5 / 25
4
しおりを挟む
ルミアが厨房仕事を手伝っていると、コックのガロンが厚切りベーコンと新鮮なレタスが挟まれているサンドイッチが入ったバスケットを渡してきた。
「お疲れ。ルミー。いつも助かるよ」
「ありがとうございます。ガロンさん。」
「今日は人手が足りなくて困っていたが、助かったよ。ルミーはいい嫁さんになりそうだな。器量もいいし。俺がもう少し若かったらな。ガハハハハ」
ルミアは、バスケットを受け取り、愛想笑いをしながら言った。
「お疲れさまです。お先に失礼します」
奥から出てきたガロンの妻コレットが、夫を小突く。
「あんたは若い子をからかうじゃないよ。最近はちょっとの事でハラスメントやらうるさいからね。また頼むよ。ルミー」
「はい」
厨房の裏口から外に出ると、肌寒い風がルミアを包み込んだ。
遠くからピアノの演奏が聞こえてくる。
厨房の調理はひと段落したが、舞踏会はまだ続いているみたいだ。
姉姫達は豪華な衣装を着て舞踏会で踊っているのだろうか。
暗闇に慣れると、目の前に月明かりに照らされた無数の群青色の葉が風に吹かれて踊るように揺れている。
空の雲がゆったりと動き、満月が姿を現した。ルミアは満月に誘われるように奥へ進んでいった。インダルア城には広大な庭園がある。塔がある森だけでなく、迷路庭園や船遊びができる池まである。
ルミアの母が亡くなった後、使用人に扮して、食事を得るために働き出した。母が生きている時から塔に食事が運ばれる事が徐々に減っていった。ある日裏口のドアノブが壊れている事に気が付いてから、ルミアは何度も塔の外へ出ていくようになった。
古参の使用人の一部にはルミアの正体を気づいている者もいる。幽霊姫の事を不憫に思いこっそりと食事を分けてくれていた。ルミアが使用人の真似事をするようになるのに時間はかからなかった。
夜は一人で迷路庭園の中央の小さなコテージで食事をとる。
コテージはいつも静まり返っている。
広く広大な迷路庭園は古参の使用人達も嫌煙する場所だ。まるで小悪魔がすみついているかのように迷子になり脱出できなくなるからだ。
月明かりの中、深い緑の迷宮を進み、急に開けた場所にルミアはたどり着いた。子供向けに建てられたのか、低い屋根の石作りのコテージが月明かりに照らされながら佇んでいた。
ルミアは、コテージのドアをゆっくりと開けて中に入った。
誰もいないと思っていた。だけど、中にはテーブルにうつ伏せになって凭れ掛っている大柄な人物がいた。
「え?誰?」
ルミアは思わず声を上げた。
「お疲れ。ルミー。いつも助かるよ」
「ありがとうございます。ガロンさん。」
「今日は人手が足りなくて困っていたが、助かったよ。ルミーはいい嫁さんになりそうだな。器量もいいし。俺がもう少し若かったらな。ガハハハハ」
ルミアは、バスケットを受け取り、愛想笑いをしながら言った。
「お疲れさまです。お先に失礼します」
奥から出てきたガロンの妻コレットが、夫を小突く。
「あんたは若い子をからかうじゃないよ。最近はちょっとの事でハラスメントやらうるさいからね。また頼むよ。ルミー」
「はい」
厨房の裏口から外に出ると、肌寒い風がルミアを包み込んだ。
遠くからピアノの演奏が聞こえてくる。
厨房の調理はひと段落したが、舞踏会はまだ続いているみたいだ。
姉姫達は豪華な衣装を着て舞踏会で踊っているのだろうか。
暗闇に慣れると、目の前に月明かりに照らされた無数の群青色の葉が風に吹かれて踊るように揺れている。
空の雲がゆったりと動き、満月が姿を現した。ルミアは満月に誘われるように奥へ進んでいった。インダルア城には広大な庭園がある。塔がある森だけでなく、迷路庭園や船遊びができる池まである。
ルミアの母が亡くなった後、使用人に扮して、食事を得るために働き出した。母が生きている時から塔に食事が運ばれる事が徐々に減っていった。ある日裏口のドアノブが壊れている事に気が付いてから、ルミアは何度も塔の外へ出ていくようになった。
古参の使用人の一部にはルミアの正体を気づいている者もいる。幽霊姫の事を不憫に思いこっそりと食事を分けてくれていた。ルミアが使用人の真似事をするようになるのに時間はかからなかった。
夜は一人で迷路庭園の中央の小さなコテージで食事をとる。
コテージはいつも静まり返っている。
広く広大な迷路庭園は古参の使用人達も嫌煙する場所だ。まるで小悪魔がすみついているかのように迷子になり脱出できなくなるからだ。
月明かりの中、深い緑の迷宮を進み、急に開けた場所にルミアはたどり着いた。子供向けに建てられたのか、低い屋根の石作りのコテージが月明かりに照らされながら佇んでいた。
ルミアは、コテージのドアをゆっくりと開けて中に入った。
誰もいないと思っていた。だけど、中にはテーブルにうつ伏せになって凭れ掛っている大柄な人物がいた。
「え?誰?」
ルミアは思わず声を上げた。
0
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
信用してほしければそれ相応の態度を取ってください
haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。
「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」
「ではその事情をお聞かせください」
「それは……ちょっと言えないんだ」
信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。
二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。
意地を張っていたら6年もたってしまいました
Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」
「そうか?」
婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか!
「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」
その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。
【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる