上 下
17 / 32

17.お茶会

しおりを挟む

後宮の自室に帰ったメイナはノンネに聞いた。


「正妃候補って?ノンネは何か知っている?」


ノンネは困ったようにメイナへ伝える。


「エーリヒ様には正妃はおろか側室の一人もおられません。今回寵姫として迎えられたメイナ様が最もエーリヒ様の正妃に近い方です。」

「ノンネ。私が来る以前はどうだったの?」

「それは、、、確かにメルーシア様とアンネ様がエーリヒ様の正妃候補として扱われていました。強い複数の加護を持つエーリヒ様に触れれるのは、神の加護を持つものだけです。
メルーシア様は炎神の加護を持ち、アンネ様は聖神の加護を持っています。お二人がエーリヒ様の後宮に滞在する事が決まった時に、他の国も対抗するように王子を差し出してきました。
ですが、メルーシア様もアンネ様も以前はエーリヒ様の手を握るのが精一杯で、すぐに気分が悪いと離れられていたはずです。
エーリヒ様はメイナ様一筋ですわ。」


最後は力強くノンネはメイナに告げてきた。

(私は別に正妃になりたいわけじゃないから、どっちが正妃でもいいんだけど、、、あの聖女が言っていた事が気になるな。)


メイナは、アンネ・メイスの真剣な表情を思い出していた。













メイナは、毎週末エーリヒの寝所に呼ばれた。一度呼ばれるとエーリヒはメイナをなかなか離してくれない。2~3日共にいて、最後は気を失うようにメイナは寝てしまいノンネが迎えに来て気がつく事が多かった。


後宮の末端の部屋を用意された理由はエーリヒの部屋に通いやすいようにとの理由らしい。

エーリヒは忙しそうで、寝所に呼ばれる時以外はエーリヒと会う事が無かった。









珍しく、メルーシア・クロエラから呼び出された。炎神の加護を持つ彼女に会うのは、あの顔合わせの日以来だった。


今回は、あの時とは逆で、後宮とは反対側の広大な中庭を一望できるテラスに呼び出された。


早速、メルーシアが指定した場所に行くと、そこには一台の机と、その前に佇むメルーシアがいた。


(前回は沢山の侍女を連れていたはず。今回は一人だけなのね。)

「メルーシア様、お誘いいただきありがとうございます。」

丁寧に挨拶をメイナがすると、メルーシアはそれを遮るように言ってきた。


「挨拶はいいから、こちらへ来て頂戴。」


お茶会に呼ばれたはずだが、テーブルには、お茶もお菓子も無い。ただ透き通った30cm程の長径の円盤が置かれていた。


「私には炎神の加護があるの。私の魔力とこの円盤があれば、かなり離れた場所でも鮮明に見る事ができるわ。
今日は見せたい物があってお呼びしたのよ。」


そう言うと、メルーシアは、炎の魔術を円盤に向けて放ち、円盤が揺らめいた。


揺らめきが収まると、そこにはエーリヒが映し出される。

「エーリヒ様?」

「ええ、そうよ。よく見て。」

エーリヒは細く白い手を握っていた。その手の相手はピンク色の髪を持つ聖女アンネだった。


アンネはエーリヒを見て何か話し嬉しそうに微笑んでいる。

エーリヒはアンネの手をしっかりと握り、愛おしそうな表情をしてアンナに返答していた。


声は聞こえないが、エーリヒの表情にメイナは衝撃を受ける。
(うそ!なんで、、、、)

思わず円盤に映ったエーリヒに手を伸ばす。その瞬間再び円盤は揺らめき、ただの銀色の円盤に戻った。


円盤の遥か向こうの中庭に銀髪とピンクの髪が重なり合ったように見える。思わず目を凝らすが、その銀とピンクの輝きはすぐに緑の樹木の中に消えて見えなくなった。



メルーシアが話しかけてくる。
「あの戦争の後、私に神の加護を授ける為に、父は死んだわ。
私には、エーリヒ・ランベルトの子供を産み、神の加護を持つ者を育てる義務があるの。
たとえ、正妃になれなくても、ここに残るつもりよ。
でもメイナ。貴方は違うでしょう。神の加護を持たない貴方はエーリヒ様にいくら寵愛されても、子供を産めない。
今貴方も見たように、エーリヒ様とアンネは想いあっているわ。
貴方は、潔く身を引くべきではなくて?」


「身をひく?」


「ええ、ランベルト帝国から出て行くの。エーリヒ様から離れるのよ。」

「でも、それは、、、」

「メイナ。私は貴方が帝国から離れる決心をしたなら手伝う事ができるわ。これは貴方の為でもあるのよ。」

「・・・少し時間をください。」




メイナは今見た光景が忘れれそうになかった。



テラスから離れて自室へ帰る。


考え込んでいるメイナは曲がり角で、反対側から歩いて来ていた男性に思いっきり、ぶつかってしまった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

悪役令嬢はオッサンフェチ。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
 侯爵令嬢であるクラリッサは、よく読んでいた小説で悪役令嬢であった前世を突然思い出す。  何故自分がクラリッサになったかどうかは今はどうでも良い。  ただ婚約者であるキース王子は、いわゆる細身の優男系美男子であり、万人受けするかも知れないが正直自分の好みではない。  ヒロイン的立場である伯爵令嬢アンナリリーが王子と結ばれるため、私がいじめて婚約破棄されるのは全く問題もないのだが、意地悪するのも気分が悪いし、家から追い出されるのは困るのだ。  だって私が好きなのは執事のヒューバートなのだから。  それならさっさと婚約破棄して貰おう、どうせ二人が結ばれるなら、揉め事もなく王子がバカを晒すこともなく、早い方が良いものね。私はヒューバートを落とすことに全力を尽くせるし。  ……というところから始まるラブコメです。  悪役令嬢といいつつも小説の設定だけで、計算高いですが悪さもしませんしざまあもありません。単にオッサン好きな令嬢が、防御力高めなマッチョ系執事を落とすためにあれこれ頑張るというシンプルなお話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

【完結】選ばないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
豪華で綺麗な人達の中に紛れ込んで、 偽物の私が、何食わぬ顔で座っている。 私が、この場所にいるべきでない事は、私が一番知っている。 私に資格がない事は、私が一番知っている。 なのに、誰よりも高貴な貴方は私だけを見つめてきて、 あの時のように微笑みかけてくる。 その微笑みに見とれながら、 私はこの場所から逃げたくて仕方がない。 貴方には私より、もっとふさわしい人がいる。 本当はこの場所に来れるはずがない私だけど、 貴方に出会う事ができた。 貴方の笑顔を目に焼き付けて、 私は、何事もなくここから解放される時を待つ。 だから、、、 お願い、、、 私の事は、、、、 選ばないでください。 8月26日~続編追加します。不定期更新。完結→連載へ設定変更となります。ご了承ください。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

洗浄魔法はほどほどに。

歪有 絵緖
恋愛
虎の獣人に転生したヴィーラは、魔法のある世界で狩人をしている。前世の記憶から、臭いに敏感なヴィーラは、常に洗浄魔法で清潔にして臭いも消しながら生活していた。ある日、狩猟者で飲み友達かつ片思い相手のセオと飲みに行くと、セオの友人が番を得たと言う。その話を聞きながら飲み、いつもの洗浄魔法を忘れてトイレから戻ると、セオの態度が一変する。 転生者がめずらしくはない、魔法のある獣人世界に転生した女性が、片思いから両想いになってその勢いのまま結ばれる話。 主人公が狩人なので、残酷描写は念のため。 ムーンライトノベルズからの転載です。

処理中です...