上 下
25 / 41

第25話 隠宿

しおりを挟む
馬車は、帝国大学から離れ、皇都の南部へ向かった。整然と並ぶ石畳を進んでいき、海岸沿いを走り抜ける。

波の音がかすかに聞こえてくる。

壮大な白いアーチ状の門を潜り抜け、暫く走ってから馬車は止まった。

着いた場所は、ミライザが目を覚ました高級宿だった。月明かりを浴びて白く輝く建物は、自ら光を放っているかのようだった。広い庭園の向こうには屋外プールも併設されている。透き通るロビーは、高級ガラスが、随所に使われており、まるで海の中にいるような不思議な空間に整えられていた。

「ミライザ。行こう」

グランは、心なしか嬉しそうに微笑みながらミライザの手を引く。

ミライザは、促されるままグランについて行った。

グランと共にガラス板で出来た中央階段を登っていく。

ミライザのブルーシルバーのドレスは、ガラス光の乱反射を受けてより輝きを増し、キラキラと輝く。

グランの部屋にたどり着いた。一際大きなドアを開き、中に入る。光沢のある樫の一枚板のテーブル、本革のソファが置かれている。部屋の奥の真っ白なシーツを敷かれたキングサイズのベットが一際主張しているように見えた。

「ミライザ、好きだ。」

グランは、部屋に入ると共にミライザを強く抱きしめてきた。

ミライザは、咄嗟にグランの胸に腕をつけて押し除けようとする。

「グラン?銀糸ドレスが皺になるわ」

「ああ、約束したね。すぐに脱がせてあげるよ」

グランは、左腕でミライザを引き寄せながら、右手でミライザの背中に手を伸ばし、後ろのファスナーを下ろそうとしてきた。

「ねぇ、グラン。貴方にそこまでして貰わなくてもいいわ。私自分で着替えれるから」

グランからミライザは離れようとした時、グランはミライザを抱き上げた。

「え?」

「ミライザ。もう焦らすのはやめてくれ。どうにかなりそうだ。」

そのまま、グランは力強く歩き、ベッドまでミライザを運んで、押し倒してきた。

「ミライザ。僕の人魚姫。愛している」

グランはキラキラと輝いている。短い金髪は透き通り、張りがある肌、高い鼻筋、こんなに美しい男性と一緒に過ごし、愛を囁かれているだなんて信じられない。

海に落ちる前のミライザには、想像すらできない1日だった。

(早く、ドレスを脱がないといけない。とても貴重なドレスを、でも、今は)

もっと目の前の男性を見つめていたい。輝く月のように美しく逞しい男性を。

ミライザは、本当はあの時に死んで産まれ変わったのかもしれない。ならば、ここにいる私は本当のミライザ・マージャスなのだろうか。もうマージャス家にも、帝国学院にもミライザの籍はない。誰もミライザを咎めないし、気を使う相手もいない。髪根暗で不細工な才女はもういない。

「ミライザ、いいだろう?」

グランは、ベッドに横たわるミライザの頭の隣に肘をつけて、懇願しながら顔を近づいてくる。

(グランの事が気になって仕方がない。もどかしい。何かが足りない。明日には別れるから、だから、今だけは、この気持ちを確かめてもいいわよね)

ミライザは、グランを見つめながら頷いた。















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

処理中です...