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「ルルーミア」

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ルルーミア・インガスは、インガス帝国の第一皇女として生を受けた。皇帝の子供はルルーミアのみで、ルルーミアは将来自分が女帝になると思っていた。ルルーミアが10歳の時に、皇子が誕生した。皇帝の晩年に生まれた皇子は、とても強い魔力を持っていた。黒髪に赤瞳の弟皇子はすぐに、皇太子に選出された。ルルーミアもかなり強い魔力を持つ魔術師だ。だが、弟の魔力は、ルルーミアの10倍はあった。弟はドーグ・インガスと名付けられ皇太子教育を施される。ルルーミアが10歳でやっとできた事を5歳の弟が簡単に達成する。誰もが弟が時期皇帝だと考えるようになっていた。

ルルーミアは20歳の時に、宰相と結婚した。
(私が女帝になれないのであれば、私の子供たちを帝国の頂点に、、、)
ルルーミアは諦めていなかった。ルルーミアが22歳の時に魔人が帝国へ攻めていきた。強力な魔術を使う魔人を討伐するために、帝国で最も強い魔術師である弟の皇太子が各国から集められた勇者たちを率いて討伐へ向かった。ルルーミアも魔術師として討伐へ参加した。皇太子は若く討伐に参加した魔術師や聖女達から人気があった。ルルーミアは皇太子と関係を持った女達には、避妊薬を飲ませ、ルルーミアの指示に従わない女は処分した。皇太子に子供が出来ては困るからだ。

半年をかけて魔人は討伐された。魔人に止めを刺した皇太子は魔人に呪われたらしい。何の呪いかは知らないが、魔人討伐後皇太子は女性を側に寄せ付けないようになった。父が死に、弟が皇帝になってからも、それは続いた。皇妃も子供もいない弟。ルルーミアは夫と離婚し、皇城に子供達と帰った。次の皇太子には自分の息子のロニア・インガスが選ばれると思っていた。

ルルーミアが32歳の時だった。相変わらず皇帝は女を寄せ付けず妃もいない。それに業を煮やした議員達が、動き出した。魔人討伐の時に関係を持った女達を探す事にしたのだ。もしかしたら隠し子がいるかもしれない。皇帝に知らせれず秘密裏に調べられた女達は100人近くになったらしい。皇帝と会話をした事がない者達でさえ調査されたと聞いた。
(そんな事をしても無駄なのに。子供なんている筈がないわ。)

調査が開始されて1年近く経った時だった。皇帝を訪ねてきた一人の聖女がいたらしい。その聖女は皇帝と会った瞬間深い眠りについた。

その聖女には見覚えがあった。魔人討伐の時に負傷を理由に聖女の資格を失ったからと、討伐隊を辞退して国へ帰った娘だったはずだ。

弟は、その聖女の前で跪いて泣いていた。赤い目から零れ落ちる涙は血の色をしているようだった。


聖女が眠りについてから、皇帝は目を覚まさない聖女と共に離宮へ移った。ほとんどを離宮で過ごし、時に皇城を訪れてもすぐに離宮へ帰る。離宮に行く前に皇帝は4人の人物を後継者候補として指名した。優秀な魔剣士で帝国で最も強いカイザック、最年少で宰相となったギース、魔術師長のグロリア、そしてルルーミアの息子のロニアだった。4人の後継者候補達はインガス性を名乗る事になった。ルルーミアは、息子を皇太子にするために動きだした。息子に帝国最大規模の派閥を持つラナ公爵の娘と結婚させたし、息子に優位な噂が流れるように市井の小説家に恋愛小説を書かせた。息子以外の3人の後継者候補へは何度も暗殺者を送った。最強の魔剣士であるカイザックには、娘のルニアと結婚させて引き入れようとした。

だが、貴族や市民からは皇帝の血族である息子を時期皇太子へ押す声があるにもかかわらず、決定打がない。息子の実績が足りないのだ。軍部はカイザックを、政務官はギースを、魔術師達はグロリアを支持している。血筋だけで選ばれた息子をよく思っていない者達もたくさんいる。

カイザックは放浪癖があり、よく冒険者に身を宿し各国を巡っている。魔獣討伐の実績はあるが、皇太子になる為に積極的に行動しているとは思えなかった。カイザックが娘のルニアと結婚したら、軍部の支持を息子のロニアが得られる可能性がある。そう思い、後継者を決める時期にカイザックと娘を結婚させようとした。書かせた小説の影響で、女にだらしないイメージがついたカイザックの結婚に賛成する貴族や議員も多く、うまく行くと思っていた。

夜会に現れたカイザックは、書かせた小説の登場人物悪女メイダーの姿をした魔術師を婚約者としてつれてきた。

(何てこと。悪女メイダーを連れてくるなんて。私への当てつけなの?)


その娘は皇帝から4人の後継者達に送られた婚約指輪をしている。簡単には外せない強力な守護指輪だ。娘のルニア皇女が詰め寄るが、魔術師に簡単にあしらわれたらしい。帝国は代々強い魔術師が皇帝になる歴史がある。魔術師がカイザックの婚約者になった今、後継者争いは、かなりカイザックが優位になった。しかもギース・インガスとグロリア・インガスが婚約し後継者を辞退した。二人はカイザックの支持を表明し、カイザックは軍部、政務官、魔術師達の支持を得たことになる。





このままだと、ロニアは皇帝になれない。

ルルーミア帝姉は決心した。


夜会から退出し、息子のロニアと向き合う。

ルルーミアは言った。
「仕方がないわ。このままだとカイザックに負ける。離宮に行きましょう。皇帝を殺すのです。」

ロニアは笑った。
「やっと、決心がつきましたか。母上。初めから叔父上を殺せばよかったのに。」

ルルーミアは言った。
「ドーグは最強の魔術師よ。太刀打ちできないわ。でも、今はあの聖女の呪いを食い止める為にかなりの魔力を消費しているはずよ。ほっとけば死ぬ聖女に何年も執着するなんて弟には呆れるわ。」


ロニアは言った。
「ですが、我らには好機です。聖女が弱るほど、皇帝は多くの魔力を聖女に注ぎ込む。」

ルルーミアは笑った。
「さあ、行きましょう。ついに貴方が皇帝になるのよ、、、、、」


























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