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第30話 生家

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ミライザは、マージャス侯爵家にたどり着いた。

義母のルクラシアは、華やかな女性で、社交界へ積極的に参加していた。

妹ローザリンや自分のドレスや装飾品にはかなりの金額を費やしてきたが、マージャス侯爵家の家業や家の管理は疎かになりがちだった気がする。

マージャス侯爵家は寂れていた。

海に落ちる前、滞在した時も屋敷の庭は荒れ果てて、使用人が少なくなったと感じていた。それでも屋敷は煌々と明かりがつき、若い使用人達が義母や義妹の周りを取り囲んでいたはずだった。

馬車から降り、侯爵邸の大きな正面玄関のドアまでミライザは歩いて行く。

大きな屋敷は、静まり返っている。

門番や庭師、使用人がいる様子がない。

ミライザは訝しく思いながら、マージャス侯爵邸の中へ入って行った。
















屋敷の中は、嵐が通り過ぎたように荒らされていた。

正面玄関の壁に装飾されていた金細工が彫り取られ、絨毯は引き裂かれている。

(どうゆう事なの?)

ミライザは、父のいる寝室へ急いで向かった。

両手でドレスを持ち上げて、階段を登り、奥へ進んで行く。

廊下から見える部屋はどれも強盗が入ったかのように散乱している。

少しでも価値がありそうなものは根こそぎ持ち去られているようだ。

父の部屋は、2階の最奥に構えられていた。

この部屋の先で、父が死んでいたら?

ミライザは、息を整え恐る恐る寝室のドアを開いた。









ドアを開くと、どんよりと籠った空気に包み込まれた。

甘酸っぱい不思議な香りが部屋から漂ってくる。

その香りで、ミライザは母が亡くなる前の事を思い出した。

薄暗い室内には、白髪の女性がベッドの側に座っていた。

その女性は、ミライザを見て驚いた表情をして言った。

「お嬢様!よくぞ、お戻りに!お待ちしておりました。皆いなくなってしまって、私しか残っておりません。」

彼女は侍女長のマーヤ夫人だった。

「お父様は?」

マーヤ夫人は、皺だらけの顔を歪め、涙目で俯き、ベッドから離れて行った。

ミライザは、父のベッドに近づく。

そこには、青白い顔のやせ細った父が横たわっていた。




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