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第7話 未遂

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何か色々勘違いしたらしいマイラー夫人から、次に木龍が訪ねてきた時も同席するようにリアナは指示された。

屋敷中が、リアナがジョージに恋をしたと噂している。友人のアンを中心に、リアナの恋を応援する会が発足し、マイラー夫人もアドバイザーとして参加しているからと告げられた。

いつの間にか、噂に、おヒレが付きまくり、流石に誤解が酷いとリアナは、慌てて噂の修正に奔走したが、既に収拾がつかない状態になっていた。

「アン。本当に違うのよ。一目惚れなんてしていないわ!」

「まあ、恥ずかしがらなくていいのよ。今ね、ジョージ様の攻略法を皆で考えているところなのよ。出来上がり次第リアナに伝えるわね。本当マイラー夫人まで味方につけるなんて流石リアナね!」

(全然嬉しく無い!違うのに!)

木龍ジョージは、本当にマイラー夫人の元を2日後に訪ねてきた。

訪問したジョージは、マイラー夫人の後ろに佇むリアナの事を、見つめてくる。

初めは、胸を張りリアナもジョージを睨みつけていた。

ジョージは端正な顔立ちで、涼やかな目元をしている。ジーウ製薬会社の専務に29歳の若さで就任した秀才だった。既にジーウ製薬会社の次期社長が内定しており、経済情報誌にインタビューが掲載された事もある。

ジョージを睨み続けていると、リアナの頬が熱くなってきた。
ジョージは、マイラー夫人に会いにきた筈なのに、リアナばかりを見つめてくるからだ。ジョージの長いまつ毛と茶褐色の瞳と目を合わせると、何故か胸が高鳴り、恥ずかしさと申し訳なさで苦しくなる。

リアナはジョージから目を背けた。マイラー夫人は、リアナとジョージを交互に見て口元を緩ませている。もう手遅れかもしれないが、これ以上周囲に誤解されても困る。

そんなリアナにジョージは声をかけてきた。

「九条さんだったよね。この後少しいいかな?」

リアナは驚きジョージを見ながら返事をした。

「はい。」












リアナはジョージと共に中庭へ移動した。

何故かマイラー夫人も杖をつき、衰えた足を必死に動かし、ついてこようとしたが、ジョージが断った。

ジョージと二人で移動していると、周囲の使用人達が嬉しそうにヒソヒソと話し、こちらを伺っている気配が感じ取れる。

(もう。そんなんじゃ無いって何度も伝えたのに!)

リアナには、木龍ジョージに、かなり大きな負い目があった。
もう二度と会う事はないと思っていた相手と歩いている。

あれからリアナは必死だった。上手くいかない事も多かったけど、リアナなりに頑張ってきたつもりだ。

家業には思い入れがある。怖いけど潮時かもしれない。ジョージに呼び出されたという事は、きっと気づかれたのだろう。

潔く、他人に成り代わっている事を認めよう。
そして、実家に帰り父や婚約者へ謝り許しを請おう。窓の外には青空が広がり、差し込む光は暖かい。あれは夢だったのかもしれない。確かに父は、リアナにずっと厳しかった。特に優秀な姉が失踪してからはリアナに微笑みかけてくれた事なんて一度もなかった。婚約者とは会社の為の婚約で、深い仲になった事が無い。だけど優しい彼と信頼関係を築けていた筈だ。あの人達がリアナを殺そうとするなんて信じられない。

もう、雨は降っていない。

そう、きっと大丈夫。

大丈夫。




中庭に移動しながら、ジョージに身分詐称を責められた後の事について、リアナは考えていた。








広大な屋敷の中心にある中庭にたどり着いた。

中心なの中庭は温室になっており、ガラス張りの天井から暖かい日差しが差し込んでくる。温室の中には、ショッキングピンクの大きな花や、人の顔ほどある百合の花、椰子の木等珍しい草花が生い茂っていた。

湿度が高い温室に入った瞬間、生暖かい空気に包まれた。目の前を歩く木龍ジョージは、涼しい顔で歩いていく。

マイラー夫人の屋敷で働けるのは今日で最後かもしれない。

リアナは覚悟を決めてジョージの後を追った。












温室の中央のベンチの前でジョージが立ち止まった。

リアナも立ち止まり、ジョージを見つめる。

ジョージは、リアナを振り返り、急にリアナの前に跪いた。

「どうしても、リアナの事が気になって仕方がない。一昨日マイラー夫人の部屋で目があった瞬間から、俺の胸はリアナへの愛おしさに締め付けられ、リアナの事ばかり考えている。まさかこんなに可愛いなんて・・・・・・お願いだ。俺と結婚してく・・・・・・。」


急に饒舌になり、愛おしそうにリアナへの愛を言葉にしてきたジョージに、リアナの思考はついていけなかった。

だが、ジョージがリアナの手を取り恭しく口付けしながらプロポーズらしき言葉を言おうとした所で、リアナは大声でジョージの言葉を遮った。

「絶対に勘違いです!」










ジョージは驚いた表情でリアナを見て、切なそうに、目尻を下げて言った。

「勘違いって?そんな筈無い。こんなに胸が締め付けられ、リアナの事ばかり考えてしまう。」

確か木龍ジョージは、表情を変えずに数々の社外取引を成功させる人物として、冷酷な貴公子との異名を持つ人物だった筈だ。

その木龍が、リアナの前に跪き許しを乞うように泣きそうな表情でリアナを見上げてくる。

(めっちゃ表情豊か!どこが冷酷な貴公子!)

リアナは脳内でツッコミながら早口で言った。

「そもそも、貴方と私は出逢ったのは一昨日が初めてですよね。それで、愛おしいとか結婚とかあり得ませんし、かなりひきます。一般的に言われる一目惚れという現象は、ただの生理的反応に大脳が勘違いを起こしただけですから、しばらく時間をおいて冷静になれば落ち着く筈です」

必死に説明するリアナを驚いた表情で見上げながら、ジョージは言った。

「いや、久しぶりだけど初対面じゃ無いだろう。リアナ。」

そうだ。突然の意味不明な告白に混乱してしまったが、ジョージにバレたかも知れないと思って、ここまでついてきたのだった。まだ誤魔化せるか?イヤ、もう無理か?どうしてプロポーズしかける?ジョージがリアナに気づいているのなら、絶対プロポーズするべき相手では無いとわかる筈だ。


「俺は君を愛している。だから、結婚して・・・・・・」


何故か無茶苦茶しつこいジョージに向かって、リアナは、言った。


「あーーーー。絶対に!勘違いです。」


リアナは少し涙目になって叫んだ。









リアナは、振り返りジョージを置いて温室の外へ飛び出した。


涙目で、小走りで走るリアナの隣に、アンが競歩のように素早い大股で歩きながら近づき、並走しながら言った。

「ああ!なんで事!リアナ、ジョージ様に振られたのね。温室は機密性が高くて話し声は聞き取れなかったけど、貴方の悲痛な叫び声は聞こえたわ。まさかリアナが涙を流すなんて。大丈夫よ。屋敷の人間全員が貴方の味方だから、絶対ジョージ様を落としましょう!」

(おかしいな。何故か誤解が増えているぞ?)

「違うわ。振られたわけじゃ無い。」

そもそも身分詐称がバレると思ってついていたら、急に告白してきたのはジョージだ。必死で誤魔化したから、告白は無かったことになった筈だ。

「ああ、リアナ。そうよね。何度でも愛を告げればいいのよ。大丈夫。きっとリアナの思いがジョージ様に届く日が来るわ。」

(全く伝わっていないわ?)

「はぁーーーー」



リアナは大きなため息をつきながら肩を落とした。






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