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ルミアが厨房仕事を手伝っていると、コックのガロンが厚切りベーコンと新鮮なレタスが挟まれているサンドイッチが入ったバスケットを渡してきた。

「お疲れ。ルミー。いつも助かるよ」

「ありがとうございます。ガロンさん。」

「今日は人手が足りなくて困っていたが、助かったよ。ルミーはいい嫁さんになりそうだな。器量もいいし。俺がもう少し若かったらな。ガハハハハ」

ルミアは、バスケットを受け取り、愛想笑いをしながら言った。

「お疲れさまです。お先に失礼します」

奥から出てきたガロンの妻コレットが、夫を小突く。
「あんたは若い子をからかうじゃないよ。最近はちょっとの事でハラスメントやらうるさいからね。また頼むよ。ルミー」

「はい」

厨房の裏口から外に出ると、肌寒い風がルミアを包み込んだ。
遠くからピアノの演奏が聞こえてくる。
厨房の調理はひと段落したが、舞踏会はまだ続いているみたいだ。
姉姫達は豪華な衣装を着て舞踏会で踊っているのだろうか。

暗闇に慣れると、目の前に月明かりに照らされた無数の群青色の葉が風に吹かれて踊るように揺れている。
空の雲がゆったりと動き、満月が姿を現した。ルミアは満月に誘われるように奥へ進んでいった。インダルア城には広大な庭園がある。塔がある森だけでなく、迷路庭園や船遊びができる池まである。

ルミアの母が亡くなった後、使用人に扮して、食事を得るために働き出した。母が生きている時から塔に食事が運ばれる事が徐々に減っていった。ある日裏口のドアノブが壊れている事に気が付いてから、ルミアは何度も塔の外へ出ていくようになった。

古参の使用人の一部にはルミアの正体を気づいている者もいる。幽霊姫の事を不憫に思いこっそりと食事を分けてくれていた。ルミアが使用人の真似事をするようになるのに時間はかからなかった。

夜は一人で迷路庭園の中央の小さなコテージで食事をとる。

コテージはいつも静まり返っている。

広く広大な迷路庭園は古参の使用人達も嫌煙する場所だ。まるで小悪魔がすみついているかのように迷子になり脱出できなくなるからだ。

月明かりの中、深い緑の迷宮を進み、急に開けた場所にルミアはたどり着いた。子供向けに建てられたのか、低い屋根の石作りのコテージが月明かりに照らされながら佇んでいた。

ルミアは、コテージのドアをゆっくりと開けて中に入った。





誰もいないと思っていた。だけど、中にはテーブルにうつ伏せになって凭れ掛っている大柄な人物がいた。

「え?誰?」

ルミアは思わず声を上げた。







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