【完結】人魚の涙

仲 奈華 (nakanaka)

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第24話 月明

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ミライザは、グランと共に皇族専用出入り口から出て馬車に乗り込んだ。

結局パーティには殆ど参加していない。ミライザは何故自分が汚名を着せられたのか知りたかった。マージャス侯爵家が依頼人だと話していた研究メンバーの声が脳裏で木霊する。

そこまで、父に疎まれていたとは思いたく無い。

だけど、あの時ミライザを、帝国学院からマージャス侯爵家に呼び戻したのは父だった。ミライザが帝国学院を離れていなければ、情報漏洩の疑惑について、すぐに否定し、除名勧告は間逃れたはずだった。

父に懇願され、マージャス侯爵家に帰っていただけなのに、こんな事になるだなんて。それに父は、ミライザの了承を得ずに婚約を纏めていた。婚約をミライザが破棄した時は、かなりイライラしていた様子だった。


父に、愛されていない事は知っている。


認められていない事にも気がついている。


それでも、ミライザは必要とされていると思いたかった。


たった一人の父親だから。




馬車の窓からは、黄金に輝く月が見える。

馬車を追いかけるように、月は輝きながらついてくる。

どんな時でも、共に歩ける月のような信頼できる人が欲しい。ふとミライザはそう思った。

「ミライザ?どうしたの?」

窓の外を見ながら物思いに耽るミライザを気遣うようにグランが声をかけてきた。

ミライザは、隣に座る美しい男性を見る。グランの金髪は、僅かな月明かりに照らされて儚く輝き、長いまつ毛に彩られた瞳は憂いを帯びている。

まるで月のように輝きを放つ隣の男性は、ミライザと正反対の存在のように感じる。

ミライザの濃紺の長い髪は、闇に溶けどんどん沈み込み、自分では這い上がれない。
彼の隣にいれば、ミライザでも輝けるかもしれない。憧れと羨望をグランに感じた。

「なんでもないわ。月が綺麗だと思って見ていたの。まるで貴方みたいに輝いているわ」

「僕は、月のない闇夜が好きだ。闇は落ち着き安心できる。ミライザのように優しくて美しい」

「ふふふ。私、優しくて美しいだなんて初めて言われたわ」

「僕は、ミライザとずっと一緒にいたいと思っている。」

(私もそう思う。この人と一緒にいたい。)

馬車の中の二人っきりの空間では、グランが皇子である事、ミライザが実家から貶められた事、妹や仲間との確執も全て忘れそうになる。

「悲しそうな顔をしているね。僕が君を助けられたらいいのだけど」

「ありがとう。グラン」

ミライザの事情に帝国皇子を巻き込むわけにはいかない。ドレスを返したらグランとは別れよう。ミライザは、胸の痛みを感じながらそう決めた。







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