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第35話 ルクラシア
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ルクラシアは、目の前のアシリー公爵へ怒りを感じていた。
アシリー公爵は、今のルクラシアの夫になる。王国で最も裕福なアシリー公爵と結婚したのは、彼を愛しているからでは無い。元夫のギーザックが病に倒れ、何もかもが思い通りにならず、マージャス侯爵家を離れたくなったからだ。アシリー公爵はルクラシアだけでなく、娘のローザリンまで受け入れると約束してくれた。今まで通り好きな事をして生きていけるなら相手は誰でも良かった。条件が最もいい相手だから再婚しただけだった。
舞踏会場には忌々しい、あのミライザが来ていた。マージャス侯爵を名乗り、整った顔立ちでゆったりと歩くミライザを見て夫が豹変した。
「見つけた。まだ、生き残りがいた。あの娘こそ人魚の・・・・・・」
隣に座る夫が何かを呟いているかと思ったら、ルクラシアの耳元に囁いてきた。
「離婚しよう。ルクラシア」
ルクラシアは驚き、夫の顔を見る。
夫のアシリー公爵はニヤニヤと満足そうに笑っていた。
確かに愛はない。お互い打算的な関係だと知っている。それでも、もし別れを告げるとしたら、それはルクラシアである筈だった。
「なんですって!そんな事、許される筈がないわ」
「意外だな。君は帝国にも恋人がいただろ。僕が結婚しないなら、帝国へ行くと言っていたではないか」
そう、帝国にも恋人がいた。宰相の地位にある彼とも長い付き合いになる。ギーザックと別れる事を決めた時、帝国宰相の元へ行くか、アシリー公爵と結婚をするかルクラシアは悩んでいた。誤算だったのは、ミライザを貶めるために、帝国学院の若い研究員の娘を雇った事だった。帝国学院記念パーティで便宜を図ってもらう為に、宰相に研究員の女を紹介した。彼が女好きだと知っていたが、ただの研究員に寝取られるとは思っていかなかった。若い女がいいからと、別れの手紙を宰相から受け取ったのは、数日前の事だった。
アシリー公爵とルクラシアの不穏な会話に、周囲が気づいたのかチラチラ様子を伺ってくる。
ルクラシアは言った。
「場所を移しましょう。貴方」
蒼く輝くミライザを遠目で見ながら、ルクラシアは思った。
(厄介な事。あの娘さえいなければ、何もかも上手くいったはずなのに)
アシリー公爵の腕に手を添えて、ルクラシアは舞踏会場を後にした。
ルクラシアは、アーガス公爵家長女として生を受けた。ルクラシアは、幼い時から王太子と婚約し、将来の王妃として、厳しい教育を受けてきた。社交術、外国語、礼儀作法、遊べる時間など無く、朝から晩まで分単位のスケジュールで教育を受ける。
ルクラシアはずっと気が張り詰めていた。些細なミスも許されず、常に完璧を求められる。
「ルクラシア様!」
ある日ルクラシアは、授業中に居眠りをしてしまった。男性の歴史学者に起こされる。疲れていた。ピアノの先生は間違うと手を鞭で叩いてくる。昨日は緊張してあまり眠れなかった。ピアノの試験が終わって気が緩んでいたのかもしれない。
「ごめんなさい。打たないで。なんでもするから」
ゴクリ。
男性教師の唾を飲み込む音が、やけに響いて聞こえた。
先生は怒らなかった。それどころか、言う事を聞けば、試験を受けなくてもいい成績を与えるからと言われる。ルクラシアは教師の望むままの行動を取り続けた。
初めは歴史学者だけだった。だけど、ルクラシアは、なんとなく分かるようになった。少しでも楽をする為、楽しむ為、沢山の人と関係を持つようになった。彼らはルクラシアの美貌を褒め、なんでもルクラシアの願いを聞き入れてくれる。
(なんだ。こんなに簡単な事だったのね。あんなに必死になる必要なんてなかったわ。勉強なんてしなくても、私は愛されている。上手くやれるわ。これからも)
だけど、一部の教師を騙せても、紙面上の評価が高くても、ルクラシアの評判は徐々に落ちていった。
社交界へ参加するようになると、ルクラシアは、貴族達とも陰で遊ぶようになった。その中の一人がギーザック・マージャスだった。ルクラシアを褒め称え、愛を必死に囁くギーザックが可愛かった。王太子との関係は冷え切っている。王太子は薄々ルクラシアが遊んでいる事に気がついているらしく、何度か冷たい目で注意されていた。ルクラシアは結婚して将来王妃になる。王妃になってからも、沢山の男達に愛を囁き、上手くやるつもりだった。ギーザックとは、結ばれない。だからこそ今は思う存分楽しみたかった。
ギーザックが、両親の反対を押し切りアーガス公爵家にルクラシアとの結婚申込書を届けてしまった。それまで、ルクラシアの教育を教師達に丸投げしていた両親は激怒した。薄々一部の教師達の評価が高すぎると訝しく思っていたらしい。
父はルクラシアを怒鳴りつけ、母は泣いていた。
「どういう事だ。ルクラシア」
「どうされたの?お父様。なぜ怒っていらっしゃるの?」
「貴方は、病気よ。アーガス侯爵嫡男だけではないのでしょう。何人もの男性との関係があるなんて。皆、貴方から誘ってきたって言っているわ。貴方は王太子と婚約しているのに!」
「ええ、お母様。婚約していますわ。だから、私の成績は優秀でしょ。皆、私に協力してくれますの。王太子と結婚してからも、皆に助けて貰うつもりですわ。」
両親は、青ざめていた。
両親に何度も諭されたが、ルクラシアは納得出来なかった。秘密裏に医師が呼ばれて沢山の検査を受けさせられた。ルクラシアは恋愛依存だと告げられた。
王太子との婚約も解消された。次の婚約者になったアシリー公爵令嬢は、王国一の才女と名高く、何度もルクラシアは彼女と比べられてきた。
納得いかなかった。上手くやれていたはずなのに。だけど、王太子と結婚しなくていいのであれば、ギーザックと一緒になれるかもしれない。ルクラシアをいつも熱い瞳で見つめ、何度も愛を囁く彼となら結婚してもいい。ずっと一緒にいれるのなら、他の男はいらないかもしれない。治療と称して公爵家に閉じ込められる日々の中、ギーザックと再会する事をルクラシアは夢見ていた。
一年程ルクラシアは、屋敷での療養を強要された。その後、気落ちした両親に変わり公爵位を引き継いだ兄はルクラシアを解放した。両親は、ルクラシアが沢山の男性と関係を持ってきた事を、徹底的に口止めしたらしい。実兄も知らされておらず、病気になり婚約破棄を告げられた可哀想な妹として扱われた。
ルクラシアは、社交界へ返り咲いた。だけど、久しぶりの社交界で知ったのは、不愉快な事実ばかりだった。
ギーザック・マージャスは、すでに結婚していた。相手はリアンナと言う黒髪の子爵令嬢らしい。何もかも遅かった。ルクラシアはギーザックとなら結婚してもいいと思っていたのに。
元婚約者の王太子は、アシリー公爵令嬢と仲睦まじく微笑みあっている。どうしても、気に入らない。ルクラシアの方が美しいはずだ。教師達の評価点だって良かったはずなのに。
ルクラシアは、また男性達を誘惑するようになった。当てつけの為、王太子と婚約したアシリー公爵令嬢の実弟や、帝国皇子とも付き合った。それに、ギーザック・マージャスの熱の籠った瞳に気がついてからは、再びギーザックにも近づいた。
結婚はしていないが、ルクラシアは社交界の美しい花として沢山の男性達にいつも囲まれて生活していた。
王太子との婚約破棄については誰もが知っている。健康上の問題があると思われているルクラシアに、婚約を申し込む貴族はいない。付き合う男性からの援助で、王都の一等地に家を構え、自由気ままに複数の男性と遊ぶ生活を送っていたある日、ルクラシアは妊娠している事に気がついた。
気を付けていた筈なのに、子供が出来てしまったらしい。
ふとルクラシアは、社交界で見かけたギーザックの妻リアンナの事を思い出した。ギーザックとは再会してから何度も会っている。ギーザックはルクラシアと会っている事を後ろめたく感じているらしい。ルクラシアはギーザックに何度も囁いてきた。きっとリアンナも貴方を裏切っている。黒髪の娘はマージャス侯爵家の血をひいていないかもしれない。ギーザックは、ルクラシアの言葉を聞くと、罪悪感が薄れるのか安心したように同調していた。
(もし、この子が産まれたら?ギーザックを取り戻せるかもしれない。結婚だって出来るはず。ふふふ)
ルクラシアは、子供を産む事にした。父親が誰かなんてハッキリとは分からない。ルクラシアが付き合っている男性達は、既婚者が殆どだ。月に一度逢えればいい方で、バレるはずが無い。
(援助者は沢山いた方がいいわよね。私にもこの子にも)
ルクラシアは、お腹をさすりながら微笑んだ。
ルクラシアは娘を産んだ。娘は、ギーザックによく似た水色の髪で、アシリー公爵と同じく背中に小さな痣があり、帝国宰相となった皇弟と同じ金の瞳をしていた。
ルクラシアは娘をローザリンと名付け、恋人達に貴方の娘だと紹介した。
ギーザックは、ルクラシアの言葉を信じ込んだ。アシリー公爵や帝国宰相の彼は疑っているようだったが、娘に会う度に父親として高価な贈り物を渡してくれた。
娘のローザリンは沢山の贈り物に囲まれて、ルクラシアの恋人達に可愛がられて大きくなった。
その日は、大雨が降っていた。3歳の娘が昼寝をしようと寝入った時だった。屋敷のドアノブが強く鳴らされた。
ルクラシアは少しイライラしながらドアを開けた。そこには、黒髪の女が緊張した面持ちで立っていた。
「夫と、ギーザックと別れてください」
目の前の女はマージャス侯爵夫人のリアンナだ。長い黒髪、白い肌、大きな瞳はルクラシアから見ても美しいと感じる。だけど、ギーザックは、ルクラシアの物だ。彼は今でもルクラシアを熱が籠った瞳で見つめてくる。
「まあ、なんて!惨めな女。愛されていないのに、ずっと彼に縋り付いて恥ずかしくないのかしら。ギーザックはずっと私を愛している。貴方こそ、後から割り込んできたドブネズミの癖に!」
ルクラシアはリアンナを思いっきり突き飛ばした。
「キャア!」
リアンナは後ろへ倒れ、段差から落ち、地面に倒れ込んだ。
長い黒髪はずぶ濡れになり、顔には泥が飛び散っている。
「本当醜い女ね。貴方には泥水がお似合いよ」
リアンナは、なんとか体を起こし、ルクラシアを睨みながら叫んできた。
「私はあの人の妻です。いくら元公爵令嬢だからって、貴方のこそが醜いメギツネ・・・・・・」
リアンナは急に目を見開き黙り込んだ。
「おかあさぁま?どうしたの?」
寝ていたはずのローザリンが起きてきた。
目の前のずぶ濡れの醜い女はローザリンの水色の髪を見て呆然としている。
「なんでもないわ。可愛いローザリン。中に入りましょう。」
「でも、あの人は?」
「いいのよ。醜いドブネズミは雨に濡れるのが好きなの。いなくなればいいのに。パパだって迷惑しているわ」
「ローザリンのパパ。同じ水色!」
「そうよ。ローザリンの事が大好きな水色の髪のパパの事よ。」
ローザリンを家の中に誘導しながら、ルクラシアは後ろを見た。
そこには、土砂降りの雨に濡れながら絶望した顔で震える泥だらけの女が座り込んでいた。
(ただの子爵令嬢なのに、私の男を盗るなんて、本当忌々しい女。)
ルクラシアは頑丈なドアを閉めて、笑った。
「ふふふ。いい気味」
(リアンナのあの顔ったら!本当に不細工だったわ。)
「おかあさま?ミライザ正解した?水色はパパでしょ。おとうさまは金色でしょ。おとうさんは?なんだっけ」
「ええ。ミライザはとっても賢いわ。また覚えましょうね。大事な事だから」
あの大雨の日から暫くして、マージャス侯爵夫人が体調を崩し伏せっているとの噂を聞いた。リアンナはあの大雨の日暫く、ルクラシアの屋敷の前で呆然としていた。肺炎にでもなったのかもしれない。
そう、リアンナさえいなければ、ルクラシアとギーザックの結婚を反対する者はいない。ギーザックは、ローザリンを実娘だと信じ込んでいる。ルクラシアは、会う度にギーザックに、妻の不貞を吹き込み続けた。マージャス夫婦の仲は、殆ど壊れているようだった。
沢山の男性と付き合ってきたが、そろそろ結婚してもいいかもしれない。結婚するならギーザックとしか考えられなかった。
アシリー公爵は、婚約者を取られた現王妃への憂さ晴らしで付き合いだした。蛇のような瞳をしているアシリー公爵は何を考えているか分からない事がある。
帝国宰相となった彼とは年に数回会っている。綺麗で若い娘が好きな宰相のタイプから徐々に自分自身が外れていっている事に気がついていた。
沢山いた恋人達も減ってしまった。
ギーザックだけだ。ずっとルクラシアを心から愛してくれるのは。
だから・・・・・・あの女さえいなければ。
ルクラシアは、支援者から貰った金を使ってマージャス侯爵家に使用人を潜り込ませた。すでにリアンナ夫人は寝たきりに近い状態になっていた。使用人に命じて、リアンナ夫人のお茶だけに毒を入れさせた。
アーリン港の別荘へ静養へ行っていたリアンナは暫くして息を引き取った。
誤算だったのは、ギーザックが妻の死と共に酷く落ち込んでしまった事だ。
やっとルクラシアと一緒になれるのに、なかなかプロポーズをしてこない。
だけど、この時もまた娘が役に立った。
「パパ。ローザリンはパパのお家に行きたい」
酷く落ち込んでいるギーザックは、それでもローザリンが可愛いらしい。娘のおねだりをすぐに了承した。
ルクラシアは、兄のアーガス公爵とは、疎遠になっていたが、マージャス侯爵家の娘をルクラシアが育てていると伝えると、ギーザックとルクラシアの結婚を纏め上げてくれた。
ルクラシアはマージャス侯爵夫人となった。愛し合っている夫と、美しい娘。ルクラシアの理想の家族がやっと手に入った。
前妻の娘ミライザは、母親に似た艶がある黒髪と美しい顔立ちをしていたが、ルクラシアはミライザを見る度に、最後に会った時の泥だらけのリアンナを思い出し、「醜い娘だ」と声をかけた。その内、ミライザは俯き、眼鏡と前髪で顔を隠すようになった。
マージャス侯爵家は、もうルクラシアの物だ。社交界もルクラシアを受け入れている。
ただ、ルクラシアを愛しているはずの夫だけが変わってしまった。
ギーザックはリアンナが死んでから変わってしまった。熱くルクラシアを見つめてきた瞳は光を失い、ルクラシアと目を合わせようとしない。
それでも、そばにいれば元のギーザックに戻ると思っていた。もう結婚したのだ。これからはずっと一緒にいられる。
ギーザックは、家を空ける事が増えた。仕事だからとマージャス侯爵家に寄り付かず、アーリン港の会社にばかり入り浸っている様子だった。
新しい女の影はない。
だけど、なぜかギーザックは帰ってこない。
リアンナさえいなくなればいい。
そう思っていたのに。
寂しさから、ルクラシアは、また沢山の男達と付き合うようになった。
義娘ミライザが留学してからは、マージャス侯爵家にも彼氏を招き入れる事があった。
時折会うギーザックは、娘のローザリンを可愛がっているが、どうしても嫡女に指名しようとしない。
年頃になったローザリンの縁談を纏めようとしたが、上手くいかなかった。ローザリンは美しい。水色の髪は光り輝き、人形のような面立ちの顔はルクラシアに似てかなりの美少女だと思う。
縁談がまとまらない事を不思議に思い、ルクラシアは夫へ相談した。
ギーザックは、ルクラシアを見て呆れたように言った。
「誰も庶子の侯爵令嬢を正妻に迎え入れようと思わないだろ。」
「ローザリンは貴方の娘でしょう。何故そのような」
「娘か。確かにローザリンは可愛い。私の本当の娘であったらと思う。だけど、ローザリンが産まれた時、君は結婚していなかった。王国戸籍には庶子と記載されている。君はそんな事も知らないのか?法学で必ず習うはずだ」
ルクラシアは顔を赤らめた。習ったかもしれない。だけど覚えていない。あの頃は勉強するより、簡単に結果を残せる手段に夢中になっていた。
「それに、君はローザリンに殆ど教育を施していないみたいじゃないか。」
「私は、嫌だったの。無理な教育はローザリンの為にならないわ」
「王太子妃教育を受けていたはずの君が言うから、そうなのだろう。ローザリンの事は君と、君の友達に任せるよ。」
「友達?」
「君が仲良くしている人たちだよ。私だって社交界へ参加する。皆が噂している。アシリー公爵には娘がいると」
「何を言っているの?貴方」
「もういいんだ。ルクラシア。私は君を愛していた。誰よりも君に夢中だった。バチが当たったのだろう。気がつけば、妻も娘もいなくなっていた。後悔しているよ。君に出逢った事を」
「やめて、聞きたくないわ。私は貴方の妻よ。お願い。私を見て!昔のように、私だけを」
ルクラシアはギーザックに縋りついた。ギーザックは、ルクラシアの遥か後ろを見ていた。壁にひっそりと立て掛けられている前妻のリアンナの肖像画を。
病気がちになったギーザックは、前妻を懐かしみルクラシアに後悔だけを伝えてくるようになった。ギーザックは、前妻の娘を必死に呼び戻そうとしている。
何年もギーザックの愛を取り戻そうとしたが、無駄だった。ルクラシアはギーザックと別れアシリー公爵と再婚する事に決めた。
アシリー公爵は、娘のローザリンに執着している。どうしても娘が欲しいと言っている。ローザリンも侯爵家の庶子ではなく、王国で最も裕福なアシリー公爵の庶子であれば結婚相手が見つかるかもしれない。アシリー公爵は、ルクラシアに結婚してからの金銭支援と、交友関係の自由を約束してくれた。
ルクラシアを見てくれない男なんて、もうどうでもいい。
私は捨てられたのではない。
私が捨てるのだ。
だけど、マージャス侯爵家を離れる前に、目障りなあの娘を、根暗で不細工なミライザをなんとかしなければ。
「ねえ、リアンナ。私の娘が手に入れられない物を、貴方の娘が手に入れるなんて可笑しいでしょ。貴方も貴方の娘も泥だらけの姿がお似合いよ」
ルクラシアの思惑通り、前妻の娘は帝国学院から追放された。船上パーティで自ら海に身を投げたらしい。
きっと今頃ミライザは、あの時のリアンナと同じように、海の底の泥に埋もれているだろう。
ルクラシアは、リアンナ前侯爵夫人の肖像画に、侯爵庭の泥を思いっきりなすりつけた。
アシリー公爵は、今のルクラシアの夫になる。王国で最も裕福なアシリー公爵と結婚したのは、彼を愛しているからでは無い。元夫のギーザックが病に倒れ、何もかもが思い通りにならず、マージャス侯爵家を離れたくなったからだ。アシリー公爵はルクラシアだけでなく、娘のローザリンまで受け入れると約束してくれた。今まで通り好きな事をして生きていけるなら相手は誰でも良かった。条件が最もいい相手だから再婚しただけだった。
舞踏会場には忌々しい、あのミライザが来ていた。マージャス侯爵を名乗り、整った顔立ちでゆったりと歩くミライザを見て夫が豹変した。
「見つけた。まだ、生き残りがいた。あの娘こそ人魚の・・・・・・」
隣に座る夫が何かを呟いているかと思ったら、ルクラシアの耳元に囁いてきた。
「離婚しよう。ルクラシア」
ルクラシアは驚き、夫の顔を見る。
夫のアシリー公爵はニヤニヤと満足そうに笑っていた。
確かに愛はない。お互い打算的な関係だと知っている。それでも、もし別れを告げるとしたら、それはルクラシアである筈だった。
「なんですって!そんな事、許される筈がないわ」
「意外だな。君は帝国にも恋人がいただろ。僕が結婚しないなら、帝国へ行くと言っていたではないか」
そう、帝国にも恋人がいた。宰相の地位にある彼とも長い付き合いになる。ギーザックと別れる事を決めた時、帝国宰相の元へ行くか、アシリー公爵と結婚をするかルクラシアは悩んでいた。誤算だったのは、ミライザを貶めるために、帝国学院の若い研究員の娘を雇った事だった。帝国学院記念パーティで便宜を図ってもらう為に、宰相に研究員の女を紹介した。彼が女好きだと知っていたが、ただの研究員に寝取られるとは思っていかなかった。若い女がいいからと、別れの手紙を宰相から受け取ったのは、数日前の事だった。
アシリー公爵とルクラシアの不穏な会話に、周囲が気づいたのかチラチラ様子を伺ってくる。
ルクラシアは言った。
「場所を移しましょう。貴方」
蒼く輝くミライザを遠目で見ながら、ルクラシアは思った。
(厄介な事。あの娘さえいなければ、何もかも上手くいったはずなのに)
アシリー公爵の腕に手を添えて、ルクラシアは舞踏会場を後にした。
ルクラシアは、アーガス公爵家長女として生を受けた。ルクラシアは、幼い時から王太子と婚約し、将来の王妃として、厳しい教育を受けてきた。社交術、外国語、礼儀作法、遊べる時間など無く、朝から晩まで分単位のスケジュールで教育を受ける。
ルクラシアはずっと気が張り詰めていた。些細なミスも許されず、常に完璧を求められる。
「ルクラシア様!」
ある日ルクラシアは、授業中に居眠りをしてしまった。男性の歴史学者に起こされる。疲れていた。ピアノの先生は間違うと手を鞭で叩いてくる。昨日は緊張してあまり眠れなかった。ピアノの試験が終わって気が緩んでいたのかもしれない。
「ごめんなさい。打たないで。なんでもするから」
ゴクリ。
男性教師の唾を飲み込む音が、やけに響いて聞こえた。
先生は怒らなかった。それどころか、言う事を聞けば、試験を受けなくてもいい成績を与えるからと言われる。ルクラシアは教師の望むままの行動を取り続けた。
初めは歴史学者だけだった。だけど、ルクラシアは、なんとなく分かるようになった。少しでも楽をする為、楽しむ為、沢山の人と関係を持つようになった。彼らはルクラシアの美貌を褒め、なんでもルクラシアの願いを聞き入れてくれる。
(なんだ。こんなに簡単な事だったのね。あんなに必死になる必要なんてなかったわ。勉強なんてしなくても、私は愛されている。上手くやれるわ。これからも)
だけど、一部の教師を騙せても、紙面上の評価が高くても、ルクラシアの評判は徐々に落ちていった。
社交界へ参加するようになると、ルクラシアは、貴族達とも陰で遊ぶようになった。その中の一人がギーザック・マージャスだった。ルクラシアを褒め称え、愛を必死に囁くギーザックが可愛かった。王太子との関係は冷え切っている。王太子は薄々ルクラシアが遊んでいる事に気がついているらしく、何度か冷たい目で注意されていた。ルクラシアは結婚して将来王妃になる。王妃になってからも、沢山の男達に愛を囁き、上手くやるつもりだった。ギーザックとは、結ばれない。だからこそ今は思う存分楽しみたかった。
ギーザックが、両親の反対を押し切りアーガス公爵家にルクラシアとの結婚申込書を届けてしまった。それまで、ルクラシアの教育を教師達に丸投げしていた両親は激怒した。薄々一部の教師達の評価が高すぎると訝しく思っていたらしい。
父はルクラシアを怒鳴りつけ、母は泣いていた。
「どういう事だ。ルクラシア」
「どうされたの?お父様。なぜ怒っていらっしゃるの?」
「貴方は、病気よ。アーガス侯爵嫡男だけではないのでしょう。何人もの男性との関係があるなんて。皆、貴方から誘ってきたって言っているわ。貴方は王太子と婚約しているのに!」
「ええ、お母様。婚約していますわ。だから、私の成績は優秀でしょ。皆、私に協力してくれますの。王太子と結婚してからも、皆に助けて貰うつもりですわ。」
両親は、青ざめていた。
両親に何度も諭されたが、ルクラシアは納得出来なかった。秘密裏に医師が呼ばれて沢山の検査を受けさせられた。ルクラシアは恋愛依存だと告げられた。
王太子との婚約も解消された。次の婚約者になったアシリー公爵令嬢は、王国一の才女と名高く、何度もルクラシアは彼女と比べられてきた。
納得いかなかった。上手くやれていたはずなのに。だけど、王太子と結婚しなくていいのであれば、ギーザックと一緒になれるかもしれない。ルクラシアをいつも熱い瞳で見つめ、何度も愛を囁く彼となら結婚してもいい。ずっと一緒にいれるのなら、他の男はいらないかもしれない。治療と称して公爵家に閉じ込められる日々の中、ギーザックと再会する事をルクラシアは夢見ていた。
一年程ルクラシアは、屋敷での療養を強要された。その後、気落ちした両親に変わり公爵位を引き継いだ兄はルクラシアを解放した。両親は、ルクラシアが沢山の男性と関係を持ってきた事を、徹底的に口止めしたらしい。実兄も知らされておらず、病気になり婚約破棄を告げられた可哀想な妹として扱われた。
ルクラシアは、社交界へ返り咲いた。だけど、久しぶりの社交界で知ったのは、不愉快な事実ばかりだった。
ギーザック・マージャスは、すでに結婚していた。相手はリアンナと言う黒髪の子爵令嬢らしい。何もかも遅かった。ルクラシアはギーザックとなら結婚してもいいと思っていたのに。
元婚約者の王太子は、アシリー公爵令嬢と仲睦まじく微笑みあっている。どうしても、気に入らない。ルクラシアの方が美しいはずだ。教師達の評価点だって良かったはずなのに。
ルクラシアは、また男性達を誘惑するようになった。当てつけの為、王太子と婚約したアシリー公爵令嬢の実弟や、帝国皇子とも付き合った。それに、ギーザック・マージャスの熱の籠った瞳に気がついてからは、再びギーザックにも近づいた。
結婚はしていないが、ルクラシアは社交界の美しい花として沢山の男性達にいつも囲まれて生活していた。
王太子との婚約破棄については誰もが知っている。健康上の問題があると思われているルクラシアに、婚約を申し込む貴族はいない。付き合う男性からの援助で、王都の一等地に家を構え、自由気ままに複数の男性と遊ぶ生活を送っていたある日、ルクラシアは妊娠している事に気がついた。
気を付けていた筈なのに、子供が出来てしまったらしい。
ふとルクラシアは、社交界で見かけたギーザックの妻リアンナの事を思い出した。ギーザックとは再会してから何度も会っている。ギーザックはルクラシアと会っている事を後ろめたく感じているらしい。ルクラシアはギーザックに何度も囁いてきた。きっとリアンナも貴方を裏切っている。黒髪の娘はマージャス侯爵家の血をひいていないかもしれない。ギーザックは、ルクラシアの言葉を聞くと、罪悪感が薄れるのか安心したように同調していた。
(もし、この子が産まれたら?ギーザックを取り戻せるかもしれない。結婚だって出来るはず。ふふふ)
ルクラシアは、子供を産む事にした。父親が誰かなんてハッキリとは分からない。ルクラシアが付き合っている男性達は、既婚者が殆どだ。月に一度逢えればいい方で、バレるはずが無い。
(援助者は沢山いた方がいいわよね。私にもこの子にも)
ルクラシアは、お腹をさすりながら微笑んだ。
ルクラシアは娘を産んだ。娘は、ギーザックによく似た水色の髪で、アシリー公爵と同じく背中に小さな痣があり、帝国宰相となった皇弟と同じ金の瞳をしていた。
ルクラシアは娘をローザリンと名付け、恋人達に貴方の娘だと紹介した。
ギーザックは、ルクラシアの言葉を信じ込んだ。アシリー公爵や帝国宰相の彼は疑っているようだったが、娘に会う度に父親として高価な贈り物を渡してくれた。
娘のローザリンは沢山の贈り物に囲まれて、ルクラシアの恋人達に可愛がられて大きくなった。
その日は、大雨が降っていた。3歳の娘が昼寝をしようと寝入った時だった。屋敷のドアノブが強く鳴らされた。
ルクラシアは少しイライラしながらドアを開けた。そこには、黒髪の女が緊張した面持ちで立っていた。
「夫と、ギーザックと別れてください」
目の前の女はマージャス侯爵夫人のリアンナだ。長い黒髪、白い肌、大きな瞳はルクラシアから見ても美しいと感じる。だけど、ギーザックは、ルクラシアの物だ。彼は今でもルクラシアを熱が籠った瞳で見つめてくる。
「まあ、なんて!惨めな女。愛されていないのに、ずっと彼に縋り付いて恥ずかしくないのかしら。ギーザックはずっと私を愛している。貴方こそ、後から割り込んできたドブネズミの癖に!」
ルクラシアはリアンナを思いっきり突き飛ばした。
「キャア!」
リアンナは後ろへ倒れ、段差から落ち、地面に倒れ込んだ。
長い黒髪はずぶ濡れになり、顔には泥が飛び散っている。
「本当醜い女ね。貴方には泥水がお似合いよ」
リアンナは、なんとか体を起こし、ルクラシアを睨みながら叫んできた。
「私はあの人の妻です。いくら元公爵令嬢だからって、貴方のこそが醜いメギツネ・・・・・・」
リアンナは急に目を見開き黙り込んだ。
「おかあさぁま?どうしたの?」
寝ていたはずのローザリンが起きてきた。
目の前のずぶ濡れの醜い女はローザリンの水色の髪を見て呆然としている。
「なんでもないわ。可愛いローザリン。中に入りましょう。」
「でも、あの人は?」
「いいのよ。醜いドブネズミは雨に濡れるのが好きなの。いなくなればいいのに。パパだって迷惑しているわ」
「ローザリンのパパ。同じ水色!」
「そうよ。ローザリンの事が大好きな水色の髪のパパの事よ。」
ローザリンを家の中に誘導しながら、ルクラシアは後ろを見た。
そこには、土砂降りの雨に濡れながら絶望した顔で震える泥だらけの女が座り込んでいた。
(ただの子爵令嬢なのに、私の男を盗るなんて、本当忌々しい女。)
ルクラシアは頑丈なドアを閉めて、笑った。
「ふふふ。いい気味」
(リアンナのあの顔ったら!本当に不細工だったわ。)
「おかあさま?ミライザ正解した?水色はパパでしょ。おとうさまは金色でしょ。おとうさんは?なんだっけ」
「ええ。ミライザはとっても賢いわ。また覚えましょうね。大事な事だから」
あの大雨の日から暫くして、マージャス侯爵夫人が体調を崩し伏せっているとの噂を聞いた。リアンナはあの大雨の日暫く、ルクラシアの屋敷の前で呆然としていた。肺炎にでもなったのかもしれない。
そう、リアンナさえいなければ、ルクラシアとギーザックの結婚を反対する者はいない。ギーザックは、ローザリンを実娘だと信じ込んでいる。ルクラシアは、会う度にギーザックに、妻の不貞を吹き込み続けた。マージャス夫婦の仲は、殆ど壊れているようだった。
沢山の男性と付き合ってきたが、そろそろ結婚してもいいかもしれない。結婚するならギーザックとしか考えられなかった。
アシリー公爵は、婚約者を取られた現王妃への憂さ晴らしで付き合いだした。蛇のような瞳をしているアシリー公爵は何を考えているか分からない事がある。
帝国宰相となった彼とは年に数回会っている。綺麗で若い娘が好きな宰相のタイプから徐々に自分自身が外れていっている事に気がついていた。
沢山いた恋人達も減ってしまった。
ギーザックだけだ。ずっとルクラシアを心から愛してくれるのは。
だから・・・・・・あの女さえいなければ。
ルクラシアは、支援者から貰った金を使ってマージャス侯爵家に使用人を潜り込ませた。すでにリアンナ夫人は寝たきりに近い状態になっていた。使用人に命じて、リアンナ夫人のお茶だけに毒を入れさせた。
アーリン港の別荘へ静養へ行っていたリアンナは暫くして息を引き取った。
誤算だったのは、ギーザックが妻の死と共に酷く落ち込んでしまった事だ。
やっとルクラシアと一緒になれるのに、なかなかプロポーズをしてこない。
だけど、この時もまた娘が役に立った。
「パパ。ローザリンはパパのお家に行きたい」
酷く落ち込んでいるギーザックは、それでもローザリンが可愛いらしい。娘のおねだりをすぐに了承した。
ルクラシアは、兄のアーガス公爵とは、疎遠になっていたが、マージャス侯爵家の娘をルクラシアが育てていると伝えると、ギーザックとルクラシアの結婚を纏め上げてくれた。
ルクラシアはマージャス侯爵夫人となった。愛し合っている夫と、美しい娘。ルクラシアの理想の家族がやっと手に入った。
前妻の娘ミライザは、母親に似た艶がある黒髪と美しい顔立ちをしていたが、ルクラシアはミライザを見る度に、最後に会った時の泥だらけのリアンナを思い出し、「醜い娘だ」と声をかけた。その内、ミライザは俯き、眼鏡と前髪で顔を隠すようになった。
マージャス侯爵家は、もうルクラシアの物だ。社交界もルクラシアを受け入れている。
ただ、ルクラシアを愛しているはずの夫だけが変わってしまった。
ギーザックはリアンナが死んでから変わってしまった。熱くルクラシアを見つめてきた瞳は光を失い、ルクラシアと目を合わせようとしない。
それでも、そばにいれば元のギーザックに戻ると思っていた。もう結婚したのだ。これからはずっと一緒にいられる。
ギーザックは、家を空ける事が増えた。仕事だからとマージャス侯爵家に寄り付かず、アーリン港の会社にばかり入り浸っている様子だった。
新しい女の影はない。
だけど、なぜかギーザックは帰ってこない。
リアンナさえいなくなればいい。
そう思っていたのに。
寂しさから、ルクラシアは、また沢山の男達と付き合うようになった。
義娘ミライザが留学してからは、マージャス侯爵家にも彼氏を招き入れる事があった。
時折会うギーザックは、娘のローザリンを可愛がっているが、どうしても嫡女に指名しようとしない。
年頃になったローザリンの縁談を纏めようとしたが、上手くいかなかった。ローザリンは美しい。水色の髪は光り輝き、人形のような面立ちの顔はルクラシアに似てかなりの美少女だと思う。
縁談がまとまらない事を不思議に思い、ルクラシアは夫へ相談した。
ギーザックは、ルクラシアを見て呆れたように言った。
「誰も庶子の侯爵令嬢を正妻に迎え入れようと思わないだろ。」
「ローザリンは貴方の娘でしょう。何故そのような」
「娘か。確かにローザリンは可愛い。私の本当の娘であったらと思う。だけど、ローザリンが産まれた時、君は結婚していなかった。王国戸籍には庶子と記載されている。君はそんな事も知らないのか?法学で必ず習うはずだ」
ルクラシアは顔を赤らめた。習ったかもしれない。だけど覚えていない。あの頃は勉強するより、簡単に結果を残せる手段に夢中になっていた。
「それに、君はローザリンに殆ど教育を施していないみたいじゃないか。」
「私は、嫌だったの。無理な教育はローザリンの為にならないわ」
「王太子妃教育を受けていたはずの君が言うから、そうなのだろう。ローザリンの事は君と、君の友達に任せるよ。」
「友達?」
「君が仲良くしている人たちだよ。私だって社交界へ参加する。皆が噂している。アシリー公爵には娘がいると」
「何を言っているの?貴方」
「もういいんだ。ルクラシア。私は君を愛していた。誰よりも君に夢中だった。バチが当たったのだろう。気がつけば、妻も娘もいなくなっていた。後悔しているよ。君に出逢った事を」
「やめて、聞きたくないわ。私は貴方の妻よ。お願い。私を見て!昔のように、私だけを」
ルクラシアはギーザックに縋りついた。ギーザックは、ルクラシアの遥か後ろを見ていた。壁にひっそりと立て掛けられている前妻のリアンナの肖像画を。
病気がちになったギーザックは、前妻を懐かしみルクラシアに後悔だけを伝えてくるようになった。ギーザックは、前妻の娘を必死に呼び戻そうとしている。
何年もギーザックの愛を取り戻そうとしたが、無駄だった。ルクラシアはギーザックと別れアシリー公爵と再婚する事に決めた。
アシリー公爵は、娘のローザリンに執着している。どうしても娘が欲しいと言っている。ローザリンも侯爵家の庶子ではなく、王国で最も裕福なアシリー公爵の庶子であれば結婚相手が見つかるかもしれない。アシリー公爵は、ルクラシアに結婚してからの金銭支援と、交友関係の自由を約束してくれた。
ルクラシアを見てくれない男なんて、もうどうでもいい。
私は捨てられたのではない。
私が捨てるのだ。
だけど、マージャス侯爵家を離れる前に、目障りなあの娘を、根暗で不細工なミライザをなんとかしなければ。
「ねえ、リアンナ。私の娘が手に入れられない物を、貴方の娘が手に入れるなんて可笑しいでしょ。貴方も貴方の娘も泥だらけの姿がお似合いよ」
ルクラシアの思惑通り、前妻の娘は帝国学院から追放された。船上パーティで自ら海に身を投げたらしい。
きっと今頃ミライザは、あの時のリアンナと同じように、海の底の泥に埋もれているだろう。
ルクラシアは、リアンナ前侯爵夫人の肖像画に、侯爵庭の泥を思いっきりなすりつけた。
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