愛憎枠

仲 奈華 (nakanaka)

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3.望まぬ来訪者

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 ルナは、正面玄関へ向かった。
 玄関のドアは開かれたままで、外の激しい雨が強い風に吹かれて中に吹き込んできている。

 ルナは、急いで階段を下りて行った。

「ザイク!いないのか!どうしてこんなに暗いのだ」

 夫は執事のザイクを大声で呼び、屋敷の明かりがついていない事に戸惑っている様子だった。

 夫のマイク・マックバーン伯爵は、金に近い透き通った茶髪で整った顔立ちをしている。王国貴族の中で一番人気の金髪ではないが、夫は自分自身の淡い茶髪を貴族の証だからと誇らしく思っているようだった。

 ルナは、夫が一人だと思っていた。薄暗い邸宅でよく見えないが、夫は黒いコートを羽織り、大きな荷物を抱えているようだった。

 ルナが、階段を降り切った時、眩しい雷光が夫を照らした。

 夫の隣には、誰かがいた。

 夫と体を密着させて寄り添うように立つ、燃えるような赤髪の女性は、明らかに高価だと分かる豪華なネックレスとイヤリングをつけて、複雑な銀の刺繍が施された黒のドレスを身に纏っていた。彼女の眼が雷光と共にギラリと光ったように見えた。



 ルナは、呆然とその場に立ちすくんだ。



 マイクは、立ち止まったルナを見てイライラしたように怒鳴りつけてきた。


「おい、お前!執事はどこだ。」


 夫は、妻であるルナに気づいてさえいないようだった。


(どういう事なの?どうして、私の夫の隣に他の女性がいるの?私が必死にお義母様や家を守るために尽くしてきた時、この人は…‥)

 夫の隣の女から金属音のような足音が聞こえた。

 カツ、カツ、カツ。

「まあ、小汚い使用人ね。ねえ、マイク。これからは私が使用人を選んでもいいでしょ」

 赤髪の女の甘くねっとりとした声が、ルナには破滅を呼ぶ悪魔のささやきのように思えた。

「ああ、もちろん。リリア。あいし・て・る・・」


 ゴロゴロゴロゴロ。


 夫の声が、遅れて聞こえてきた大きな雷鳴にかき消される。

 ルナには、夫がなんと言っていたか分からない。

 信じたくない。

 認めたくない。

 そんな筈がない。

「ふふふ。私も愛しているわ。マイク」

 ルナがショックを受け佇んでいると、目の前の2人の影が重なった。2人は抱きしめ合い情熱的に唇を合わせている。


 夫が浮気をしているという事は薄々気がついていた。

 分かっていた。

 だけど、気づかないフリをしていた。

 どうしても信じたく無かった。

 認めてしまえば、ただでさえ辛い現実に、もうこれ以上耐える事が出来そうに無かったから。


 ピカーーーゴロゴロゴロゴロ。


 今度の雷は近くに落ちたらしい。

 開きっぱなしのドアから差し込む雷光に照らされながら、濃厚な口付けを交わす夫と赤髪の女をルナは目を見開き凝視し続けた。


 ルナの瞳から一筋の涙が溢れ落ちた。

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