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第19話  友人

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窓から外を眺めると、無数の建物がレンガのように赤茶色へ染まっていた。

夕日を浴びてオレンジ色に変化した雲が、流れるように移動している。

雲は形を変え続け、成長しているかのように姿を変え続けている。


リアナは、黒のワンピースを身に着けていた。

今日は父が亡くなったあの日から初めて外出する予定になっている。

ジョージに、食事に行こうと誘われた。

結局父の葬式にも参列できていない。ただ、父を悼むために黒の服をリアナは身に着けていた。


「リアナ。行こう」

「ええ、ありがとう。ジョージ」


ジョージは、来週金曜日に雨鳥ソウマと会う予定となっている。

林原が調べてきた情報によると、リアナの姉の雨鳥エリナはリアナが事故に会った直後に、雨鳥家に帰って来ていたらしい。

チョウ食品会社の業績は悪化している。去年度までは、営業利益は黒字をなんとか保っていたが、今年度の収支は大きく赤字に転落してしまっていた。急激な業績の悪化に、株価も下がり続けておりリアナは生前の父がどうしてあんなに焦っていたのか、ようやく理解できた。

優秀な姉が帰ってきて、父は後継者をリアナから姉へ変更したらしい。

そうでなければ、父が亡くなった後すぐに姉がソウマと結婚するはずがない。


「また、考え込んでいるね。リアナ」

ジョージは、雲を見ながら窓際に佇むリアナを後ろから抱きしめてきた。

元婚約者である姉が結婚して、ジョージも辛いはずなのに、リアナの事をいつも気遣ってくれる。

辛い事ばかり思い出し、逃げてばかりのリアナをジョージは責めたりしない。

ジョージの優しさが心地いいけど、これでいいのかと、リアナはなぜか不安になる事がある。


「大丈夫だよ。僕がついている」

リアナは、いつもの間に滲んだ涙を拭い、ジョージの言葉に頷いた。










ジョージと共に向かったのは、龍祈川の畔にあるホテルレストランだった。

白と青を基調とした内装は落ち着いていて美しく、大きな窓からは美しい川が一望できる。

丸く大きなテーブルに近づくと、ウエイトレスが椅子を引き、リアナは誘導されるまま座った。

ジョージは、コース料理を予約していた。

大きな白のプレートに、エビとホタテのサラダ、白身魚のムニエル、野菜のソテー、彩り豊かな前菜が並べられる。

「リアナ。覚えている?龍祈川で、よく一緒に川を眺めただろう。」

ジョージは、姉と婚約している時、何度も雨鳥家を尋ねてきていた。

学生の頃、リアナは両親から姉とよく比較されていた。美しい姉エリナに比べて妹のリアナは不細工で冴えない娘だと言われてきた。特に母からの当たりが強く、リアナは家に帰る事が嫌になっていた。学校帰りに一人、龍祈川を眺めていると、時々ジョージが現れた。会話はほとんど無かったけど、心地いい時間だった事を覚えている。

「ええ。覚えているわ。あの頃から私は逃げてばかりね。本当は、あの時も家に帰りたくなかったの。でも不思議ね。ふふふ。私が、逃げる先にジョージがよく現れるわ。あの頃も今も」

「僕は、リアナをずっと探していたよ。僕は本当は、リアナの事が‥‥‥」

姉とジョージの婚約が決まったのは、リアナが中学生の時だった。今、思うと両親や姉への反抗心が強かった気がする。

「私の事が‥‥‥?」

リアナは、何かを言いかけて口ごもったジョージを見つめながら小首を傾げた。








その時、ジョージとリアナが座っているテーブルに一人の女性が近づいてきた。

「まあ、ジョージ。久しぶりね。会いたかったわ。」

オレンジブラウンの長い髪の美しい女性は、親しそうにジョージに挨拶をしてきた。

女性の後から、黒髪の男性も現れ、ジョージに声をかける。


「ジョージ。珍しいな。お前が女性を連れている場面に遭遇するなんて何年ぶりだ。女嫌いは治ったのか?」


「口が悪いなガイマ。別に女嫌いってわけじゃない。カオリ離してくれ。お前らまだ付き合っているだろ」


「まあ、久しぶりなのに冷たいわね。私達先月別れたばかりよ。ジョージさえよければ、私と‥‥‥。あら?」

カオリと呼ばれた女性は、リアナを見て訝しそうに顔を顰めてきた。

カオリの様子に気づかずに、ガイマはジョージに声をかける。

「なあ、ジョージ。向こうの個室でルキ達と集まっている。少しだけ顔を出してくれよ。」

「はあ、分かったよ。だけど、少し挨拶するだけだ。愛しい人との大事な時間だから」

「おい。頭は大丈夫か!ジョージ。お前の口から信じられない言葉が出たぞ。冷酷な鉄仮面はどこへいった?」

ジョージは、ガイマの言葉を無視して微笑みながらリアナへ言った。

「リアナ。しばらく待っていてくれ。すぐに帰ってくるから」

リアナは言った。

「ええ、分かったわ。行ってらっしゃい。ジョージ」

ガイマが、呆れたように言う。

「いや、お前笑えるのか?嵐になるぞ」

ジョージは、再び無表情に戻り、ガイマを睨みつけて、テーブルから離れ個室へ向かった。






リアナは、大きな月と対岸の建物を水面に映し出しながら、ゆっくりと流れる龍祈川を眺めてジョージが帰ってくるまで待とうと思っていた。

だけど、一緒に個室へ移動したと思われたカオリがその場に残ってリアナに話しかけてきた。

「初めまして、まさかこんな場所で貴方に会えるなんて思っていなかったわ。ジョージをどうやって誑かしたの?」

リアナは、驚いてカオリを見る。スタイルがいいオレンジブラウンの女性は、複雑なレースが施されたアイボリーのワンピドレスを着ている。どうやらリアナの事をよく思っていないようだ。リアナを睨みつけてくるカオリからは敵対心が伝わってきた。

「誑かしただなんて。どうして初対面の貴方にそんな事を言われないといけないの?」

カオリは、リアナを侮蔑した表情で見下してきている。

さっきまで、甘く微笑えみジョージに縋りつこうとしていた女性と同一人物とは思えない。


カオリは、前かがみになりリアナの耳元で囁いた。


「私は、東城院カオリよ。貴方、リアナでしょ。雨鳥家の父親殺し」




リアナは、目を見開き勢いよくカオリを見た。


カオリは、リアナと眼が合うとニタリと笑った。









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