上 下
16 / 29

第16話 星宙

しおりを挟む
リアナの目の前にいたのは、ジョージだった。

黒のスーツを着こなし、光沢のある革靴で河川敷を歩いてくる。汚れるのを気にせず、砂利や雑草を踏み締めてリアナへ近づいて来た。

「ジョージ。父さんが・・・・・・私は、殺していないのに」

リアナは、自分の服を見下ろした。

服は父の血で赤く染まっていた。

手を洗ったが、この姿だと説得力が無い。


「分かってる。一緒に帰ろう。リアナ」


ジョージは、着ていたスーツを脱ぎ、リアナにそっと掛けてきた。

















リアナは、ジョージに支えられながら、龍祈川を後にした。堤防を越えると、車が待機しており、その中に乗り込んだ。



「ジョージ様。どうなさるおつもりですか?雨鳥エンジ様が殺されたのは確かな情報らしいです。警察には?」

「可哀想に。震えている。警察には連れて行かない。マンションへ向かってくれ」

「・・・・・・わかりました。」

辺りはいつの間にか暗闇に包まれていた。

フロントガラスに、ポツポツと丸い雫が落ち、流れ去っていく。

対向車のライトや、建物の光がキラキラと輝き、尾を引きながら去っていく。

リアナは震えていた。

そんなリアナの肩に手を回し、ジョージは包み込むように支え続けた。










林原が運転する車は、高層マンションの広い地下駐車場に入り、進んでいった。

数台のエレベーターは、居住階で分かれている様子だった。人通りが無い最奥の駐車場に車は停められた。

「林原。情報を集めてくれ。雨鳥家で何が起こっているのか」

「分かりました。本当にリアナ様を連れて上られるのですか?」

「ああ、この状態で一人にさせれないだろう」

「まだ、婚約されていません。くれぐれも慎重に」

「分かっている」

「リアナ。行こう。歩けるか?」

リアナは頷き、ジョージに支えながら車から降りた。

上層階に止まる高速エレベーターに乗り込む。エレベーターは、センサーキーに反応し、居住階まで、高速で登っていった。小さな画面の数字が瞬く間に増えていく。

50の数字になるとエレベーターは止まりドアが開いた。









ドアの向こうには、広いロビーが広がっていた。大理石の床が輝きを放ち、黒光りするする大きなドアが待ち構えている。

「リアナ。おいで」

リアナは、ジョージに手を引かれ、ドアの中へ入っていった。

「ここは?ジョージの家なの?」

ショールームのように整えられた室内は、冷たさを感じさせる。リビングは大きなガラス張りの窓に取り囲まれ、上空の星達と、下に広がる光粒に取り囲まれ、宙に浮かんでいるかのようだ。

「そうだ。所有している物件の一つだ。落ち着くまで、ここにいればいい。最高級のセキュリティシステムが採用されているから、安心してくれ」

ジョージの言葉を聞きながら、リアナは首を左右に振った。

「ジョージ。お姉さんがいたの」

「カオリが帰って来たのか?」

「ええ。だから、ジョージはお姉さんの所へ行って。もう、私を同情しなくても、お姉さんは帰ってきているから」

「リアナ!何を言っている?約束しただろ。君を殺そうとした犯人が分かれば、僕と婚約するって」

「でも、お姉さんが・・・・・・」

ジョージは、リアナを抱きしめてきた。

「ジョージ。貴方が汚れるわ」

「いいんだよ。辛い事があったなら、泣けばいい。リアナ。僕は君の側にいるから」

ジョージの言葉を聞き、リアナの瞳から涙が零れ落ちた。

何もかもうまくいかない。

失ったばかりが、父殺しの犯人のように扱われた。

帰りたくても帰れない。

もう、大丈夫だと思っていたのに。

どうして、こんな目に遭うのだろう。







リアナは、ジョージの胸に、顔を押し付けて、声を殺して泣き続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 ※7月22日第2章完結。 ※カクヨムにも投稿しています。

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産

柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。 そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。 エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。 そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。 怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。 悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話

本見りん
ミステリー
交通事故に遭った沙良が目を覚ますと、そこには婚約者の拓人が居た。 一年前の交通事故で沙良は記憶を失い、今は彼と結婚しているという。 しかし今の沙良にはこの一年の記憶がない。 そして、彼女が記憶を失う交通事故の前に見たものは……。 『○曜○イド劇場』風、ミステリーとサスペンスです。 最後のやり取りはお約束の断崖絶壁の海に行きたかったのですが、海の公園辺りになっています。

パンアメリカン航空-914便

天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。 ニューヨーク発、マイアミ行。 所要時間は・・・ 37年を予定しております。 世界を震撼させた、衝撃の実話。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...