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レナリア商会の馬車が列をなして帝都へ向かう。
帝国中央に位置する帝都は、3重の城壁と水壁に囲まれている。100年以上の歴史を持つレナリア商会長は、商人には珍しく貴族街に屋敷を構えているらしかった。
帝都中央通りは、左右に桜の木々が立ち並び、満開の桜が馬車に乗るルミアを出迎えた。
桜が舞い落ち、地面にピンク色の文様が描かれている。
クリアは婚約する娘の為に、世界各地の宝石や絹、衣装、宝物を3台の馬車一杯に用意して帝都の屋敷に向かっていた。
馬車の窓から宙を舞う桜の花びらをルミアは目で追いながらロンの事を考えていた。
クリアに頼んだ言づけはロンへ届く事がなかった。
ロンという人物はシビニアの宿には泊まっておらず、全ての宿の過去1か月の帳簿を確認したが見つけられなかったらしいと困惑したクリアから聞かされた。
もしあの時、ロンの言うとおり宿に留まっていたのなら、
もしあの時、インダルア王国からの追手達が宿に来なかったなら、
もしあの時、ロンに全てを伝える事が出来たなら、
まだ彼と一緒にいる事ができたかもしれない。
ただ少し離れただけなのに、本当は好きなのに、あなただけを想っているのに。
また見つからない。どこにいるか分からない。
強い風に吹かれ無数の桜が宙を舞い、ルミアは行き先を目で追いかけようとするが、一瞬で見失い、桜の花びらは空へ吸い込まれるように消えていった。
本当は消えたわけじゃない。ただルミアが見失ってしまっただけで、この世界のどこかにきっと彼はいる。
(逢えなくても、見失っても、たとえ私がふさわしくないとしても、想い続ける事はできる。自分であの場から離れると決めたのに、もう後悔している。また逢いたい。もしまた逢えるのなら、彼に伝えよう。私の気持ちと想いを。たとえ一緒にいる事ができなくてもいい。)
貴族街を進む馬車の列は、大きな屋敷の門を潜り抜け、正面口へつけた。
金の装飾が施された大きなオーク調のドアの前には、10人以上の使用人達の中央に一人の娘が佇んでいた。金の刺繍が施された黒いドレスを着こなし、ゴールドのイヤリング、ネックレスをつけ、金の扇子で口元を隠す美しい女性は自信に満ち溢れ、馬車から降りてきたクリアを出迎えた。
クリアは娘に向かって大声で言った。
「ナリア、ひさしぶりだね。」
「お帰りなさい。お母様。待ちくたびれましたわ。私の婚約が決まったのに全然帰ってこないのですもの。お願いした品は全て揃っていますよね。本当に重要な事なの。何一つ欠けるわけにはいきませんわ」
「ああ、全部持ってきたよ。ちょっと見ない間にナリアは、まどろっこしい言い方をするようになったね。その衣装はどうしたんだい。また注文したのかい。お前の請求書の多さには、困ったもんだよ」
「買い物好きなのはお母様譲りですわ。」
「私の買い物は仕入れって言うのさ。すべては金を儲けるため、商会の為さ」
「お母様。私が嫁いだらレナリア家も貴族の一員になりますわ。拝金的な発言は謹んでください」
「なにが貴族だい。レナリア家は何代も続く商売人だよ。」
ナリアは、クリアに続いて馬車から降りてきたルミアを見つけて訝しげに言った。
「そちらの方はどなたですか?どうしてお母様のネックレスをつけているのですか?」
「ああ、紹介しよう。恩人のルミーさ。若いのに優秀な子でさ。お偉いさんと婚約するお前の侍女にピッタリだと思って連れてきたのさ。皇城へ連れていける侍女を探していただろ」
ナリアは目を細めルミアを睨みつけてきた。
「いくら恩人でも、金クジャクのネックレスを渡すなんて信じられないわ。それはずっと前から私が欲しいって言っていたのに。それなりに整った見た目だけど、群青の鬘なんてあまりにも平凡だわ。本当に使えるのかしら?」
「ルミア。あんたは何人も侍女を首にしているだろ。思い上がるのもほどほどにしな。後悔する羽目になるのはお前自身だよ」
ナリアは少し不満げに言った。
「お母様。わかりましたわ。とりあえずその娘を使ってみます。明日には城へ向かいますから。お前達、馬車の荷物を屋敷に運び入れて。」
「「かしこまりました。お嬢様」」
ナリアは、ルミアを睨み、屋敷へ入っていった。
「悪いね。ルミー。ナリアはいい子だけど、ちょっと傲慢な所があってね。私も夫も不在な事が多いから、不自由しないように、なんでも与えてきたのさ。ちょっとだけ甘やかしすぎたかもしれないね。こういう性格だろ。せっかく婚約者として皇城へ行く事になったけど、トラブルを起こさないか心配でね」
「クリアさん。本当に私でいいのですか?ナリアお嬢様はあまりお気に召していない様子ですが」
「ナリアの態度はいつもの事さ。気にしなくていい。お願いだからついて行っておくれ。私がいけるなら、城へ上がるのだがね。どうも貴族やら皇族やらは、私のガサツさがお気に召さないらしい。お偉いさん対応は旦那が専門だからね。旦那が侍女になるわけにもいかないし、困ったもんだよ。ハハッハハ」
馬車からは、沢山の宝石箱や衣装箱が屋敷に運び込まれている。
ナリアお嬢様の態度は気になるが、ルミアは姉姫達の強烈さを思い出して僅かに微笑んだ。
(お一人だけだもの。なんとかなるわ)
談笑するルミア達を、屋敷の窓から強く睨みつけている者がいた。
帝国中央に位置する帝都は、3重の城壁と水壁に囲まれている。100年以上の歴史を持つレナリア商会長は、商人には珍しく貴族街に屋敷を構えているらしかった。
帝都中央通りは、左右に桜の木々が立ち並び、満開の桜が馬車に乗るルミアを出迎えた。
桜が舞い落ち、地面にピンク色の文様が描かれている。
クリアは婚約する娘の為に、世界各地の宝石や絹、衣装、宝物を3台の馬車一杯に用意して帝都の屋敷に向かっていた。
馬車の窓から宙を舞う桜の花びらをルミアは目で追いながらロンの事を考えていた。
クリアに頼んだ言づけはロンへ届く事がなかった。
ロンという人物はシビニアの宿には泊まっておらず、全ての宿の過去1か月の帳簿を確認したが見つけられなかったらしいと困惑したクリアから聞かされた。
もしあの時、ロンの言うとおり宿に留まっていたのなら、
もしあの時、インダルア王国からの追手達が宿に来なかったなら、
もしあの時、ロンに全てを伝える事が出来たなら、
まだ彼と一緒にいる事ができたかもしれない。
ただ少し離れただけなのに、本当は好きなのに、あなただけを想っているのに。
また見つからない。どこにいるか分からない。
強い風に吹かれ無数の桜が宙を舞い、ルミアは行き先を目で追いかけようとするが、一瞬で見失い、桜の花びらは空へ吸い込まれるように消えていった。
本当は消えたわけじゃない。ただルミアが見失ってしまっただけで、この世界のどこかにきっと彼はいる。
(逢えなくても、見失っても、たとえ私がふさわしくないとしても、想い続ける事はできる。自分であの場から離れると決めたのに、もう後悔している。また逢いたい。もしまた逢えるのなら、彼に伝えよう。私の気持ちと想いを。たとえ一緒にいる事ができなくてもいい。)
貴族街を進む馬車の列は、大きな屋敷の門を潜り抜け、正面口へつけた。
金の装飾が施された大きなオーク調のドアの前には、10人以上の使用人達の中央に一人の娘が佇んでいた。金の刺繍が施された黒いドレスを着こなし、ゴールドのイヤリング、ネックレスをつけ、金の扇子で口元を隠す美しい女性は自信に満ち溢れ、馬車から降りてきたクリアを出迎えた。
クリアは娘に向かって大声で言った。
「ナリア、ひさしぶりだね。」
「お帰りなさい。お母様。待ちくたびれましたわ。私の婚約が決まったのに全然帰ってこないのですもの。お願いした品は全て揃っていますよね。本当に重要な事なの。何一つ欠けるわけにはいきませんわ」
「ああ、全部持ってきたよ。ちょっと見ない間にナリアは、まどろっこしい言い方をするようになったね。その衣装はどうしたんだい。また注文したのかい。お前の請求書の多さには、困ったもんだよ」
「買い物好きなのはお母様譲りですわ。」
「私の買い物は仕入れって言うのさ。すべては金を儲けるため、商会の為さ」
「お母様。私が嫁いだらレナリア家も貴族の一員になりますわ。拝金的な発言は謹んでください」
「なにが貴族だい。レナリア家は何代も続く商売人だよ。」
ナリアは、クリアに続いて馬車から降りてきたルミアを見つけて訝しげに言った。
「そちらの方はどなたですか?どうしてお母様のネックレスをつけているのですか?」
「ああ、紹介しよう。恩人のルミーさ。若いのに優秀な子でさ。お偉いさんと婚約するお前の侍女にピッタリだと思って連れてきたのさ。皇城へ連れていける侍女を探していただろ」
ナリアは目を細めルミアを睨みつけてきた。
「いくら恩人でも、金クジャクのネックレスを渡すなんて信じられないわ。それはずっと前から私が欲しいって言っていたのに。それなりに整った見た目だけど、群青の鬘なんてあまりにも平凡だわ。本当に使えるのかしら?」
「ルミア。あんたは何人も侍女を首にしているだろ。思い上がるのもほどほどにしな。後悔する羽目になるのはお前自身だよ」
ナリアは少し不満げに言った。
「お母様。わかりましたわ。とりあえずその娘を使ってみます。明日には城へ向かいますから。お前達、馬車の荷物を屋敷に運び入れて。」
「「かしこまりました。お嬢様」」
ナリアは、ルミアを睨み、屋敷へ入っていった。
「悪いね。ルミー。ナリアはいい子だけど、ちょっと傲慢な所があってね。私も夫も不在な事が多いから、不自由しないように、なんでも与えてきたのさ。ちょっとだけ甘やかしすぎたかもしれないね。こういう性格だろ。せっかく婚約者として皇城へ行く事になったけど、トラブルを起こさないか心配でね」
「クリアさん。本当に私でいいのですか?ナリアお嬢様はあまりお気に召していない様子ですが」
「ナリアの態度はいつもの事さ。気にしなくていい。お願いだからついて行っておくれ。私がいけるなら、城へ上がるのだがね。どうも貴族やら皇族やらは、私のガサツさがお気に召さないらしい。お偉いさん対応は旦那が専門だからね。旦那が侍女になるわけにもいかないし、困ったもんだよ。ハハッハハ」
馬車からは、沢山の宝石箱や衣装箱が屋敷に運び込まれている。
ナリアお嬢様の態度は気になるが、ルミアは姉姫達の強烈さを思い出して僅かに微笑んだ。
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