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限界離婚
文の達磨
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白衣を着た壮年の医師が部屋に入ってきた。看護師が一人ついてきている。
「丸田文さんのお孫さんですね。」
「「はい」」
良と麗奈は返事をした。
「まず丸田文さんですが、熱中症で搬送されました。応急処置が良かったのか現在は熱中症については落ち着いてきています。ただ、脳のMRIを取った所、古い小さな脳梗塞が無数に見つかりました。」
医師に見せられたパソコンの脳の画像には、確かに小さな黒い点があった。
「これは、最近の脳梗塞ではないでしょうね。何か今までに気づいた事がありませんでしたか?」
良は言った。
「最近は徐々に家事ができなくなってきていて、家族で足腰が衰えたからだと言っていました。今回の出張で、トラブルがあって私の携帯電話が破損し、実家に電話をかけていましたが、お祖母さんにお願いをしても覚えていないようでした。それに、お祖母さんを見つけた時、鍵がかかっているにも拘らず家が散乱していたのは、、」
医師は言った。
「脳血管性認知症でしょうね。新しい事を記憶できなかったり、日付が分からなくなったり、意欲が低くなったりします。家事ができなくなる、物取られ妄想、徘徊などの症状も出る可能性がありますね。」
良は言った。
「ですが、妻の鈴奈の事を、祖母は「鈴ちゃん」と言って覚えているようでした。同居したのは最近なのですが、、、」
隣で話を聞いていた麗奈が言った。
「もしかしたら、私の母の事かもしれません。母の名前は鈴です。祖母は母に帰ってきて欲しいと言っていたと聞いています。」
良はふと思い出した。良の叔母に当たる鈴とは一度も会った事がない。麗奈を産んですぐに亡くなったらしい。
医師が言った。
「そうかもしれませんね。熱中症の治療は、もうすぐ終わります。退院準備を進めていきましょう。」
良は言った。
「それは、、、今、家には誰もいなくて。」
医師は困った顔をする。
「たしか、丸田広一さんのご家族ですよね。広一さんの奥さんや嫁が自宅にいるとお聞きしていましたが、、、」
良は言った。
「ええ、ですが昨日帰ったら、祖母しかいなかったのです。お恥ずかしい事ですが、私も出張中は祖母としか連絡が取れていなくて事情が分からず。」
「そうですか。困りましたね。熱中症で長期間の入院は難しいのですが、、、」
同席していた麗奈が言った。
「あの。私が祖母を引き取ってもいいでしょうか?」
良は驚く。
「え?」
麗奈は言った。
「実は以前から準備していました。祖母に恩返しをしたくて。」
医師は言った。
「では、文さんの退院先についてはご親戚で相談して、決まれば病棟へ伝えてください。次に丸田広一さんについてですが、、、」
良は父について医師から病状説明を受けた。
文の病室へ帰り、麗奈に話を聞く。
麗奈は実父が再婚した時に家を追い出されたらしい。高校生の麗奈から連絡を受けた文は、広一に相談し麗奈を引き取りたいと言ったらしいが、京香に強く反対され麗奈を引き取る事が出来なかった。しかし、文は麗奈の学費や生活費を援助し続けていたそうだ。
麗奈は言った。
「去年、高齢者専用住宅を立ち上げました。私は施設管理者をしています。福祉関係の資格も複数持っています。全部祖母が援助をしてくれたおかげです。広一さんとは時々連絡を取って相談していました。いつか祖母に恩返しをしたいと思って、祖母の部屋を用意していました。私の母の仏壇をそこに置いています。祖母は母が亡くなった時に、遺骨を返してくれと父に何度も言ってきたそうですから。」
麗奈は、母親を亡くした後父方の実家に引き取られたらしい。その時に、祖母の文は、娘の鈴の遺骨を引き取りたいと何度も、玉留家に交渉した。結局鈴の遺骨は丸田家に帰ってこなかった。疎遠になってしまったが文は、娘の忘れ形見である麗奈の事を気にかけていたらしい。
良は言った。
「そうですか?でも本当にいいのですか?」
麗奈は笑った。
「私の家族はもう祖母だけです。祖母を迎え入れられるのなら、私も夢が叶って嬉しいです。できれば時々会いに来てください。祖母と一緒に待っていますから。」
良は、父の病室へ訪ねて行った。
まさか、良が一週間家を離れた間に、こんな事になるなんて想像もしていなかった。
母はともかく、妻と息子の事が心配で仕方がなかった。
父は、医師が言ったようにかなり回復しているらしい。
自室のベッドから立つ練習を、リハビリのスタッフとしていた。
「父さん。」
父は良を見て、眼を見開いて言ってきた。
「良。よかった。来てくれたのか。京香が俺を殺そうとしてきた。なにか盗まれたかもしれない。自宅の金庫と通帳を確認してくれ。お前も気をつけろ。」
リハビリのスタッフは、過激な発言に驚いていた。
良は医師から、父が母に鈍器で殴られたと発言している事は聞いていた。
そうではない事は明らかだが、今の父に何を言っても分かってくれそうになかった。
「ああ、気を付けるよ。
父さん、お願いがある。
俺の携帯電話が壊れて、鈴奈と連絡が取れなくなっている。
電話帳を確認したいから、父さんの携帯電話を貸してくれないか?」
「丸田文さんのお孫さんですね。」
「「はい」」
良と麗奈は返事をした。
「まず丸田文さんですが、熱中症で搬送されました。応急処置が良かったのか現在は熱中症については落ち着いてきています。ただ、脳のMRIを取った所、古い小さな脳梗塞が無数に見つかりました。」
医師に見せられたパソコンの脳の画像には、確かに小さな黒い点があった。
「これは、最近の脳梗塞ではないでしょうね。何か今までに気づいた事がありませんでしたか?」
良は言った。
「最近は徐々に家事ができなくなってきていて、家族で足腰が衰えたからだと言っていました。今回の出張で、トラブルがあって私の携帯電話が破損し、実家に電話をかけていましたが、お祖母さんにお願いをしても覚えていないようでした。それに、お祖母さんを見つけた時、鍵がかかっているにも拘らず家が散乱していたのは、、」
医師は言った。
「脳血管性認知症でしょうね。新しい事を記憶できなかったり、日付が分からなくなったり、意欲が低くなったりします。家事ができなくなる、物取られ妄想、徘徊などの症状も出る可能性がありますね。」
良は言った。
「ですが、妻の鈴奈の事を、祖母は「鈴ちゃん」と言って覚えているようでした。同居したのは最近なのですが、、、」
隣で話を聞いていた麗奈が言った。
「もしかしたら、私の母の事かもしれません。母の名前は鈴です。祖母は母に帰ってきて欲しいと言っていたと聞いています。」
良はふと思い出した。良の叔母に当たる鈴とは一度も会った事がない。麗奈を産んですぐに亡くなったらしい。
医師が言った。
「そうかもしれませんね。熱中症の治療は、もうすぐ終わります。退院準備を進めていきましょう。」
良は言った。
「それは、、、今、家には誰もいなくて。」
医師は困った顔をする。
「たしか、丸田広一さんのご家族ですよね。広一さんの奥さんや嫁が自宅にいるとお聞きしていましたが、、、」
良は言った。
「ええ、ですが昨日帰ったら、祖母しかいなかったのです。お恥ずかしい事ですが、私も出張中は祖母としか連絡が取れていなくて事情が分からず。」
「そうですか。困りましたね。熱中症で長期間の入院は難しいのですが、、、」
同席していた麗奈が言った。
「あの。私が祖母を引き取ってもいいでしょうか?」
良は驚く。
「え?」
麗奈は言った。
「実は以前から準備していました。祖母に恩返しをしたくて。」
医師は言った。
「では、文さんの退院先についてはご親戚で相談して、決まれば病棟へ伝えてください。次に丸田広一さんについてですが、、、」
良は父について医師から病状説明を受けた。
文の病室へ帰り、麗奈に話を聞く。
麗奈は実父が再婚した時に家を追い出されたらしい。高校生の麗奈から連絡を受けた文は、広一に相談し麗奈を引き取りたいと言ったらしいが、京香に強く反対され麗奈を引き取る事が出来なかった。しかし、文は麗奈の学費や生活費を援助し続けていたそうだ。
麗奈は言った。
「去年、高齢者専用住宅を立ち上げました。私は施設管理者をしています。福祉関係の資格も複数持っています。全部祖母が援助をしてくれたおかげです。広一さんとは時々連絡を取って相談していました。いつか祖母に恩返しをしたいと思って、祖母の部屋を用意していました。私の母の仏壇をそこに置いています。祖母は母が亡くなった時に、遺骨を返してくれと父に何度も言ってきたそうですから。」
麗奈は、母親を亡くした後父方の実家に引き取られたらしい。その時に、祖母の文は、娘の鈴の遺骨を引き取りたいと何度も、玉留家に交渉した。結局鈴の遺骨は丸田家に帰ってこなかった。疎遠になってしまったが文は、娘の忘れ形見である麗奈の事を気にかけていたらしい。
良は言った。
「そうですか?でも本当にいいのですか?」
麗奈は笑った。
「私の家族はもう祖母だけです。祖母を迎え入れられるのなら、私も夢が叶って嬉しいです。できれば時々会いに来てください。祖母と一緒に待っていますから。」
良は、父の病室へ訪ねて行った。
まさか、良が一週間家を離れた間に、こんな事になるなんて想像もしていなかった。
母はともかく、妻と息子の事が心配で仕方がなかった。
父は、医師が言ったようにかなり回復しているらしい。
自室のベッドから立つ練習を、リハビリのスタッフとしていた。
「父さん。」
父は良を見て、眼を見開いて言ってきた。
「良。よかった。来てくれたのか。京香が俺を殺そうとしてきた。なにか盗まれたかもしれない。自宅の金庫と通帳を確認してくれ。お前も気をつけろ。」
リハビリのスタッフは、過激な発言に驚いていた。
良は医師から、父が母に鈍器で殴られたと発言している事は聞いていた。
そうではない事は明らかだが、今の父に何を言っても分かってくれそうになかった。
「ああ、気を付けるよ。
父さん、お願いがある。
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