふふふ、ふふ。失踪したのは私のせい?違うわ。全てリアナのせいよ。私は嵌められたの。貴方のせいで、あの忌々しい男にね」
リアナの手首は、爪痕が残り赤い斑点が出来ていた。
リアナは、手首を擦りながら、車の運転手へ話しかけた。
「運転手さん。おろしていただけないですか?私カオリさんに無理やり乗せられただけなんです」
壮年の男性は、チラリとリアナを横目で見て言った。
「申し訳ありませんが、私も仕事ですので。カオリ様からは雨鳥家へ向かうように言われました。カオリ様の命に逆らうと解雇されるかもしれません。」
「そうですか」
姉に会いたいとは思うが、あまりにも急だし強引だった。車の後部座席から龍祈川が見える。月上がりに照らされながらゆらゆら揺れる水面は美しく穏やかだ。
流されるまま進むのも悪くない。きっとなんとかなるはずだ。今までそうだったように。
リアナは、川の流れを眺め続けた。
雨鳥家の門を車が潜り抜けて、正面玄関前まで進み止まった。
正面玄関前には、姉の雨鳥エリナが佇んでいた。
長い黒髪を結い上げ、パープルのワンピースを着て、黒のカーディガンを着ている。
電灯の陰になって、姉の表情が良く見えない。
リアナは、運転手が開けたドアから外へ出た。
「おかえり。リアナ。話したいことがあるの。」
姉は、単調な声色でリアナへ話しかけてきた。
「ごめんなさい。姉さん。逃げるつもりなんてなかったの」
リアナは、姉に謝まった。
「とりあえず、家へ入りましょう」
「ええ」
リアナは、姉の後について生家へ入って行った。
雨鳥家は、郊外な敷地に建てられた鉄骨製の洋館になる。
定期的にリホームをしているが、祖父が生きている時に建てられた建物は、豪華だが年季が入っている。
家の中は、寒かった。
使用人の気配がなく、照明を控えているのか薄暗い。
姉は、一言もしゃべらない。リアナは姉に聞きたいことが沢山あった。
8年前に婚約を破棄して実家を出てから何をしていたのか。どうして実家に急に帰って来たのか。リアナが婚約するはずだったソウマと結婚する事が決まったのはどうしてなのか。
そして、なによりジョージの事を姉はどう思っているのか。
姉から話をしたいと言われた。
リアナが捕まらないように、古い写真を手配書に使ったのは何か理由があるはずだ。
だから、この後なにもかも分かるはず。
きっと。
姉について行って通されたのは、父の書斎だった。
父の書斎には、壁一面に天井までの高さがある本棚が設置されている。
会社の書類や、株式関係書類、権利関係の書類全てがこの場所に置かれている。
父が生きていた時は、2重に鍵を掛けられていた。その鍵を姉が持っている。
父はやはり帰って来た優秀な姉を跡継ぎに選んだらしい。その証拠を改めて見せつけられているようで胸が痛かった。
ガチャリ
暗く静まり返った雨鳥家で、鍵を開ける音がやけに大きく響き渡った気がした。
書斎に入ると、姉は電気をつけて中央のソファへ座った。
リアナは、姉の対面のソファに腰かける。
姉は、眉間に皺を寄せて、リアナを憎悪するように睨みつけてきていた。
リアナは、驚き思わず立ち上がりそうになる。さっきまでは暗く姉の表情をよく見えていなかった。
「姉さん?」
「話は、お父さんの遺言書の事よ。どこにあるか教えなさい。」
「待って?何の事。私は知らないわ」
姉は、リアナに向かって怒鳴った。
「とぼけないで!遺言書よ。それが必要なの。貯金も、資産もなにもかも引き出せなくなっているわ。雨鳥家の遺産は全て私の物になるはずなのに。なにも引き出す事ができない。お金がないのよ。使用人も解雇したわ。父さんが言っていたわ。リアナに全てを相続させるように遺言書を作ったって。困るのよ。遺留分だけだと足りないの。私が全て引き継ぐはずだったのに、可笑しいでしょ。
全てお前のせいだ!」
リアナは、豹変した姉の言葉に衝撃を受けた。
父が死んだ日、裏門でリアナを切りつけようとしてきた人物を思い出す。あの時の黒ずくめの人物と同じ口調で同じ言葉を姉が口にした。
「姉さん?もしかしてあの時の」
「ええ、そうよ。リアナは死んでいるはずだと思っていたわ。父さんは生きていると信じているようだったけどね。リアナが生きていたら困るの。あの大雨の日に死んでいればよかったのに。どうして生きているのよ」
「あの大雨の日‥‥‥」
リアナの脳裏に、連れ去られ事故に合った日の光景が思い出された。
あの時、車を運転している男性は、誰かと電話をしていた。
リアナの死を願う誰かと。
「彼とは連絡が未だに取れないわ。だからリアナと一緒に死んだと思ったの。あの大雨で、山間部で土砂崩れが複数発生したし、遺体は見つからなかったけど、車の残骸が見つかったわ。だから、帰ってきたのよ。私が得る筈だった全てを引き継ぐために」
リアナは、いつのまにか震えていた。
大雨の音が聞こえてくる気がする。
今は雨が降っていないはずなのに。
「父さんは、リアナに全てを譲る遺言書を書いたって言っていたけど、以前は私を後継者に指名していたはずよ。不出来なリアナが選ばれるなんて可笑しいでしょ。新しい遺言書さえ見つかれば、少し修正されすればなんとかなるはずよ。私が全て得る事ができるはずだわ。昔この家を出る時に、持って出たお金はもうないのよ。だから早く遺言書を出して!」
「まさか父さんも、姉さんが殺したの?」
「違うわ。遺言書の事を聞いてから、私はずっと父さんを説得していたのよ。父さんったら酷いのよ。リアナが見つからなければ、財産は寄付するなんて言うの。私が帰って来てあげたのに。本当に忌々しい子ね。私が、知らない間に男を誘惑するドブネズミ。他人の物を盗るのは相変わらずね」
「私が何をしたって言うの?姉さんの物なんて盗った事はないわ。8年前、家から失踪したのは姉さんじゃない。全て自分勝手な姉さんの行動が招いた事でしょ」
「ふふふふ、ふふ。失踪したのは私のせい?違うわ。全てリアナのせいよ。私は嵌められたの。貴方のせいで、あの忌々しい男にね」
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