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続 忘れてください

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ルナリーは、メイドのアンナと共に、オーガンジス侯爵邸を後にした。

夫のライルは、朝早く出勤したらしく、ルナリーは会う事が出来なかった。





屋敷の玄関ホールには、義母のマクベラ侯爵夫人が使用人達と共にいた。

マクベラ前侯爵夫人はルナリーに言った。
「さようなら。ルナリーさん。やっとご実家に帰られるのね。」

マクベラ前侯爵夫人は、初めてルナリーと会った時から冷たかった。
前侯爵の後妻であるマクベラ夫人は、元夫のライルとは血の繋がりがない。
ライルの恋人のメアリージェンはマクベラ夫人の姪になる。
幼い頃からライルとメアリージェンは仲睦まじかったそうだ。

ルナリーは膨大な資産を持つアーバン商会会長の庶子として生を受けた。ルナリーを溺愛していた父は、膨大な持参金をルナリーに持たせて貴族の家に嫁がせた。

その父も1年前に、亡くなり今は異母兄がアーバン商会を継いでいる。

庶子のルナリーには実家に帰っても居場所がない。

マクベラ夫人は、ルナリーの事情についてよく知っているはずだ。

ルナリーは微笑んで言った。
「お元気で。マクベラ夫人。兄の使いが離縁後の持参金返還について訪れると思いますのでよろしくお願いしますわ。」

持参金を使い込んでいるマクベラ夫人は、顔を強張らせた。








ルナリーは、馬車を乗り継ぎ、下町の奥にある古ぼけた屋敷にたどり着いた。

ルナリーは夫のライルを愛していた。

ライルもルナリーに好意を持っていると思っていた。

結婚し、オーガンジス侯爵邸で暮らすようになったルナリーはすぐにそうではない事に気がついた。

オーガンジス侯爵邸には、すでに女主人のように振る舞うメアリージェンがいた。

金髪で美しく明るいメアリージェンは、屋敷のすべてを掌握していた。

食事の時は、メアリージェンが女主人の席に当然のように座る。

屋敷の使用人達からは、ルナリーは持参金目的に結婚したお飾りの妻として扱われた。

夫のライルは、仕事が忙しくほとんど屋敷に帰って来ない。

メアリージェンやマクベラ夫人、使用人達からはメアリージェンとライルが仲睦まじい恋人同士である事、二人を引き裂くルナリーが目障りである事を何度も伝えられた。

時に会う夫のライルはルナリーに優しく、ルナリーも初めは夫の事を信じていた。






春の舞踏会が城で開催される為、ルナリーは町に買い物に出かけていた。

その時、メアリージェンと夫のライルが腕を組み、ドレスショップに入って行く場面に遭遇する。

美男美女の二人に周囲の人が見とれている。

買い物について来た侯爵邸の使用人が、ルナリーに告げる。

「ライル様とメアリージェン様は本当にお似合いです。」

(お飾りの妻である貴方とは違って。)





春の舞踏会にルナリーは行かなかった。

貴族でもない、たかが商人の庶子が春の舞踏会に侯爵夫人として参加するなんてとんでもないと、マクベラ夫人が強く反対したのだ。ルナリーは3日3晩自室に閉じ込められた。

夫のライルはメアリージェンと春の舞踏会に参加したらしい。

その後、しばらくして、メアリージェンから夫の子供を妊娠したと告げられた。





夫のライルは、夜を共にする時はルナリーに「愛している」と告げてくる。

ルナリーはメアリージェンの言う言葉が信じられなかった。

夫本人から告げられるまでは、いくら屋敷の使用人やマクベラ夫人、メアリージェンから嫌がらせを受けても侯爵邸から出て行くつもりはなかった。



それに、ルナリーも気が付いていた。

自分のお腹に宿った命がある事を。


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