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17.お茶会
しおりを挟む後宮の自室に帰ったメイナはノンネに聞いた。
「正妃候補って?ノンネは何か知っている?」
ノンネは困ったようにメイナへ伝える。
「エーリヒ様には正妃はおろか側室の一人もおられません。今回寵姫として迎えられたメイナ様が最もエーリヒ様の正妃に近い方です。」
「ノンネ。私が来る以前はどうだったの?」
「それは、、、確かにメルーシア様とアンネ様がエーリヒ様の正妃候補として扱われていました。強い複数の加護を持つエーリヒ様に触れれるのは、神の加護を持つものだけです。
メルーシア様は炎神の加護を持ち、アンネ様は聖神の加護を持っています。お二人がエーリヒ様の後宮に滞在する事が決まった時に、他の国も対抗するように王子を差し出してきました。
ですが、メルーシア様もアンネ様も以前はエーリヒ様の手を握るのが精一杯で、すぐに気分が悪いと離れられていたはずです。
エーリヒ様はメイナ様一筋ですわ。」
最後は力強くノンネはメイナに告げてきた。
(私は別に正妃になりたいわけじゃないから、どっちが正妃でもいいんだけど、、、あの聖女が言っていた事が気になるな。)
メイナは、アンネ・メイスの真剣な表情を思い出していた。
メイナは、毎週末エーリヒの寝所に呼ばれた。一度呼ばれるとエーリヒはメイナをなかなか離してくれない。2~3日共にいて、最後は気を失うようにメイナは寝てしまいノンネが迎えに来て気がつく事が多かった。
後宮の末端の部屋を用意された理由はエーリヒの部屋に通いやすいようにとの理由らしい。
エーリヒは忙しそうで、寝所に呼ばれる時以外はエーリヒと会う事が無かった。
珍しく、メルーシア・クロエラから呼び出された。炎神の加護を持つ彼女に会うのは、あの顔合わせの日以来だった。
今回は、あの時とは逆で、後宮とは反対側の広大な中庭を一望できるテラスに呼び出された。
早速、メルーシアが指定した場所に行くと、そこには一台の机と、その前に佇むメルーシアがいた。
(前回は沢山の侍女を連れていたはず。今回は一人だけなのね。)
「メルーシア様、お誘いいただきありがとうございます。」
丁寧に挨拶をメイナがすると、メルーシアはそれを遮るように言ってきた。
「挨拶はいいから、こちらへ来て頂戴。」
お茶会に呼ばれたはずだが、テーブルには、お茶もお菓子も無い。ただ透き通った30cm程の長径の円盤が置かれていた。
「私には炎神の加護があるの。私の魔力とこの円盤があれば、かなり離れた場所でも鮮明に見る事ができるわ。
今日は見せたい物があってお呼びしたのよ。」
そう言うと、メルーシアは、炎の魔術を円盤に向けて放ち、円盤が揺らめいた。
揺らめきが収まると、そこにはエーリヒが映し出される。
「エーリヒ様?」
「ええ、そうよ。よく見て。」
エーリヒは細く白い手を握っていた。その手の相手はピンク色の髪を持つ聖女アンネだった。
アンネはエーリヒを見て何か話し嬉しそうに微笑んでいる。
エーリヒはアンネの手をしっかりと握り、愛おしそうな表情をしてアンナに返答していた。
声は聞こえないが、エーリヒの表情にメイナは衝撃を受ける。
(うそ!なんで、、、、)
思わず円盤に映ったエーリヒに手を伸ばす。その瞬間再び円盤は揺らめき、ただの銀色の円盤に戻った。
円盤の遥か向こうの中庭に銀髪とピンクの髪が重なり合ったように見える。思わず目を凝らすが、その銀とピンクの輝きはすぐに緑の樹木の中に消えて見えなくなった。
メルーシアが話しかけてくる。
「あの戦争の後、私に神の加護を授ける為に、父は死んだわ。
私には、エーリヒ・ランベルトの子供を産み、神の加護を持つ者を育てる義務があるの。
たとえ、正妃になれなくても、ここに残るつもりよ。
でもメイナ。貴方は違うでしょう。神の加護を持たない貴方はエーリヒ様にいくら寵愛されても、子供を産めない。
今貴方も見たように、エーリヒ様とアンネは想いあっているわ。
貴方は、潔く身を引くべきではなくて?」
「身をひく?」
「ええ、ランベルト帝国から出て行くの。エーリヒ様から離れるのよ。」
「でも、それは、、、」
「メイナ。私は貴方が帝国から離れる決心をしたなら手伝う事ができるわ。これは貴方の為でもあるのよ。」
「・・・少し時間をください。」
メイナは今見た光景が忘れれそうになかった。
テラスから離れて自室へ帰る。
考え込んでいるメイナは曲がり角で、反対側から歩いて来ていた男性に思いっきり、ぶつかってしまった。
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