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25.キーベルデルク神国

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メイナは、キーベルデルク神国へ向かった。両親について放浪していたメイナだが、キーベルデルク神国へは初めて訪れる。メイナが物心つく時には、キーベルデルク神国は神の加護を失った事は有名だった。神の加護を失った国へ敢えて訪れようとするものはいない。周辺国へはキーベルデルク神国からの難民で溢れていた。

ヘル闇国はキーベルデルク神国の北に位置する。キーベルデルク神国は水神の加護を持つ大陸南部の大国だ。領土はランドルフ帝国について広く、昔は水神の加護の恩恵を受けてとても豊かな国だったらしい。

メイナは馬に乗り、3日かけてキーベルデルク神国へ辿り着いた。

街道を進んでいくと、どんどん緑が減ってくる。木々は枯れ、赤茶色の大地は何年も雨が降っていないようだ。広大な川があった跡を思わせる渓谷は、深く広いが、わずかな水溜まりしか残っていない。

メイナは想像以上の風景に驚いた。神の加護を失うと、ここまで影響が受けるのか。

馬をかけて、キーベルデルク神国の首都へ向かった。

首都へ向かうにつれて、緑が増えてくる。首都近郊にはまだ国民が残っているようだ。気になるのは、首都とを目指して走る巨大な水道管だ。地面を這うように進んでいる焦げ茶色の水道管は、首都から水を配っているかと思ったが、どうやら逆のようだった。地方に残ったわずかな水も首都へ運んでいるらしい。

(父さんと母さんがキーベルデルク神国へ行きたがらないはずよね。強欲な仮王が収める国か。)

キーベルデルク神国の仮王はマイサー・キーベルデルクと聞いている。前王マロイ・キーベルデルクの死去後王位についたが、水神の加護が無く仮王となっていたはずだ。

メイナは、首都の城壁を囲む水路を跨ぐ大きな橋を馬を渡っていった。

城壁を超えると、そこには沢山の人々がいた。地方の荒廃を感じさせない煌びやかさだ。

沢山の屋台が立ち並び、色とりどりの衣装を着た人たちが歩き回っている。王都の至る所に水路が通り、水が流れていた。メイナは一息つくために、宿屋を探した。

王都の北端で見つけた宿屋は、どこか寂れていた。
看板にはヒビが入り、塗装も剥げている。
「すみません。宿泊できますか。」

中に入り、声をかける。
「珍しいね。あんた。お客さんだよ。」
出てきたのは、恰幅のいい女性だった。奥に向かって声をかけている。

メイナは伝えた。
「しばらく滞在したいです。幾らですか?」

女性は答えた。
「ああ、うちは大歓迎だよ。1泊20000だ。どうする?」

メイナは驚いた。他国の5倍近い金額だ。そのメイナの表情を見て女性は申し訳なさそうに言った。
「ここらは、物価が高くてね。これ以上は値段を下げれない。他の宿はうちの2倍近い金額をとる場所もある。どうする?」

メイナは言った。
「そうですか。泊まります。」

女性は言った。
「ああ、いらっしゃい。早速部屋へ案内するよ。」











メイナは荷物を宿屋へ置き、町へ向かった。
黒く長い髪をフードに隠して、男性の服を着る。小柄な男性に見えるように変装して、酒場に入った。
酒場には、10数人の人間がいた。一人客のメイナはカウンターの端に座る。

バーテンダーが話しかけてきた。
「あんた。はじめてかい?」

メイナは言った。
「ああ、そうなんだ。人を探していてね。ヘル闇国から来たんだが、ヘル闇国の人間を知らないかい?」

2つ隣の席で座っていた大男が、メイナの言葉を聞いて言ってきた。
「おい、お前。もしかしてブランの知り合いか?」

メイナは驚き、大男を見る。
「ああ、ブランは兄だ。探している。」

藍色の短髪で、厳つい顔立ちの大男は、メイナに言う。
「ちょっと、奥へ来てくれ。話をしよう。」

メイナは酒場の奥の個室に案内された。大男は、個室の奥の椅子にドカリと座りメイナをみた。
「俺の名は、ジークだ。よく国外へ仕事に行って、ブランとは何度か一緒に仕事をした事がある。ブランには約1か月前に会った。俺は止めたんだが、大きなの仕事を受けたと言って、王城へ行ってから帰って来ない。あんたも暗殺者か?」

メイナは驚いた。
「ああ、そうだ。兄は王城へ行ったのか?」

ジークは言う。
「王城の仕事はきな臭い。何人も音信不通になっている。ブランは、自信家だったからな。何があっても逃げれると思っていたんだろう。能力が高い奴程、帰って来ない。」

メイナは尋ねた。
「ジークはキーベルデルク神国の人間か?だれがマロイ・キーベルデルク前国王を殺したか知っているか?」

ジークは訝し気に言う。
「それは、マイサー国王に決まっている。マロイ王が死ぬ前に、ヘル闇国から沢山の暗殺者を呼び寄せていた。あの時は、王妃も貴族もマイサーの味方だった。なんでも、マロイ王が国費を大量に使い込んだとか言っていた。国民のほとんども騙されていた。今では 皆後悔しているだろうよ。マロイ王が死んで水神の加護が失われてからこの有様だ。」

メイナは確信を持った。やっぱりマイサー国王が怪しい。だが、どうして依頼者はマイサー国王ではなく、残虐王を指名したのか?

メイナは疑問を声に出した。
「マイサー国王は、水神の加護を引き継いでいないだろ?」

ジークは言った。
「ああ、マイサー国王も、マロイ王の嫡男のロビア・キーベルデルク王子も水神の加護がない。神の加護はマイサー国王を殺した者に引き継ぐはずだし、マイサー国王が自然死なら、最も近い血族に引き継ぐはずだ。だから、マロイ国王の呪いだと言われている。」

メイナは言った。
「呪い?」

ジークが言う。
「ああ、呪いだ。マロイ国王は、魔道具に精通していた。古代文字にも詳しかったらしい。王子の時は他国まで、魔道具について学びに行っていた。弟や王妃、貴族達に裏切られたマロイ国王がキーベルデルク神国を呪ったと言っている。」

おかしい。依頼主が言っていたのは、殺されただ。

メイナは言った。
「実は、俺も依頼されたんだ。マロイ・キーベルデルク前王を殺した相手を暗殺しろと。残虐王を指定してきた。だが、残虐王は殺してないらしい。」

ジークは言う。
「それは、そうだ。マロイ王が死んだ時は残虐王はここにはいなかいった。もしアンタが、マイサー国王を殺すつもりがあるなら、協力しよう。俺たちも、仮王にはうんざりしているんだ。」

メイナは言う。
「いいのか?仮とは言え自分達の王だろ。」

ジークは言う。
「マイサーは、王ではない。水を独り占めして、国民には高額な代金を請求する。王妃のクローディアとロビア王子、一部の貴族で王城で贅沢しているらしい。あんな王ならいない方がマシだ。かなりの人間が不満に思っている。国の中枢の人間でさえな。」

ジークがメイナに見せてきたのは、水色の身分証明書だった。銀色で縁どられたそれには、ジークの顔写真とジーグランドと言う名前。キーベルベルク神国軍長と書かれていた。

メイナは驚いてジークを見る。
「もう、うんざりなんだ。協力してくれ。ブランの兄弟ならかなり優秀なんだろ。」

メイナは笑った。
「ああ、いいだろう。こっちも依頼を片付けれそうで助かるよ。」

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