2 / 25
1
しおりを挟む
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン
低く重い鐘の音が聞こえてきた。
ベッドに横たわっていたルミアは、思い瞼を開き、天井を見上げた。
薄暗い中、所々天井に染みが僅かに見える。その染みを見るたびに、亡くなった母を思い出す。
母は、毎晩苦しみをこらえるように蹲って泣いていた。涙を流しながら、ルミアに何度も故郷に帰りたいと伝えてきた。
母は結局、風邪を拗らせて故郷に帰れぬまま亡くなってしまった。
天井の染みは母が流した涙が溜まって、ルミアに訴えかけてきているように感じる。
ルミアは、ゆっくりと起き上がり、隙間風が入ってくる古びた小窓を思いっきり開いた。
少しだけ温かくなった風が勢いよく室内へ流れ込んでくる。
亡き母の涙を乾かし、吹き飛ばしていくような気がした。
「おはよう。母様。」
ルミアは、まだ見えぬ朝日に向かって一人話しかけた。
18歳のルミアの朝は早い。少しでも寝坊すると食事にありつけない。
手早く使用人服に着替え、身支度をすると、ルミアは塔の部屋から急階段を下りて行った。
「ルミー、おはよう。今日も早いね」
「ボンさん。おはよう。」
仕事場に着くと初老のボンが薪を運んでいた。軽く挨拶をして、ルミアもボンの後を追うように薪を運ぶ。
インダルア王国は、100年前の戦争で隣国に半分以上の領土を奪われた。戦禍が癒えた今も隣国への敵対心は王を中心に国中に恨みとして残っている。外国人を酷く差別し嫌う風習は、ルミアの母を傷つけ続けた。ルミアが物心ついた時には、母は、父と同じ漆黒の髪色をしたルミアを見て顔を歪め辛そうな表情をする事が多かった。
朝の薪は運び終えた。ボンは、ルミアに向かって硬いパンと干し肉を渡してきた。
「今日もありがとう。ルミー」
「干し肉も?」
「ああ、どうやら城に土産をたくさん持って、高貴な客が来たらしい。物資塔を開ける為、昨日は使用人達にたくさん配ってくださった。暫くは城内が騒がしくなりそうだ。気をつけろよ。」
「うん。ありがとう。」
ぶっきらぼうだが、ボンはいい人だ。ルミアは笑顔で貴重な食料を受け取り、その場を後にした。
調理塔の側を通り、雑草が生い茂る小道を進んでいく。
洗濯場では、数人の使用人が話をしながら、水しぶきを上げ洗濯板で布を洗っていた。ルミアは、その中に紛れ、濡れた布を絞る作業に加わった。
「ねえ、聞いた?また会えなかったらしいわよ。幽霊姫って本当に存在するのかしら」
「あら、私は。幽霊姫の祟りで腕が爛れたって聞いたわよ。本当に恐ろしいわ。ルーナ様やリーナ様は本当に美しい姫様なのに、やっぱり異人の姫だから」
「でも、ここ最近は誰も姿を見かけてないでしょ。本当に幽霊になっていたりして。」
「キャー、恐ろしい。」
ルミアは、冷たい布を両手で力いっぱい絞りつつ、笑いながら幽霊姫の話をする皆を見て思った。
(その幽霊姫が私だって言ったら、皆はどんな顔をするのだろう?)
目を見開き驚く姿を想像して、ルミアは少しだけ微笑んだ。
低く重い鐘の音が聞こえてきた。
ベッドに横たわっていたルミアは、思い瞼を開き、天井を見上げた。
薄暗い中、所々天井に染みが僅かに見える。その染みを見るたびに、亡くなった母を思い出す。
母は、毎晩苦しみをこらえるように蹲って泣いていた。涙を流しながら、ルミアに何度も故郷に帰りたいと伝えてきた。
母は結局、風邪を拗らせて故郷に帰れぬまま亡くなってしまった。
天井の染みは母が流した涙が溜まって、ルミアに訴えかけてきているように感じる。
ルミアは、ゆっくりと起き上がり、隙間風が入ってくる古びた小窓を思いっきり開いた。
少しだけ温かくなった風が勢いよく室内へ流れ込んでくる。
亡き母の涙を乾かし、吹き飛ばしていくような気がした。
「おはよう。母様。」
ルミアは、まだ見えぬ朝日に向かって一人話しかけた。
18歳のルミアの朝は早い。少しでも寝坊すると食事にありつけない。
手早く使用人服に着替え、身支度をすると、ルミアは塔の部屋から急階段を下りて行った。
「ルミー、おはよう。今日も早いね」
「ボンさん。おはよう。」
仕事場に着くと初老のボンが薪を運んでいた。軽く挨拶をして、ルミアもボンの後を追うように薪を運ぶ。
インダルア王国は、100年前の戦争で隣国に半分以上の領土を奪われた。戦禍が癒えた今も隣国への敵対心は王を中心に国中に恨みとして残っている。外国人を酷く差別し嫌う風習は、ルミアの母を傷つけ続けた。ルミアが物心ついた時には、母は、父と同じ漆黒の髪色をしたルミアを見て顔を歪め辛そうな表情をする事が多かった。
朝の薪は運び終えた。ボンは、ルミアに向かって硬いパンと干し肉を渡してきた。
「今日もありがとう。ルミー」
「干し肉も?」
「ああ、どうやら城に土産をたくさん持って、高貴な客が来たらしい。物資塔を開ける為、昨日は使用人達にたくさん配ってくださった。暫くは城内が騒がしくなりそうだ。気をつけろよ。」
「うん。ありがとう。」
ぶっきらぼうだが、ボンはいい人だ。ルミアは笑顔で貴重な食料を受け取り、その場を後にした。
調理塔の側を通り、雑草が生い茂る小道を進んでいく。
洗濯場では、数人の使用人が話をしながら、水しぶきを上げ洗濯板で布を洗っていた。ルミアは、その中に紛れ、濡れた布を絞る作業に加わった。
「ねえ、聞いた?また会えなかったらしいわよ。幽霊姫って本当に存在するのかしら」
「あら、私は。幽霊姫の祟りで腕が爛れたって聞いたわよ。本当に恐ろしいわ。ルーナ様やリーナ様は本当に美しい姫様なのに、やっぱり異人の姫だから」
「でも、ここ最近は誰も姿を見かけてないでしょ。本当に幽霊になっていたりして。」
「キャー、恐ろしい。」
ルミアは、冷たい布を両手で力いっぱい絞りつつ、笑いながら幽霊姫の話をする皆を見て思った。
(その幽霊姫が私だって言ったら、皆はどんな顔をするのだろう?)
目を見開き驚く姿を想像して、ルミアは少しだけ微笑んだ。
12
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
【完結】可愛くない、私ですので。
たまこ
恋愛
華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。
信用してほしければそれ相応の態度を取ってください
haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。
「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」
「ではその事情をお聞かせください」
「それは……ちょっと言えないんだ」
信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。
二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。
意地を張っていたら6年もたってしまいました
Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」
「そうか?」
婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか!
「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」
その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる