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第14話 嘘言

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ミライザが北東の出入り口に辿り着いた時、通路の奥を曲がるマイクの後ろ姿が見えた。

ミライザは、煌びやかな会場を出て、通路へ足を進めた。

会場は明るく照らされ談笑する声に包まれていたが、通路に入った瞬間急に静かになった。

パーティ会場と共に複数の休憩室が設置されている。休憩室が利用できるのは一部の貴族達だけで、毎年ただの研究員達に別室を使用する者はいなかったはずだった。

少し訝しく思いながらミライザはマイクの後を追いかけた。

マイクが入って行ったのは、北奥の寂れた場所にある部屋だった。

人通りがない通路を進み、ミライザもその休憩室へ近づいた。









休憩室の中から数人の話し声が聞こえてきた。

ミライザは思わず立ち止まった。

研究メンバーは、ミライザを含めて5人だった。副リーダーのギーガン、ローザ、マイク、キリアンが研究に参加していた。

ギーガンの声がする。
「それにしても、こんな場所まで提供してくれるなんて、ローザの依頼主は気前がいいな。」

ローザが返事をした。
「そうでしょ。リーダーに悪いけど、本当に助かったわ。少し証言するだけで、お金も貰えて、いい思いもできたし。まあ、元リーダーだけどね。ふふふ。」

キリアンが言った。
「だが、発表会では、失敗したな。教授の質問に答えられなかったじゃ無いか。」

マイクが同調する。
「そうだよ。僕は自信がない。もうリーダーはいない。不明な点を確認することも出来なくなった。まさか船から落ちて亡くなるなんて・・・・・・」

ギーガンが言う。
「まあ、確かにあの女は優秀だったよ。ここまで、研究を進められたのはあの女のお陰だ。だが、もう根暗な才女は必要ない。今は俺がリーダーだ。ずっと一緒にやってきた。あの女一人いなくても問題ない」

ローザが言った。
「でも困ったわね。依頼主も、あの人の荷物なんて知らないって言っているの。どこかに、まだ情報が残っているはずなのに。研究室に残された資料だけだと、どうしても足りないわ。」

キリアンが言う。
「依頼主ってマージャス侯爵家だろ。根暗な才女の除籍と共に、学院から全ての荷物が送られたはずだろう。」

「それが全て処分したのですって。中身を確かめてすらいないみたい。何一つ残っていないそうよ。」

「根暗な才女は、よっぽどマージャス侯爵家に疎まれていたみたいだな。そりゃ長期休暇も取らずに研究ばかりするはずだな。」





ミライザは、ドアの前で震えていた。

ミライザを貶めたのはマージャス侯爵家だった。

両手と両足が冷たく感じる。

まさか父が?意のままにならないミライザの事を疎ましく思って、帝国での立場を失わせたのか?

マージャス侯爵家には義妹のローザリンがいる。美して水色の髪をしたあの子がいる。

どうして・・・・・・







ミライザが震えていると、目の前のドアが開かれた。


ガチャ。


「どなたでしょうか?」


開かれたドアの向こうには、懐かしい研究メンバーが思い思いに座っている。

「ご令嬢?」

ドアを開けたのは新たにリーダーになったギーガンだった。
ギーガンは、ミライザを見て不思議そうに声をかけてくる。


ミライザは、怒りの声を上げようとして思い留まる。
ミライザ・マージャスは死んだ事になっている。海へ落ちたらしい。誰も今ここにいる私をミライザ本人だと思っている者はいない。

ここはもう私の居場所ではない。

「ごめんなさい。迷ってしまったみたいだわ。」


ミライザは、会釈をして一人一人と顔を合わせた。


一番年配のギーガンはミライザを見て鼻の下を伸ばしている。ローザは、ミライザが身につける宝石に興味があるようだ。マイクは顔を赤らめ俯いた。キリアンは驚いた表情でミライザを見ていた。

ミライザは、一言発してその場を離れた。

「ごきげんよう」
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