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ワタシではありません!
ヌケダシタ!
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ソフィアは、その日ガイア公爵邸の屋敷を誰にも見つからないように抜け出した。茶髪の鬘を被り、眼鏡をつけた地味な侍女を誰もソフィアだと気づかないようだった。
ザックバード公爵と結婚して1ヵ月が過ぎていた。ソフィアは、ソニア王女としてザックバード公爵と結婚した。ソニア王女が戦争の報償として公爵家へ降嫁した形となった。ソフィアは、自分の事が王女だとやはり思えないのだが、結婚するなら絶対王女として結婚してくれと国王と王太子に強請られた。どうしてもザックバード公爵の結婚式に立ち会いたかったらしい王族に、ソフィアは呆れた。
確かに、夫のザックバード公爵は凄い美形だし、能力も高い。だけど、ソフィアと一緒にいる時は、何度止めてもソフィアを抱きしめて離そうとしないし、仕事に行く前はソフィアから離れたくないと駄々をこねてくる。外面がいいとは夫の事を言うのだろうとソフィアは思っていた。
結婚後は、ソフィアも時折外出するようになった。常に護衛騎士が付き従い、外出先は王都で一番の高級店ばかりだったが、王妃が亡くなったと知ってから、徐々に恐怖心は薄れていった。
ソフィアが本当に行きたいのは、懐かしい仲間がいるグレナ亭だ。だけど、ザックバードにはまだ、ソフィアがグレゴール侯爵家の使用人だった事を伝えていない。なんとなく、少し変った所があるザックバートに伝える事が不安だった。
だから、変装してガイア公爵邸を抜け出した。ザックバードとは先週から触れ合っていない。あの日だから休ませて欲しいと伝えたら、最近は抱きしめるだけに留めてくれている。
今日は男装しているから、ザックバードから送られた沢山の銀の装飾品も身に着けていない。ただお気に入りの銀のリボンだけは、鬘の下の髪を纏める為に使っていた。
懐かしいグレナ亭に着き、中に入る。
グレナ亭は準備中らしく、メアリーが店内を掃除していいた。
メアリーは言った。
「ソフィア。無事だったのね。あれから連絡がないだろ。心配していたんだよ。そうだ。今日はシーラもいる。仲が良かっただろ。」
ソフィアは、嬉しくなって、カツラと眼鏡を外した。
「ええ。うれしいわ。」
店の奥に案内されると、そこには、グレナ亭の亭主のガイク、使用人仲間のシーラ、駐屯騎士のロンが談笑していた。
ガイクが言った。
「ソフィアじゃないか。しばらく見ない間に綺麗になったな。」
赤毛のシーラは、ソフィアに抱き着いてきた。
「ソフィア。無事でよかったよ。どこにいたんだい?ソフィアの事だから上手くやっていると思っていたんだけど、皆心配していたよ。」
駐屯騎士のロンが言う。
「あの時は、騎士団長が茶髪の娘を探していただろ。なぜか2週間ほどで捜索が中止になったから、ソフィアはすぐに、ここに帰ってくると思っていたのだが。」
ソフィアは言った。
「私も帰ってきたかったのだけど、ちょっと忙しくて。」
シーラは言う。
「もう、ソフィアがいなくなってから侯爵家は大変だよ。お嬢様が学院の課題を代わりにさせる相手を必死に探していたけど、誰もそんな事できるはずないじゃないか。実は私が、今お嬢様の付き人をやっているんだよ。ソフィアはよくあんな難しい課題ができたね。本当尊敬するよ。」
マーガレットお嬢様は相変わらずのようだった。
ロンは言った。
「そういえば、1か月間に騎士団長が結婚しただろ。病弱な王女様だからお披露目はしていないが、金髪で緑色の美人だそうだ。ソフィアは元々金髪だったんだな。王女様の色はソフィアと同じみたいだな。実はソフィアが騎士団長の結婚相手なんてことは、、、、」
ソフィアに注目が集まる。
ソフィアはドキドキしながら言った。
「まさか。
私がずっとグレゴール侯爵邸で働いていたのはみんな知っているでしょ。
わたしではありません。」
シーラが笑って言った。
「そうよね。ソフィアが病弱な王女様なんてそんな事があるはずないわ。貴方ならどこに行っても生き残れるでしょ。侯爵邸の使用人達の中で一番我慢強いし、逞しかったじゃないの。」
ガイクも言った。
「ハハハ。そりゃそうだ。我が儘お嬢様の専属使用人を何年も務めるなんて並大抵の神経じゃない。」
ロンまで笑っている。
「クククク。ソフィアが王女様ね。」
最近は、「ソフィアは実は王女なんだ」とばかり周囲から言われてきた。でもいざ否定されると少しムカつくのは何故だろうか。
ソフィアは言う。
「あのね、、、。もういいわ。実は報告があって今日は来たの。実はあの後、私結婚をしたの。それで、やっと落ち着いたから、また時々皆と会いたくて、、、また時々会いに来てもいいかな?」
皆は驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になり口々に祝福してくれた。
その日は、お祝いだと言って、ソフィアはご馳走になった。
野鴨の丸焼き、山菜の和え物、キクラゲのスープ、白小麦のパン、地卵の濃厚プリン。
最近の出来事を聞きながら、美味しく料理を食べる。
(ああ、ほっとするわ。よかった。帰って来れて。)
満足したソフィアは、グレア亭を後にした。
ソフィアが、グレア亭のドアから出て行った10秒後に再びドアが開いた。
メアリーは、ソフィアが帰ってきたと思い声をかけた。
「お帰り。ソフィア。忘れ物かい?」
開いたドアの向こうに立っていたのは、冷たい表情で睨んでくるザックバード・ガイア公爵だった。185㎝の引き締まった体躯、銀髪の煌めく髪、茜色の瞳。王都の誰もが英雄であるザックバード公爵の事を知っている。
メアリーは驚き、持っていたモップを思わず落とした。
ガシャーーーーン。
モップは大きな音を立てて、床に倒れた。
ザックバード公爵と結婚して1ヵ月が過ぎていた。ソフィアは、ソニア王女としてザックバード公爵と結婚した。ソニア王女が戦争の報償として公爵家へ降嫁した形となった。ソフィアは、自分の事が王女だとやはり思えないのだが、結婚するなら絶対王女として結婚してくれと国王と王太子に強請られた。どうしてもザックバード公爵の結婚式に立ち会いたかったらしい王族に、ソフィアは呆れた。
確かに、夫のザックバード公爵は凄い美形だし、能力も高い。だけど、ソフィアと一緒にいる時は、何度止めてもソフィアを抱きしめて離そうとしないし、仕事に行く前はソフィアから離れたくないと駄々をこねてくる。外面がいいとは夫の事を言うのだろうとソフィアは思っていた。
結婚後は、ソフィアも時折外出するようになった。常に護衛騎士が付き従い、外出先は王都で一番の高級店ばかりだったが、王妃が亡くなったと知ってから、徐々に恐怖心は薄れていった。
ソフィアが本当に行きたいのは、懐かしい仲間がいるグレナ亭だ。だけど、ザックバードにはまだ、ソフィアがグレゴール侯爵家の使用人だった事を伝えていない。なんとなく、少し変った所があるザックバートに伝える事が不安だった。
だから、変装してガイア公爵邸を抜け出した。ザックバードとは先週から触れ合っていない。あの日だから休ませて欲しいと伝えたら、最近は抱きしめるだけに留めてくれている。
今日は男装しているから、ザックバードから送られた沢山の銀の装飾品も身に着けていない。ただお気に入りの銀のリボンだけは、鬘の下の髪を纏める為に使っていた。
懐かしいグレナ亭に着き、中に入る。
グレナ亭は準備中らしく、メアリーが店内を掃除していいた。
メアリーは言った。
「ソフィア。無事だったのね。あれから連絡がないだろ。心配していたんだよ。そうだ。今日はシーラもいる。仲が良かっただろ。」
ソフィアは、嬉しくなって、カツラと眼鏡を外した。
「ええ。うれしいわ。」
店の奥に案内されると、そこには、グレナ亭の亭主のガイク、使用人仲間のシーラ、駐屯騎士のロンが談笑していた。
ガイクが言った。
「ソフィアじゃないか。しばらく見ない間に綺麗になったな。」
赤毛のシーラは、ソフィアに抱き着いてきた。
「ソフィア。無事でよかったよ。どこにいたんだい?ソフィアの事だから上手くやっていると思っていたんだけど、皆心配していたよ。」
駐屯騎士のロンが言う。
「あの時は、騎士団長が茶髪の娘を探していただろ。なぜか2週間ほどで捜索が中止になったから、ソフィアはすぐに、ここに帰ってくると思っていたのだが。」
ソフィアは言った。
「私も帰ってきたかったのだけど、ちょっと忙しくて。」
シーラは言う。
「もう、ソフィアがいなくなってから侯爵家は大変だよ。お嬢様が学院の課題を代わりにさせる相手を必死に探していたけど、誰もそんな事できるはずないじゃないか。実は私が、今お嬢様の付き人をやっているんだよ。ソフィアはよくあんな難しい課題ができたね。本当尊敬するよ。」
マーガレットお嬢様は相変わらずのようだった。
ロンは言った。
「そういえば、1か月間に騎士団長が結婚しただろ。病弱な王女様だからお披露目はしていないが、金髪で緑色の美人だそうだ。ソフィアは元々金髪だったんだな。王女様の色はソフィアと同じみたいだな。実はソフィアが騎士団長の結婚相手なんてことは、、、、」
ソフィアに注目が集まる。
ソフィアはドキドキしながら言った。
「まさか。
私がずっとグレゴール侯爵邸で働いていたのはみんな知っているでしょ。
わたしではありません。」
シーラが笑って言った。
「そうよね。ソフィアが病弱な王女様なんてそんな事があるはずないわ。貴方ならどこに行っても生き残れるでしょ。侯爵邸の使用人達の中で一番我慢強いし、逞しかったじゃないの。」
ガイクも言った。
「ハハハ。そりゃそうだ。我が儘お嬢様の専属使用人を何年も務めるなんて並大抵の神経じゃない。」
ロンまで笑っている。
「クククク。ソフィアが王女様ね。」
最近は、「ソフィアは実は王女なんだ」とばかり周囲から言われてきた。でもいざ否定されると少しムカつくのは何故だろうか。
ソフィアは言う。
「あのね、、、。もういいわ。実は報告があって今日は来たの。実はあの後、私結婚をしたの。それで、やっと落ち着いたから、また時々皆と会いたくて、、、また時々会いに来てもいいかな?」
皆は驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になり口々に祝福してくれた。
その日は、お祝いだと言って、ソフィアはご馳走になった。
野鴨の丸焼き、山菜の和え物、キクラゲのスープ、白小麦のパン、地卵の濃厚プリン。
最近の出来事を聞きながら、美味しく料理を食べる。
(ああ、ほっとするわ。よかった。帰って来れて。)
満足したソフィアは、グレア亭を後にした。
ソフィアが、グレア亭のドアから出て行った10秒後に再びドアが開いた。
メアリーは、ソフィアが帰ってきたと思い声をかけた。
「お帰り。ソフィア。忘れ物かい?」
開いたドアの向こうに立っていたのは、冷たい表情で睨んでくるザックバード・ガイア公爵だった。185㎝の引き締まった体躯、銀髪の煌めく髪、茜色の瞳。王都の誰もが英雄であるザックバード公爵の事を知っている。
メアリーは驚き、持っていたモップを思わず落とした。
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